100メートルの疾走に全力を賭ける
本作は、短距離走に挑むトガシの栄光と挫折の日々が描かれている。小学生時代から短距離走では誰にも負けることのなかったトガシは、才能の塊ともいえる小宮と出会って初めて敗北の恐怖を知る。中学に進学してからは自らの才能の限界を感じるものの、それでも走ることをあきらめきれず、陸上競技を続けていた。そしてトガシは高校に進学後も、「走ること」や「勝つこと」への渇望をひたすらに募らせていき、さまざまな問題に直面しながらもタイムを縮めるために努力を重ねていく。作者の魚豊は、巻末のインタビューで「トガシは泥臭く頑張る健気なキャラではなく、上にいるけどつねに落ちる不安を抱えている」と語っている。
アメリカンフットボール部との確執
鰯第二高校に進学したトガシは、陸上競技から距離を置いた生活を送ろうと考えていた。そんなある日、トガシはアメリカンフットボール部の寺川から、入部の勧誘を受ける。一度は入部を決意するものの、陸上部員の浅草との交流を経て走る喜びに目覚めたトガシは、もう一度走りたいと考えるようになり、陸上部への入部を決意する。さらに、陸上部がアメリカンフットボール部からの圧力で廃部に追い込まれかけていることを知ったトガシは、体育祭の部活対抗リレーで陸上部が勝ったら嫌がらせをやめるよう、約束を交わす。こうしてトガシたちは、陸上部の存続を賭けたリレー競技へと挑むのだった。
宿命のライバルとの対決
インターハイ南関東大会で1位となったトガシは、全国大会で小宮と再会するが、決勝で彼に敗れてしまう。それから10年後。企業の契約選手となっていたトガシはすっかり向上心を失い、一流からかけ離れたふつうの選手に成り果てていた。しかし、短距離のエース選手として活躍する海棠からアドバイスを受け、現実を受け入れることができればさらなる成長が望めるかもしれないと考えるようになる。走るために命を賭す覚悟を固めたトガシは、日本陸上への出場を勝ち取る。競技では並みいる強豪選手と競い合い、ついに決勝へと勝ち上がる。そして純粋に走る喜びを嚙みしめ、同じく決勝まで勝ち進んだ小宮へのリベンジを果たすべくスタートラインに立つ。
登場人物・キャラクター
トガシ
ある小学校に通う6年生の男子。一見どこにでもいるふつうの少年ながら、生まれつき足が速く、100メートルを12秒34で走る。特に練習や努力をしなくても100メートル走では無敵で、授業や大会でもつねに1位を取り続けている。「100メートルだけ誰よりも速ければ、どんな問題も解決する」との持論を持つ。この絶対的な自信から友達や自分の居場所を手に入れ、順風満帆な生活を送っている。そんなある日、転校生の小宮と出会い友人になったことをきっかけに、人生に大きな変化と転機が訪れる。
小宮 (こみや)
トガシと同じクラスに転校して来た小学6年生の男子。ネガティブな性格で、転校初日からいじめに遭っていた。その暗い雰囲気からクラスメイトからは「オバケ」と呼ばれている。現実の辛さを忘れるため、無我夢中で走っていたところをトガシに目撃され、アドバイスをもらったのをきっかけに友人となる。決して足は速くはないが、トガシ以上に走ることに熱意を持っており、彼のアドバイスを受けて短期間で成長を果たす。その後、運動会の徒競走で金メダルを獲得し、才能を開花させていく。
書誌情報
ひゃくえむ。 5巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2019-06-07発行、 978-4065164051)
第2巻
(2019-07-09発行、 978-4065164396)
第3巻
(2019-08-09発行、 978-4065164419)
第4巻
(2019-09-09発行、 978-4065164402)
第5巻
(2019-10-09発行、 978-4065168837)
ひゃくえむ。新装版(上) 講談社〈KCデラックス〉
(2022-03-30発行、 978-4065274347)
ひゃくえむ。新装版(下) 講談社〈KCデラックス〉
(2022-03-30発行、 978-4065274316)