あらすじ
七草
高校1年生の七草は、階段島と呼ばれる不思議な孤島で暮らしている。階段島はなにかを失くした、捨てられた人々が迷い込む島で、七草は数か月前に迷い込んできたのだった。島の高校では佐々岡や堀などの仲のいいクラスメートもでき、平穏な学園生活を送っていた。この島からは、自分のなくしたものを見つけると出ることができるらしく、仲のよかったクラスメートが突然姿を消すこともあった。島は魔女に支配されているという噂もあり、外界から隔絶された島での暮らしも、七草にはまったく不満はなかった。だが11月のある日、引っ越しで離れ離れとなっていた小学校からの幼なじみである真辺由宇と2年ぶりに再会する。真辺との再会によって、七草は島でのこれまでの生活が大きく変わることを予感するのだった。
七草と真辺
11月のある日、真辺由宇は階段島と呼ばれる不思議な島で幼なじみの七草と再会する。真辺の最後の記憶は8月25日で、それ以降の約3か月の記憶を失っていた。七草から島の説明を聞いた真辺は、勝手に人々を連れ去って閉じ込める島の存在に納得がいかずに憤り、いっしょに島から脱出する手助けを七草に求めるのだった。階段島にある柏原第二高等学校に通うことになった真辺は、転入初日のあいさつで島から脱出することを宣言し、クラスメートにも協力を求める。真辺は、佐々岡と共に週に一度、定期便としてやって来る船に密航して脱出を試みようとするが、船員に見つかって失敗に終わる。一方、島での暮らしには満足していた七草だったが、幼なじみの真辺が何者かに捨てられてこの島へやって来たという事実だけは許すことができなかった。七草は、真辺が元の世界へ戻れるよう、魔女と交渉するために電話をかける。
関連作品
小説
本作『いなくなれ、群青 Fragile Light of Pistol Star』は、河野裕の小説『いなくなれ、群青』を原作としている。『いなくなれ、群青』は、2014年から2019年にかけて新潮文庫nexとして刊行された「階段島」シリーズ(全6巻)の1作目で、2015年の第8回大学読書人大賞を受賞している。イラストは越島はぐが担当している。
実写劇場版
2019年9月、本作『いなくなれ、群青 Fragile Light of Pistol Star』の原作小説『いなくなれ、群青』の実写劇場版『いなくなれ、群青』が公開された。監督は柳明菜、脚本は高野水登が務めている。キャストは、七草を横浜流星、真辺由宇を飯豊まりえ、水谷を松本妃代、堀を矢作穂香、佐々岡を松岡広大、トクメを伊藤ゆみ、時任を片山萌美、ハルを岩井拳士朗、ナドを黒羽麻璃央が演じている。
登場人物・キャラクター
七草 (ななくさ)
階段島に迷い込み、柏原第二高等学校に通う1年生の男子。中性的な見た目で物静かな性格をしている。幼い頃、キャンプで父親から教わったピストルスターという星にあこがれている。階段島にやって来てからも、特に不満なく島での学園生活を送っていた。しかし、幼なじみの真辺由宇が島にやって来たことをきっかけに、平穏な暮らしに変化が訪れることを予感している。
真辺 由宇 (まなべ ゆう)
階段島に迷い込み、柏原第二高等学校に転校してきた女子。黒髪ロングヘアの美少女。七草とは小学校からの幼なじみだが、真辺由宇が引っ越したため、2年ぶりに階段島で再会した。自分の意見をはっきり言う凛々しい性格ながら、他人の意見を聞く素直な一面もある。人々が理不尽に閉じ込めている階段島の存在に納得がいかず、柏原第二高等学校への転校初日のあいさつで、いきなり島から脱出することを宣言した。島への不満をぶつけるために電柱に飛び蹴りを入れたり、定期便の船に潜入して島からの脱出を図ろうとしたりするなど、七草を巻き込んで島の秘密の解明に乗り出す。
佐々岡 (ささおか)
階段島に迷い込み、柏原第二高等学校に通う1年生の男子。スマートでかっこいい主人公になりたいという願望を持っている。そのため、つまらない現実を少しでも面白く盛り上げようと、いつもイヤフォンでゲームミュージックを聞いている。真辺由宇の出現により、自分の生活に変化が訪れることを期待している。
ハル
階段島にある七草や佐々岡が暮らす寮で、七草たちの面倒を見ている若い男性。長めの金髪を後ろで束ね、いつもエプロンをかけている。寮生のご飯を作り、毎朝寮生たちを学校へ優しく見送っている。のちに階段島に迷い込んできた小学生の相原大地も保護する。
トクメ
柏原第二高等学校に勤務する女性教師。七草たちのクラスを担任している。黒髪を後ろでまとめ、スーツを身につけている。素顔では生徒の前に立つことができないらしく、いつもアイマスクのような仮面をつけている。階段島に来る前も教師をしており、担任していたクラスの生徒からいじめを受けていた。それが原因で生徒に素顔をさらすことを恐れている。
水谷 (みずたに)
階段島に迷い込み、柏原第二高等学校に通う1年生の女子。ショートヘアの委員長タイプで、眼鏡をかけている。階段島でも優等生のままに振る舞い、クラスメートに対しても敬語で話す。同じクラスの堀、七草、佐々岡らとは仲がいい。
堀 (ほり)
階段島に迷い込み、柏原第二高等学校に通う1年生の女子。人としゃべるのが非常に苦手で、ほとんど言葉を発しない。階段島に迷い込んだ七草が初めて出会った人物で、その際は階段島のことを七草に一生懸命に説明した。人と接するのが苦手な堀を気遣ってくれる七草のことを信頼しており、毎週七草に手紙を送っている。真辺由宇の出現によって、七草が彼女に振り回されることを危惧している。
ナド
階段島に迷い込み、柏原第二高等学校に通う1年生の男子。いつも校舎の屋上にいる。初対面の相手には必ず、好きな本は何かと尋ね、相手が答えた本の主人公を演じる。そのため誰も本名は知らず、「ナドさん」と呼ばれている。七草は初対面時の問いかけに『100万回生きたねこ』と答えたため、彼の前では100万回生きた猫として対応した。
時任 (ときとう)
階段島の郵便局で働く美しい女性。島の人々への手紙を配達しており、魔女への手紙も届けている。誰も立ち入ることのできない島の階段を登り切り、魔女の家のポストに手紙を投函しているが、魔女に会ったことはないらしい。七草や真辺由宇が郵便局を訪ねてきた際は、いつも温かい飲み物を振る舞って歓迎している。
相原 大地 (あいはら だいち)
階段島に迷い込んだ男の子。道路で一人泣いているところを七草に保護され、七草の住む寮で暮らしている。これまで階段島には中学生以上の人間しか迷い込んでこなかったため、小学生低学年と思われる相原大地は極めて異例な存在。なぜか元の世界には帰りたがっておらず、両親の記憶も希薄。ハルからトランプに誘われるものの、トランプのことを知らなかった。
場所
階段島 (かいだんとう)
人々が迷い込む不思議な島。人口2000人ほどの小さな島で、外界から隔離されている。長い階段があることから「階段島」と呼ばれ、階段の上には島を支配する魔女がいると噂されている。その階段はどこまでも続いており、途中で意識を失って気がつくと階段の下で目覚めるため、まだ誰も登り切った者はいない。この島に迷い込んだ人たちは、迷い込んだ直前の数日から数か月の記憶を失っている。先に迷い込んだ人から儀式としてまず名前を尋ねられ、続けて「ここは捨てられた人たちの島です」と告げられ、この島を出るにはなくしたものを見つけなければならないと教えられる。島を出る条件を満たした者は、突然いなくなる。島には1台だけタクシーがあり、それに乗って島の東の海辺にある灯台の遺失物係に行き、自分の名前となくしたものを伝えると、島から出られるとされている。学生でいるあいだは最低限の衣食住が無償で提供され、何不自由なく生活することができる。通販も可能で、住所を「階段島」で注文すれば、毎週土曜日に荷物を積んだ船によって運ばれてくる。インターネットは使えるが、基本的に情報を得るだけしかできず、メールの送信はすべてエラーになってしまう。
クレジット
- 原作
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河野 裕
- キャラクター原案
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越島 はぐ