校舎に閉じ込められた八人の生徒
青南学院高校の学園祭で、一人の生徒が飛び降り自殺をしてしまう。その数か月後、受験を控えた鷹野博嗣は、幼なじみの辻村深月と共にいつものように登校する。道中で友人の菅原や佐伯梨香と出会い、彼らと共に取り留めのない話をしながら校門をくぐる。教室には先に登校していた清水あやめと片瀬充がいたが、ほかの生徒や担任の榊の姿は見当たらない。不審に思った菅原は校内を見回るが、生徒どころか教師の姿もなく、外に通じる出口がまったく開かずに、机を投げつけても窓ガラスにヒビ一つ入らないことに気づく。鷹野たちは昇降口でクラスメイトの藤本昭彦と桐野景子に合流し、彼らと共に外部との連絡を試みるが、電話やメールなど、あらゆる通信手段がまったく使えないことが判明する。鷹野たちはこの事実に戸惑いながらも、力を合わせて校舎から脱出する方法を探るために行動を開始する。
学園祭で自殺したのは、誰だったのか
八人のクラスメイトが校舎に閉じ込められる中、鷹野はいつの間にか黒板に書かれていた「おもいだした?」という文字を発見する。さらに、すべての時計が5時53分を指したまま動かないことに気づく。その時刻や、深月の携帯電話にかかってきた不気味な声から、学園祭が行われた日に起こった飛び降り自殺を思い出すが、なぜか自殺したクラスメイトが誰だったのかを思い出せない。鷹野たちは、自殺した生徒の怨念がこの異常事態を引き起こしているのではないかと推測する。そして、その生徒自身も記憶を失い、八人の中に紛れ込んでいるのではないかと疑い始める。そんな中、成り行きから梨香に思いを告白した充が姿を消し、教室では血のような赤い液体にまみれた充の携帯電話が発見される。さらに、密かに鷹野に思いを寄せていたあやめも姿を消してしまう。鷹野は、現在の状況を作り出した存在の悪意を感じ、自分たちが知らないうちに自殺の原因を作ってしまったのではないかと疑念を抱く。
クラスメイトたちが抱えた心の闇
校舎に閉じ込められた八人のクラスメイトたちは、それぞれが誰にも言えない心の闇を抱えている。最初に行方不明になった充は、子供の頃から存在感が薄いため「透明人間」と呼ばれ、いじめを受けていた。さらに、心を通わせていた猫が突然いなくなったことをきっかけに、自分の存在を忘れられることや、自分が誰かを忘れることを恐れるようになった。充に思いを寄せていた梨香は、ネグレクトの影響で強いコンプレックスを抱え、その感情を親友に向けてしまったことがトラウマとなり、心の奥底で「自分が好かれる資格などない」と自らを責め続けている。そして、誰よりも深い闇を抱えている深月は、親しい友人の角田春子から突然冷たくされ、強い自責の念に苛まれ、「八人の中で自殺した人が本当にいるのなら、それはおそらく自分だ」と考えるほど追い詰められていく。
登場人物・キャラクター
鷹野 博嗣 (たかの ひろし)
私立青南学院高校に通う3年生の男子。黒縁眼鏡をかけている。担任の教師である榊とは従兄弟の関係で容姿も似ており、年齢差はあるものの友人のような感覚で接している。榊の教師らしからぬフランクな性格や、からかうような口調には少し戸惑いを感じているが、内心では彼の人柄を尊敬している。生真面目で思慮深く、リーダーシップに優れるため、周囲から頼りにされている。運動神経も抜群で、定期試験ではつねにトップの成績を収めている。鷹野自身は受験やテストの点数にこだわっていないが、最高の医学を学び外科医になるため、難関大学を目指している。外科医を志すようになったのは、幼い頃に親友だったヒロナオ・マラヤが交通事故に遭ったことがきっかけだった。
辻村 深月 (つじむら みづき)
私立青南学院高校に通う3年生の女子。黒髪をミディアムヘアにしている。鷹野とは幼なじみで、いつもいっしょに登校している。勉強熱心で、鷹野には及ばないものの学力は高く、定期試験でも上位の成績を維持している。明るく優しい性格だが、辛い時でも無理に気丈に振る舞ったり、周囲を過剰に気にしすぎる傾向があり、鷹野や担任の榊からも心配されている。友人の春子から突然冷たくされるようになったことがきっかけで、心に深い傷を負い、一時は心的外傷後ストレス障害に苦しんでいた。時が止まった校舎に閉じ込められてからは、携帯電話に不気味なメッセージが届いたり、突然手首に傷ができて血が流れ出すなど、恐ろしい体験を次々と強いられている。
クレジット
- 原作
-
辻村 深月