あらすじ
第1巻
1週間前に天才機械工学者の双子の弟、鈩鋼志郎を事故で亡くしたヒーロー好きの少年、鈩鉄芽は、深い悲しみを振り払うため前を向き、特撮ヒーロー番組の「ジャックマン」のオーディションへ参加したり、アルバイトに没頭する日々を送っていた。そんな折、東京タワーで開催されたヒーローショーでアルバイトをしていた鉄芽は、謎の巨大ロボットの襲撃に巻き込まれ、様子を見にきていた幼なじみの少女、白金千奈といっしょに生命の危機に陥ってしまう。逃げ場を失った千奈を必死で守ろうとする鉄芽の前に、突如として大型トラックが出現。トラックからは死んだはずの鋼志郎の声が聞こえ、その声はトラックの中に入っていた着ぐるみを鉄芽に着用するようにうながしていた。一か八(ばち)かで声に従い、その着ぐるみをまとった鉄芽だったが、着ぐるみは想像を超えた凄まじいパワーを発揮し、鉄芽は巨大ロボットを一撃で打ち倒すことに成功する。勝利を収め、千奈をはじめとする人々を救った鉄芽は、自分がまとった謎の着ぐるみに死んだはずの鋼志郎の魂が宿っていることを知るのだった。(001「俺もお前もジャックマン」。ほか、6エピソード収録)
第2巻
鈩鉄芽は、会長に囚われた白金千奈を救うため、絶対無敵要塞ドラグンガルドとして作り替えられた台東高校の校舎の2階へと乗り込む。闘技場と化した2階では、勇者の所属する「ZIPDOWN」の一員であるマモノ使いが待ち構えていた。鉄芽は、台東高校の生徒職員を魔物と化して盾にし、圧倒的に有利な状況で攻撃してくるマモノ使いに手を出すことができず、一方的に叩きのめされてしまう。マモノ使いから生徒を全員殺して先へ進むか、千奈をあきらめるかの二択を強いられた鉄芽は、そのどちらの選択肢も拒否。鈩鋼志郎のアドバイスを受けた鉄芽は、マモノ使いが盾にしている魔物の隙間をかいくぐって正確無比な攻撃を繰り出し、マモノ使いに的確にダメージを与え始める。鉄芽の予想外の強さに困惑したマモノ使いは逃げようとするが、鉄芽によって退路を断たれ、敗北へと追い込まれる。マモノ使いに勝利を収めた鉄芽は、次の階層へと進むのだった。(008「VSマモノ使い」。ほか、9エピソード収録)
登場人物・キャラクター
鈩 鉄芽 (たたら かなめ)
台東高校に通う2年生の男子。年齢は17歳。銀色の短髪で、左目から頰にかけて3本の大きな傷がある。ヒーローにあこがれるまっすぐな性格をした熱血漢ながら、顔が非常に怖いために周囲から恐れられている。学校の成績はさほどよくないが運動神経は抜群で、圧倒的な腕力とプロのスタントマンばりの身のこなしを誇る。特撮ヒーローの「仮面ジャックマン」が小さい頃から大好きで、ジャックマンの役を獲得するために、毎年オーディションに参加しているが、顔が怖すぎるという理由で毎回不合格に終わっている。双子の弟の鈩鋼志郎といっしょに幼なじみの白金千奈に思いを寄せており、小さい頃から「千奈を笑顔にする勝負」でしのぎを削っていたが、一度も鋼志郎に勝つことはできなかった。鋼志郎を事故で失ったあとは酷く落ち込んでいたが、同じく悲しみに暮れる千奈を励まして笑顔を取り戻してもらうため、自らを奮い立たせてジャックマンのオーディションへの参加やアルバイトに励むようになる。東京タワーでヒーローショーのアルバイトをしていた際に、謎の巨大ロボットの襲撃を受け、千奈と共に絶体絶命のピンチに陥るが、そこでZIPスーツと化した鋼志郎と再会を果たす。ZIPスーツを着用し、巨大ロボットを撃退してからは、着ぐるみのヒーロー、ジップマンを名乗るようになり、奪われた鋼志郎の体を取り戻すため、会長が率いる組織「ZIPDOWN」のメンバーと戦うようになる。鋼志郎からは「デビルゴリラ」と呼ばれていた。
鈩 鋼志郎 (たたら こうしろう)
台東高校に通う2年生の男子。年齢は16歳。眼鏡をかけた黒髪の聡明な人物で、世界的に有名な機械工学者にして、鈩鉄芽の双子の弟。12歳でアメリカMITの博士号を取得し、15歳でロボット研究・開発会社の「STEEL-X」を立ち上げたほどの天才でもある。一見するとおとなしそうに見えるがヒーローにあこがれており、思ったことをはっきりと発言する実直な性格で、実は鉄芽に負けないほどの熱血漢。世のため人のためとなる発明を続けていたが、不慮の事故により若くして命を落とす。その死は鉄芽や幼なじみの白金千奈をはじめ、世界中の人々に衝撃を与えた。しかし実際は死んではおらず、会長が差し向けたZIPスーツに魂を閉じ込められた状態になっており、体は脳死のまま別の場所に囚われている。鉄芽と千奈が、東京タワーで巨大ロボットに襲われている際に姿を現し、鉄芽にZIPスーツとなった鈩鋼志郎自身を着用させ、みんなを救うヒーローとなることをうながした。その後は、鉄芽と共にジップマンを名乗り、鉄芽との二人三脚で会長が率いる「ZIPDOWN」の会員と戦うようになる。鉄芽と同じく千奈に片思いしており、二人のあいだで行われていた「千奈を笑顔にする勝負」では毎回鉄芽に勝利していた。鉄芽のことは「デビルゴリラ」と呼んでいる。
白金 千奈 (しろかね ちな)
台東高校に通う女子。年齢は17歳。前髪をヘアピンでとめたショートカットで、鈩鉄芽と鈩鋼志郎の幼なじみ。明朗快活な性格の持ち主で、鉄芽と鋼志郎の初恋の相手。鉄芽と鋼志郎がヒーローになろうと努力する原動力となる、太陽のような存在でもある。鋼志郎が不慮の事故で亡くなったあとは悲しみ暮れていたが、彼鋼志郎の遺志を継ぎ、必死で夢をかなえようとする鉄芽の姿を見て、自らも前向きになろうと努力していた。当初はZIPスーツとなってしまった鋼志郎のことも、ジップマンの正体が鉄芽であることも知らなかったが、絶対無敵要塞ドラグンガルドでの戦いで鉄芽に救助されたあとに、すべての真相を知ることになる。その後はロボット研究・開発会社の「STEEL-X」の一員として、鋼志郎の体を取り戻すために会長が率いる「ZIPDOWN」の会員と戦う際のサポートをするようになる
会長 (ちぇあまん)
世界に混乱をもたらそうと企む謎の組織「ZIPDOWN」のトップを務めている人物。性別は不明。猫のような姿をしたZIPスーツを着ており、その正体は謎のヴェールに包まれている。欲望を持つ人々に強大な力を与えるZIPスーツを配って会員とし、好き放題に暴れさせることで、世界を混沌へと導こうとしている。言葉遣いは非常に丁寧だが、任務に失敗した会員は容赦なく始末するなど、冷酷非情な性格の持ち主。
勇者 (ゆうしゃ)
世界に混乱をもたらそうと企む謎の組織「ZIPDOWN」の会員。性別は不明で、鎧のような風貌のZIPスーツをまとっており、非常に背が高い。ファンタジー世界の勇者を気取り、女戦士、ドラゴン、マモノ使いとパーティーを組んでいる。会長の命を受け、台東高校を襲って校舎をファンタジーの城に似た絶対無敵要塞ドラグンガルドへと作り替え、校内に残された生徒と職員に物語の登場人物の役割を与えたうえで、勇者自身が望む独善的な世界を作ろうとしていた。ドラグンガルドに侵入した鈩鉄芽によって野望を阻まれ、最後に会長に始末される。
マモノ使い (まものつかい)
世界に混乱をもたらそうと企む謎の組織「ZIPDOWN」の会員で、勇者が率いるパーティーの一員。性別は不明。小動物のようなZIPスーツをまとっている。オドオドとしゃべることから臆病な小心者に見えるが、実際は計算高いうえに冷酷な性格をしている。絶対無敵要塞ドラグンガルドに取り残された生徒や職員を魔物に変化させ、ドラグンガルドに入り込んだ鈩鉄芽に対し、魔物を盾にしながら攻撃を仕掛けていた。
女戦士 (おんなせんし)
世界に混乱をもたらそうと企む謎の組織「ZIPDOWN」の会員。勇者が率いるパーティーの一員で、性別は不明。髪が長い女戦士風のZIPスーツをまとっており、武器の収納箱に見立てた巨大な3Dプリンターを背負っている。3Dプリンターから巨大な斧や鉄球といった多彩な武器を取り出し、自在に扱うことができる。絶対無敵要塞ドラグンガルドに入り込んだ鈩鉄芽を倒そうとするが、あっさり返り討ちに遭った。
ドラゴン
世界に混乱をもたらそうと企む謎の組織「ZIPDOWN」の会員。勇者が率いるパーティーの一員で、性別は不明。龍に似た姿のZIPスーツをまとっており、自由に空を舞うことができる。自分に絶対の自信を持つ策略家で、絶対無敵要塞ドラグンガルドに入り込んだ鈩鉄芽の弱点を見抜いたと嘯(うそぶ)いたうえで鉄芽と対峙するが、一瞬で鉄芽によって倒される。勇者からは「ドラさん」と呼ばれていた。
孫悟空 (そんごくう)
世界に混乱をもたらそうと企む謎の組織「ZIPDOWN」の会員。性別は不明で、猿のような風貌をしたZIPスーツをまとっており、全会員の中でもトップクラスの実力を誇る猛者(もさ)中の猛者。陽気な性格で言動はチャラく、命を懸けた戦闘中でもどこか飄飄(ひょうひょう)としている。筋斗雲に乗って自由自在に空を飛ぶことができ、どこまでも伸びる如意棒を使って相手を叩きのめす。ZIPスーツに入っている人物は元傭兵で、会長自らが超高額の報酬をエサにスカウトした過去を持つ。
キューティーチャーム
世界に混乱をもたらそうと企む謎の組織「ZIPDOWN」の会員。女性アイドルのような姿をしたZIPスーツをまとっている。日曜の早朝に放送している女児向け番組の主人公に成りきっており、仕草や口調を完コピしている。自分にZIPスーツを与えてくれた会長に恩義を感じているため、会長の活動を妨害する鈩鉄芽を探して殺害しようとしていた。言動は女性っぽいが、実際にZIPスーツに入っているのは女性アイドルが大好きなイケメン男性だった。
辺見 護 (へんみ まもる)
ロボットの研究・開発会社「STEEL-X」に勤めている男性。年齢は24歳で、つねにマスクを着用している。190センチ近い長身で、腕っぷしが強い。ZIPスーツに魂を移されてしまった社長の鈩鋼志郎の秘書的な役割も担っており、彼に忠実に仕えている。
半田 すず (はんだ すず)
ロボットの研究・開発会社「STEEL-X」に勤めている女性。年齢は28歳。ざっくばらんな性格で、グラマラスなスタイルを誇る。巨大ロボットの襲撃で混乱する現場に平然とした顔でトラックで乗り込むなど、荒事にも慣れている。ZIPスーツに魂を移されてしまった社長の鈩鋼志郎に対しても、それまでと変わらない姿勢で接していた。
場所
絶対無敵要塞ドラグンガルド (ぜったいむてきようさいどらぐんがるど)
ファンタジー風の巨大な要塞。「ドラグンガルド」とも呼ばれている。「ZIPDOWN」の会員である勇者の要望を受け、会長が台東高校を改造して作り上げた。城塞のような構造をしており、内外に侵入者を防ぐさまざまなギミックが仕込まれているため、容易には中に入り込むことができない。
その他キーワード
ジップマン
鈩鋼志郎の魂が封じ込められたZIPスーツをまとった鈩鉄芽が、ヒーローとして活躍する際の名前。当初は特撮ヒーローと同じ「ジャックマン」と名乗っていたが、本家に失礼であるという鋼志郎の提案を受けた鉄芽が、独自のインスピレーションを得て名づけた。
ZIPスーツ (じっぷすーつ)
精巧な機械式の着ぐるみ。着用した人間に強大な力を与える。単に「スーツ」とも呼ばれている。「ZIPDOWN」を率いる会長が、野望と欲望を抱く人間にZIPスーツを与え、思うがままに暴れさせて世界を混沌へ導こうとしていた。