西遊妖猿伝

人々によく知られている中国の物語『西遊記』を、伝奇的要素を残しつつ、物語に描かれている唐代中国の史実や実在した人物も絡めながらオリジナル要素を加え、マンガというエンターテイメント作品として大胆に再構成した作品。物語は三部構成になることが作者自身の「あとがき」で明らかにされており、孫悟空が玄奘三蔵と出会って天竺へ向かい中国を出るまでが第1部の「大唐篇」、中央アジアのモンゴル、今でいうトルキスタンにあたる地域の旅を描く第2部「西域篇」と、インドが舞台となる第3部「天竺篇」という構成になるものと思われる。第1部が1983年から雑誌連載が開始され、第1部完結後11年間の中断を挟み、2015年現在も第2部の執筆が続いている。2000年に、第4回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。

概要・あらすじ

猿に攫われた母親から生まれたとされる孫悟空は、巨大な猿の化け物にして神にも近い存在とされる無支奇と出会い、波乱に満ちた数奇な運命へと導かれることになる。紅孩児竜児女といった国家に反逆するものと出会い、悟空自身も国家を乱す存在として追われることになるが、仏教の経典を得るため天竺へ向かおうとする僧・玄奘三蔵と運命的に出会い、その旅に同行することとなる。

登場人物・キャラクター

孫 悟空 (ソン ゴクウ)

『西遊妖猿伝』の主人公で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。猿に攫われた人間の女性から生まれたとされる少年。無支奇に呼び寄せられ、かつて「黄巾の乱(こうきんのらん)」の時に「斉天大聖」として戦った美猴王(びこうおう)の服と「斉天大聖」の称号を受け継いだ。頭につけたまま外せなくなる金環は、その時に被った帽子についていたもの。 武器の金箍棒(きんこぼう)は竜児女に案内された洞窟で手に入れたもの。虐げられた民衆の無念の思いなどが集まる場所では、民衆の怒りに突き動かされて破壊と殺戮を行うことがあり悟空自身を含め誰にも止められなくなってしまう。玄奘三蔵とは行く先々で何度も出会い、真実を知りたいという思いを聞いて天竺取経の旅に同行することになる。

玄奘 三蔵 (ゲンジョウ サンゾウ)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。仏教の教えを極めようとしている精悍な顔立ちの学僧。中国では数多くの宗派が林立し、教えにも矛盾が生じていることから天竺取経を決意し、朝廷の許可が下りぬまま旅を敢行する。黄河を渡った西側の河西回廊の各宿場には、捕らえて長安に送還せよという通達が出されている。

八戒 (ハッカイ)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。寺の修行僧だったが、入門したその日に殺生に盗み、姦淫等仏門の八つの戒律をすべて破ったことから「八戒」と呼ばれた破戒僧。小太りで色黒、ブタのような鼻が特徴で、口がうまく僧と見て警戒を解いた相手を騙すことができた。行く先々で悪事を働くため、被害にあった人々からは「クソ坊主」「泥棒坊主」「好色坊主」「ブタ坊主」等さんざんに罵られていた。 人間には聞こえない音を発してイナゴを操る紫金鈴を偶然手に入れたことから、それを探す孫悟空と巽二娘に追われ、逃れるため天竺がどこかも知らず玄奘三蔵に同行することになる。

沙悟浄

『西遊妖猿伝』の登場人物で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。第1部終盤から物語には登場しているが、異なる名を名乗っており、本格的に物語上活躍を見せるようになるのは第2部には入ってからのこと。この物語における沙悟浄は「胡人(こじん)」と呼ばれる中国から見て西方の外国人で、ペルシャ系の民族ということになる。 砂漠を渡ろうとして遭難した旅人を襲う盗賊だったが、玄奘三蔵を襲うが失敗し、沙悟浄の名をもらって旅に同行することになる。

紅孩児 (コウガイジ)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。唐に属さず、「漢東王」を名乗り河北一帯を治める劉黒闥(りゅうこくたつ)の部下だったが、やっていたことは群盗同然だった。犯罪者として捕らえられ舟で護送される際に、野人として捕らえられた孫悟空と一緒になり、ともに脱走ししばらくともに行動したことが因縁の始まり。 劉黒闥配下の他の仲間たち4人と合流し「六健将」を名乗ってともに戦ったこともある。李世民暗殺に失敗した際に片目を失い、その計画を密告した玄奘三蔵に深い恨みを抱いており、後に玄奘に同行することになる悟空とは対立することになる。竜児女をはじめ、羅刹女や突蕨にも馴染みがある顔の広い人間でもある。

竜児女 (リュウジジョ)

紅孩児とともに河北に向かった孫悟空が出会った男装の美女。「斉天玄女(せいてんげんにょ)」の称号を持ち、無支奇の声を聞き不思議な術を使うことができる。悟空のことはあらかじめ知っていた上、頭にはやはり金環をつけ、銀箍棒(ぎんこぼう)という悟空の金箍棒と対になる武器を持つ。 紅孩児の仕える劉黒闥に力を貸しており、その裏切り者である金角と銀角を懲らしめていたが、女性であるがゆえに月経期間中は力が使えず、処女でなくなれば力を失う運命を背負っていた。

無支奇 (ムシキ)

『西遊妖猿伝』に登場する、一つ目の巨大な猿に似た水を支配する妖怪。この世に乱が起こればどこにでも現れるとされりが、滝の裏側にある「水簾洞(すいれんどう)」という洞窟に数百年間封じられていた。故郷を焼かれ花果山でさまよっていた孫悟空を呼び寄せ、自身が悟空の母親に精を授けお前を産ませた父親だと語り、「斉天大聖」の称号を受け継がせている。 その際水簾洞の戒めから逃れ暴れ回るが、中国道教の神・二郎真君(じろうしんくん)の鎖に捕らえられ氾濫した川に沈められた。虐げられた民衆の怒りや願いを聞き、民衆に力を与える神であるともされ、実際に中国で「斉天大聖」は神として崇められている。

通臂公 (ツウヒコウ)

『西遊妖猿伝』に登場する、物乞いの老人のような姿をした妖人。ぎょろりと見開いた大きな丸い目が特徴で、時に猿に姿を変じることもある。斉天大聖に仕えており、その称号を受け継いだ孫悟空の周囲に度々現れる。二本の腕が背中を通して繋がっていて、一方を引っ込めることでもう一方を伸ばすことができ、それが名前の由来となっている。 また、老いた外見でありながら身軽に飛び回ることができ、世の出来事にも通じた不気味な存在。悟空のことは200年以上前の先祖の代から見守っていたといい、竜児女のことも幼いころから知っていた。

恵岸 (エガン)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。黒く長い髪が特徴で、経典の入った背負子を背負い武器にもなる禅杖を手にした旅の行者。師匠である40年間松の樹上で座禅を組んでいた烏巣禅師(うそうぜんじ)から玄奘三蔵を守護するよう言われ、姿を見せずに旅に同行し、危険が迫ると助けていた。

黄袍 (コウホウ)

李世民の命令で弼馬温こと孫悟空を追う唐の工作員。長安地下の森羅殿で初めて闘って以来、幾度も追い詰めそうになるがその度に逃している。武器として縄標(じょうびょう)と呼ばれる縄のついた暗器を使っており、相手に絡めて動きを封じたり、高所から落下する人間をそれで助けるようなことにも使用していた。 河西回廊の宿場町涼州の遊郭「天竺楼」の花魁・百花羞(ひゃっかしゅう)は愛人で、「黄袍郎」と呼んでいた。百花羞はその後も悟空を追う旅の道づれにしており、八戒をスパイ役に仕立て上げた。

金角と銀角 (キンカク ト ギンカク)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。平頂山に山塞を構える山賊の頭領兄弟。かつては唐に恭順しない劉黒闥の部下だったが、戦乱に乗じて山賊化して勢力を伸ばし、「金角大王」、「銀角大王」と名乗っている。兄の金角は腕が立ち義侠心も持ったひとかどの武将にもなれる人物だったが、弟の銀角が乱暴で素行が悪く、兄弟仲がよかったがゆえに山賊にしかなれなかったと言われている。

李 世民 (リ セイミン)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、7世紀の唐代の中国に実在した人物。唐の初代皇帝(高祖)・李淵(りえん)の次男で、後に第2代皇帝となって「太宗(たいそう)」と呼ばれた。もともと2代皇帝になるはずだった長男の兄・太子こと李建成(りけんせい)は部下に裏切られ、孫悟空の故郷を焼き討ちするなど仇敵として登場していた弟の斉王(さいおう)こと李元吉(りげんきつ)は、西暦626年7月2日に長安の都で実際に起きた「玄武門の変」で李世民によって暗殺されている。 悟空や紅孩児はちょうどその時宮殿内に侵入しており、現場に居合わせていたことになっている。その時に捕らえた悟空に興味を覚え、戯れに厩番として弼馬温(ひっぱおん)という官職を与えている。

巽 二娘 (ソン ニジョウ)

男装し、「二郎」と名乗って父親を探していた少女。孫悟空と出会い、ともに父親が向かったという盤糸嶺(ばんしれい)へ行き、虫を操る術を使う蝗婆婆(こうばば)とその弟子である七人の娘たち「七仙姑(しちせんこ)」とも知り合う。悟空とは、女性だと知られた後も男装でしばらくともに旅していた。 武器として弩を使い、旅芸人とともに行動した際に射撃を見世物にできたほどその精度は高い。

一升金 (イッショウキン)

河西回廊のオアシスに暮らす陳(ちん)という一家の娘として暮らしていたが、かつて羅刹女と呼ばれ一帯に恐れられていた女盗賊の娘。お下げにまとめた髪型の印象的な10歳ほどの少女だが、落ち着いた大人っぽい性格の持ち主。母親は一升金を身ごもっている時に死亡しており、一升金は母の死後誕生した。 その後母親は白骨夫人と呼ばれる妖怪となり、一升金を引き取った陳家の者に褒美と引き換えに獲物となる人間を差し出させていた。その地に立ち寄った孫悟空たちと知り合った後、陳一家に見切りをつけ家出し、悟空たちに同行することになる。母親から受け継いだ昆虫や爬虫類、両生類等を使う「巫蠱(ふこ)」の術を使い、一つ目の蛇蠱(だこ)や巫蠱中の絶品とされる金蚕蠱(きんさんこ)を連れている他、性格の悪いロバに荷物を積んで引き連れている。

羅刹女 (ラセツニョ)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、いわゆる『西遊記』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。河西回廊のオアシスを荒らして回っている盗賊団の女首領。かつて同じ羅刹女の名で呼ばれ、死後白骨夫人(はっこつふじん)と呼ばれるようになった女の残した財宝を求め、その娘・一升金(いっしょうきん)を追っている。 以前からの知り合いだった紅孩児を伴っていたが、孫悟空と手合わせするとその強さに興味を持つようになり、ふたりの因縁がどのような結末を迎えるのかを遠巻きに見守っていた。

講釈師 (コウシャクシ)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、物語の語り手。物語全体がこの講釈師が街中で観衆に語っている「大唐三蔵取教の物語」という体裁になっており、時折物語の区切りに登場し解説などもしてくれる人物。単行本の案内もするなど、作者の分身とも呼べる存在。物語の進行役として、ビデオで前回の内容を見せるといったことも、一種のギャグ表現としてとられることがある。

哪吒 (ナタ)

『西遊妖猿伝』の登場人物で、『西遊記』や『封神演義』に登場する同名キャラクターを元に独自解釈で発展させた存在。中国唐代の首都・長安の宮殿地下に広がる迷宮にも似た「森羅殿」で人目につかず暮らしていた少年。母親は唐の初代皇帝・李淵の愛人である地湧(ちよう)夫人。好色で知られる母親だったため父親が誰かは不明だが、皇帝の第三太子ということになっており、上位にいる二太子を殺して皇帝となる野望を持っている。 森羅殿には数々の奇怪な生物の姿をした石像があり、それらは哪吒の求めに応じ魔物に変じる。乳母代わりとなって哪吒を育てたのも、その魔物の一体の陰道女(いんどうじょ)である。宮殿地下に迷い込んだ孫悟空を位を狙う者と誤解した哪吒は、御供に対しても魔物をけしかけていた。

書誌情報

西遊妖猿伝 全16巻 潮出版〈希望コミックス〉 完結

第1巻

(1998年3月発行、 978-4267903151)

第2巻

(1998年5月発行、 978-4267903168)

第3巻

(1998年6月発行、 978-4267903175)

第4巻

(1998年9月発行、 978-4267903182)

第5巻

(1998年11月発行、 978-4267903212)

第6巻

(1999年1月発行、 978-4267903229)

第7巻

(1999年2月発行、 978-4267903236)

第8巻

(1999年3月発行、 978-4267903274)

第9巻

(1999年4月発行、 978-4267903281)

第10巻

(1999年5月発行、 978-4267903298)

第11巻

(1999年6月発行、 978-4267903328)

第12巻

(1999年7月発行、 978-4267903335)

第13巻

(1999年9月発行、 978-4267903342)

第14巻

(1999年11月発行、 978-4267903359)

第15巻

(2000年1月発行、 978-4267903366)

第16巻

(2000年3月発行、 978-4267903373)

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