掟に縛られて生きる少女の物語
主人公の郷田るなの祖母が営む火神の医学鍼灸(しんきゅう)院は、怪しげな信者ビジネスを展開している。るなは「火神の子」として生まれた宗教的シンボルで、その生活は掟(おきて)に縛られている。特に恋愛は御法度で、閉経まで処女を貫かなければならない。るなの祖母も掟に従って生きた人物で、旦那とのあいだにも性交渉はなかった。後継者を産むのは「借り腹」に選ばれた女性の役目で、るなも代理懐胎によって誕生した後継者である。
物語は高校生編から社会人編へ
郷田るなは宗教上の理由で恋愛を禁じられているにもかかわらず、クラスメイトの成瀬健章(ケンショー)に告白し、体調を崩してしまう。体調不良を神罰と解釈したるなは、ケンショーへの復讐(ふくしゅう)を意識するようになり、彼を家業の信者ビジネスに引き込もうと画策する。るなの商才に魅了されたケンショーは彼女への傾倒を強めていくが、るなの幼なじみの石川スバルが発表した個人誌「神の子Aの伝記」から自分が置かれている状況に気づき、反撃に出る。結果として、るなは高校を中退し、男性から隔離された環境で生活することになってしまう。それから10年の時が流れ、るなは家業を継ぎ、ケンショーは高齢者を標的とした詐欺紛(まが)いの投資ビジネスに手を染めるようになっていた。やがて二人は再会し、新たな物語の幕が開く。
ホスト狂いの女性と新興宗教の巧妙な手口をヒントにした作品
意志強ナツ子はホストに数千万円も注ぎ込んでいる女性の記事から着想を得て、そこに編集者から提案のあった新興宗教の話を組み合わせて本作『るなしい』を描いたと語っている。ホスト狂いの女性というモチーフは成瀬健章(ケンショー)に貢ぎ続ける女子生徒、ケンショーの口車に乗って多額の投資を行う高齢者など、作中のさまざまな描写から読み取れる。また、郷田るなが引き継ぐことになる火神の医学鍼灸院のビジネスモデルは新興宗教そのもので、自己実現を餌に信者を増やしていく描写は真にせまっている。なお『るなしい』というタイトルは狂気を意味する「lunacy」に由来している。主人公の名字である「郷田」は、意志強ナツ子が影響を受けた漫画『モリのアサガオ』の作者、郷田マモラを意識したものである。
登場人物・キャラクター
郷田 るな (ごうだ るな)
「火神の子」として育てられた女子高校生。ショートヘアで、そばかす顔で、眼鏡をかけている。祖母が営む火神の医学鍼灸院で行われている信者ビジネスの要であり、るなの経血を用いた「処女のモグサ」は高額で販売されている。鍼灸の心得があり、通っている高校にモグサを持ち込み、広報委員会の仲間に有料で施術して好評を得ていた。クラスでは「宗教の人」と認識され、いじめられていたが、モグサで体調が改善した成瀬健章(ケンショー)によって、いじめから解放される。やがて、宿命に忠実な姿を誉めてくれた彼のことが好きになり、恋愛を禁じられた身でありながら告白するが、拒絶され体調を崩してしまう。これを神罰と解釈し、ケンショーへの恋愛感情を捨てることを決意。復讐と嘯いて、ケンショーを信者ビジネスに取り込もうとする。のちに高校を中退し、通信制の高校に編入。また、鍼灸の専門学校を卒業し、家業を継承した。将来的に刑務所に収監され、幼なじみの石川スバルによって、るなの半生を綴った伝記「るなしい」が出版されることになる。
成瀬 健章 (なるせ けんしょう)
郷田るなと同じ高校に通うクラスメイトの男子で、彼女をいじめから救った。愛称は「ケンショー」。長身で、端正な顔立ちをしている。気さくな性格で、岬という恋人がいる。家は貧しい母子家庭で、ビジネスでの大成を夢見ている。しかし、過敏性腸症候群のような持病があり、アルバイトにも苦労している。ある日、るなの「処女のモグサ」に興味を示し、彼女の施術で便通が改善した。これをきっかけに友人となり、彼女の「火神の子」としての生き方に美しさを見出す。るなから告白されると、美しさが失われたと感じて拒絶したが、罰ゲームによる偽りの告白だったとの弁解を真に受けて交流を再開する。その後、るなの祖母が営む火神の医学鍼灸院に招かれ、施術を通して自己実現の喜びに触れ、それが信者ビジネスだと理解しながら、鍼灸院の常連になった。やがて「家族との縁を代償に商才を得る」という契約を火神と交わし、卒業を待たずにビジネスを開始。女子の相談に乗って対価を得るうちにジゴロの才に気づき、その毒牙をるなに向ける。
書誌情報
るなしい 4巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2021-08-23発行、 978-4065241868)
第2巻
(2022-04-13発行、 978-4065273494)
第3巻
(2023-02-13発行、 978-4065305546)
第4巻
(2024-08-09発行、 978-4065363935)