顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君

本作は、作者の東ふゆがSNSに投稿した作品が大きな反響を呼び、投稿開始から約1年で連載が決定し、コミックスが刊行された。その甘酸っぱくも“ゆるふわ”な世界観が支持され、本編の連載終了後も、番外編『顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君+』が刊行されている。

ひよりは、周囲が驚いたり笑ったりする場面でも、つねに無表情を崩さずポーカーフェイスを貫いている。そんな彼女の表情を変えようと、クラスメイトの秋人が悪戦苦闘するが、いつも返り討ちに遭うのが本作のお決まりのパターンとなっている。しかし、ひよりは無表情なだけで感情が乏しいわけではなく、内心では秋人のリアクションを楽しんだり、大好物の豆を食べて喜んだりしている。また、表情には出さないだけで、秋人と甘酸っぱい雰囲気になると恥ずかしそうにするなど、ふとした態度や仕草から繊細な感情が伝わってくる。ヤンキーながらまっすぐな秋人と、無表情ながらも健気なひより。対照的な二人の距離が少しずつ縮まっていく様子が、本作の大きな魅力となっている。

ひよりと秋人は賑やかな日々を送っている一方で、彼らを取り巻く人々も個性豊かで魅力的だ。例えば、ひよりへの思いが強すぎて秋人とたびたび衝突する田淵や、強面ながらも生徒思いで、生徒たちから慕われたいと願う鬼藁田先生など、ユニークなキャラクターがそろっている。こうした個性豊かな面々が二人の関係に絡むことで、物語は予想外の展開を見せていく。本作の魅力はラブコメにとどまらず、彼らが友人たちと過ごす何気ない日常も丁寧に描かれており、その“ゆるふわ”な雰囲気も存分に楽しむことができる。