作品誕生のいきさつ
この作品は、知らない者同士がお互いに知らない場所で生きており、出会うかもしれないが現実には会えず、しかし何らかのカタチで触れ合う物語を作りたいという新海誠監督の発想が元となっている。そして、『古今和歌集』にある小野小町の「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを」(訳:あの人のことを思いながら眠りについたから夢に出てきたのだろうか。夢と知っていたなら目を覚まさなかっただろうものを)という和歌を元に、「夢の中で入れ替わる」ことや「彗星」「組紐」などの様々なモチーフを交えながら構成された。
あらすじ
1,200年ぶりとなるティアマト彗星の来訪を1か月後に控えた日本。山深い田舎町に暮らす女子高校生・宮水三葉は憂鬱な毎日を過ごしていた。町長である父・宮水俊樹の選挙運動や実家の神社の古い風習などに嫌気がさし、都会への憧れは強くなるばかり。そんなある日、自分が東京の男の子になる夢を見る。周囲とのやりとりや都会の交通機関に戸惑いつつも、念願だった都会での生活を満喫した。
一方、東京で暮らす男子高校生・立花瀧は、自分が山奥の町の女子高校生になっている夢を見る。その後、友だちや家族からの指摘で、記憶と時間が抜け落ちていることから、自分たちの心と身体が入れ替わっていることに2人は気付く。瀧と三葉は、何度も入れ替わりが起る生活に戸惑いながらも、自分たちのルールを決めて少しずつ受け入れていく。
しかし、ある日を境に突然入れ替わりが途切れてしまう。夢の中で互いが体験した生活から、自分たち同士が強く繋がっていることに瀧は気付くが、三葉の住む場所がどこにあるかはわからない。瀧は夢の中の風景をスケッチした絵を頼りに、三葉の住んでいる町を探すことを決心する。
モデルになった町
宮水三葉が住む町は、岐阜県飛騨市糸守町という架空の町が舞台になっている。糸守町にある糸守湖が見える風景は、新海誠監督の出身地である長野県の諏訪湖がモチーフとなっている。一方、立花瀧は東京都新宿区にある高校に通っているため、新宿副都心の高層ビル郡や新宿警察署裏の交差点、JR信濃町駅周辺の風景が数多く描かれている。瀧が通う都立神宮前高校のモデルになっているのは、広島県にある広島市立基町高等学校。また、公式サイトTOPに描かれている赤い手すりのある階段は、新宿区四谷の須賀神社に向かう階段である。その他には、SHIBUYA TSUTAYA、六本木の国立新美術館、JR飛騨古川駅、飛騨市図書館なども登場する。なお、岐阜県飛騨市公式観光サイトでは巡礼コースの紹介を行っている。
関連作品
映画公開前の2016年6月18日に『小説 君の名は。』(角川文庫)が発売された。映画公開前で既に部数50万部を超えていたが、同年9月末には100万部を超えている。映画制作と小説執筆が並行して行われたため、物語上の大きな差異はないが、小説版には映画では描かれていない人物描写などがある。また、この小説を子どもにも読みやすいようにルビを付けるなどして挿絵も加えた児童文庫も、2016年8月15日に角川つばさ文庫から発売された。さらに立花瀧、勅使河原克彦、宮水俊樹、宮水四葉の4人の視点から描いた短編集『君の名は。AnotherSide:Earthbound』(角川スニーカー文庫)も2016年8月1日に発売されている。コミカライズ版『君の名は。)』は琴音らんまる作画により、アライブコミック刊にて発売。
社会に与えた影響
公開3日目の観客動員数は95万人、興行収入は9.3億円で、それぞれのランキングで1位を記録。その後、各メディアでの取り上げやSNSなどで口コミが広がり、2016年9月22日に興行収入100億円を突破した。これは、スタジオジブリ作品以外の劇場用アニメーション映画では初。一度上映を観た観客がリピーターになることも手伝って、各映画館でも満席状態が続き、2016年10月6日には観客動員数1,000万人を達成することとなる。海外展開は89の国と地域で配給し、スペインで開催される第64回サンセバスチャン国際映画祭での上映、韓国の第21回釜山国際映画祭ガラプレゼンテーション部門への出品も行われた。主題歌や劇中音楽を手がけたRADWIMPSによるサウンドトラックも、オリコンチャートやビルボードランキングでトップ3入りを果たしている。
登場人物・キャラクター
宮水 三葉 (みやみず みつは)
『君の名は。』の主人公。山深い岐阜県飛騨市糸守町に住む女子高校生。普段は長い髪を組紐でまとめている。祖母の宮水一葉と妹の宮水四葉の3人で暮らしており、町内にある糸守高校に通っている。母親の宮水二葉は病死しており、糸守町長である父・宮水俊樹は家を出てしまっている。三葉と四葉は実家である宮水神社の巫女を務めており、組紐作りなどを日々行っている。 また、父親の俊樹は再選を狙って次期町長選の選挙運動中であり、三葉は登校途中で演説している父の姿に疎ましさを感じている。神社での仕事や父の選挙といった田舎の生活に嫌気がさしており、東京での華やかな暮らしに憧れを持つ。そのことを親友の名取早耶香や同級生の勅使河原克彦と登下校中に嘆いている。
立花 瀧 (たちばな たき)
『君の名は。』の主人公。東京都新宿区若葉に住む男子高校生で、父と2人暮らし。瀧の父親は東京都千代田区霞が関に勤務しており、家事は2人で交代でしている。自宅マンションは、通路から赤坂御用地や六本木ビル群越しに東京タワーが見える立地。同級生の藤井司や高木真太とカフェ巡りなどを楽しむ傍ら、イタリアンレストランでアルバイトをしている。 アルバイト先の先輩・奥寺ミキに対しては、密かな恋心を抱いている。また、絵を描くのが得意で建築や美術に興味を持っている。
名取 早耶香 (なとり さやか)
宮水三葉の同級生。三葉の幼なじみであり親友。あだ名はさやちん。おっとりとした性格の常識人で、いつも一緒に登校する勅使河原克彦に好意を持っている。糸守高校では放送部に所属しており、姉も町役場で放送を担当している。
勅使河原 克彦 (てしがわら かつひこ)
宮水三葉の同級生。オカルトマニアで機械オタク。アダ名はテッシー。三葉のことが気になっている。勅使河原の父親は建設会社・勅使河原建設の社長であるため、休日には手伝いをさせられている。父親が、糸守町長である三葉の父・宮水俊樹と懇意にしているため、複雑な感情を抱いているが父親に逆らうまでの行動はできない。
藤井 司 (ふじい つかさ)
立花瀧の同級生。クールな性格に見えるが意外と世話好き。瀧と同様に建築に興味を持っている。勉強はもちろんのこと、やるべきことはきっちりとやる眼鏡男子。放課後は瀧や高木真太とともにカフェ巡りを楽しんでいる。
高木 真太 (たかぎ しんた)
立花瀧の同級生。大柄でサッパリした性格で友だち思い。見た目はバリバリの体育会系だが、放課後は瀧や藤井司とともにカフェ巡りを楽しんでいる。
奥寺 ミキ (おくでら みき)
立花瀧のアルバイト先の先輩。美人でオシャレな女子大学生で、同じ店で働く男子たちの憧れの的。瀧と入れ替わっている宮水三葉に、そうとは知らず好意を寄せる。
宮水 四葉 (みやみず よつは)
宮水三葉の妹。しっかりとした性格の小学4年生。祖母の宮水一葉や三葉と一緒に、実家である宮水神社の家業を手伝っている。東京に憧れて家業に嫌気が差している三葉とは対照的に、組紐を作りたがったり巫女としての仕事を受け入れている。三葉と入れ替わっている立花瀧の行動を目の当たりにし、その突然の変貌ぶりに動揺する。
宮水 一葉 (みやみず ひとは)
宮水三葉の祖母で宮水神社の神主。三葉の母である宮水二葉が亡くなり、婿養子の宮水俊樹が家を出たあとは、孫の三葉と宮水四葉を女手ひとつで育ててきた。三葉や四葉へ、人と人との結びつきの大切さや「繭五郎の大火」などについて語る。
宮水 俊樹 (みやみず としき)
宮水三葉と宮水四葉の父で、現・糸守町長。宮水家の婿養子となったが、妻である宮水二葉が亡くなったあとは宮水神社を継がずに家を出ていった。次期町長選へ出馬しており、勅使河原の父親に不正じみた依頼をしている様子だ。
勅使河原の父親
勅使河原克彦の父親。勅使河原建設の社長で、現・糸守町長の宮水俊樹と懇意にしている。休日には、息子の克彦に仕事を手伝わせて作業を教えている。
宮水 二葉 (みやみず ふたは)
宮水三葉と宮水四葉の母。宮水一葉の実の娘で、夫の宮水俊樹は婿養子。『君の名は。』本編では既に故人であるため、回想シーンでのみ登場する。小説『君の名は。AnotherSide:Earthbound』では映画では語られていない部分が描かれており、そこに重要な役回りとして登場している。
ユキちゃん先生 (ゆきちゃんせんせい)
宮水三葉や名取早耶香、勅使河原克彦らが通う糸守高校の古典教師。新海誠監督の前作『言の葉の庭』のヒロイン・雪野百香里と同一人物であることが、映画パンフレットに記載されている。『言の葉の庭』では東京在住だった雪野がなぜ糸守町の高校教師をしているのか、『君の名は。』は『言の葉の庭』の「その後」なのかついては、「観る人の想像次第」とのこと。
瀧の父親
立花瀧の父親。東京千代田区霞が関に勤務している。瀧とは2人暮しで家事は当番制で、瀧のプライベートにはあまり干渉しない。母親がいない父子家庭であるが、物語内ではそのことについてほとんど触れていない。
繭五郎 (まゆごろう)
昔、糸守町の歴史や宮水神社の記録などが焼失してしまう大火事が起こった。草履屋を営んでいた繭五郎はその火事を起こした人物とされ、「繭五郎の大火」という名で町民の間で語り継がれている。この火事が原因で宮水神社のご神体は、糸守町の北西に位置する山の頂上に移された。
場所
糸守町 (いともりまち)
宮水三葉たちが暮らす、岐阜県飛騨市にある自然豊かな町。実際には存在しない架空の町である。隕石湖とされている糸守湖を中心に町が形成されており、人口は約1,500人。現・町長は宮水俊樹。周囲を山に囲まれているため、日照時間は短く娯楽も少ない。町内には本屋、歯医者、喫茶店などはなく、コンビニエンスストアも21時に閉店する。 町内全域に防災無線が整備されており、各家庭にも情報音声端末が設置されていて役場からの知らせが放送される。この放送を担当しているのは名取早耶香の姉。電力は、山間部に位置する変電所から供給されている。
糸守湖 (いともりこ)
糸守町の中心にある湖。大昔に落下した隕石によってできた隕石湖であるとされている。糸守町はこの湖に沿って形成されており、主要な公的機関は湖に面して配置されている。糸守湖自体は、新海誠監督の出身地である長野県の諏訪湖がモデルとなっているが、諏訪湖は隕石湖ではなく地殻が引き裂かれて生じた構造湖(断層湖)である。
糸守高校 (いともりこうこう)
宮水三葉、名取早耶香、勅使河原克彦らが通う、岐阜県飛騨市糸守町にある高校。糸守湖の南西にある高台に位置し、校庭から湖とともに糸守町全体を見渡すことができる。
都立神宮前高校 (とりつじんぐうまえこうこう)
立花瀧、藤井司、高木真太らが通う、東京都新宿区にある高校。神宮球場の近くにあり、近代的な建築様式の校舎を持つ。瀧ら3人は、毎日屋上で昼食を食べている。
宮水神社 (みやみずじんじゃ)
宮水三葉の実家である宮水家が、代々守り仕えてきた神社。宮水家の女性は巫女として神事に関わり、神楽を舞ったり口噛み酒を奉納したりと、昔ながらの伝統を今に伝えている。一般的な神社は本殿にご神体を奉っているが、繭五郎の大火と呼ばれる大火事が起こったことが原因で、近隣の山頂にご神体が移されている。
その他キーワード
ティアマト彗星 (てぃあまとすいせい)
1,200年周期で地球の近くを通過する彗星。実際には存在しない、架空の彗星である。10月4日に最接近して、月と地球の間を通過することが予測されている。糸守町にある糸守湖は、大昔に落下した隕石によって形成された隕石湖であるとされている。
巫女 (みこ)
宮水神社に仕える宮水家の女性は、代々神社の巫女を務めている。神楽を舞ったり組紐を作ったりと、一般的な巫女とそう変わらない仕事を行っている。ただし、宮水三葉の父である宮水俊樹が「宮水家の人間には妄言癖がある」と言っていることから、宮水神社の巫女には不思議な力が備わっているのかもしれない。
口噛み酒 (くちかみざけ)
米などを口に入れて噛み、それを吐き出して溜めたものを放置して造る酒のこと。古代日本では神事の際にも造られており、原料を噛む役目として巫女や乙女が選ばれていた。『君の名は。』では、宮水神社の巫女である宮水三葉と妹の宮水四葉が口噛み酒を造る神事を行っていた。
組紐 (くみひも)
日本伝統の工芸品で、細い絹糸などを編んで組み上げた紐のこと。ミサンガやプロミスリングなども組紐の一種。『君の名は。』では、宮水三葉が丸台という組台で紐を編み上げている。また三葉は毎朝、髪を組紐でまとめており、それがトレードマークにもなっている。
かたわれ時 (かたわれどき)
日没直後の昼でも夜でもない時間帯のことを黄昏時(たそがれどき)という。元々は「誰そ彼時」(たそかれどき)とも表記し、彼が誰なのか訪ねないとわからないほど薄暗い夕方を指していた。同様の意味として「彼は誰時」(かわたれどき)という言葉があるが、こちらは後に朝方に限定した言葉となっている。『君の名は。』では黄昏時と同様の意味としてユキちゃん先生の古典の授業に登場し、糸守町の方言として「かたわれ時」が使われている。
ご神体 (ごしんたい)
糸守町の近隣の山頂に位置するカルデラの中央に、巨石で作られた洞窟があり、そこに奉られている宮水神社のご神体。巨石の周りは小川が取り囲んでおり、この小川の内側は幽世(かくりよ)という。幽世とはあの世のことを指し、小川の外側はこの世を表すと宮水一葉は語っている。幽世側に行ってからこの世側に戻ってくるためには自分の一部を置いてこなければならず、宮水家では巫女が自分で作った口噛み酒を置いてくることになっている。 宮水神社のご神体が神社から遠く離れた場所にある理由は、昔、繭五郎という人物が大火事を起こし、神社の記録がすべて焼失してしまったために移されたものである。
繭五郎の大火 (まゆごろうのたいか)
繭五郎という男が、昔起こしたとされる大火事。この火事によって、糸守町の歴史や宮水神社の記録などが消失してしまった。このことが原因で、宮水神社のご神体は糸守町の北西の山上に移された。
クレジット
- 監督
-
新海誠
- 作画監督
-
安藤雅司
- キャラクターデザイン
-
田中将賀
- 音楽
-
RADWIMPS
- 制作
-
コミックス・ウェーブ・フィルム
- 製作
-
「君の名は。」製作委員会
音楽
「前前前世」
主題歌: RADWIMPS
「スパークル」
主題歌: RADWIMPS
「夢灯籠」
主題歌: RADWIMPS
「なんでもないや」
主題歌: RADWIMPS