概要・あらすじ
医者の息子の鹿野雅彦には奇妙な同級生がいた。彼は石川イサオといい、両親もなく野生児同然に貧乏な暮らしを続けていた。小学5年生の時、イサオを育てていた酒乱の叔父が首吊り自殺を遂げた。イサオをいじめていた同級生は中学になり事故で突然死んだ。小学校の担任だった教師の臨終に雅彦とイサオが訪れた際、イサオはまるで先生が乗り移ったような口調で喋った。
イサオには何か不思議な能力があるようで、彼の周囲には常に死の気配があった。雅彦はよくわからないまま、イサオに接近し、影響を受けてゆくこととなる。
登場人物・キャラクター
鹿野 雅彦 (しかの まさひこ)
実家は医者で、裕福な家庭環境で育った。学級委員長を務めるなど、そつなく優秀な子供として過ごしてきたが、心の中に常に周囲との違和感や孤独感を抱き続けていた。父親が医者だったことで栄養失調状態となった同級生のイサオが担ぎ込まれてきたこともあり、ここでイサオと接触した。周囲からは変人とされ疎まれているイサオに畏怖と共感を抱き、会話を交わすようになる。 高校受験を放棄してイサオと共に家出をし、「神様」を探す旅に出た。イサオと離れ離れになった後も生きることや神様について考え、彷徨を続けることとなる。
石川イサオ (いしかわいさお)
本人いわく昭和29年3月31日宮城県生まれ。自分が産まれた瞬間の光景を覚えているという。父親は失踪し母親はイサオを出産した時に死亡した。酒乱の叔父に育てられ、ほとんど学校にも行かず生きてきた。異様な出自と魁偉な容貌のため、同級生たちからいじめられ続けた。小学5年生の時に叔父が自殺を遂げた後は一人で河原に住んでいた。 他人の心に入り込める不思議な能力があり、イサオの周囲には常に死がつきまとってきた。和尚を殺害した容疑で警察に逮捕され、病院に隔離入院させられていたが、行方不明となる。
陽子 (ようこ)
雅彦やイサオの同級生。雅彦に好意を持ち、中学生になると付き合うようになった。イサオに影響され、次第に普通の人生のレールから外れはじめた雅彦を案じて日常につなぎとめようとするが、雅彦はイサオを探しに旅に出てしまう。
たづえ
造り酒屋兼旅館の岩間屋の女将である老女。倒れていたイサオを家に連れ帰った。イサオの不思議な能力に触れ、彼を神様のように感じ、離れに住まわせた。イサオを慕って訪れる人々が増えるにつれて欲が出て、拝観料を取るようになった。
道仁 (どうにん)
たづえが檀家である寺の和尚:。不思議な能力で人々の信心を集めるイサオのことをインチキだと思い、馬脚を現わすよう画策する。そのうち周囲に怪異現象が頻発するようになり、ある日、墓石の中に身を屈めて変死しているのが発見された。
奈菜 (なな)
岡島にんげん農場の団長の娘。23歳。謎めいた雰囲気の美女。農場にやってきた雅彦と惹かれあい、密会を重ねるようになる。団長に結婚を申し出た二人だが、農場のしきたりとして、山の上の小屋で一ヶ月自給自足できたら結婚を許可すると言われる。
加代子 (かよこ)
岡島にんげん農場に暮らす少女。盲目となり山の上で一人で暮らす雅彦に興味を抱き、小さいころから親しく接してきた。時が過ぎ大人になった加代子は、耳も聴こえなくなった雅彦と共に暮らすようになり、結婚して福島の外れで生活するようになる。
健太 (けんた)
2011年3月、57歳になっていた雅彦は久々に故郷に戻った際に東日本大震災に遭い、津波によって家族と離れ離れになってしまう。その避難先で出会った少年が健太である。ともに一人ぼっちとなってしまった雅彦と健太は、家族を探すため被災地を探索する。
場所
岡島にんげん農場 (おかじまにんげんのうじょう)
宗教団体にも近い農業を中心とした共同体。他人同士が家族として暮らし、「話しの行」や「治しの行」といった自己研鑚の義務が課せられる。イサオと別れた後の雅彦はここに加入し暮らし始める。人間社会の縮図のようなこの地での生活に違和感を抱く雅彦は、苦悩を続ける。