失敗から始まるSFタイムトラベル
本作はタイムマシンに関する論文がノーベル賞を取ったことで、タイムマシンの実験が加熱している世界が舞台になっている。素粒子加速研究所に勤務する春日琴理は、キュリー夫人にあこがれてノーベル賞を取ることを本気で公言する女性科学者で、タイムマシンの実現を目指していた。そんな中、タイムマシンの実験が失敗し、春日はその意識だけが3年後の未来に飛んでしまう。そして、そこで春日が目にしたのは、かつての相棒で落ちぶれてしまった竜ヶ崎邦衛の姿と、精神のみの存在となってしまった自分の姿だった。春日は自分を殺したと思い込んで絶望する竜ヶ崎を救うため、そして元の姿に戻るため、タイムマシンの研究を利用して過去に戻るために奔走する。
時空の狭間で元の姿になるために奔走
春日は元の姿に戻るため、タイムマシンを作るにあたって必要な「時空のトンネル」と呼ばれるワームホールを利用することを思いつく。折しも海外で動物実験が開始されたことを利用し、モルモットと共にワームホールに入り込んだ春日だったが、モルモットと融合してしまう。なんとか春日は自分の意思を竜ヶ崎に伝えようと、彼との再会を願う。しかし、春日はモルモットと融合した体が実験の影響で限界に達しており、寿命が幾ばくもない状態だと知る。春日はその状況を打開すべく、今度は犬の実験に潜り込み、犬に乗り移るのだった。このように春日が人間に戻るべく、タイムマシンの研究を重ねながら、さまざまな動物に変わっていく姿も見どころとなっている。
タイムマシンと整体師
春日は竜ヶ崎と協力して過去に戻るタイムマシンを開発しようとするも、そんな二人に大きな影響を与えるのが整体師の野宮ナナである。彼女は本作におけるトリックスター的な存在で、タイムマシンの実験の失敗で精神を病んだ竜ヶ崎を整体で癒やしつつも、彼の感情をコントロールしようとする。また、モルモットとなった春日をペットとして引き取り、すぐに彼女の正体に気づくものの、わざと竜ヶ崎に伝えずに二人を翻弄する。春日と竜ヶ崎の心を弄ぶナナは、次第に春日に執着するようになり、二人をさらに過酷な運命へと誘うのだった。
登場人物・キャラクター
春日 琴理 (かすが ことり)
「時空通過プロジェクト」に携わる女性科学者。素粒子加速研究所に勤務している。年齢は25歳。長く伸ばした茶色の髪を一つにまとめ、眼鏡をかけている。キュリー夫人にあこがれを抱き、タイムマシンを作ってノーベル賞を取ることを夢見ている。楽観的だが科学に対する熱意は本物で、冷めた目で世の中を見ていた同僚の竜ヶ崎邦衛に大きな影響を与えた。婚期を逃すことに焦るあまり、研究漬けの日々を送るうちに36歳を迎えた竜ヶ崎に熱烈なアプローチをかけている。2016年に行われたタイムマシンの試運転で事故が発生して肉体が炭化し、精神のみの存在で2019年に送られてしまう。幽霊のような状態となり、何をしても誰にも認識されていない。解決の糸口はタイムマシンを使用する際のワームホールにあると推測し、海外でモルモットを使って行われたタイムマシンの実験を利用して元の時代に戻ろうとするが、精神がモルモットと融合してしまう。なんとか実験施設を脱走し、竜ヶ崎の家にやって来るが気づいてもらえず、野宮ナナにペットとして引き取られる。PCのキーボードを使ってナナと意思疎通を図るが、ナナの企みに翻弄され、竜ヶ崎にはまったく気づいてもらえずにいる。実験の影響でモルモットの体が限界に達しているため、今度は犬を使ったタイムマシンの実験に便乗し、1年半後の未来の犬の体に乗り移った。
竜ヶ崎 邦衛 (りゅうがさき くにえ)
「時空通過プロジェクト」に携わる男性科学者。素粒子加速研究所に勤務している。年齢は36歳。丸刈り頭に、ヒゲを生やした強面な顔つきをしている。要領がよくなんでもこなす天才肌ながら器用貧乏で、最終的には地道に努力している者に負けるタイプ。大学時代の彼女に、童話「ウサギとカメ」でいうと「超ウサギタイプ」と評されて納得し、それからは「勝てないウサギ」をキャッチフレーズにしている。明らかに「カメ」タイプの春日琴理が、ノーベル賞を目指していることに感化され、自分もノーベル賞を目指すべく、二人でタイムマシンの研究に没頭している。春日から熱烈にアプローチを受けているが、彼女のことは女性としてではなく、相棒という感覚で見ており、恋愛関係には発展していない。そんなある日、タイムマシンの実験が失敗し、春日を死亡させたことがトラウマとなり、その後は転落人生を歩むこととなる。当初は春日を助けるための研究を続けていたが、研究所からは関係ない研究ばかりしていると解雇されたのちに不眠症を患い、3年後ではかつての要領のよさは消え失せ、うだつの上がらないアルバイト生活を送っている。やがて、モルモットとなった春日が竜ヶ崎邦衛自身の家にやってくるが、すれ違いと野宮ナナの謀略でその正体に気づいていない。のちに正体に気づくも、誤って殺してしまったモルモットを春日とカンちがいし、再び傷心の日々を送ることになる。その後に紆余曲折を経て、とある女性と結婚。そんな中、犬となって戻ってきた春日にさまざまな葛藤を抱え、さらにナナの企みによって彼女との関係に苦悩することとなる。
野宮 ナナ (のみや なな)
ミステリアスな雰囲気を漂わせる整体師の女性。ボブヘアに切れ長の目が特徴の美女。整体師としての腕は超一流で、精神を病んでしまった竜ヶ崎邦衛の心身を癒やし、不眠症を改善させた。患者の前では愛想よく接しているが、実は共感性が欠落し、ペットの金魚に飽きたらトイレに流すなどサイコパスの気質を持つ。幼い頃から人の筋肉を見通す「澄んだ瞳」を持つが、そのせいで人を「肉の塊」としか認識できず、人と共感することができなくなっている。その一方で、筋肉の動きから感情すら把握することができ、人並外れた観察力を身につけている。モルモットになった春日琴理を拾い、その正体に気づくも、彼女を騙して竜ヶ崎への手紙を隠し、文字を理解する天才モルモットとしてペットプロダクションに売り払った。しかし、それでも懸命に前を向く春日に次第に執着を見せるようになり、春日と竜ヶ崎の絆を引き裂くべく、さまざまな陰謀を張り巡らす。整体師としての才能を生かし、タイムスリップ後の未来では本を出したり、メディア出演したりと順調に成功人生を歩んでいる。しかし春日との確執から目が濁り、以前のように人の体が澄んで見えなくなり、整体師としての評判は下がる一方となる。