あらすじ
第1巻
この日、更級研究所内の笑井研究室で、重要な研究データのバックアップが入ったSDカードがなくなる事件が発生。雇われて2か月目の新人である隠館厄介が、真っ先に疑いをかけられる事になった。自分の潔白を証明するため、厄介が呼び出したのは、どんな事件も1日で解決するという探偵の掟上今日子だった。彼女は、記憶が1日でリセットされてしまうという特性を持っている。そのため、何が何でも眠りに着くまでの時間で事件を解決しなければならないのだ。そんな今日子をよく知っている厄介は、彼女に助けを求めるが、今日子は何度会っていても、厄介の事などいっさい覚えていないため、「初めまして」からやり直す。探偵として事件を解決するべく契約を結んだ今日子は、夜9時に帰宅する事を目標に、残り3時間で事件を解決に導く。(エピソード「Case:隠館厄介①」)
厄介は、以前勤務していた会社の上司、紺藤文房からの連絡を受け、久しぶりに顔を合わせる事になった。会うなり、さまざまな事件に巻き込まれた経験を持つ厄介に、知恵を貸してほしいと頭を下げる様子に驚いた厄介が話を聞けば、彼の担当する人気漫画家の里井有次が、脅迫を受けているらしい事を知る。自宅の冷蔵庫に隠してあった100万円が盗まれ、電話によって犯人から要求が示された。その内容は、「100万円返して欲しければ、1億円支払え」というものだった。厄介と紺藤は意味不明な脅迫に頭を悩ませるが、張本人の里井はこれに即座に同意し、何が何でも100万円を取り戻さなければと躍起になる。警察に連絡すれば100万円は戻らないとの犯人からの指示に、それならばと探偵に頼る事にした厄介は、今日子を呼び出し、事件の経緯を説明する。すると、今日子は里井と話をしただけで事件解決の糸口を見出す。(エピソード「Case:隠館厄介②」)
ある日、湯船に落としたドライヤーに感電し、亡くなっている男性、宇奈木九五が発見された。第一発見者は彼の友人であり、水泳選手としてライバルだった鯨井留可だった。鯨井は事件当日、宇奈木の死亡推定時刻の頃には、総白髪で眼鏡をかけた若い女性とお茶をしていた事を証言しており、それは今日子といっしょだった事を示唆していた。アリバイ確認のために、警部の肘折檻鉄に呼び出された今日子だったが、もちろん彼女にその記憶は残っていなかった。今日子は、宇奈木の死に第三者がかかわっていると考えた肘折警部と共に、有償で警察の捜査に協力する事を告げ、宇奈木の部屋で調査を開始する。(エピソード「Extra:肘折檻鉄」)
第2巻
隠館厄介は紺藤文房から宝探しゲームへの参加提案を受ける。これは、「日本ミステリー界の重鎮」と呼ばれる小説家の須永昼兵衛の未発表作品の、完成原稿のありかを巡って行われるもので、彼の熱狂的読者である掟上今日子と共に参加する事が決まった。しかし、現地へ向かうべく今日子と新幹線に乗った厄介のもとに届いたのは、須永昼兵衛死去の報せだった。その結果、隠された原稿は須永氏の遺稿となり、そのありかを知る者は誰もいなくなってしまった。紺藤は、デート気分で参加する予定だった二人に、探偵として原稿を見つけ出す事を正式に依頼したいと申し出た。厄介はそれを承諾しつつも、須永昼兵衛が亡くなった事を今日子に知らせない、という条件を提示する。(エピソード「Case:隠館厄介③」)
小説家の須永昼兵衛の死に不審な点が発見された。自然死と思われていたが、自殺による死亡の線が疑われる事となった。彼の遺稿となった作品に、何らかの兆候があったのではないかと考えた紺藤は、須永の死の真相を探るべく、今日子と厄介に依頼を持ち掛ける。その結果、今日子は遺稿となった原稿だけでなく、彼が執筆した過去の作品すべてに目を通す必要があると判断。眠る事で記憶がリセットされてしまう今日子は、須永昼兵衛の作品99冊すべてを一睡もせずに読破する事を決める。そのためには、厄介の手助けが必要と考え、小説すべてを読み終えるまで、自分が眠ってしまわないように、彼女の助手として生活を共にする事を厄介に提案し、不眠不休の日を過ごす事になる。(エピソード「Case:隠館厄介④」「Case:隠館厄介⑤」「Case:隠館厄介⑥」)
第3巻
早朝、野球場のグラウンドのマウンド上で桃木両太郎の遺体が発見された。ベテランプロ野球選手として有名だった彼の死因は転落死。周囲には高い建造物などいっさい存在しないマウンドで、彼はなぜ死に至ったのか謎だった。その死の真相を探るべく鬼庭警部は、忘却探偵として有名な掟上今日子に助力を依頼する事にした。鬼庭警部は、桃木の在りし日の姿について今日子に話して聞かせながら、自由奔放に振る舞う今日子に振り回されつつも、謎の死の核心に少しずつ近づいていく。(エピソード「Extra:鬼庭警部」)
女子中学生の逆瀬坂雅歌がビルから飛び降り自殺を図った。自殺は未遂に終わったが、その下に居合わせた厄介は、少女の下敷きとなり、骨折して入院生活を送る事となった。自殺現場に残された遺書には、阜本瞬作の漫画に影響を受けた事が記されており、それを知った阜本は漫画家を止める決意をする。遺書に、作為的でできすぎな違和感を感じた編集長の紺藤文房は、少女の死と漫画の関係性を明確にしてほしいと、探偵の掟上今日子に依頼を持ち掛ける。今日子は厄介を傍らにし、現場となったビルや少女の通っていた中学校や自宅にまで足を運び、逆瀬坂自身について深く掘り下げ、調査を進めていく。すると、彼女の人間性についてさまざまな事が明確になり、自殺に至る経緯についての真相に迫る。(エピソード「Case:隠館厄介⑦」「Case:隠館厄介⑧」「Case:隠館厄介⑨」)
第4巻
とある美術展で警備員を務める親切守は、何度も来場しては同じ「母」という名の作品の前で立ち止まり、長い時間立ち尽くしている総白髪の女性を気にかけていた。うしろ姿を見て、老婦人だと思い込んでいたその人は、振り向いてみればまだ若い女性だった。探偵の掟上今日子と名乗ったその女性は守に、この作品の価値が2億円である事を熱っぽく語って聞かせた。しかし数日後、再度訪れた今日子はいつも立ち止まるはずの作品の前を素通りする。思わず声を掛けた守に対して、今日子はこの作品の価値は200万円程度でしかないと話す。まったく変化がないように見えるその作品に一体何が起きたのか、皆目見当もつかない守に、ある程度察しがついた様子の今日子は、推理してほしければ正式な依頼をするように言い残して、その場を去っていった。後日、美術館にやって来た老人の和久井がその作品を見るなり叩き壊してしまった事が原因で、守はその責任を取る形となり、退職する運びとなる。わからない事だらけの展開に困惑した守は今日子を呼び出し、あの作品についての謎解きを依頼する。(エピソード「Extra:親切守」)
隠館厄介はある日、冤罪常連者として取材依頼を受けた。相手はインターネット媒体で展開している報道系雑誌の記者を務める囲井都市子。彼女は、冤罪についての取材を終えると、おもむろに自分の男性遍歴について語り始める。囲井が過去に付き合った六人の男性すべてが「破滅」しているというのだ。そして、そんな自分が幸せになれる相手は厄介しかいないと、囲井は厄介にプロポーズし、結婚を申し込んだ。それを受けた厄介は、秘密裏に今日子のもとを訪れ、囲井の身辺調査を依頼。過去の男性遍歴について詳しく調べてほしいと依頼する。それは、彼女が過去に付き合った男性が破滅に至った原因が、本当に囲井にあるのかどうか、そんな「呪い」が存在するのかどうかを判断するためだ。これを受け、今日子は訝しがりながらも囲井自身と、彼女に関係する六人の男性について調査を始めたが、そこに、六人の男性を破滅させたという客観的事実はない事が判明した。それにより、依頼は滞りなく終了すると思われた矢先、自分の仕事に納得できない部分があった事に気づいた今日子が、厄介の自宅を訪れる。そして新たな情報が加わった事で、事態は思わぬ方向へと動き出す。(エピソード「Case:隠館厄介⑩」「Case:隠館厄介⑪」「Case:隠館厄介⑫」)
第5巻
掟上今日子は、佐和沢警部からの依頼を受け、1週間前に起きたバラバラ殺人事件の捜査に協力する事になった。1本ののこぎりで遺体を15分割ものぶつ切りにした、この凄惨な事件の被害者「聖野帳」は、たくさんの人を傷つける厄介な存在だったため、彼に接していた関係者すべてが容疑者となった。そのうえ、数えきれないほど大量の容疑者すべてにアリバイが存在したのだ。そんなお手上げの状況を前に、今日子はすべての容疑者にアリバイがある事自体に不信感を抱く。殺害現場となったマンションへと足を運んだ二人は、殺害当時の状況を再現しつつ、容疑者のアリバイ崩しに取り掛かる。(エピソード「Extra:佐和沢警部」)
隠館厄介は、勤め先である旅行代理店で、またしてもトラブルに巻き込まれ、仕事をクビになってしまう。退職金代わりにもらったパリ行きの航空券を利用して、一人旅に出る事にした厄介は、パリの空港で、今日子の姿を目にする。本人である事を確認しようと今日子のあとを追い始めた厄介は、追いついたところで本人に見つかり、成り行きで今日子の助手を務める事になった。彼女がパリに来た目的は、エッフェル塔を盗むという、「怪盗淑女」からの犯行予告を阻止してほしいとの依頼によるもの。今日子は、自分がパリにいるあいだ、眠って記憶を失ってしまう事があってはならないと、厄介に協力を要請した。しかし、厄介と離れて部屋に戻ったスキに、今日子はベッドで眠り込んでしまう。案の定、厄介の前に姿を現した今日子は、すべての記憶を失っていたが、厄介が助手であるという事実だけは、契約のために体に書き残したメモにより理解していた。だが、今日子は厄介に対して自分が「怪盗」であると名乗ったのだ。不審に思った厄介が今日子の腕を確認すると、そこには掟上今日子が探偵である事、記憶が1日でリセットされる事が記されているはずが、どういうわけか「探偵」の文字が「怪盗」に書き換えられていたのだ。必死になって真実を説明しようとする厄介だったが、彼の言葉は今日子には響かず、自分が怪盗であると信じて疑わない今日子は、エッフェル塔を盗むための策略を本気で考え始める。(エピソード「Case:隠館厄介⑬」「Case:隠館厄介⑭」「Case:隠館厄介⑮」)
関連作品
小説
本作『掟上今日子の備忘録』の原作は、講談社より出版されている西尾維新の小説「忘却探偵」シリーズ。イラストは、本作漫画版にもキャラクター原案としてクレジットされているVOFANが担当している。本作漫画版には、シリーズのうち『掟上今日子の備忘録』『掟上今日子の推薦文』『掟上今日子の挑戦状』『掟上今日子の遺言書』『掟上今日子の退職願』『掟上今日子の婚姻届』『掟上今日子の家計簿』『掟上今日子の旅行記』の8作分のエピソードが収録されている。
メディアミックス
TVドラマ
本作『掟上今日子の備忘録』の原作小説は、2015年10月に日本テレビ系列でTVドラマ化されている。掟上今日子役を新垣結衣が、隠館厄介役を岡田将生が演じたほか、原作には存在しないTVドラマオリジナルのキャラクターも複数登場する。また、ビジネス誌「コンフィデンス」の「第2回コンフィデンスアワード・ドラマ賞」で、TVドラマ版の主演を務めた新垣結衣が主演女優賞を受賞した。
登場人物・キャラクター
掟上 今日子 (おきてがみ きょうこ)
頭髪は根本まですべて真っ白で、眼鏡をかけた小柄な女性。年齢は25歳。個人経営の探偵事務所、置手紙探偵事務所で所長を務める職業探偵で、お金にはかなりシビアな性質。どんな事件でも1日で解決する名探偵だが、記憶が1日でリセットされるため、長期にわたる事件は担当できない。しかし、その特性を活かし、あらゆる機密に平気で踏み込む事ができる事を売りにしている。正確には、眠ってしまうとそれまでの記憶がリセットされるため、眠らなければ記憶は維持できるが、意識を失ったり、短時間でも眠ってしまうと、1日も維持できない事になる。彼女のお腹や腕、太ももなどには自分に関する基本的な情報や、現在決して忘れてはいけない事が、マジックペンで直接書き残されている。眠ってリセットされたあとの記憶は、つねに8年前の17歳の頃に遡る。ファッションについては、毎日1着以上服を購入する事で、時代遅れになる事を防いでいる。また、普段は風邪薬などの薬をいっさいを使用しないため、薬物を盛られたりすると、てきめんに効いてしまう。ミステリー小説が大好きで、特に須永昼兵衛の熱狂的な読者でもある。 探偵事務所兼自宅は、3階建ての掟上ビルディング内にあり、彼女自身の身を守るためにも、足を踏み入れるものは、厳しいセキュリティチェックを通らなければならない仕様になっている。持ち物検査や探知ゲートによるチェックなどさまざまで、事務所に辿り着くまでには1時間もの時間を要する事もある。また、寝室の天井には、自分以外の何者かの文字で「お前は今日から掟上今日子 探偵として生きていく」という謎のメッセージが書かれている。これは毎朝目を覚ました今日子が、一番に目にするようになっており、今日子はこれに従って日々生きている事になる。
隠館 厄介 (かくしだて やくすけ)
身長が190センチ以上もある男性。年齢は25歳。噓のつけない、非常にお人好しな性格で、幼い頃から何かとトラブルに巻き込まれやすく、その都度、一番に疑われる損な役回りの人物。実の親にすら疑われて育ったが、どれもこれも身に覚えのない冤罪で、恥じ入る事はないほどまじめに生きてきた。さまざまな事件に巻き込まれてきた結果、身についた自衛策として、探偵に連絡をつけるためのリスト「探偵ホットライン」を作成し、つねに身につけている。 掟上今日子とは2年前から面識があり、何度も窮地を救ってもらっている。しかし、彼女にはその記憶は残っていないため、再会するたびに「初めまして」と言われてしまう。今日子に想いを寄せている事もあり、再会のたびに初対面になってしまう事に心を痛めている。 トラブルに巻き込まれやすい事が災いして、安定した職業に就けず、就職してはクビになる事を繰り返している。
笑井 航路 (えみい こうろ)
更級研究所内の笑井研究室で室長を務める男性。映像、視覚の研究機関であり、眼鏡なしでも見られる3D映像など、特に立体視に関する研究を行っている。今回、研究室内で重要な研究データのバックアップが入ったSDカードがなくなった事件が発生し、隠館厄介を始めとする研究仲間を疑う。
百合根 (ゆりね)
更級研究所内の笑井研究室で副室長を務める女性。ロングヘアの美人で、笑井航路とは長い付き合い。同室の研究員の中でも、特に岐阜部の事を個人的に高く評価している。
岐阜部 (ぎふべ)
更級研究所内の笑井研究室で研究員を務めるショートヘアの女性。同室の研究員である誉田とは、自他共に認めていい、ライバル関係にあるが、常日頃から意見が衝突する事も少なくない。いっしょに暮らしている母親は、数年のうちに片目の視力をほとんど失ってしまいそうな状況にある。
誉田 (ほんだ)
更級研究所内の笑井研究室で研究員を務める男性。同室の研究員である岐阜部とは、自他共に認めるライバル関係にあるが、常日頃から意見が衝突する事も少なくない。血気盛んで、すぐに熱くなり、声を荒げる事が多い。
紺藤 文房 (こんどう ふみふさ)
出版社の作創社で、少年漫画誌の編集長を務めており、人気漫画家の里井有次の担当編集者でもある男性。里井のデビューに立ち会った自負があり、未だに彼女を新人のように扱い、頭ごなしに叱りつける事もしばしば。以前、隠館厄介がアルバイトとして出版社に勤めていた時の上司にあたる。当時、トラブルに巻き込まれてあらぬ疑いをかけられた厄介をただ信じ、かばった。 その後、退職を余儀なくされた厄介を何かと気にかけ、連絡を取り合っている。掟上今日子の姿を見て、以前、海外支社に勤務していた頃知り合った女性とよく似ている事が気になっている。
里井 有次 (さとい ありつぐ)
複数のアシスタントを扱う人気女性漫画家。出版社の作創社の少年漫画誌の看板作家。コミックスは単巻100万部の売り上げを誇る。冷蔵庫内に隠してあった100万円が盗まれ、返す条件として1億円を請求された。担当編集者である紺藤文房など、周囲が訝しがる中、彼女自身はあくまでも100万円を取り返すために1億円を払おうとする。 忘れっぽい一面がある。
肘折 檻鉄 (ひじおり おりてつ)
警部を務める男性警察官。掟上今日子とは、過去に何度か捜査を共にした事がある。強面な外見とは反対に、態度は割と柔らかく丁寧。はっきりしていて押しの強い今日子に対して強く出る事ができない。
宇奈木 九五 (うなぎ きゅうご)
27歳の男性。将来を嘱望される水泳選手で、オリンピック候補生だったが、マンションの自室で死亡しているのが発見された。死因は、バスルームで、浴槽にドライヤーを落とした事による感電死とみられるが、状況から考えて、第三者の関与が疑われている状態。死に顔は穏やかだった。
鯨井 留可 (くじらい るか)
ジムのインストラクターを務める男性。宇奈木九五が亡くなった際の第一発見者。以前、宇奈木とは鎬(しのぎ)を削る競泳選手で、仲のいい友人だったが、その後は不仲になったと噂されている。そのため、宇奈木殺害の容疑者として名前が挙がったが、宇奈木の死亡推定時刻頃、喫茶店で総白髪で眼鏡の若い女性、つまり掟上今日子とお茶をしていたと証言しており、アリバイがある状況。 しかし、今日子にその時の記憶がないため、正確にはアリバイは成立していない。
須永 昼兵衛 (すなが ひるべえ)
小説家の老人男性。未婚。日本ミステリー界の重鎮であり、巨匠中の巨匠と呼ばれる存在。遊び心にあふれる人物で、完成原稿はすぐに渡さず、編集者にヒントを与えて宝探しをさせるのが通例となっている。過去にはカジノホールや遊園地、野球場を借り切って行われた事もあるが、今回は彼自身の別荘で原稿探しが行われる事になっていた。しかしその前日、ベッドで寝ているあいだに心不全を起こし、亡くなっているところが発見された。 そのため、隠された原稿は最後の未発表作品となり、そのありかを知る者は彼本人のみとなってしまった。その後、彼の死に不審な点が見受けられ、自殺が疑われる事となる。
鬼庭 (おににわ)
警部を務める警察官の女性。パンツスーツ姿で生真面目そうな印象を周囲に与えている。桃木両太郎の死の真相について、探偵の掟上今日子に捜査の手助けをお願いしたが、自分が思っていた人物とは違う印象に驚きを隠せない。一見小柄で非力そうな今日子に、何かと振り回されつつ、共に捜査を進めていく。
桃木 両太郎 (ももき りょうたろう)
中年の男性。ベテランのプロ野球選手で、ポジションはピッチャー。ある日の早朝、野球場のグラウンドのマウンド上で亡くなっているのが発見された。高所から落下し、全身を強く打った事による転落死とみられ、ほぼ即死のショック死と思われた。最近では体の故障が多く、成績も伸び悩んでいたため、チームからは勇退を勧められた事もあった。しかし、本人にはその意思はまったくなく、死ぬ時はマウンドで死にたいと公言していた。 そのせいもあり、彼の死が自殺によるものだと考えているファンは少なくない。
店主 (てんしゅ)
隠館厄介の勤め先である推理小説専門古書店「真相堂」の店主を務める老人の男性。愛想はないが、人はいい。店のビルから飛び降り自殺が起きた際は、巻き込まれた厄介を悪く言うメディアからの取材依頼が殺到したが、すべて断った。トラブルを起こした厄介の退職を引き止める事はなかったが、彼を悪く言う事もなかった。
逆瀬坂 雅歌 (さかせざか まさか)
中学1年生の女子。推理小説専門古書店「真相堂」のビルの屋上から飛び降り、自殺を図った。落下地点に隠館厄介がおり、一命を取り止めたが、意識不明で生死の境をさまよっている。彼女の自殺の原因は、阜本瞬の読み切り漫画「チチェローネ」に影響された事にあると、残された遺書には綴られているが、真相は定かではない。読書が好きで、学校での成績はよかったが、友人関係ではトラブルが少なくなかった。 自分を勝手に語られたり、分析される事を病的に嫌う気質の持ち主。表立って自殺者の名前が公開されておらず、彼女を「遺書を遺して飛び降りた件の女子中学生」と説明していた掟上今日子が、その手間を省こうと、呼び名を「遺言少女」と命名した。
阜本 瞬 (ふもと しゅん)
漫画家の男性。紺藤文房が編集長を務める週刊漫画誌に漫画が掲載されている。がっしりした体格で、ヒゲ面が特徴。女子中学生の逆瀬坂雅歌の自殺した原因が、新人時代に執筆した読み切り作品「チチェローネ」に影響を受けた事によるものであると知り、ショックを受け、漫画家を止める決意をする。読者が自殺した事に責任を強く感じている。
親切 守 (おやぎり まもる)
美術展で警備員を務める男性。祖父からもらった「守」という名から、何かを守る仕事がしたいと大手警備会社に就職決めたが、この先の人生が一本道になる事に、一抹の寂しさを感じている。美術展に何度もやって来る総白髪の女性、掟上今日子に声を掛け、彼女が探偵である事を知った。のちに、美術展で作品が壊された事を理由に解雇となり、事の真相を知るために、今日子になぞ解きを依頼する。 その後、置手紙探偵事務所のある「掟上ビルディング」で警備員として再雇用される事となる。
和久井 (わくい)
美術展に訪れた和服の老人男性。「母」という名の作品の前で足を止め、持っていた杖で突然作品を殴打し、壊してしまった。警備員だった親切守に制止されたものの、悪態をつき、館長の敷原を呼べと繰り返した。実は、額縁を作る額縁匠である。
剥井 陸 (はくい りく)
美術展に訪れた小学生くらいの少年。美術展で展示されている「母」という名の作品を模写している。鉛筆一本で描いたその模写は、筆圧の凹凸まで再現された高クオリティーなもの。彼が描いたほかの作品を見ても、少年が描いたとは思えないほどの出来映えとなっている。また、絵画を見る目も養われており、一般の人が見ても何を描いた絵なのかわからないような、一見抽象的な作品でも、真髄を理解する事ができる。
囲井 都市子 (かこい としこ)
印象的なロングヘアを持つ女性。インターネット媒体で展開している報道系雑誌の記者を務めている。冤罪常連者として隠館厄介に取材を依頼した。彼の考え方に感銘を受け、厄介にプロポーズした。過去に付き合った六人の男性、今澤延規、軌山鳳来、薄川帳三、嶋原通、峰田添記、亀村優久が、交通事故や飛び降り自殺、倒産など、ことごとく破滅しており、簡単に人を好きになる事ができないと、頭を悩ませている。
今澤 延規 (いまざわ のぶのり)
囲井都市子の初恋の相手だった男性。当時小学5年生で、囲井の家の近所に住んでいた。交通事故に遭って、手足を骨折する大ケガを負い、後遺症が残った事が原因で引っ越した。それ以降、音信不通となっており、囲井はその責任がすべて自分にあると思い込んでいる。しかし実際には、少年自らが信号無視をして起きた事故であり、引っ越しも父親の仕事によるもので、後遺症も日常生活に問題なく、普通に暮らしている。
軌山 鳳来 (きやま ほうく)
囲井都市子の小学生の時のクラスメイトの少年。小学4年生の時、飛び降り自殺により命を落とした。遺書はなかったが、当時クラス内でいじめの標的にされていた事がわかっており、遺族が学校や自治体を相手に起こした裁判は現在も続いている。
薄川 帳三 (うすかわ ちょうぞう)
囲井都市子が高校時代、サッカー部の先輩だった男性。校内にファンクラブ的なグループを持つほどの人気ストライカー。試合中に靱帯を痛めて入院し、その後引退した。囲井は自分が好きになったからだと責任を感じていたが、予後は悪くなく、大学でもサッカーを続け、現在はプロのクラブチームでプレイしている。
嶋原 通 (しまはら とおる)
囲井都市子が大学時代に交際していた男性。大学のサークル仲間で、成績優秀な優等生だったが、交際直後から成績が下がり、大学を中退した。その後行方不明となった。囲井は責任を感じているが、実際は「自分探し」を始めるため海外を放浪。のちにアフリカで探していたものを見つけ出し、現在はボランティアに近い形でNGOキャンプに参加している。
峰田 添記 (みねた そえき)
囲井都市子が社会人1年目の時に付き合った男性。会社では囲井の上司にあたる。左遷され、窓際へと追いやられた結果、自主退職へと追い込まれた。現在もバラ色の暮らしとはいえない状況となっている。しかしこれは、会社内で複数の女性と関係を持っていた事が原因であり、周囲には自業自得と思われている。
亀村 優久 (かめむら すぐひさ)
囲井都市子が一番最近付き合っていた青年実業家の男性。囲井とは結婚を考えていたが、自社の業績がみるみる悪化し、倒産。これにより、婚約を破棄する事となった。しかし、当時の会社は初めて設立したものではなく、リカバリできないほどのダメージではなかった様子。実は会社が倒産した原因は、大口の取引先が不渡りを出した事による連鎖倒産であり、現在は新たな会社を立ち上げようとしている。
佐和沢 (さわざわ)
警部を務める女性警察官。1週間前に近所のマンションで起きたバラバラ殺人事件の捜査を担当している。掟上今日子に捜査協力を依頼し、1本ののこぎりで遺体を15分割ものぶつ切りにするという凄惨な事件の真相究明のために奔走する。正義感が強くまじめだが、この事件のあまりにも凄惨すぎる現場に足を踏み入れた事で、トラウマになりかけている。 突拍子もない行動を起こす今日子に振り回されるうちに、彼女の探偵としての実力を知る事となる。
矍鑠伯爵 (かくしゃくはくしゃく)
パリの町で、エッフェル塔までの道を隠館厄介に聞いてきた老紳士。連れのお婆さんといっしょに、孫からのプレゼントでパリ旅行を楽しんでいる様子だった。しかし、道案内をしてくれた厄介を麻酔で眠らせて誘拐し、とあるレストランに連れて来た。エッフェル塔を愛し、その建築家であるギュスターヴ・エッフェルの建築思想に並々ならぬ思い入れを持っている。
クレジット
- 原作
- キャラクター原案
-
VOFAN
書誌情報
掟上今日子の備忘録 5巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2015-10-16発行、 978-4063773439)
第2巻
(2016-04-15発行、 978-4063774467)
第3巻
(2016-08-17発行、 978-4063930245)
第4巻
(2017-01-17発行、 978-4063931181)
第5巻
(2017-04-17発行、 978-4063931808)