飼い犬のリアルな描写が魅力
本作では登場する犬や猫たち、中でも犬、すなわちウェルシュ・コーギーの生態がリアルに描かれている。ついやってしまいがちな失敗やアクシデントなど、飼い犬の日常と共に、飼い犬に振り回される飼い主の心理描写も見どころとなっている。また江戸時代という設定ながら、犬を飼ったことがある人はもちろん、そうでない犬好きな人にもイメージが想像しやすく、共感力の高さとリアル感が魅力となっている。
強面(こわもて)の主人と天真爛漫(らんまん)な愛犬
十文字重虎は顔は厳(いか)ついものの犬だけでなく人に対しても、なんだかんだと面倒見がよく、心優しい人情家。重虎は犬に翻弄されまいとするものの、結局は振り回され、ほだされてしまう様子が面白おかしく描かれている。江戸時代には珍しかったであろう洋犬のウェルシュ・コーギーが、その天真爛漫なかわいらしさで周囲を魅了し、重虎と共にこちらまで幸せな気持ちにさせてくれる。
登場人物・キャラクター
十文字 重虎 (じゅうもんじ しげとら)
元武士の男性。強面だが心優しい。辺境の田舎大名ながら戦乱の中で鬼神のごとき活躍を見せ、「殿」と呼ばれていた。しかし今では没落して家臣もなく、長屋で質素な一人暮らしをしている。日々の暮らしもままならない状況の中で犬を拾ってしまい、生活を共にすることになる。もともとは見たことのない珍しい容姿の犬に同情して手を差し伸べ、自由奔放で天真爛漫な愛らしい犬を家臣とみなし、そのやんちゃぶりに振り回される日々を送ることになる。周囲の住人からは顔の怖さもあって警戒されていたが、愛嬌のある犬の存在に助けられ次第に打ち解けていく。長屋のとなりに住む、猫を飼っている元三とは仲がいいが、長屋の家賃をツケにしている大家とは折り合いが悪い。
犬 (いぬ)
十文字重虎に拾われ、いっしょに暮らすようになった犬。短足で尻尾がなく、胴長でムチムチしている。天真爛漫かつ好奇心旺盛で、朗らかな性格の持ち主。遊ぶことが大好きで、食べ物に目がない。もともとは外国の船に積み荷として乗せられていたが、紆余(うよ)曲折の末に壊れた樽(たる)に入った状態で川に流されていた。そんな中、樽から落ちて溺れそうになったところを重虎に助けられ、現在に至る。近所に住む子供のハルとは仲よしでよくいっしょに遊んでおり、長屋のとなりに住む元三の猫たちとも仲がいい。雷を苦手としている。作者の西田理英の飼い犬であるウェルシュ・コーギーが犬のモデルとなっている。
書誌情報
殿と犬 4巻 フレックスコミックス〈ポラリスCOMICS〉
第1巻
(2022-09-15発行、 978-4866752402)
第2巻
(2023-05-15発行、 978-4866752884)
第3巻
(2024-02-15発行、 978-4866753416)
第4巻
(2024-10-15発行、 978-4866753843)