あらすじ
第1巻
総北高校自転車競技部の部室の壁には大きな穴がある。普段はポスターが貼られているために人の目に触れる事はないが、1年生部員の鳴子章吉と小野田坂道がこれを発見した。その穴を開けたのは3年生の巻島裕介。巻島は二人の後輩にその穴を開けた経緯と、自分がクライマーとして才能を開花させる前の物語を語り始める。
高校に入学したばかりの巻島は、意気揚々と自転車競技部に入部したが、癖のある登りのフォームを先輩に無理矢理に直され、息苦しさを感じるようになる。部活を辞めて一人で自由に走ろうと思い始める巻島だったが、そんな中、部長の寒咲通司から、自分の思いを大事にするようにと告げられる。それ以来、巻島は夜中に一人で、自己流のフォームで速くなるための練習を始める。(SPARE1~4「巻島裕介」)
荒北靖友が箱根学園自転車競技部に入部した頃の話を聞いた泉田塔一郎は、練習中にスプリンターの先輩、新開隼人にも面白い昔話はないのかと尋ねる。新開本人はこれと言ったエピソードがないと話す。その代わりに、主将である福富寿一と自分がまだ中学生だった時の話を、泉田に聞かせ始める。
秦野第一中学自転車競技部に所属していた頃、福富はキャプテンを、新開は副キャプテンを務めていた。成績も優秀であった福富は、既に箱根学園への入学推薦の枠をもらい、合格間違いなしの状態であった。しかし願書締切2日前、顧問の中村先生から福富の推薦取り消しが言い渡される。原因は、福富の素行不良が目立つという、近隣住民からの苦情であった。福富自身は身に覚えのない事で、部内では福富の偽物がいるという話が持ち上がり、後輩達は怒りを爆発させる。そんな中、福富と新開は犯人を探すために颯爽と自転車に乗って市内に飛び出していった。(SPARE5~6「新開隼人」)
箱根の国道での休憩中、真波山岳は東堂尽八に、「山神」の異名はいつから付いたものかと問いかけた。すると東堂は、ロードに乗った瞬間からだと堂々と言い放ち、自分の輝かしい半生を長々と話し始める。
中学2年生の東堂は、運動神経はよかったが部活には入らず、日々オシャレに磨きをかけてた。そんな東堂に対し、親友の糸川修作が、ヒルクライムのレースにいっしょに出ようと声をかけてきた。東堂はヘルメットをかぶる事で髪形が乱れるのを嫌い、自転車は年代物のママチャリ・スーパー買い物号しか持っていない、とその申し出を断るが、サイクルショップの息子である糸川も一歩も引き下がらない。糸川は、雑に漕げばヒドイ音鳴りがするスーパー買い物号を力のロスなく漕ぎ、音を出さずに走る東堂の実力を高く評価していたのだ。数日後、大会のコースで練習しようと誘われた東堂は、スーパー買い物号でロードバイクに乗った糸川とクライム勝負をする事になる。日頃からロードに触れていた糸川が当然先行するものの、レースに熱中するあまり東堂はオシャレにセットした髪を崩してまで、勝利を摑みにいく。土壇場で糸川を抜いて先にゴールに辿り着いた東堂は、レース出場を決意するのだった。(SPARE12~14「東堂尽八」)
第2巻
インターハイで総合優勝を勝ち取った総北高校自転車競技部の部員達は、帰りの車中で疲れを忘れ、お祭りモードになっていた。そんな中、主将の金城真護は、過去の自分を一人静かに振り返る。
金城は「SPORTS CYCLE HAMADA」というショップチームに入り、日々自転車に乗っていた。このチームに入ったきっかけは、このチームに所属する元プロレーサー、小関将にあこがれを抱いたからである。小関自身も金城の素質を認め、中学生だからといって甘やかす事なく、自転車のテクニックはもとより、挨拶の仕方から交通ルールといった細かい事までも厳しく指導し、本気で金城と向き合っていた。しかしある日、小関は仕事の都合で転勤が決まり、チームを去る事になってしまう。これにより、元来自主性のなかった金城は、小関がいなくなった事で、ますます自分が何をしたらいいのかがわからなくなっていく。そんな小関は、かつてサイクルショップの店長、浜田から、苦汁を飲まされた初レースと同じコースを走るレースに出場を勧められるが、答えを出せずにいた。そして迎えたレース当日、金城はこのレースを最後に自転車を辞めようと決意していた。(SPARE24~30「金城真護」)
元プロレーサーの小関は、現役時代エースとして活躍していたが、今は千葉にある自転車ショップ「SPORTS CYCLE HAMADA」のショップチームで走る社会人となっていた。店長の浜田とはプロ時代からの付き合いで、小関が出張に行くと浜田が大好きなチョコレートをお土産に買ってやって来る。そして小関は、浜田が淹れてくれるコーヒーを堪能するのだった。(SPARE31「それいけ小関さん」)
3日前、荒北靖友は福富寿一との最速勝負に敗北した。原付バイクに乗りながら自転車に負けたのは、心の弱さゆえだと指摘された荒北は、自慢のリーゼントをばっさりと切ってしまう。そして箱根学園自転車競技部に所属する福富のもとを訪れ、自転車でてっぺんを取ると宣言する。周囲には無理だと一笑に付されたものの、荒北はその認識をひっくり返そうと必死に練習を始める。しかし練習は、いつも室内でローラーの上でペダルを何時間も回すだけの単純なもの。つまらなさを感じた荒北は怒りを爆発させ、福富に室外練習をさせろと直訴する。そんな荒北を、福富はいきなりレースにエントリーさせるのだった。ルールなどはいっさい教えてもらっていない荒北に対し、福富は聞きたい事があれば先頭にいる自分のところまで聞きに来い、とだけ告げてスタートする。(SPARE7~10「荒北靖友」)
第3巻
石垣光太郎が山中湖の救護所で目を覚ました時には、インターハイはすでに終わっていた。高校最後のインターハイを優勝で飾れなかった事を知った石垣は、京都伏見高等学校自転車競技部に入部してからの3年間を振り返り始める。
京都伏見高等学校に入学した石垣は、中学時代に競ったスプリンターの井原友也やクライマーの辻明久と共に、自転車競技部に入部。しかし石垣達が入学する前、先輩の一人が卒業寸前に暴力事件を起こして新聞沙汰になっており、自転車競技部はインターハイ出場を辞退する事になっていた。そんな中、キャプテンは何の罪もない1年生にチャンスを与えたいという一心で、インターハイの選抜チームの二枠を確保し、石垣と辻を出場させる。初めてのインターハイに困惑する二人は実力を出す事ができず、タイムオーバーにより2日目でレースを終える事となった。これをきっかけに石垣は、「我慢の男」になろうと決心し、辛い練習を自分に課していく。
翌年、石垣に目をかけていた安浩数がキャプテンとなり、新生自転車競技部がスタートする。予選を難なく突破した石垣達は去年とは違い、自分達のジャージを着て堂々とインターハイ進出を決め、「巨人」と呼ばれる箱根学園とゴール争いを展開。石垣はエースアシストとして、エースを一番最初にゴールへと運ぶためにペダルを回し、同じエースアシストの福富寿一としのぎを削る事になった。(SPARE32~40「石垣光太郎」)
箱根学園の1年生の荒北靖友は、どこの部活にも所属する事なく、ヤンキーになっていた。頭をタケノコのようなリーゼントにしており、タケノコを見ただけでシンパシーを感じるようになっていた。また、タケノコの奥深さを問いかけたり、目薬の上手なさし方を寮長に聞いたりしていた。しかし寮長は不良の荒北にいつも怯え、タケノコは暗号でツチノコの事を言っているのではないかと変な解釈したり、目薬ではなく人の刺し方を聞いているのではないかと勘違いをするのだった。(エピソード「それいけアラキタくん」)
第4巻
インターハイ3日目。待宮栄吉は、箱根学園の荒北靖友との勝負に敗れて先頭争いから降りてしまう。悔しい気持ちを抑えながらも走る待宮と井尾谷諒、その二人の背中を見ていた後輩の東村は、前に聞かされた二人の昔話を思い出す。
井尾谷は、地元中学で有名な不良であった。広島呉南工業高校に進学してからは、ケンカなどせずにクールに生きると心に決めていたが、入学早々に1年生をシメて回る3年生の仲寺に食って掛かって返り討ちに遭い、またも不良生活に戻ってしまう。一方的にやられた1年生は複数いたが、井尾谷のほかに仲寺に立ち向かった、もう一人の男が待宮だった。待宮は中学卒業前に、彼女のカナを守るために大ゲンカをして足を負傷。松葉杖を付いた状態で、仲寺に立ち向かった事でも有名になった。苛立ちのおさまらない待宮と井尾谷は、廊下の角でぶつかると、煮えたぎる思いをお互いにぶつけ、大ゲンカを始める。本気の殴り合いをしているうちに、待宮は井尾谷の根性を認め、いっしょに何かやらないかと提案。こうして二人は自転車競技部に入部する事となった。しかし学内でも有名な不良の待宮と井尾谷は、そう簡単に入部をさせてもらえるわけもなく、顧問の柱田にある条件を出される。(SPARE43~51「待宮栄吉」)
総北高校自転車競技部のレギュラーメンバーは、練習中の途中、ボトル補給のために休憩を取っていた。暑い中、ドリンクや食事の調達のために立ち寄るコンビニは、自転車を漕いでいるメンバーからすれば、避暑地でもある。小野田坂道がそこで自前のハンドタオルで汗を拭いていると、そんなもので汗が拭えるかと、同級生の鳴子章吉が嘲笑する。しかし、それは先輩である巻島裕介の影響だとわかると、鳴子はすぐに謝罪。補給のためのドリンクを低コストで抑えるため、小野田と鳴子は紙パックを分け合って購入していた。そんな中、次々と「高級」と書かれたおにぎりや牛乳を手にしていく巻島の姿に、小野田と鳴子は釘付けになる。(SPARE11「総北高校」)
箱根学園自転車競技部のレギュラーメンバーは、練習の途中にあるコンビニで休憩を取っていた。そこで、栄養補給のために大量のおにぎりやパンを買い込む福富寿一と新開隼人。そのとなりでは、泉田塔一郎が食材にこだわって商品を選んでいた。そして休憩中、真波山岳と荒北がいつの間にかいなくなっていた事に気づく。(SPARE16「箱根学園」)
京都伏見高等学校自転車競技部のメンバーは、練習の途中、ボトルの中のドリンクがなくなりそうになった時には、練習コースの上にあるコンビニに寄っていた。しかしこの日は、エース、御堂筋翔の指示によってコンビニを素通りする事になった。辻明久は手持ちのドリンクが残り少ない事もあり、コンビニ休憩をする事を提案するが、御堂筋はそんな彼に対し、考えが甘いと一蹴する。(SPARE17「京都伏見高等学校」)
登場人物・キャラクター
巻島 裕介 (まきしま ゆうすけ)
総北高校1年生。この時の愛車はジオス。期待を胸に自転車競技部に入部するが、先輩たちに自分の走法を笑われ、自転車は自由ではないのかと愕然とする。退部も考えるほど落ち込む巻島だったが、主将寒咲の後押しで自分のスタイルを変えないまま、一人練習することを決意する。 だが思うように練習は続かず、チームメイトの金城に相談し悩んだ末、部室のポスター裏の壁に正の字を書くことでモチベーションを保つことにした。先輩に見つかれば怒られる恐怖にスリルを感じ、練習が続くようになった巻島はとあるヒルクライムレースに参加する。巻島は、異様に車体を左右に傾けるダンシング走法で独走し優勝。 クライマーとしての才能を開花させた。その後、先輩に壁の正の字がバレたと人づてに知った巻島は壁に穴を空けることで壁の字をなかったことにする。『弱虫ペダル』本編では総北高校3年生のクライマーとして登場。愛車はタイムに変わっている。「頂上の蜘蛛男(ピークスパイダー)」の異名をもつ。
新開 隼人 (しんかい はやと)
秦野第一中学校3年6組。自転車部副キャプテン。愛車はサーベロ。高校受験を控えた新開隼人はある日、親友の福富寿一の箱根学園への推薦が素行不良で取り消されることを知る。誰かが福富の名を語り、悪さをしているのだと踏んだ新開と福富は共に偽物を捕まえに走る。 新開は「直線最速」で知られており、その速さで、逃げる偽物寒川西中の今井を追いつめた。最後は福富が「新開は鬼の形相になると信じられないほど速くなる」と忠告したことで、今井は逃げるのを諦めた。その後今井が顧問の先生と共に秦野第一中学校まで謝罪にきたことで福富の推薦は復活した。 本編の『弱虫ペダル』では箱根学園3年生、箱根学園自転車競技部のエーススプリンターとして登場。愛車は変わらずサーベロ。「箱根の直線鬼」の異名を持つ。補給食としてパワーバーを常に携帯し、よく走行中に食べている。
東堂 尽八 (とうどう じんぱち)
中学2年生。箱根にある老舗旅館東堂庵の嫡男。運動神経が良く、女子にモテる。本人も自覚していてオシャレに気をつかっている。そんな彼が幼少から乗るママチャリは凄まじい騒音を鳴らす年代物で、音が鳴るママチャリはかっこ悪いからと、無駄な動きを削り静かに走る走法を身に付けた。 ある日東堂の自転車の才能に気付いた友人修作からヒルクライムレースに参加しないかと誘われる。気軽な気持ちでママチャリで参加した東堂だったが、レース前に山岳賞のことを知り、本気で山岳を捕りにいく。途中負傷した修作からロードバイクリドレーを借り受け、見事優勝、頂点を捕り、自転車競技の魅力に気づくこととなった。 また、髪の乱れを整えるのに糸川の知人皆水からカチューシャを借りたことが切っ掛けで、以降リドレーと共にカチューシャも愛用するようになる。『弱虫ペダル』本編では箱根学園3年生のクライマーとして登場。「山神」の異名を持つ。総北高校の巻島とはライバル関係であり、巻島を巻ちゃんと愛称で呼ぶ。
寒咲 通司 (かんざき とおじ)
総北高校自転車競技部の主将。主将として悩む巻島の後押しをした。部室のポスター裏の壁の正の字の数を見つけた寒咲は、その字から巻島が毎日練習していたことを知り、ヒルクライムレースに参加させた。『弱虫ペダル』本編では総北高校自転車競技部OBとして登場。
福富 寿一 (ふくとみ じゅいち)
秦野第一中学校3年5組。自転車部キャプテン。愛車はビアンキ。自転車競技の実力は高く、多くの大会で優勝してきた。箱根学園への推薦が決まっていた福富はある日素行不良で推薦を取り消される。身に覚えのない悪事に、自分の名をかたり悪さを働く偽物がいるのだと考え、親友の新開と共に偽物を探しに奔走する。 偽物は、何度も大会に優勝し箱根学園の推薦も決まった福富に嫉妬した寒川西中の今井だった。今井は新開と福富の走行に追い詰められ、最後は逃げるのを諦めた。今井が謝罪したことで福富の推薦は復活する。『弱虫ペダル』本編では箱根学園3年生、箱根学園自転車競技部の主将にしてエース、総北高校のライバルとして登場。 愛車はジャイアントに変わった。「オレは強い」が口癖。新開曰く、中学入学したての頃は「オレは速い」と連呼していた。
糸川 修作 (いとかわ しゅうさく)
東堂の中学の友人。実家は自転車屋。騒音が酷いママチャリを静かに乗りこなす東堂の姿をみてヒルクライムレースに誘う。最初は断られたが、渋る東堂を練習に誘い、そこで山頂までの勝負を仕掛けた。勝負に熱くなった東堂が本気を出して走ったことで、糸川は負けたが、オシャレよりも自転車競技に夢中になったと驚き落ち込む東堂をみて、改めてレースに出ないかと誘う。 大会では真剣に山岳賞を狙う東堂に感化され、前半から勢いをつけて走り、その途中で足を負傷、共に残ろうとする東堂に「優勝する姿がみたい」と、自分のロードバイクリドレーを託してリタイアした。 箱根学園自転車競技部マネージャーの皆水に憧れている。
ベース
弱虫ペダル (よわむしぺだる)
千葉県立総北高校に入学したアニメ好きなオタク少年小野田坂道が、ひょんなことから自転車競技部に入部し、仲間とともにインターハイ優勝を目指す青春ドラマ。運動音痴で未経験者である坂道が、人類最速といわれるロ... 関連ページ:弱虫ペダル
書誌情報
弱虫ペダル SPARE BIKE 13巻 秋田書店〈少年チャンピオン・コミックス〉
第7巻
(2020-03-06発行、 978-4253224772)
第8巻
(2020-12-08発行、 978-4253224789)
第9巻
(2021-07-08発行、 978-4253224796)
第11巻
(2023-01-06発行、 978-4253282864)
第12巻
(2023-05-08発行、 978-4253282871)
第13巻
(2024-01-05発行、 978-4253282888)