犬神

犬神

高校3年生の少年が、自ら「23」と名付けることになる不思議な犬と出会い、やがてその犬がこの世ならざる世界から来た「犬神」という存在だと知る。高い戦闘能力を持った犬神同士の凄惨な戦いに巻き込まれると共に、その背後にある超常的な謎に迫っていくバトルアクションSF。作者の代表作であり、無類の犬好きだという作者の、犬以外にもSFやホラーに対する愛好心が結実した作品。

正式名称
犬神
ふりがな
いぬがみ
作者
ジャンル
その他SF・ファンタジー
 
バトル
 
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概要・あらすじ

宮沢賢治の詩を愛する主人公、島崎史樹は秘密基地にしていた廃工場の中で、本を読んで聞かせるようにせがむ不思議な犬と出会い、心を通わせる。「23」と名付けられたその犬は、23細胞という特殊な細胞の宿主であり、この世ならざる異界から訪れた「犬神」という存在だった。23史樹を守るため、23細胞と融合したダルメシアンであるラッキーや、23と対になる犬神であるゼロ、人間に擬態する犬神エイトなどと激しい戦いを繰り広げる。

そして犬神を探し求める桐生という男や、彼に関わる人間たちによって、23細胞が引き起こす脅威の真相が次第に明かされていく。犬神の事件は日本中を巻き込んだ災厄へと進展していき、史樹と彼の幼馴染である原田美伽は、その現象の中心で、人類の運命を左右する決断を行う。

登場人物・キャラクター

島崎 史樹 (しまざき ふみき)

宮沢賢治の詩を愛読し、詩を作ることを生き甲斐にする少年。城南高等学校普通科3年A組。ヘルマン・ヘッセの「詩人になりたい。さもなくば死にたい」を引用するのが口癖の、厭世的な少年であったが、「23」と名付けた不思議な犬と心を通わせる出会いをして以降、23との交流を最優先にして考える、行動的な性格へと変わっていく。 もっとも、子どもの頃から無口でおとなしい印象をしていたが、ときおり芯の強さを見せるタイプだった。23と出会う直前には隠れて煙草を吸う一面もあったものの、以降はその描写もされなくなっている。なお、23は言語を理解する知能と発声器官を有しているが、まだ言葉を覚えていなかった23に日本語の会話と文字の読み方を教えたのが史樹である。 一人称は「ボク」。作者によると、犬を飼いたくても飼えなかったという、作者の息子が名前や性格のモデルになっている。

原田 美伽 (はらだ みか)

島崎史樹の同級生の女子で、幼馴染のヒロイン。史樹に好意があってよく付きまとっていたが、そのため23という不思議な犬についての秘密を彼と共有する関係となる。さらに、史樹と同じく23を大切にいたわるようになっていく。厭世的な史樹とは対照的に、前向きな性格の少女。 学校では、香織というクラスメイトの女子と話していることが多く、草野というクラスメイトの男子に片想いされている。明るい髪のボブカットが特徴で、通りすがりの男性からコギャル扱いを受けたことがある。一人称は「私」で、史樹を「史樹」と呼ぶ。

菱美 由梨子 (ひしみ ゆりこ)

ヒロインの一人で、グレイという犬(ハスキー犬)の飼い主。初めて会った島崎史樹と、お互いに「一緒にいて疲れない」と感じ、心を通じ合わせる。前髪を切り揃えた、黒髪のロングストレートが特徴。同性の原田美伽から見ても「チョーマブ」と嫉妬する美人で、大学の同僚の男の中にもファンがいるほど。 実は、桐生の娘である。菱美家は広い庭のある裕福そうな邸宅で、由梨子は祖父母と共に暮らしているが、桐生とは別居している。また、母親は若くして亡くしている。一人称は「私」で、史樹を「史樹くん」と呼ぶ。

23 (にじゅうさん)

ニホンオオカミによく似た大型犬で、左耳に数字の「23」の盛り上がりがある。名前はそこから島崎史樹が付けたもの。成犬の状態以前の記憶はなく、頭の奥から聞こえた「人間を見ろ」という声に従って山奥から人里へと降りてきた犬神。史樹と出会って心を通じ合わせ、人間を信じようとする犬神となった。 また、モニター越しに23の姿を見た倉田社長は、「すべてを見通す」ような鋭い眼力を「まるで神の目そのものだ」と評している。言語を理解する知能を有し、史樹に日本語を学ぶだけでなく、自ら読書も行って「本読むのおもしろい!」と興奮した様子を見せるほど。さらに史樹の作った詩の賞賛もしている。運動能力、戦闘力、再生能力が高く、体表から突き出した刺や刃で戦う。 主人公の史樹に対し、23はその相棒(バディ)役であるだけでなく、『犬神』におけるアクション面での主役だと言える。なお、犬神同士や、一部の犬とではテレパシーで意思疎通ができる。一人称は「私」で、史樹を「史樹」と呼ぶ。

桐生 (きりゅう)

眉毛のない顔が特徴の男性。いつも羽織袴を着ており、邸内に研究施設も擁する大きな日本家屋で暮らしている。警視庁や防衛庁などの政府機関を陰から動かす実力者で、生業は不明だが、倉田製薬の経営コンサルタントをしており、その精度は社長の倉田が「未来予測術」と呼んで依存していたほど。倉田に命じて「23」という数字の調査を行わせ、「常世への鍵を手に入れる」という謎めいた目的を語る。 少年時代から幻視の力を有していたが、かつて犬神という異界の存在と遭遇した経験があり、テレパシーのような感応力を得ている。大学在学中にイントロン啓発物質について研究していたが、ある事件ののち放校処分となり、その後「桐生」と名乗るようになった。 本名は菱美比古といい、N県山中にある物部村の旧家の出身。菱美家は代々、犬頭糸神社という神社の神主をしていたが、明治政府によって廃教されている。実の娘に菱美由梨子や桐生晶子の他、忠実に従う2人の息子が登場。一人称は「わし」。

伊達 (だて)

倉田製薬の社長秘書をしている男性。両目の視線が合わない斜視を持っており、普段は大きなサングラスでそれを隠している。社長の倉田とともに、桐生に命じられた「23」という数字について調査する。その過程で23細胞の発見と研究に関わるが、その真相を解明したいという思いに取り憑かれ、倉田製薬を裏切り、桐生の元で活動する。 出身大学イチの秀才だったと言われ、その大学は帝医大という略称で呼ばれていた。出身大学の正式名称は不明だが、別の場面では東京帝国医大という大学名が登場している。

吉川 (よしかわ)

N県警捜査一課の男性刑事で、エイトによるN県S村の惨殺事件を捜査するために登場。上司の長山警部を「長(ちょう)さん」と呼んで慕っていたが、エイトが逃亡する際に長山を殺されてしまう。その仇討ちを誓い、犬神にまつわる事件に独断で介入していくことになる。その後は伊達に協力して行動することが多い。 また、のちのち原田美伽に好意を寄せる描写がある。

ゼロ

『犬神』のキャラクター。黒い体毛の犬神。額の体毛の下に「0」の数字に見える盛り上がりがあり、「ゼロ」と通称される。「人間を見ろ」という頭の奥からの指令を受けるが、島崎史樹と心を通わせた23とは対照的に、山中で散弾銃を持った人間に気まぐれで射撃され、「人間とはこの程度の生き物なのか」と失望している。その後、桐生と出会い、「人間を見ろと誰が命じたのかを教える」と約束した彼に心を開く。 小学校低学年並みの知能を少なくとも有しているとされ、日本語の文字や会話を桐生のもとで学んだ。体表から刃や刺を出して戦う23に対して、ゼロは複数の触手によって刺突や切断などの攻撃を行う。一人称は「私」。

エイト

『犬神』のキャラクター。23、ゼロに続いて新たな犬神で、自由自在の擬態能力を持つ。山中から現れたのち、N県S村の住人を全滅させ、その犠牲者の一人である鳥羽悠一(とばゆういち)という高校生に擬態した姿で陸上自衛隊に保護された。人間に対するとてつもない殺意を持っており、全身から刺や触手、ムカデに似た体節を伸ばして人間を惨殺していく。 正体は大型犬の姿をしているが、人間や植物に擬態した状態でも十分な戦闘能力を発揮できる。名前はDNAの形状が「∞」の字の形をしていることから防衛庁が便宜的に名付けたもの。

ラッキー

『犬神』のキャラクター。実験によって23細胞と融合し、突然変異を起こして怪物化したダルメシアン犬。全身がチアノーゼを起こし、「死んだ細胞でできている」と倉田製薬生体研究所の職員は評していた。刺と触手を操る他、破裂することで刺を周囲にばら撒くボールを体表から作り出し、発射することができる。元は実験のために民家から拉致された飼い犬であり、「ラッキー」は飼い犬としての名前。 研究所を脱して飼い主が待つ家へ帰りたいと強く願う。23やゼロと違って言葉は話せないが、ラッキーと戦闘した23が、知るはずもないラッキーの名前を思い出す場面がのちにあり、戦闘中に犬同士のテレパシーが通じていた可能性はある。

集団・組織

倉田製薬 (くらたせいやく)

『犬神』に登場する組織。社長は倉田(くらた)。倉田製薬生体研究所を擁し、桐生に命じられた「23」という数字の調査をきっかけに23細胞の研究を行う。23細胞の研究には大量の実験動物を必要としたため、闇ブローカーなどを通じて民間の飼い犬を連れ去っていたなど、非合法な行為も陰で行っている。

城南高等学校

主人公である島崎史樹が通う共学の高校。学生服はブレザー。成績が落ちた史樹を叱咤した際、気の抜けた返事をしたという理由で体罰を振るったような暴力教師も存在する。なお、生徒の生活圏は地図上の日本の長野県内にある。

その他キーワード

犬神 (いぬがみ)

『犬神』に登場する用語。23細胞の宿主であり、山中から大型犬の姿で人里に現れる。犬神には「23」と「ゼロ」の他に「擬態タイプ」と呼ばれるエイトが登場。犬神とは常世国の使いであり、日本各地に散在する犬神伝承や、昔話の「花咲爺」の原型となった「犬頭糸」の物語などは、この犬神を語り伝えたものだとされている。 犬神たちは23細胞の力によって、無限再生する回復能力や、高い運動能力、刺や触手などを生やして攻撃する戦闘能力を有している。

23細胞 (にじゅうさんさいぼう)

『犬神』に登場する用語。23個の未知の塩基配列パターンを持った細胞体で、通常の細胞では不可能な無限再生を行う。ただし動物を用いた融合実験では、97%が急激な突然変異によって炸裂死(バースト)し、1%が変異を繰り返して怪物化。残り2%が細胞と完全融合するが、オスとメスが必ず均等な確率で現れるという奇妙な結果となる。いかに実験手続きを変えてもこの確率は動かない。 怪物化したものの中には犬の他に猫や鼠が巨大化・凶暴化しており、体表から鋭利で頑丈な刃や刺を出したり、触手を伸ばして操ったりできる。細胞の再生能力は非常に高いものの、弱点として電流に弱い性質がある。また、体液を介して他の動物に感染するが、酸素に対して非常にもろく、空気感染をしない。 ただし倉田製薬の職員がインフルエンザ・ウイルスとの融合を試み、空気感染能力を獲得させた23細胞も存在する。

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