女王蟻

女王蟻

「ANT」と呼ばれる虫型生体機械によって文明が発達した、月面世界を舞台に繰り広げられる本格SFファンタジー。ANTを統括するとされる通称「女王蟻」の存在を中心に、多くの謎が散りばめられており、それが解き明かされながら、重厚かつ濃密なストーリーが展開される。WEBコミック配信サイト「幻蔵」2007年1月号から2008年9月号まで連載された。

正式名称
女王蟻
ふりがな
じょうおうあり
作者
ジャンル
その他SF・ファンタジー
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概要・あらすじ

2205年、人類は「ANT」と呼ばれる生体機械の普及によって、月面での生活を可能とし、平和を謳歌していた。ところがあるとき、「ANT」の生態系が危機に陥ったときにしか現れない、といわれる「女王蟻」が出現し、突如殺人を繰り返す事件が発生。その殺人現場に居合わせた如月ハヤセは、事件調査のためAPD中央司令部「アルテミスヤード」へ転属され、その事件の真相に迫っていく。

登場人物・キャラクター

如月 ハヤセ (きさらぎ はやせ)

元地球人の女性警察官。APD西27区警察署に配属されている。階級は巡査。寝グセのようにハネた髪を2つ結びにしている。非常に明るく能天気な性格をしており、任務の重要性よりも恋のほうが大切、という思考の持ち主。しかし、地球出身ながら、月人として月の平和を守る、という強い使命感も持ち合わせている。職務遂行中に、女王蟻による地球人殺害現場に居合わせたことによって、女王蟻関連事件の捜査官として行動することになる。

女王蟻 (じょおうあり)

月面都市管理省ANTシステム統括官という肩書きを持つ謎の人物。すべてのANTを統べるため、「女王蟻」という通称で呼ばれている。見た目は、まだ年端もいかない少女で、金髪ショートカットで鋭い目つきをしている。腰元までしかない黒い長袖のワンピースに、黒いニーハイブーツを履いた出で立ちで、頭部には触覚のような2本のアホ毛を持ち、常に煙草をくわえている。 月のANTシステムが危機に陥ったときにしか現れない、とされており、その存在が確認されたのも数年ぶり。突如現れ、火星開拓船「レイブラッドベリ」の研究者である地球人を襲う凶行に走る。

ニコタマ

スカラベのような形をした2匹のANT。女王蟻が従えている。それぞれ白と黒の個体に色分けされ、2匹あわせて「ニコタマ」と呼ばれる。女王蟻が吸う煙草の火により描かれた魔法陣の指令を受け、女王蟻の体に装着した飛行、腹部に備えたミサイルによる攻撃、口部から出る糸を使った物資輸送など、さまざまな行動を行うことができる。

六丞 拓摩 (むじょう たくま)

西27区警察署に配属されている男性警察官。APD中央司令部「アルテミスヤード」から派遣されている。階級は警部。前髪を無造作にかき上げたオールバックの髪型に、スクエア型のメガネかけた色男。経歴もエリートなうえ、容姿端麗で頭脳明晰。しかも人当たりの良い性格から、署内に多くの女性ファンを持つ。元々、APD特課に所属する情報発掘官だった。 国際テロリスト「街使い」の捜査で地球に訪れた際に、事故で能力を失い、現在は現場の捜査官として働いている。

ミカ・リカ・ルーンⅣ

最高執政官の肩書きを持つ人物。月面都市群を管理している。前髪をセンター分けにした長い黒髪と、大きな垂れ目を持つ妖艶な女性。女王蟻関連の調査で、如月ハヤセがAPD中央司令部「アルテミスヤード」に招集を受けた場に居合わせ、女王蟻を擁護するような素振りを見せる。しかしその後、「卵」についての情報を知ると、ハヤセをアルテミスヤードの捜査官に任命し、その調査を命じた。

不知火 (しらぬい)

ミカ・リカ・ルーンⅣに付き従っている秘書官。前髪で片目を隠した相貌で、ぽってりと厚い唇が特徴の妖艶な女性。ミカの公務のサポートのほか、SPとしての役割もこなす。過去に、女王蟻によって両親を殺害されている。

石川 (いしかわ)

APD特課の課長を務める壮年の男性。頭頂部に髪がなく、側頭部と後頭部から生えた髪を長く伸ばしたヘアスタイルが特徴。特課の職務に誇りを持っている。しかし、他の課の人間から、「モニターの前に座っているだけ」と評価されることが我慢ならず、顕示欲から功を焦る一面もある。

花鳥 愛子 (はなとり あいこ)

APD特課に所属する新人情報発掘官の女性。階級は警部補。明るい色の髪を三つ編みの2つ結びにしている。まだ年若いが、その能力は石川からも期待されている。事実、情報発掘官としては非常に優秀。失踪した女王蟻の居場所をピンポイントで突き止め、さらに、複雑に絡み合った事件の裏側にたどり着き、複数の存在の関与を指摘。 その危険性を石川に伝える。

街使い (まちつかい)

国際テロリストの男性。かつて地球において、人種国家を問わず、主義主張もないテロ行為を繰り返した。街中のカメラをハッキングし、ショッピングモールの設備を意のままに操る特殊能力を持つ。地球からの要請により、六丞拓摩がその捜査に協力し、逮捕された。しかし、この捜査中の事故によって、六丞は情報発掘官としての能力を失っている。

ボア

月との外交を行う地球の大使。見た目は幼い少年のような姿だが、手首から先のみ老人のように深い皺(しわ)を持つ。地球人至上主義で、「月は元々地球人の所有物であり、月人が地球人と対等であることがおかしい」と考える。火星開拓船「レイブラッドベリ」の関係者が、月で殺害されたことを盾に、ANT開発の情報提供などを遠まわしに求めた。 また、月を地球の植民地にしようと暗躍する。

アリアン・センチネル (ありあんせんちねる)

マーズ工業ANT開発部主任の女性。ANT生産工場「蟲姫」の所長でもある。褐色の肌を持ち、額にビンディのような紅点がある。女王蟻が「蟲姫」に逃げ込んだことを知りつつも、捜査に訪れた如月ハヤセと六丞拓摩には、その存在を伝えず匿う。一方で、独自に開発した攻撃型ANTを女王蟻にけしかけるなど、その真意は謎に包まれている。

沢渡 シーラ (さわたり しーら)

生物科学者の女性で、ANT研究の第一人者。かつて月にANTをもたらしたとされている。アリアン・センチネルによれば、沢渡シーラは、ANTが環境に適応して独自進化を遂げるのを恐れ、自然増殖の可能性を排除したとされている。これが「ANTの卵」が存在しないとされる根拠になっている。

マーズ

沢渡シーラの妹。最初に月に移住した12人の科学者「アルテミスの皿」のうちの1人。冷静で知的な姉に対して、感情的な性格を持つ。「卵」から生まれた突然変異ANTの攻撃から姉をかばい、半身不随となった。

部長 (ぶちょう)

如月ハヤセの直属の上司。オールバックの髪型にサングラスをかけた、非常に身長の高い女性。「部長」「班長」としか呼ばれず、本名は不明。火星開拓船「レイブラッドベリ」の地球人研究者を発見・確保する任務を、ハヤセに担当させた。職務に厳しい人物で、ハヤセはもちろん、ハヤセの同僚である氷川アテナやサンドラ・ロロからも恐れられている。

氷川 アテナ (ひかわ あてな)

如月ハヤセの同僚の女性警察官。髪型は黒髪のミディアムショート。ハヤセの赴任当初は、彼女が地球人であるため嫌悪感をあらわにしていた。しかし、彼女の月を思いやる気持ちに触れて、仕事の枠を超えた友人となる。一度仲良くなってからは、何かとハヤセをからかいつつも、人一倍ハヤセを気にかける優しい性格の持ち主。

サンドラ・ロロ (さんどらろろ)

如月ハヤセの同僚である女性警察官。ウェーブがかった金髪で、体型は少しぽっちゃり気味。氷川アテナ同様、ハヤセの赴任当時はあまり好ましい態度を取っていなかったが、あることをきっかけにハヤセと仲良くなる。ハヤセにそっくりな女王蟻を見た際、その身を案じるアテナに対し、「必要な犠牲だ」と言い聞かせるクールな面もあるが、ハヤセを気にかけている様子。

アオイ

街使いが探し続けている女性。かつて街使いが、世界戦争管理機構に所属しながらテロ行為を繰り返していた際、スパイとして内部に潜り込み、街使いと出会った。電脳化された彼に、「意志」というものを教えた存在。

イチゴ

街使いが電脳化実験の被検体だった頃の名前。名前の由来は、被検体ナンバーが「15」であったため。1000人以上の被検体のうち、ただ1人の電脳化成功例。生き延びた後は、身柄を世界戦争管理機構に預けられ、そこで上層部の命令に従うだけの存在となっていた。

集団・組織

APD (えーぴーでぃー)

月面都市の治安を守る警察組織。事件の種類などによって担当が分かれる。重要犯罪は1課、血族犯罪は2課、ネット犯罪は3課、外星人犯罪は4課が、それぞれ担当。その他、少なくとも6課までの存在が示されている。また特殊な分課として、情報発掘官を擁する特課と、すべてのAPDをまとめ上げる中央司令部「アルテミスヤード」が存在する。 「アルテミスヤード」には、各課のトップのほか、スーパーエリートしか在籍していない。元地球人である如月ハヤセが、その一員となるのは異例中の異例で、極めて名誉なこととされている。

マーズ工業 (まーずこうぎょう)

ANT研究・開発の筆頭企業。月でも有数の歴史を誇り、嵐の大洋市にANT生産工場「蟲姫」を持つ。暴走ANTとの戦闘で負傷した女王蟻を匿っている、と疑われている。

世界戦争管理機構 (せかいせんそうかんりきこう)

世界の戦争や紛争、国家間のイメージ操作を行っていた組織。地球を統治する4大国家元首たちや、裏世界の人間たちからの指示を受けて活動する。まだ街使いと呼ばれる前のイチゴを使って、目標の街にハッキングをかけ、重要機関に混乱をもたらしながら、紛争の種をまき散らしていた。

場所

嵐の大洋市 (あらしのたいようし)

月面都市群のひとつ。比較的新しく、厳密な開発計画に基づいて作り出された。ANT産業の中心地で、多くのANTを排出する。観光地としても有名。

静かの海市 (しずかのうみし)

月人が最初に興したとされる月面都市。月本来の環境を色濃く残す都市。その重要性から、月世界での首都とされ、外交などはこの場所で行われている。

蟲姫 (むしひめ)

ANT生産工場「繭」の1つ。嵐の大洋市にあり、マーズ工業が所有している。APD情報発掘官の花鳥愛子によって、暴走ANTとの戦闘で負傷した女王蟻の逃亡先であると予想された場所。「繭」の中でも最も古い真祖であるとされ、巨大な内部空間を持つ。

その他キーワード

ANT

虫を素材として、遺伝子操作を繰り返して造られた人工生物の総称。正式名称は「Artificial Neo Thing」。このANTなくして月の文化は成り立たない、といわれるほど重要な存在。土木・通信・交通・食用など、ありとあらゆる役割を担っている。あらかじめ設定された遺伝子プログラムによって動いており、電気信号を与えて操作することも可能。 動力は自ら糖分を摂取するしてまかなっている。水分を排出して植物などの成長を助け、壊れた場合も、他のANTによって有機分解されて新たなANTの材料となる。一種の生態系を造り上げている。女王蟻は、これらのANTすべてを統括し操ることができるとされ、そのため、月人にとっては、救世主か神のように重要な存在となっている。

(たまご)

女王蟻が「危険」と判断した謎の物体。火星開拓船「レイブラッドベリ」に関わる地球人科学者が、その在り処を知っているとされる。卵の確保のため、女王蟻は地球人を襲っていた。見た目は、液体の満たされたカプセルに入った、小さな球体状のもの。女王蟻の管理下にあるはずのANTたちですら、なぜか、卵を手にした女王蟻には襲い掛かる。 ミカ・リカ・ルーンⅣは、もしそれがANTの卵であるとすれば、月の存亡にかかわる危機だと判断した。

月人 (げっと)

月に住む人間を表した言葉。厳密には、月面都市の市民権を得ている人間を指す。地球人と月人の間には確執があり、人種や住んでいる場所以上に、人としてのあり方、心の持ちようを問う言葉として用いられる。かつて、月へ最初に移住した「アルテミスの皿」と呼ばれる人間たちを、祖として強く信望する。一方、月への支援を渋る地球人たちに反感を抱いている。 また、月人は月で生まれた者たちがほとんどであり、重力の関係などから、地球人に身体能力で大きく劣るという特徴を持つ。

地球人 (あーしあん)

地球に住む人間、地球に市民権を持つ人間を表した言葉。主に、地球で生まれた人間すべてを指す言葉として用いられる。月と地球は表面上友好関係にあるものの、かつて「アルテミスの皿」と呼ばれる人間たちが月へ移住した際には、地球各国が反発し、物資支援などを一切行わなかった過去がある。また現在も、地球から月への物資輸送には法外な税金が課せられている。 これらの要因から、月人は地球人に対して良い印象を持っておらず、半ば蔑みの意味合いを込めて、この呼び名を使っている。

情報発掘官 (じょうほうはっくつかん)

APD中央司令部特課捜査員のこと。特殊な能力を持つ人物のみが選ばれる。APDの特課には、分析室と呼ばれる場所があり、そこにはAPDが得たありとあらゆる情報が視覚・聴覚情報となって溢れている。それらの無尽蔵ともいえる情報を脳内で処理し、必要な情報を選別し、また一見無関係な情報と結び付けて、特定の事実を導き出すことができる者のこと。 なお、能力を持たない通常の人間であれば、分析室の中を一瞬覗き見しただけでも脳がパンクし、卒倒する事態に陥る。

月面都市 (げつめんとし)

月面に存在する都市構造体のこと。嵐の大洋市や静かの海市などを指すが、広義では、月面で人類が生活できるすべての場所のこと。都市構造体は、はっきりといくつかの区域に分かれている。市全体を特殊な空気泡で覆うことによって、大気を確保する構造になっている。都市を覆う泡は表面張力で形態が保持されており、多少の穴であればすぐに塞がる仕組み。 都市間の移動では、これを利用する。交通型ANTが泡表面を突破する際、その一部を体表にまとって、無大気圏での活動を可能にしている。

アルテミスの皿 (あるてみすのさら)

かつて、地球から月へと初めて移住したとされる一族のこと。ANTを作り上げ、月に文明をもたらしたともされる。

(まゆ)

ANTを作り出す生産工場。ANTは自然増殖や進化を防ぐために遺伝子操作されている。ベースとなった昆虫類のように卵からではなく、繭と呼ばれる工場で、人工的に生み出されている。その大きさや機能はさまざま。最古であり真祖とされる「蟲姫」のような巨大なものもあれば、各都市部に備え付けられ、自動的にANTのサポートを行う程度の、小さなボックス状のものもある。

レイブラッドベリ

火星開拓のための巨大ANT。地球と月双方の技術、物資を提供して作られた。地球と月の友好の証として建造されたもの。物語開始時点で数日後に羽化、つまり完成を控えていた。その後、開拓船が保管されている静かの海市で、ANTの暴走事件が起きるが、地球主導の強引な方法で、予定通り羽化が進められることになる。

堕来脚 (だらいあす)

嵐の大洋市の地下下水道で働く廃棄物処理用ANT。本来は下水道を流れる廃棄物を体内に吸収し、酸で溶かす役割を持つ。しかし、卵を持った女王蟻に命令を無視して襲い掛かり、自分の内壁も耐えられないほどの強酸をもって、女王蟻の命を狙った。

レディANTシルバーガン

女王蟻専用ANTの1つ。見た目はオオスカシバのような形態。尾の部分に備えたジェット噴射で高速飛行が可能。また、周囲の景色に機体を溶け込ませる生物式迷彩「環境擬態」機能を備える。頭部に当たる部分からは、「殲獄砲(センゴクキャノン)」という高エネルギー放射による攻撃手段も持つ。

ぐわんげ

ミカ・リカ・ルーンⅣが体内に宿している寄生型ANT。有事の際に、情報が漏れないように自殺するためのものとして、血族のものは代々身に宿さなければならない。宿主の意志で任意に起動することができ、効果発動後は数分間で周囲の人間を巻き込み、死に至らしめる神経系毒ガスをまき散らす。

蒼穹、紅蓮 (そうきゅう、ぐれん)

2体の女王蟻専用ANT。ANT生産工場「蟲姫」の中に隠されている。蒼穹、紅蓮双方共に、身に装着して扱うパワードスーツのようなANT。蒼穹は格闘戦に秀で、紅蓮は銃撃戦に優れた性能を持つ。

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