概要・あらすじ
兄の神谷健一と一緒にプレーすることを夢見て、子供の頃からサッカーを続けていた神谷新二は、U-16代表にまで選ばれた兄と自分の実力を比較し、無力感を感じ続けていた。あまりにも健一との実力差があるため、一緒にプレーすることが叶わぬ夢だと実感し始めていた新二は、サッカー部が大して強くもない春野台高校をわざわざ選んで進学する。
その春野台高校には、新二の幼なじみで中学時代に陸上競技の全国大会にも出場した一ノ瀬連も通うことになっていた。連は高校で陸上競技を続けるつもりはなかったものの、連の才能を惜しんだ新二が、陸上を始めるという条件で、2人そろって陸上競技部に入部する。陸上競技を始めたばかりの新二は、連や他の部員と大きな実力差を感じながらも練習に励むうち、いつしかチームメイトたちと競い合い、成長し合える存在となっていく。
登場人物・キャラクター
神谷 新二 (かみや しんじ)
春野台高校に通う男子。陸上競技部員。幼い頃から兄の神谷健一と一緒のサッカーチームでプレイすることを、人生最大の夢としていた。しかし健一との実力差は開くばかりで、中学3年間所属したサッカー部でもまったく活躍できずに、自分のサッカー選手としての限界を悟る。偉大な兄を間近で見ていたため自分を卑下する癖があり、なかなか自分の才能を信じられない。 幼い頃、兄に「走れるフォワードになれ」と言われてから、毎日10キロのランニングを欠かさず行っている。奇しくも、それが陸上競技に活きることになった。根が明るく、空気を読めるムードメーカー的存在だが、緊張すると、トイレにこもってしまうような繊細な一面もある。
一ノ瀬 連 (いちのせ れん)
春野台高校に通う男子。神谷新二とは同学年で、同じ陸上競技部員。中学2年の時に100メートルの全国大会で7位に入賞し、天才スプリンターとして全国に名を轟かせた。しかし注目されることを嫌い、それからは陸上競技に関わろうとせずにいた。新二とは中学こそ違ったものの幼なじみで、かつて一緒にかけっこで競争していた仲。新二から陸上を続けるよう勧められ、新二も一緒に入部するという条件付きで、高校進学後、改めて陸上競技を再開することになる。 飄々としていて捉えどころのない性格だが、レースでは目つきが変わる熱い一面も持っている。
仙波 一也 (せんば かずや)
鷲谷高校に通う男子。陸上競技部員。神谷新二とは同学年ながら、190cm超の長身と強面で、高校生離れした風貌をしている。一ノ瀬連が全国大会で入賞した年に同じ大会で戦い、連に敗れた。その後の連が出場していない中学3年の全国大会では2位、同じ年のジュニアオリンピックでは優勝するなど、実績十分のスプリンター。 県大会の100m走では優勝の常連で、4継でも鷲谷高校のエース的存在になっている。
高梨 正己 (たかなし まさみ)
鷲谷高校に通う男子。陸上競技部員。神谷新二とは同学年。仙波一也や一ノ瀬蓮のように特別に秀でた走力を持つわけではないが、平均してスプリント能力が高く100m走では県内でも3番以内の順位を維持している。寡黙な仙波と違っておしゃべり好き。レース前でもぺらぺら無駄口を叩きたがる。いくら話しかけても無視する仙波や連といったライバルたちよりも、自身と同じく根が明るい新二を気に入っている。
根岸 康行 (ねぎし やすゆき)
春野台高校に通う男子。神谷新二とは同学年で、同じ陸上競技部員。中学の時から陸上競技を続けており、高校入学前の春休みから、春野台高校陸上競技部の練習に参加していた。また一ノ瀬蓮の天才的な走りに惚れ込んで、陸上競技部へ勧誘をするなど、陸上競技への思いは強い。400m走の選手だが4継にも出場しており、新二とはクラスメイトということもあって、くだらないことも話し合える仲。
三輪先生 (みわせんせい)
春野台高校の男性教員。陸上競技部の顧問を務める。アフロヘアーのようにも見える天然パーマが特徴。中学時代は不良のパシリ役をしていたが、大塚先生の勧めで陸上競技を始め、その面白さを知った。競技である以上、記録にはこだわりを見せるが、生徒たちがのびのびと陸上競技を楽しめるよう労を惜しまない。自身を「みっちゃん」と呼ばせるなどフランクな性格で、部員たちからも信頼されている。
神谷 健一 (かみや けんいち)
神谷新二の兄。サッカーのU-16日本代表メンバーで、若くしてJリーガーとなる。取り立てて身体能力に秀でた点はないが、それを自覚してひたすら技術に磨きをかけ、同年代では頭一つ抜きんでたプレイヤーとなった。新二と一緒のサッカーチームでプレイすることを楽しみにしていたが、新二が高校から陸上競技部に入ってしまったため、それも叶わぬ夢となってしまった。 しかし真二が選んだ道を前向きに応援している。
谷口 若菜 (たにぐち わかな)
春野台高校に通う女子。神谷新二とは同学年で、同じ陸上競技部員。普段からとても大人しく、声も小さい。高梨正己に「かわいこちゃん」と評されていたり、初対面の時から新二に気にされたりと容姿端麗。中学から短距離走を続けているが、一向に成績が伸びず、途中で三輪先生の勧めにより長距離選手へと転向。新二を「おもしろい人」と捉えていたが、やがて徐々に距離を縮めていく。
鳥沢 圭子 (とりさわ けいこ)
春野台高校に通う女子。神谷新二とは同学年で、同じ陸上競技部員。中学から陸上競技を続けている中距離選手で、1500m走では市の大会で優勝もしたことがある。声が大きく、いつも元気いっぱい。快活でサバサバした性格で、新二たち陸上競技部の男子部員たちとも軽口を叩いている。
桃内 公太 (ももうち こうた)
春野台高校に通う男子。神谷新二の1年後輩にあたる陸上競技部員。中学3年の時には、県大会で入賞したこともあり、確かな実力を持つ短距離走選手。猛烈な筋肉マニアで、自らの筋肉だけでは飽き足らず、先輩である新二たちの筋肉も鍛えようと、さまざまな手を尽くす。鍛え上げた筋肉から生み出される瞬発力を武器に、下級生ながら4継のメンバーにも選ばれる。
守屋 正人 (もりや まさと)
春野台高校に通う男子。神谷新二の1年先輩にあたる陸上競技部員。新二ら下級生から「ハードボイルド」と評される、寡黙で落ち着いた性格の実直な人物。中学時代からの後輩である根岸康行は守屋に憧れ、彼を追って春野台高校に進学したほど。後輩からもとても慕われている。400m走の選手だが、新二たちが入部した時点では部内で一番足が速く、一緒に4継を走る新二たちの精神的支柱ともなった。
浦木 (うらき)
春野台高校に通う男子。神谷新二の1年先輩にあたる陸上競技部員。新二たちが入学するまで、4継のメンバーだった短距離選手。占い好きで、その日の運勢やジンクスをとても気にしており、あまりにも運勢が悪い時にはレース前に取り乱すこともある。しかし、レースが始まれば、新二も見惚れるほどの卓越した走りを見せる。
大塚先生 (おおつかせんせい)
鷲谷高校の男性教員。陸上競技部の顧問を務めている。三輪先生を陸上競技の道に導いた恩師でもある。幾度となく陸上強豪校を育ててきた実績を持ち、神奈川の陸上競技界では有名な存在となっている。鷲谷高校もその例に漏れず、大塚先生が赴任してから一気に強豪校となった。神谷新二が「絶対に人を殺してる」と感じるほどの強面の持ち主。
鍵山 義人 (かぎやま よしと)
春野台高校に通う男子。神谷新二の2年後輩にあたる陸上競技部員。どこの高校に入学するのか、と注目を集めていた優秀な短距離選手。鳴り物入りで春野台高校に入学した。一ノ瀬連を心から尊敬しており、一方で、他の先輩にはほとんど敬意を払わない。その態度により、当初は陸上競技部員から反感を買っていた。県予選で新二たちの4継を見てから改心し、チームの一員として勝利を目指していくようになる。
岡林 (おかばやし)
春野台高校に通う男子。神谷新二の2年先輩にあたる陸上競技部員。ジンクスをやたらと気にする浦木に、「細かいことばかり気にする」と言いながら、自身も神経質なところがある。最後の大会では新二や連たちと4継を走り、予選落ちはしたものの、リレーメンバーの一員としてベストタイムを1秒近く縮める走りを見せた。
島田 (しまだ)
春野台高校に通う男子。神谷新二の2年先輩にあたる陸上競技部員。新二や連が出場する前の4継のメンバー。3年最後の大会は、実力で勝る新二や連が4継のメンバーとなったため、控えに回ることとなる。新二たちはあえなく予選落ちとなってしまうが、そんな結果も気にすることなく、むしろ初レースとなった新二が場数を踏めたことを喜ぶ、器の大きな先輩。
場所
春野台高校 (はるのだいこうこう)
神奈川県にある県立高校。これといって特徴もない高校だったが、中学時代に陸上競技の全国大会で入賞した一ノ瀬蓮や、のちに連のライバルとなる神谷新二が入学したことにより、県内でも有数の陸上強豪校となっていく。新二が高校入学時に金髪にしていても何も言われないなど、比較的自由な校風にも見えるが、竹刀を持って授業に臨む強面の教師もいる。
鷲谷高校 (わしやこうこう)
神奈川県にある県立高校。もともと陸上競技の古豪だったが、陸上競技の名コーチ・大塚先生が赴任してから5年間で、「スプリント王国」の評価を得るまでの強豪校となる。県内から有力な選手を集めており、中学短距離走のホープ・仙波一也も入学している。新二たちが春野台高校に入学した時点でも強豪校だったが、数年であらゆる種目で入賞を狙えるような名門校へと成長する。
その他キーワード
4継 (よんけい)
正式種目名は「4×100メートルリレー」。個人で勝負する陸上競技では珍しいチーム対抗の種目であり、陸上競技の花形種目とされている。4継に参加するには、優れた短距離選手であるスプリンターを、少なくとも4人以上集めなければならない。優秀な選手が集まりづらい公立高校にとっては、まずは参加すること自体が大きなハードルとなる。
クレジット
- 原作
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佐藤 多佳子