あらすじ
第1巻
東京から箱根に転校してきた小学6年生の桜庭かなたは、変わった嗜好を持っている。それは人の背中を追い抜き、走り続けるのが大好きだということ。かなたは、東京では仕事ばかりで帰宅の遅い母親を待っている寂しさをまぎらわせるために、雑踏の中をひたすら走り、人を追い抜き続けていた。かなたは人の少ない箱根にとまどいながらも、毎朝定期運行される箱根青空小学校行きの通学バスを追いかけることにした。毎朝スカート姿でバスを追いかけて走るかなたは、同じクラスの凪野はるとや陸、あかりに注目される。鈍足ながらも、息切れをしないきれいなフォームで走るかなたの笑顔に、はるとは一目ぼれしてしまう。垢ぬけた雰囲気を持つ東京者のかなたを嫌い、最初はいじめていたあかりだったが、マラソンを通じて次第にかなたを仲間として認めるようになる。一方のかなたも東京では一人で走っていたが、仲間と走る喜びに目覚めていく。そんな中、市民駅伝大会の内定選手だったあかりが足をケガしてしまうが、はるとの機転でかなたが代役で大会に出場することになる。
第2巻
市民駅伝大会の小学生の部は、箱根だけでなく、都内からも強豪チームがそろう老舗イベントだった。桜庭かなたは市民駅伝大会の会場の公園で、関西から家庭の事情で箱根に引っ越してきた足の速い男の子、向井出雲と知り合う。かなたは自分と同じく、急に箱根に引っ越すことになった出雲に親近感を抱き、その洗練された走りを見て、いつか出雲の背中を追い抜くと心に誓うのだった。そして市民駅伝大会がスタートするが、スタートの合図と同時に駆け出したほかの選手たちがもつれ合って転ぶアクシデントによって、鮎川菜穂は開始早々に先頭に立つ。終盤で優勝候補の強豪走者たちに抜かれて5位でゴールした菜穂だったが、二区を走る陸が挽回してトップに立ち、たすきは三区を走るかなたへと渡される。
第3巻
先頭で三区を走り始めた桜庭かなただが、たすきの掛け方がわからずに失速して最下位になってしまう。しかし親切なスズキの手を借りて、たすきの掛け方を学んだかなたは、徐々にペースを取り戻すが、中間区域を少し超えた辺りでライバルたちの殺伐とした雰囲気に焦り始める。完走を目標に走るペースの遅い走者とは違い、優勝を目指す先頭グループの走者たちは走力もあり、容易には追い抜けない。そんな中、かなたは先頭走者に追いつき、追い抜くことが自分の使命だと感じ、生まれて初めて速く走りたいと願う。そしてかなたは、いつものきれいなフォームに歩幅を大きくすることで速度を上げられることに気づく。その後は快調な走りで、かなたはアンカーの凪野はるとにたすきを渡す。しかし、はるとと同じくアンカーとして出場している向井出雲に影響されたかなたは、そのまま彼らと競って走り続けてしまう。
第4巻
桜庭かなたの走りに影響された凪野はるとは、向井出雲と真っ向勝負することを決意。しかし出雲より前を走っていたはるとは、きついのぼり坂にさしかかり、ほかの走者が見当たらないことに焦り始める。これまでほかの走者を見ながら自分のペースを決めて走っていたはるとにとって、どのくらいのペースで走れば出雲に追いつかれないのかわからない状況は、非常に苦痛だったのだ。やがて一人でペースを作り、一人だけで走るという駅伝の孤独を感じるはるとだったが、まだ走り足りない様子のかなたに追いつかれて面食らう。ついには出雲にも追いつかれたはるとは、自分を簡単に追い抜いていった出雲の実力に驚愕する。しかし三区から走り続け、出雲を追いかけているかなたを見ているうちに、はるとは走ることの楽しさと勝負をあきらめない不屈の精神に目覚め、再び出雲を追いかけ始める。そして、団子状態でゴールを切った三人は、観客からの拍手喝采を浴びながら、中学校に進学しても走り続けることを誓うのだった。
第5巻
箱根桜台中学校に進学した凪野はるとは、陸と共にバスケットボール部に所属し、中学校生活を満喫していた。はるとは陸上部がない箱根桜台中学校に通ううちに、徐々に陸上から気持ちが離れていたが、2年生に進学して間もなく、東京の私立中学校から転校してきた桜庭かなたと再会する。東京では茶道部に所属し、すっかり丸くなったように見えるかなたは、はるとを見るや否や、陸上勝負を持ちかける。懐かしい箱根青空小学校前のコースでの勝負で、はるとはかなたの異変に気づく。かなたは相変わらずの鈍足ながら、徐々にペースアップしていく走り方を身につけていたのだ。最初は先頭に立つものの、いつの間にか追いつかれて観念したはるとは、かなたから再びみんなで駅伝に出場しようと言われて啞然とする。向井出雲に負けて悔しかった過去を思い出したはるとは、かなたに駅伝計画を聞かされ、小学生の時に市民駅伝大会に出場したメンバーである陸、あかり、鮎川菜穂に加えてバスケットボール部の先輩の諏訪薫と共に打倒出雲を目標に掲げ、再び陸上に没頭する日々を送るようになる。
第6巻
桜庭かなたの駅伝計画を聞いて、クラブチームに所属する鮎川菜穂と、家の手伝いが忙しくて全力で陸上に打ち込めないあかりが、出場メンバーを辞退すると言い出した。出場メンバーに想定していた六人のうち二人が欠けてしまったため、かなたはあらためて仲間探しを始める。そんな中、諏訪薫と共に目立つ存在であるサッカー部のエースの石田烈己と、元陸上部の宮嶋彰太郎が駅伝計画に関心を持ち、かなたたちの練習に参加するようになる。そして小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会まで残り1か月を切る中、がむしゃらに練習するうちに、すっかりかなたのひたむきさの虜になった薫と烈己、宮嶋が大会に出場することを決意。こうしてかなたたちは、順位の関係ないオープン参加枠で大会に男女混合チームとして出場できることになる。一方、かなたたちがライバル視している向井出雲は、実力が高すぎるが故に、通っている塔ノ浦南中学校では孤立していた。一時は大会出場をあきらめようとしていた出雲だったが、凪野はるとに背中を押されて、かなたと勝負するべく動き出す。
第7巻
向井出雲は、所属する塔ノ浦南中学校の陸上部で、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に出場するための校内選考レースに挑む。その高い実力をひがんだ保護者らにハンデを課されながらも、抜きん出た成績をおさめた出雲は、生徒たちの総意を得て、みごとに小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に出場する権利を得る。いよいよ大会の開催が近づく中、一大決心をした陸は、鮎川菜穂を呼び出す。そして箱根桜台中学校に陸上部がないことに、一番がっかりしていたのは菜穂だと知っていた陸は、クラブチームに所属しているからと一度は出場を辞退した菜穂に、自分の出場枠をゆずる。やがて迎えた大会の当日、新生チームで一区を担当する菜穂は、男子の中に混じって一人走ることに困惑していた。しかし、諏訪薫の励ましで気力を取り戻した菜穂は、男子のスピードと迫力に負けないよう、スタートと同時にあえて単独で走るという頭脳戦を展開。そしてかなたたちの見守る中、スタート前の宣言どおりに5位で薫にたすきを渡す。
第8巻
二区担当の諏訪薫は、一区を5位で走った鮎川菜穂のがんばりを無駄にしないように、前半から速いペースで一気に3位まで順位を上げる。しかし序盤にハイペースで走り過ぎた薫は、その後失速してしまう。先を行くライバルたちが絶妙なペースで走っていたため、薫は追いつけるのではないかとペースを乱して必要以上に体力を消耗していたのである。駅伝の走り方を知らない薫に業を煮やしたあかりは、彼のもとに助言するべく駆けつける。そして、バスケットボールの試合の時のように、後半戦でがんばれというあかりのアドバイスを受けた薫は、マイペースな走りを取り戻す。一方、同じ区間を走るライバルとして桜庭かなたを敵視していた向井出雲は、かなたの力量を探るため、彼女をウォーミングアップに連れ出す。小学生の時に共に走った時よりも、顕著に成長しているかなたに出雲は、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会で自分が勝ったら、いずれ箱根駅伝にいっしょに出場しようと申し出る。それは人の背中を追うような趣味の走りではなく、本気で陸上競技界に足を踏み入れろという誘いだった。
第9巻
二区を走る諏訪薫は、5位をキープしたまま三区の石田烈己にたすきを渡した。三区は一番走行距離が短い、スピード重視の闘いが展開される区間だった。一度は9位に後退した烈己だったが、サッカーで鍛えられた得意の瞬発力で追い上げ、8位をキープ。最終的に順位こそ上げることはできなかったものの、全国レベルの走者たちを相手に大健闘し、四区担当の宮嶋彰太郎にたすきを渡す。四区を走る宮嶋は、熱い走りを見せた烈己とは対照的に、冷静さを失わずに頭脳的な走りを展開。自らの武器がスピードではなく持久力であることを知っている宮嶋は、ゴール手前の1キロ区間のラストスパートに全力を尽くす。その結果、五区を走る凪野はるとが走りやすい状況を作り出し、周囲の選手たちと競い合って団子状態でゴールになだれ込む。はるとからたすきを受け取ったアンカーの桜庭かなたは、最初こそいつものロースピードで走っていたが、300メートルを超えてから突然スパートをかけ、そのままのスピードをキープ。そして、啞然とするほかの走者たちを次々に抜き去っていく。
第10巻
桜庭かなたは、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会のアンカー区間3キロを、20キロ走のラストスパートととらえることでハイスピードを保っていたが、背後の向井出雲が気になって仕方がなかった。一方で、かなたに抜き去られた走者たちは、躍起になって彼女を追っていた。こうして大会は前例のないほどにハイペースなレースとなるが、そんな中、かなたが脳裏で競っていたのは、あくまでも出雲一人だった。全国レベルの足を持つ出雲は、先を行くかなたを追ってどんどん順位を上げていく。そしてついにかなたは出雲に捕えられるが、激しいデッドヒートの末、わずかな差で出雲より先にゴールするのだった。それから時は流れ、同じ大学に入学したかなたと出雲は、相変わらず陸上競技に夢中になっていた。東京箱根間往復大学駅伝競走に昨年から新設された女子枠で、一区の初代女王となったかなたは、今年も一区を1位でゴールし、二区で待つ出雲にたすきを渡す。全力を出し切ったかなたは、ゴールなんてなければいいのにと、心の底から笑顔を見せるのだった。
登場人物・キャラクター
桜庭 かなた (さくらば かなた)
東京から箱根に転校してきた少女。箱根には祖母宅があり、海外出張中の母親に預けられた。東京育ちで標準語をしゃべるが、一人称は「うち」である。手足がすらっと長く、男子たちに熱い視線を送られているが、桜庭かなた自身はあまり気にしていない。音痴だが歌うことが大好き。人の背中を追い抜くのが好きで、走ることを趣味としている。人の背中を追いかけているときが至福の喜びであるが、母親にマニアの域の危ない性癖だと言われたため、あまり人に語ることはない。鈍足だがきれいなフォームで走るため、長時間走っても息切れすることはない。箱根では、祖母のヨネと弟の桜庭やまとと共に、温泉街のはずれの貧乏屋敷に住んでいる。母親の仕事の都合で、中学進学を機に東京へと生活の場を戻したが、2年生進学時に再び母親の仕事の都合で箱根で暮らすことになり、箱根桜台中学校に転入した。東京の私立中学校では茶道部に所属しており、箱根桜台中学校でも引き続き茶道部に所属している。駅伝計画で小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会では、女子ながら男子に混じって走る予定の自分を自ら「秘密兵器」と呼び、出場メンバーにもそう呼ばせた。ヤスたちに陰で「最速女子中学生公園ランナー」と呼ばれている。
凪野 はると (なぎの はると)
箱根青空小学校、箱根桜台中学校に通っていた男子。実家は箱根にあり、老舗温泉旅館の鹿翠亭を経営している。家族構成は、両親と妹が一人。小学生時代から足が速く、市民駅伝大会でアンカー選手に選ばれる実力を持つが、桜庭かなたに出会うまでは、本当は走ることよりもバスケットボールに没頭したいと思っていた。箱根青空小学校が遠いため、通学バスを利用していたが、そのバスを毎朝走って追いかけてくるかなたの笑顔に一目ぼれしてしまい、以後、彼女はずっと気になる存在であり続ける。凪野はると自身の暮らす町を大事に思っており、特に神社の高台から見下ろす町の景色がお気に入り。箱根青空小学校卒業後、箱根桜台中学校に進学した。箱根桜台中学校には陸上部がなかったため、バスケットボール部に所属し、熱心に練習に励んでいた。かなたと出会ったことで陸上競技が好きになり、同時に陸上競技を敬遠していた原因である走る辛さが、走る喜びへと変わっていった。
陸 (りく)
箱根青空小学校、箱根桜台中学校に通っていた男子。実家は箱根にあり、そこそこ大きな温泉旅館を経営している。箱根青空小学校が遠いため、通学バスを利用していた。スポーツではバスケットボールが大好きで、凪野はるととよくプレイしていた。小学生時代に出場した市民駅伝大会では、二区を走った。つねに全力で走るスタイルのため、体力的に問題があるが、市民駅伝大会ではあかりの考えた作戦により、最後まで息切れせずにハイスピードをキープして完走した。中学校でははるとと共にバスケットボール部に所属し、熱心に練習に励んでいた。姉が一人いるために女子の事情に色々詳しく、親しくしている女子も多いが、熱血漢なためにいまいち色っぽい展開に発展しない。陸自身はモテない理由に気づいていないため、あかりや鮎川菜穂によくからかわれている。非常に仲間思いな優しい性格のため、中学生の時は小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会の出場メンバーを辞退し、代わりに駅伝好きの菜穂に出場枠をゆずった。
重野 (しげの)
熱血漢として有名なスポーツ教師の男性で、箱根青空小学校で体育を教えている。走ることが大好きで陸上競技を続けてきたが、大学生の時には箱根駅伝の補欠止まりだった。新婚ほやほやで、生徒たちにそのラブラブぶりをよくいじられている。生徒たちからは親しみを込めて「シゲ先」と呼ばれている。
あかり
箱根青空小学校、箱根桜台中学校に通っていた女子。実家は箱根にあり、日の出屋食堂という食堂を経営している。勝ち気な性格のおてんば少女で、東京から転校してきた桜庭かなたの垢ぬけた雰囲気をやっかんで、出会った当初は事あるごとにかなたにつっかかっていた。運動神経抜群で、特に男子には対抗意識を燃やしている。小学生の時に、市民駅伝大会で選手に選ばれる実力を持っており、運動の中でも走ることが特に大好き。箱根青空小学校が遠いため、通学バスを利用していた。箱根桜台中学校では、最初は女子バスケットボール部に所属していたが、腰を悪くした祖母の介護のために帰宅部となり、放課後は日の出屋食堂の手伝いをする日々を送るようになった。かなたに小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に誘われるが、今の自分では実力不足で向井出雲に敵わないからと、出場を辞退した。ぶっきらぼうながら秘めた情熱を持つ諏訪薫は放っておけない存在。駅伝を通して、いつも自分の陰に隠れていた引っ込み思案の鮎川菜穂が自分の道を見つけたことを嬉しく思いながらも、少し寂しく感じている。
桜庭 やまと (さくらば やまと)
桜庭かなたの弟。両親が離婚し、姉のかなたと共に母親に引き取られた。小学生になってからは、水泳クラブに通うようになった。海外出張が頻繁にあるような、キャリアウーマンの母親に振り回される生活に嫌気が差しており、特にかなたが小言を言われているときは、正論で手厳しく反撃する。箱根での同居を余儀なくされた祖母のヨネに対して、ふだんは口うるさくて目の上のたんこぶのような存在だが、実際には離婚した娘の頼みで桜庭やまと自身と、かなたの世話を引き受けてくれたことに深く感謝していると発言するなど、大人びた一面を持つ。家族には「やっくん」という愛称で呼ばれ、かわいがられている。
ヨネ
桜庭かなたと桜庭やまとの祖母。箱根の温泉街のはずれの貧乏屋敷に長く一人暮らしをしていたが、離婚した娘が仕事が忙しくて子育てできないため、孫のかなたとやまとを預かり、共に暮らすようになった。非常に孫思いの優しい性格で、かなたが小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に出場する前日、ランニングスカートをプレゼントした。これはかなたが持っている一枚きりのウエアがぼろぼろになっているのを見兼ねたことによるもので、かなたにはその後もお気に入りの一着としてずっと大事にされている。
宮城野 さな (みやぎの さな)
箱根青空小学校に勤務している女性教師で、桜庭かなたの担任を務めている。おおざっぱな性格で、生徒の自主性に任せるという方針を盾に、放任気味な授業をすることが多い。理科教師で、ふだんから理科実験室のアルコールランプでイカなどのつまみを焼いて食べるなど、自由な行動を繰り返している。また、校内であっても生徒が居なければ一服してしまうほどのヘビースモーカー。陸上競技を科学的に分析し、かなたに走り方のコツを教えた。何事にも無頓着だが、駅伝に関しては小学生対象の市民駅伝大会ですら、非常に興味を示して熱く声援を送っている。実は全日本大学女子駅伝で、4年連続区間賞を冠した経験を持つほどの実力者で、陸上界では有名人。陸上界のホープとして、実業団からのスカウトを受けたが、それを断って大学院に進学して研究職へと就いた過去がある。陸上競技への思いは強く、箱根駅伝に女子選手への門戸を開こうと活動を続け、かなたが大学進学する頃には念願叶って箱根駅伝一区に女子枠を新設させた。
鮎川 菜穂 (あゆかわ なほ)
箱根青空小学校、箱根桜台中学校に通っていた女子。スポーツ全般が得意で、特に体操に関しては体操部に所属する選手より技術は高いが、本当はスポーツはやるより観戦する方が好き。引っ込み思案な性格だが、市民駅伝大会の出場を通して、自分の意思を明確に人に話すようになるなど、前向きな性格に変わった。また、桜庭かなたのひたむきさと強さにコンプレックスを刺激され、いい意味でライバル心を抱いている。箱根桜台中学校進学後、小学生の時に出場した市民駅伝大会での活躍を認められ、地元のクラブチームに所属することが叶い、以後も精力的に陸上競技を続けている。中学1年生で県大会で入賞し、関東大会にも出場した。その走りはますます磨かれ、中学2年生の時にはジュニアオリンピックの標準記録を突破するほどの選手となる。陸上競技に本気で挑むため、男子の大会である小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会には出場しないとかなたに宣言したが、駅伝愛を陸に見透かされ、大会開催直前に陸の代わりに出場メンバーとして大会に参加することになった。レースの駆け引きで諏訪薫に勝って以来、彼には「陸上女子」と呼ばれている。
向井 出雲 (むかい いずも)
箱根近辺に住んでいる少年で、箱根駅伝マニア。塔ノ浦小学校を卒業後、塔ノ浦南中学校に進学した。関西出身のため、関西弁を話す。小学6年生の時に家庭の事情で関西から箱根に引っ越してきて、叔母と二人暮らしをしている。非常に持久力があり、関西にいた小学生の時は、3年連続で全国クロスカントリーリレーで優勝した強豪クラブ、西星野アスリートクラブに所属していた。泣き虫な桜庭かなたに、走ることはどんなにつらくても前へ進まなくてはならないから、泣いているヒマはないと発破を掛けて以降、ライバル視されるようになる。走るのは自分との戦いだという考えを持っており、年齢に見合わない冷静で威圧的な走りを見せる。小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会で共にアンカーを走ることとなったかなたの実力を認め、本格的に陸上競技に取り組むように鼓舞した。念願叶い、大学生の時にかなたと共に駅伝出場を果たし、かなたからたすきを受け取った。かなたには、初対面の印象からずっと「メガネくん」と呼ばれている。
スズキ
小学生の時に、市民駅伝大会で桜庭かなたと共に三区を走った少年。足が遅いのがコンプレックスで、かなたと出会うまでは、レースで人を追い抜いた経験がなかった。市民駅伝大会出場中、かなたの横で走りながら、たすきもまともに掛けられない彼女に、たすきの掛け方を教えたのが縁で知り合う。その後、かなたのペースに合わせて共にゴールを目指すことになり、走る喜びに目覚めた。尊大な態度と裏腹に、人にどう思われるかを過剰に気にする臆病な一面を持つ。そのプライドの高さから、人より劣る自分を見せたくなかったため、一人で挑戦できる陸上競技を始めることにした。負けず嫌いなことから、あえて「何々をするんだ」と話し、自分を鼓舞する癖がある。中学校でも陸上競技を続けており、かなたが出場した小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に補欠繰り上げの形で出場し、アンカーとして走った。出会い頭にかなたに駅伝のうんちくを披露したことから、「まにあくん」と呼ばれている。
向井出雲の兄 (むかいいずものあに)
向井出雲の兄で、出雲に走ることと駅伝の面白さを教えた人物。出雲より3歳年上で、小学生の時から陸上を続けており、走りに関してはベテランで、名選手でもある。「速さが正義」が口癖で、知名度の高い箱根駅伝よりも関西の陸上のレベルの方が高いと信じており、伊勢で開催される全日本大学駅伝と出雲で開催される全日本大学選抜駅伝が、陸上界の最高峰だと出雲を諭したことがある。進学先の関西の名門中学では陸上の全国入賞を果たしたが、やがて尊敬している指導者が関東の大学の監督になったことをきっかけに、関東の高校に進学先を決める。将来は関東の新興大学に進学して、箱根駅伝で三連覇することを目標に陸上に励み続けている。
桜庭かなたの母親 (さくらばかなたのははおや)
桜庭かなたと桜庭やまとの母親。夫と離婚後、二人の親権を持ったが、海外出張を理由に二人を箱根の実母宅に預けて仕事に打ち込んできた、キャリアウーマン。かなたを私立中学校に通わせられるほどの収入を得ている。非常に教育熱心で、託児所代わりにかなたにバレエ、水泳、ピアノと多くの習い事をさせ、厳しく指導していた。かなたの走るフォームがきれいなのは、バレエを習っていた影響が大きいことから、のちにかなたは母親に感謝するようになった。また、かなたは視力が2.0あるが、それも母親が女子は見た目が大事だという考え方を持つため、眼鏡を掛けずに済むようにテレビゲームをさせなかったおかげである。夫も仕事に打ち込むタイプだったためにすれ違いが起こり、離婚した。東京には友達も少なく、親戚も疎遠で寂しい心情からかなたに八つ当たりすることも多かった。一人称はかなたと同じく「うち」である。
諏訪 薫 (すわ かおる)
箱根桜台中学校3年生の男子。バスケットボール部の主将で、桜台中の「三大目立つ先輩」の一人。硬派でストイックな性格のため、チャラチャラした雰囲気の石田烈己を嫌っている。中学1年生の時に、バスケットボールの試合の最中に父親を亡くした経験から、より実直にスポーツに打ち込むようになった。箱根桜台中学校が少子化の影響で生徒数が少なく、そのために部員獲得争いでサッカー部としょっちゅう衝突している事情もあり、サッカー部副主将の烈己とは、顔を合わせれば口論に発展してしまう。桜庭かなたに長身と運動能力を見初められ、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に誘われたために承諾するが、必ず勝つメンバーで出場するべきだと、当初は鮎川菜穂とあかりをメンバーから外そうとした。しかし、二人と陸上で勝負した結果、彼らの走りに魅了されていることに気づき、人数が足りなくて出場できないバスケットボールの県大会でなく、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に注力することを決める。実は、小学生の時に一度だけ駅伝に出場した経験がある。高校はバスケットボールの名門である神谷中央高校に進学する予定。
石田 烈己 (いしだ れお)
箱根桜台中学校3年生の男子。サッカー部の副主将を務め、ポジションはフォワード。桜台中の「三大目立つ先輩」の一人である。チャラチャラした雰囲気のために諏訪薫に目をつけられるが、その薫をダサイと一蹴する気の強さを持つ。自らを運動バカと称し、同じく運動バカの薫には憎まれ口を叩きつつも、いい意味で仲間意識を持っている。ベタな友情が大好きな熱血漢で、転校してきたばかりで孤立しがちだった宮嶋彰太郎に声を掛けるなど、面倒見のいい性格をしている。桜庭かなたに小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に誘われた薫に影響され、自らもその大会に興味を持つようになる。かなたに陸上勝負で負けたため、かなたの駅伝計画に乗って大会メンバーとなった。そのサッカーセンスは周囲の中学校でも知れ渡っており、「県内屈指のストライカー」の異名を持つ。大会では三区を担当し、大健闘した。中学3年生にしては低い身長にコンプレックスを抱いている。
宮嶋 彰太郎 (みやじま しょうたろう)
箱根桜台中学校3年生の男子。吹奏楽部の部長を務めており、桜台中の「三大目立つ先輩」の一人。幼い頃から楽器に親しんでおり、吹奏楽部ではフルート奏者となる。屋上で一人だけでフルートを吹く時間を何よりも大切にしている。中学校に進学してからは、肺活量を鍛えるために走っていた際に長距離走者の資質を見いだされ、陸上競技にも関心を持つようになった。少子化の影響で廃部になるまでは、箱根桜台中学校の陸上部に所属していた。小学生の時に箱根に転校してきて、石田烈己が声を掛けてくれたおかげで周囲になじむことができたため、石田には感謝しており、彼に頼まれると応じてしまうところがある。内向的な性格で、コツコツと孤高に取り組む陸上競技は自分に合っていると自負し、宮嶋彰太郎自身と同じように内向的だが陸上に真摯に向き合っている桜庭かなたのひたむきさに惹かれて、かなたの駅伝計画に乗ることを決意。小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会では四区を担当した。集団で走るよりも一人で走る方が好きで、物静かで冷静な走りを見せる。決してスピードのある選手ではないが、持久力があるためにロングスパートを得意としている。石田には「ショウちゃん」と呼ばれている。
百合 節子 (ゆり せつこ)
箱根桜台中学校の茶道部顧問を務めている女性教師。本業は表千家の茶道の師範で、ふだんは嘱託教員として古文を教えている。職業柄、日頃から着物を着用している。80歳近い高齢ながら、色々な学校行事を頼まれると断れず、その物腰の柔らかさとのんびりした雰囲気から「仏のゆるばあ」と生徒たちに呼ばれている。記憶力と耳がよく、また一度会った人の顔は絶対忘れないなど、非常にしっかりとした性格で若々しい。自分が生徒たちに「仏のゆるばあ」と呼ばれていることを知りつつ、彼らを温かく見守っている。同年代の友人たちからは、その老練さと地獄耳であることから「地獄ばばあ」と呼ばれている。桜庭かなたが箱根桜台中学校の茶道部に所属しながら小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に出場できるように熱心に計らったが、それはかなたが箱根青空小学校在学中に出場した、市民駅伝大会での奮闘を偶然見ており、応援したくなったからである。
柳原 (やなぎはら)
箱根桜台中学校で陸上部の顧問を務めていた男性教師。陸上競技に関しては非常に熱い志を持っており、ブラスバンドの練習のために肺活量を鍛えるべく、毎日走っていた宮嶋彰太郎を口説き落として陸上部に入部させるなど、優秀な選手を集めるためには多少のむちゃを押し通すような強引な性格をしている。柳原自身の転勤の際、部活をする生徒が激減したという理由もあり、陸上部の廃部をしぶしぶ受け入れて、転勤先の城浜中学校に赴任。転勤後も、箱根桜台中学校で長いあいだ駅伝の選手を育てていた情熱は衰えず、桜庭かなたが秘密裏に小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に出場しようとしていると知った際は、百合節子経由によってオープン参加で男女混合での駅伝出場を勧めた。大会に宮嶋が出場することを知り、当日は応援に駆けつけた。宮嶋は決してスピードのある選手ではないが、コツコツまじめにひたむきに努力を重ねて実力を磨いたことを評価し、喜んでいた。
向井出雲の叔母 (むかいいずものおば)
箱根で向井出雲と同居している女性。出雲が小学5年生の時に彼の父親が家に帰ってこなくなり、彼の母親である向井志津子も親権を拒否したため、出雲を引き取って二人暮らしをしている。続柄上は叔母にあたるが、出雲とは17歳しか年齢が離れていないため、「叔母」と呼ばれることをひどく嫌っている。仕事が忙しく、家事全般を出雲に任せきりにしているが、出雲の出場する陸上大会だけは、どんなに仕事が忙しくても時間をつくって応援に駆けつけている。自分が走ることばかりが好きだったため、両親に見放されたと出雲がカンちがいして傷つく中で、思い切り走っていいと彼の背中を押した人物。出雲の一番の理解者で、彼の長距離走への情熱を認めて優しく見守っている。
立花 (たちばな)
箱根界隈の駅伝大会に観客として出没する、駅伝が大好きな初老の男性。小学生陸協の理事長を務めていた過去を持つ。もともとは教師をしていたため、小学生や中学生の出場する駅伝大会にも関心があり、応援を始めると非常に熱くなる。無名の子供たちががんばっている姿に、特に心を動かされる気質の持ち主。箱根青空小学校で桜庭かなたらが奮闘する姿に感動して以来、かなたたちの成長を温かく見守っている。陸上ファンを自称し、立花自身と同じくらいの年代の駅伝ファンの男性と、いつも地域の駅伝の応援に来ている。市民駅伝大会でのなれ合いから、かなたには「マニアのおっさん」と呼ばれ、親しまれている。
伊集院 海斗 (いじゅういん かいと)
海象中学校に通う2年生の男子。県大会出場常連のバスケットボール部に所属しているが、選手としては凡庸。しかし、バスケットボールを愛する気持ちと人一倍の練習量と根性が認められ、大会ではゼッケンを得た。気性が荒く、負けず嫌いな性格だが、仲間思いでチームプレーを何よりも重んじている。特に走る速さには定評があり、自らをスピードスターと評している。小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会では一区を走り、鮎川菜穂とスピード争いを演じた。最後は足が止まり、ラストスパートをかけてきた菜穂に惨敗する結果となる。大会終了後は、菜穂が女子であることを理由にきちんと敗北に向き合おうとしなかった姿勢を改め、素直に彼女の実力を認めた。
高瀬 花林 (たかせ かりん)
北王高校に在学している2年生の女子。ジュニアアスレチッククラブに所属している。鮎川菜穂の陸上競技仲間の一人で、小学生の頃から駅伝に出続けている。全国大会の小学生クロスカントリーリレーに出場し、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会では3年連続で関東大会に出場し、高校駅伝では1年時からレギュラー選抜されるなど、目覚ましい活躍を見せている。また、高校1年生ながら県大会で区間賞を獲ったことで、さらに陸上競技界で注目を浴びるようになる。菜穂と仲がよく、菜穂が出場することになった小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会を攻略するための作戦会議に参加し、桜庭かなたたちにたすきの渡し方を指導した。眼鏡を掛けたお嬢様っぽい容姿とは裏腹に、ちゃめっ気と明るい性格で、誉められて伸びるタイプだと自称している。駅伝においてのたすきは、チームメンバーの心をつなぐ大切なものだと考えている。
ヤス
東京のランニングサークル、ビーラーズのリーダーを務めている男性。元箱根ランナーだけあり、その脚力と持久力は高く評価されている。愛用しているGPSウォッチで、桜庭かなたのネガティブスプリットの性質に最初に気づいた人物。かなたの整った容姿と追い越した瞬間に振り向いて、にやっと笑う所作を最初は快く思っていなかったが、走ることに対しての熱意とひたむきさに徐々に惹かれ、やがてランニングのいろはを積極的に教えるようになる。かなたの目標が打倒、向井出雲だと知ってからは、特に応援に熱が入り、かなたと出雲が出場する小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会にも東京からわざわざ応援に駆けつけた。
美咲 (みさき)
西波浦中学校に通っている女子。石田烈己の幼なじみで、烈己とは小学生の時は共にサッカーをやり、互いに親友と認め合う仲だった。小学生の時からボーイッシュな風貌で、中学生になってもそれは変わらず、一人称は「オレ」である。中学に進学するのを機に、身体能力で男子と差が出る前に負けたくないからという理由でサッカーをやめた。西波浦中学校では、陸上競技部に所属する。入部を決意したのは、陸上競技は男女関係なく競えるからで、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会にも出場して活躍した。サッカーをやめたことで烈己とは気まずい関係となり、音信不通状態になっていたが、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会での再会をきっかけに、再び友情を確認し合った。小学生の時からチームプレーや友情を重んじていた烈己が、サッカー部で嫌な役回りを積極的に引き受け、周囲の士気をあげてきたことを非常に評価していた。
東雲 寧々 (しののめ ねね)
塔ノ浦南中学校の陸上競技部に所属している女子。陸上界で有名人な先輩の向井出雲に心酔しており、平等を好む公立中学校での出雲の立場を案じ、陰ながら応援していた。舌を嚙みそうな名前だという理由で、出雲になかなか名前を呼んでもらえなかった。小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会で桜庭かなたの背中を追いかける出雲を見て、出雲の目標が区間賞の栄誉ではなく、かなたに勝つことだけなのではないかと気づく。大学生になるまで陸上競技を続け、W大学進学後は新設された女子枠で、東京箱根間往復大学駅伝競走に出場し、かなたや鮎川菜穂と競い合うレベルにまで達していた。
集団・組織
箱根桜台中学校陸上部 (はこねさくらだいちゅうがっこうりくじょうぶ)
箱根桜台中学校にかつて存在していた運動部の一つ。箱根桜台中学校の陸上部は、少子化の影響と、陸上に熱心な柳原教師が転勤したために、宮嶋彰太郎が1年生の時に廃部となってしまった。廃部になったのは3年生が引退したことに加えて、女子部員が連れ立って退部してしまったのが直接の原因であったといわれている。
ジュニアアスレチッククラブ
箱根にある陸上クラブの一つ。鮎川菜穂が中学生時代から所属しており、ジュニアオリンピック出場を目指すなど、非常にレベルの高い選手がそろっている。選手はほとんどが自らの在籍する学校の陸上部にも所属し、学校での練習が終わってからクラブに来て練習するのが日課となっている。
ビーラーズ
東京の公園等で陸上競技を練習する目的で創設されたランニングサークルの呼称。リーダーはヤスが務めており、東京のとある公園をホームグラウンドにしつつ、さまざまなランニングイベントに参加したり、応援したりするのが主な活動内容となっている。老若男女が自由に自分を鍛えるために走り込みをしており、中学1年生の時に東京にいるあいだ、桜庭かなたを応援してくれたサークルでもある。陸上競技界では有名な向井出雲を倒したいという、かなたの野望を知ってからは、特に協力的になり、かなたを激坂巡りのランニング練習会に誘ったり、クロスカントリーに誘ったりしていた。鍛えれば鍛えるだけ成長していくかなたと、かなたのネガティブスプリットの性質に敬意を込めて「秘密兵器」のあだ名を送った。実はかなたに内緒で「最速女子中学生公園ランナー」とも呼んでいた。かなたからは、ビーラーズのメンバーをまとめて「公園ランナーの皆さん」と呼ばれている。
塔ノ浦南中学校小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会出場メンバー (とうのうらみなみちゅうがっこうおだわらしあしづかかぶちゅうがっこうえきでんきょうそうたいかいしゅつじょうめんばー)
塔ノ浦南中学校陸上部で、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会に選ばれたメンバー。公平に選抜されることを重んじられ、部活動中の試合の順位を基に選出された。メンバーの実力に偏りがあり、走順は後半になるほどレベルの高い選手が配置されている。具体的には、アンカーである六区を走る向井出雲のような桁違いの走力の持つ選手を最後に置くことで、ほかの選手たちのあいだに安心感が生まれ、リラックスして全力を出し切れるという考えによる。この考え抜かれた組織構成により、六区の出雲はたすきを受け取ってから、安心して桜庭かなたの背中を追うことができた。
場所
鹿翠亭 (ろくすいてい)
箱根にある老舗温泉旅館で、凪野はるとの両親が経営している。300年続く歴史を誇っており、辺り一帯の温泉旅館の代表的な存在である。古くからの常連客はいるが、経営は細々としたもので、近隣の大きなホテルと比べると華やかさはあまりない。
日の出屋食堂 (ひのでやしょくどう)
あかりの家族が経営している食堂。箱根の地元民たちに愛されている老舗店で、陸の好物は特製全部のっけラーメン、凪野はるとの好物は醬油ラーメンである。ちなみに小学生時代から陸上競技を続けている鮎川菜穂はすっかり大食漢となり、ラーメン大盛りにライス大、加えて餃子二皿をぺろりと平らげる。あかりの祖母が腰を悪くしてからは、あかりの両親と共にあかりも放課後は店を手伝うようになった。
その他キーワード
市民駅伝大会 (しみんえきでんたいかい)
箱根近辺の市内で毎年開催される大会の呼称。老若男女が出場し、にぎわうイベントとして知られている。小学生の部には、地域の小学生が団体出場し、箱根駅伝になぞらえてマラソンして順位を決定する。40年の伝統を誇る老舗イベントで、東京から参戦するチームもあるほど有名な大会である。会場となる公園の周回コースを走る駅伝で、一区が二周、二区が一周、三区が四周走り、四区のアンカーが三周走る。一周は約1.2キロで、小学生には長い距離となるが、クラブチーム所属の強豪選手も出場する本格的な駅伝となる。一区は特に名だたるジュニアランナーが参戦し、見ごたえがあるため、地域では最も注目する地域イベントの一つである。
諏訪薫との陸上勝負 (すわかおるとのりくじょうしょうぶ)
箱根桜台中学校で起きた陸上勝負。2年生の凪野はると、陸、あかり、鮎川菜穂が同中3年生の諏訪薫と、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会出場メンバーの座を懸けて行った。全員で一斉に走り、誰か一人でも薫に勝てればはるとたちの勝利となる。走行距離は3キロで、小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会の中学生男子出場コースと同じ距離である。バスケットボール部のエースで箱根桜台中学校ではトップの運動能力を誇る薫を負かすために、菜穂がブレインとなり、作戦を指示した。まずはあかりが42秒をイーブンペースで引っ張って1キロ走り、呼吸が無酸素運動から有酸素運動に切りかわったタイミングで陸が先頭に立つ。陸は好きなだけ飛ばして全員のペースメーカー役となり、その後はタイミングのいいところで菜穂がトップに立ち、ラスト一周はそれまで力を温存させていたはるとに全力で走らせ、勝利しようとした。結局最後は薫が粘り勝ちする結果に終わったが、女子だからとなめてかかっていた菜穂やあかりの奮闘を讃え、薫が桜庭かなたの駅伝計画に乗るきっかけとなった。
小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会 (おだわらしあしづかかぶちゅうがっこうえきでんきょうそうたいかい)
小田原市教育委員会と小田原市陸上競技協会が共催する中学生向けの駅伝大会。地区大会会場は横浜や川崎など複数用意され、桜庭かなたらの出場地区会場は、なみかぜ海浜公園だった。一般の駅伝同様、男子の部と女子の部に分かれているが、義務教育課程での大会であるため、学区割によって出場生徒が決まるという特色がある。そのため、一部の選手を勧誘できる私立中学校を除けば、足の速い駅伝メンバーを六人そろえるのは至難の業となる。また、陸上競技経験のある教師が顧問につくことを確約できないなど、大会に向けて整備されていない条件が多いが、そこが醍醐味だと考える駅伝マニアもいる。かなたらオープン戦チームは、一区を鮎川菜穂が走り、二区を諏訪薫、三区を石田烈己、四区を宮嶋彰太郎、五区を凪野はると、六区をアンカーとしてかなたが走った。向井出雲も塔ノ浦南中学校陸上部のチームでアンカーを走ったため、かなたが出雲と競い合う二度目の大会となった。
東京箱根間往復大学駅伝競走 (とうきょうはこねかんおうふくだいがくえきでんきょうそう)
新春に大学生の選抜選手が、東京と箱根間の往復走を競う駅伝大会。正月の風物詩としても人気が高い。関東学連が男女共同参画を進め、女子枠が一区に新たに新設されたことでより話題となった。女子枠が新設されてからの初代女王は桜庭かなたで、かなたと鮎川菜穂、東雲寧々も参加していた。かなたが向井出雲にたすきを渡すことが叶った最初の舞台である。
駅伝計画 (えきでんけいかく)
桜庭かなたが箱根青空小学校在学時に立てた計画。市民駅伝大会に参加した凪野はると、陸、あかり、鮎川菜穂と小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会を共に走るために考えられた。中学生以上の駅伝は男女別なうえ、かなたたちが通う箱根桜台中学校には陸上部がないが、走るメンバーが六人そろえば、女子が混じっていても大会に出場することができる点に可能性を見いだし、計画された。そして男女混合で堂々と出場するため、順位のつかないオープン参加チームとしてのエントリーとなった。かなたが集めたメンバーは、はるとと菜穂、箱根桜台中学校3年生の諏訪薫と石田烈己、宮嶋彰太郎の計六人。あかりは実力不足を感じたためにマネージャー役を、菜穂は最初はクラブチームに所属しているためにコーチ役としてかなたの駅伝計画を支える姿勢を見せたが、菜穂の駅伝愛に気づいていた陸がメンバーの座をゆずり、大会直前に出場メンバーとなった。最終目標は市民駅伝大会で敵わなかった最大のライバルである向井出雲と再勝負し、勝利すること。練習は主に夜の箱根青空小学校のグラウンドで行われた。
最初から本気でラストスパートする作戦 (さいしょからほんきでらすとすぱーとするさくせん)
小田原市足柄下部中学校駅伝競走大会で、桜庭かなたが向井出雲に勝つためにヤスが考えた作戦。具体的には乳酸性作業閾値(いきち)を上げる練習と、VO2 MAX(最大酸素摂取量)を高める練習をすることで基礎能力を上げ、さらにはのぼり坂と下り坂での走り方の練習など、どんなコースにも対応できるような体づくりと走り込みをする実戦型のトレーニング方法。かなたのネガティブスプリットの性質と、不屈の根性があったからこそできる過酷な運動メニューとなる。