天空之狗

天空之狗

日本各地に古くから伝わる「天狗伝説」を基軸にして、多種多様な妖怪綺談や魔物が登場する民間伝承や寓話、怪談などを取り入れたオカルト&ホラー・アクション漫画。物語の前半では現代に蘇った妖怪たちと天狗族との戦いが描かれ、天狗族と蛇族との決戦が後半のクライマックスとなっている。コミックス第1巻から第4巻の前半までが現代編、第4巻の後半が江戸時代編として2編で構成されている。「別冊モーニング」2004年1号、2004年18号から52号、2005年5号に掲載された作品。

正式名称
天空之狗
ふりがな
てんくうのいぬ
作者
ジャンル
オカルト
関連商品
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概要・あらすじ

オカルト雑誌の編集部に寄せられた情報をもとに、編集部員たちは「人面疽事件」の現場に急行。そこで悪霊に襲われた彼らは、見事に悪霊退治に成功する。実は彼らは「天空之狗」と呼ばれる一族であり、超能力者が集う秘密組織の構成員であった。ある事件を契機に彼らの仲間となった青年・狗井新平は、次々に起きる難事件と、襲い来る妖怪たちとの戦いに身を投じていく。

そしてついに、新平たちの前に世界制覇を狙う強敵「天空之蛇」一族が立ちはだかる。

登場人物・キャラクター

狗井 新平 (いぬい しんぺい)

山歩きと古い神社めぐりを趣味とする元フリーターの青年。ある奇怪な事件に遭遇し、天空社の編集スタッフと知り合い、自身が天空之狗一族と知って彼らの仲間となる。天空社に入社した後は、さまざまな事件に遭遇して危険に晒されるが、常に正義心を失わずに行動する熱血漢。

天津 力 (あまつ ちから)

天空社の社長を務めている女性。戦国時代から現代に生き続ける天空之狗一族の一員。「時渡り」とテレパシーの超能力を持ち、密教の法具とサンスクリット語のまじないを操って妖怪退治に挑む勇敢な美女。江戸時代では「天津千加」と名乗る。

葛城 蒼 (かつらぎ あおい)

天空社の発行する「月刊ミスト」専属のフリーライター。戦国時代から現代に生き続ける天空之狗一族の一員。普段は美女だが、強い怒りの感情を覚えるとたくましい男に変身する両性具有者。「サイコダイブ」の超能力を持つ。江戸時代では「蒼新之介」と名乗る。

羽黒 麗 (はぐろ れい)

天空社の発行する「月刊ミスト」専属のフリーカメラマン。日本各地に伝わる妖怪伝説などに詳しい青年。天空之狗一族の一員で、「天狗飛び切りの術」の使い手。不思議な雰囲気を漂わせる美男子で、高校時代は超人となる夢を抱いており、亜門輝とは親友同士の間柄。

鞍馬 蘭 (くらま らん)

天空社の発行する「月刊ミスト」の若手女性編集者。年齢は20歳だが、女子高生に間違われるほど若々しく明るい性格のオテンバ娘。天空之狗出羽一族の末裔で、「天狗の隠れ蓑」を使い、透明人間になって敵と闘う勇気ある人物。出雲太を毛嫌いしており、狗井新平にほのかな想いを寄せている。

小角 天堂 (おすみ てんどう)

天空社の会長。天津力の養父。奈良時代から数千年も生き続けている天空之狗一族の長老的存在で、江戸時代には将軍家の御側御用人を務めた。修験道の開祖として知られる「役小角」その人。世界中の妖怪や悪霊の生体に詳しく、強力な超能力を持つ老人。実在の人物、役小角がモデル。

出羽 堅悟 (でわ けんご)

天空社の発行する「月刊ミスト」の編集長を務める男性。300年以上も生き続ける天空之狗出羽一族の一員で、小角天堂に絶対の忠誠を誓っている。普段は物静かな初老の紳士だが、「サイコ・バリアー」の使い手。いざという時には巨大な聖獣・玄武に変身し、敵を豪快になぎ倒す。

秋葉 (あきば)

天空社の社員の青年。天津力の個人秘書と運転手も兼ねる天空之狗一族の一員。ネットなどでの情報収集能力に長けている。テレパシーを用いて機材などの道具を使わずに電波情報をキャッチする、という人間レーダー的な超能力を持つ。

出雲 太 (いずも ふとし)

天空社の発行する「月刊ミスト」の男性編集者。小太りな独身の青年で、「スケベデブ」「スケコマシ」と揶揄されるほどの女好き。編集部では仕事をするふりをして、いつもエロ本を読んでいる。天空之狗一族の一員で、他人の意識を自在にコントロールする催眠術の使い手。

御田村 (みたむら)

日本政府で官房長官を務める大物政治家の初老男性。本妻との間に子供がおらず、妾との間に隠し子の娘がいる。隠し子が悪霊に取り憑かれて腹部に人面疽ができてしまい、スキャンダルの発覚を恐れている。本妻からは妾と隠し子への強い恨みを抱かれている。

ケリー・ホイットマン (けりーほいっとまん)

元米国陸軍の軍人の白人男性。湾岸戦争時には軍曹として「砂漠の嵐作戦」に参加し、前線で戦った。捕虜を殺害した事件がトラウマとなり、退役後はPTSDを発症。転地療養のために来日する。彼の行く先々では、大量の砂が降るという怪事件が起きる。

亜門 輝 (あもん あきら)

天空之蛇一族の男性。高校時代に魔神の霊に憑依され、普段は人間の容姿だが、戦闘の際には凶暴な狼男に変身する。また、強敵を相手にする際には、巨大な魔神に変身することもできる。所属する天空の蛇は天空之狗一族の宿敵だが、気骨ある性格で、時には組織の指示に逆らって天空の狗と協力することもある。高校時代は羽黒麗と親友同士だった。

蟻村 哲次 (ありむら てつじ)

天空之蛇一族の男性。ろくろ首に変身する妖怪。殺人罪での服役中に脱獄した指名手配犯。首から上の頭部を身体から切り離して、どこにでも潜入できる。この超能力を用いて産業スパイ行為を行っている。のびた首を、大蛇のように敵の首に巻きつけて相手を殺害する。

安美巣 真知 (あびす まち)

天空之蛇一族の女性。ろくろ首に変身する妖怪で、パンクミュージシャン風の派手なファッションをしている。自身の禍霊を分離して蟻村哲次に超能力を目覚めさせた張本人。組織の掟を破った者には容赦なく制裁を加える冷酷な性格の持ち主。

(たえ)

人魚に変身できる超能力を持った天空之蛇一族の女性。若い容姿で100年以上も生きながらえている長寿の美人。明治時代の初頭に漁師の青年と恋仲となり、人魚となって海中に沈む。現代に蘇り、尼僧となって田舎でひっそりと暮らしている。

砂探 亮 (さたん りょう)

天空之蛇一族の青年。「邪魔人衆」のリーダー。黒覆面で顔を隠し、白いスーツ姿でメンバーに指示を与える正体不明の男。ローゼンクロイツと組んで天空の狗に戦いを挑む。日本政府の中枢を乗っ取り、大東亜共栄圏を実現する野望を抱いている。

青蓮 翠 (せいれん みどり)

天空之蛇一族の女性。、邪魔人衆のメンバーの1人。一流モデルのような美しい容姿をした金髪白人女性。敵を攻撃する際には、背中に生えた両翼で空中を高速飛行し、「セイレーンの死の歌」と呼ばれる強烈な衝撃波を起こす「音の爆弾」が武器。

界牟 剛 (かいむ たけし)

天空之蛇一族の男性。「邪魔人衆」のメンバーの1人。たくましい身体をした大男で、敵と戦う際には額に角が生え、いかなる攻撃にも耐えられるほど、鋼鉄のように皮膚が硬く甲殻化する。長い鉄棒を武器として自在に操り、敵を攻撃する怪人。

仁面 亀男 (じんめん かめお)

天空之蛇一族の男性。邪魔人衆のメンバーの1人。変身して「月刊ミスト」の編集者になりすまし、天空社に潜入したスパイ。ずんぐりとした体型で、敵を小馬鹿にした話し方をする。暗闇でも物が見えるという暗視能力を持っている。

メドゥーサ

ヨーロッパから飛来して来たローゼンハイツの禍霊妖怪。女性の身体をしており、髪の毛が蛇で、両乳房に眼があり、腹部が口という異様な容姿。物質を原子核から変換し、浴びたものを石化していまう、という怪光線を両眼から発射する。

保科 正之 (ほさか まさゆき)

三代将軍・徳川家光の実弟。保科家の婿養子となった武士。家光の側近として活躍し、「陰の将軍」との異名をとる。家光亡きあと、幼くして四代将軍に即位した徳川家綱の後見人を務める実力者。治世のために天空之狗一族を利用する。実在の人物、保科正之がモデル。

松平伊豆守信綱 (まつだいらいずのかみのぶつな)

江戸幕府の老中で、川越藩主を務める初老の武士。三代将軍・徳川家光の懐刀と呼ばれた。島原の乱鎮圧の指揮を執り、「知恵伊豆」とも称されたほどの傑物。幕府への反乱の芽を断ち切るべく陰謀術策をめぐらせる。実在の人物、松平信綱がモデル。

由比 正雪 (ゆい しょうせつ)

江戸の神田で楠流の軍学を教える武士。全国に散在する浪人衆を集結させ、徳川幕府の転覆を企てる。その正体は、島原の乱で倒れた天草四郎の霊魂に憑依した変幻自在の妖怪。幕府側に付いた天空の狗一族に戦いを挑む。実在の人物、由比正雪がモデル。

天草 四郎 (あまくさ しろう)

日本人女性と白人宣教師との間に生まれた混血児の青年。その美しい顔立ちにより、切支丹(キリスト教信者)たちから「神の子」として崇められた美男子。島原の乱では一揆軍の総大将となって柳生十兵衛と対峙する。実在の人物、天草四郎時貞がモデル。

柳生 十兵衛 (やぎゅう じゅうべえ)

将軍家指南役だった柳生宗矩の長男。柳生家随一の剣豪と称された隻眼の武士。将軍家指南役の座を実弟の柳生宗冬に譲り、自身は「実戦の剣」を標榜して腕試しの旅に出た。のちに島原の乱で幕府軍に付き、天草四郎と対峙する。実在の人物、柳生十兵衛三厳がモデル。

集団・組織

天空之狗 (てんくうのいぬ)

舒明9年(西暦637年)に宇宙船「天津狗」で地上に飛来して来た異星人一族。数百年にわたって生き続ける長寿者たちで、さまざまな超能力を有する。各時代ごとに数々の不可思議な現象を巻き起こしてきており、日本では「天狗族」とも呼ばれ、全国に奇怪な伝説を残している。天空之蛇一族とはライバル関係にある。

天狗族 (てんぐぞく)

古代中国から伝わった天の狗伝説が、日本で独自のイメージに変化した集団。一般には、高下駄を履いた修験僧の格好で、鼻の高い異様な顔をした伝説上の怪物と思われている。実際は古代に宇宙船で飛来して来た異星人「天空之狗」一族の別称で、天空社メンバーの先祖にあたる。

天空之蛇 (てんくうのへび)

太古の昔に宇宙船で飛来し、地球に住み着いた異星人一族。数百年にわたって生き続ける長寿者たちで、さまざまな超能力を有する。各時代ごとに数々の不可思議な現象を巻き起こしてきており、現代の日本では、若者たちを中心に秘密結社「虹神会」を組織させて利用している。天空之狗一族とはライバル関係にある。

虹神会 (こうじんかい)

天空之蛇一族が若者を中心に日本で組織化した秘密結社。団体名は、天空に住む蛇に例えられた古代中国の伝承に由来。メンバーはみな自らを「天の蛇神」と思い込んでいる。世間へのカモフラージュとして、表向きは宗教団体を装っている。

邪魔人衆 (やまとしゅう)

砂探亮が虹神会の精鋭を集めて組織化した天空之蛇一族の戦闘部隊。天空之狗一族を壊滅させ、日本政府の乗っ取りを目的にしている。砂探がリーダーを務め、亜門輝、青蓮翠、界牟剛、仁面亀男の5人で構成されている。

ローゼンクロイツ

14世紀にドイツ人、クリスチャン・ローゼンクロイツによって結成された秘密結社。太古の昔に宇宙船で飛来し、地球に住み着いた異星人一族の集団。地下に潜って錬金術や魔術により、ヨーロッパ各国を陰で操ってきた巨大な財団。

場所

天空社 (てんくうしゃ)

東京都内に鉄筋4階建の自社ビルを構える出版社。「月刊ミスト」などの主にオカルト系の雑誌を発行しているごく普通の中堅出版社。その実体は、禍霊妖怪を退治して世界平和を守るために組織化された極秘集団。社員はすべて天空之狗一族。

イベント・出来事

島原の乱 (しまばらのらん)

江戸時代初頭に肥前島原半島一帯で勃発した大規模な農民一揆。過重な年貢負担に窮した貧しい農民たちと、迫害に抵抗する切支丹農民たちが、幕府側の討伐軍と激烈に戦った反乱事件。天草四郎を総大将とした一揆軍の背後には、打倒徳川家を目指す豊臣一族の残党が加わっていたともいわれている。

その他キーワード

時渡り (ときわたり)

天津力に生まれつき備わっていた天空之狗一族の超能力。普通の人間の10年が100日程度にしかあたらないために、何百年も若々しい姿のまま生き続けることができる。天津力と恋人同士になることにより、葛城蒼にも同じ能力が備わった。

サイコダイブ

葛城蒼が使う天空之狗一族の超能力。自身のアストラル体(魂)を、「生き霊」として肉体から自在に離脱させることができる幽体離脱の術。魂を他人の体内に潜入させることにより、その人物の本性・記憶・心境などの心象風景を見ることができる。

天狗飛切りの術 (てんぐとびきりのじゅつ)

羽黒麗が使う天空之狗一族の超能力。重力を一時的に遮断し、自分の身体を宙に浮かせる技。素早く行うので傍目からは瞬間移動したように見える。この能力を使って他人の身体を自在に浮かせることも可能。

天狗の隠れ蓑 (てんぐのかくれみの)

鞍馬蘭が使う天空之狗一族の超能力。自分を他人からは見えない状態にする光学迷彩の術。身体から発する特殊なオーラで光線を曲げて後ろの景色を見せることにより、他人にはあたかも透明人間になったかのように思わせることができる。

サイコバリアー

出羽堅悟が強敵との戦闘時に使う天空之狗一族の超能力。自分の周囲を何重にも重なった六角形の光の膜で覆い、敵の攻撃を跳ね返して無力化する技。大きな危険が迫った時に、味方の生命を守るために威力を発揮する。

天津狗 (あまつきつね)

大きな流れ星の名称。古代中国で、大音響を発する流星を「天の狗」の仕業とした伝承が日本に伝わったもの。実は天空之狗一族の先祖である異星人が、地球に飛来して来た時に搭乗していた宇宙船の名称。天狗族や天空之狗一族の別称ともなっている。

禍霊 (まがつひ)

太古の昔より人間の精神に取り憑き、人間を食い物にしてきた闇の魔物。天空之狗一族の宿敵でもある霊魂の怪物。霊視能力のある者しか見ることができず、人に禍をもたらす禍々しき神という意味を込めて「禍神」とも呼ばれている。

人面疽 (じんめんそ)

眼・鼻・口がある人の顔のようなできもので、人間の身体の一部分にできる。禍霊が取り憑いた妖怪で、話したり物を食べたりすることもできる。ある種の薬草を粉にして飲ませると完治するという言い伝えがあるが、真偽のほどは不明。

ヒョットコ

お神楽の道化のお面で知られる禍霊妖怪。名称の語源については、日本各地でいつくかの異説がある。人間の片目に侵入し、顔面神経を麻痺させると同時に生命エネルギーを吸い取り、その後、口から飛び出て他人に取り憑いて増殖する魂の化物。

カマイタチ

突風とともに現れて、人間の身体の一部を切り裂く禍霊妖怪。古代日本では美濃や飛驒の山間部によく見られた伝承。昆虫妖怪説や鬼神や悪霊の仕業とする説など、日本各地にさまざまな異説があり、姿を見たものは誰もいないといわれている。

砂かけ婆 (すなかけばばあ)

通行人に砂をかけて脅す禍霊妖怪。神社近くの寂しい森陰などに潜んでいる。近畿地方に多く出没するという伝承があり、姿を見た者が誰もいないのにかかわらず、その正体は老婆だったり、狸や鳥という説もある。

ろくろ首 (ろくろくび)

首が自在に伸び縮みしたり身体から抜けて空中を飛び回ったりして悪事を働く禍霊妖怪。中国や南方の国発祥の伝説で、日本では四国や九州地方に多い。性別は大半が女で、喉に紫色の筋があり、男の精気を吸い取るともいわれている。

人魚 (にんぎょ)

人間と魚が合体した禍霊妖怪。洋の東西を問わず、世界各地で多様な伝承がある。西洋では女が「マーメイド」、男が「マーマン」と呼ばれており、ギリシャ神話では美しい歌声で人を惑わして海中に誘い込む海の悪魔「セイレーン」として登場する。

月刊ミスト (げっかんみすと)

天空社が発行している同社主力のオカルト系雑誌。「謎マガジン」という形容詞付きで呼ばれている月刊誌。天空社の主要社員と専属のフリーライター、フリーカメラマンたちが取材して編集されている。その実態は、天空之狗一族が日本各地の怪奇現象の情報を収集するためのカモフラージュ媒体である。

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