作者の体験をベースに創作されたフィクション
本作で描かれるスポーツは大学駅伝である。作者は、山梨学院大学から箱根駅伝に出場し、復路10区を走った経験を持つ高橋しん。高橋は、2016年から2018年にかけ、小中学生の駅伝をテーマにした『かなたかける』を連載しており、同作の完結時に大学駅伝を題材にした連載を始めることを告知していた。本作は、作者自らのリアルな体験と陸上競技関係者への取材に基づきながら、大学復興を目的として駅伝の選手を集める「駅伝男子プロジェクト」というフィクションを描いている点が大きな特徴である。
夢破れた青年の再起を描いた青春ストーリー
岩手県の高校3年生、ハヤタは、中学から6年間、ずっと一人で走ってきた800メートルの中距離選手。高校最後のレースを不本意な形で終えてしまうが、家庭が貧乏なため大学へは進まず、就職して母を支えるつもりだった。そんな時ハヤタは、大手IT企業が買収した伝統校「桜翔大学」が、箱根を目指して駅伝部を創設したことを知る。全国各地で採用試験レースを行い「駅伝男子」に選ばれると、学費が免除になるという。「もっと走りたい」という思いがくすぶっていたハヤタは、妹たちに背中を押され、「駅伝男子プロジェクト」採用試験レースに挑む決意をする。本作は、いろいろなことを諦めていたハヤタが、駅伝と出会い心身ともに成長していく姿を描いた青春駅伝ストーリーである。
47都道府県から各1名、合計47名が駅伝男子になる
「駅伝男子プロジェクト」は、エプニスHDという大手企業による、桜翔大学の経営再建の施策の一つである。新たに創設した駅伝部の総監督に、トップアイドルグループ「s-MILE」のメンバー、甘樹千尋(アマチー)を迎え、箱根駅伝への挑戦を宣言。部員については、全国5地区で選考キャラバンを実施し、審査で選ばれたものが「駅伝男子」として迎えられるというアイドルオーディションのような形式である。採用試験は、ランダムに振り分けられた五人1組のチームによるハーフマラソンの団体戦。レースの過程と結果をもとに、厳正な審査の上、47都道府県から各1名が合格者となる。なお、1位のチームからは優先的に合格者が選ばれるという特典もある。初めてのハーフマラソン、団体戦をなんとか乗り切ったハヤタは、見事に駅伝男子プロジェクト岩手代表に選出され、国民的アイドルのアマチー総監督のもとで、初めての離島合宿に参加する。
登場人物・キャラクター
速田 ハヤタ (はやた はやた)
岩手県の三陸浦商業高校に通う3年生の男子。陸上部。五人きょうだいの長男で下に四人の妹がいる。800メートルランナーとして高校最後のレースに出場するも転倒して失格。経済的な事情により、陸上はきっぱり辞めて地元で就職すると決めた矢先、授業料免除、生活費支給で大学に通える「駅伝男子プロジェクト」を知る。陸上も就職も消去法で選んだ結果だったが、まだ走りたいという気持ちもあり、長距離未経験ながら同プロジェクトの採用試験レースに挑む。幼い頃に東日本大震災を体験した影響で一人が苦手。母親の再婚で名字と名前が同じ「はやた」になってしまった。
甘樹 千尋 (あまき ちひろ)
トップアイドルグループ「s-MILE」のメンバーの女子。愛称はアマチー。圧倒的なかわいさとカリスマ的な存在感でファンのみならず、多くの人を魅了する。IT大手のエプニスホールディングスが買収した桜翔大学が主催する「駅伝男子プロジェクト」の総監督に就任し、記者会見や採用試験レースなどのイベントにも登場する。演説やマイクパフォーマンスにも長(た)けていて、「“みんなの”じゃなく“誰かの”アイドルがお仕事!!」が口癖。
書誌情報
駅伝男子プロジェクト 5巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2022-12-28発行、978-4098614851)
第2巻
(2023-04-28発行、978-4098616008)
第3巻
(2023-12-27発行、978-4098626014)
第4巻
(2024-09-30発行、978-4098627790)
第5巻
(2025-11-28発行、978-4098636471)







