主婦に起きてそうな日常をマンガ化! 小田ゆうあの世界124 Pt.

主婦は女ではない!? いえいえ、女性である。子供が幼い時は、子供中心で母性の強い母親であるが、子供が大人への第一歩を踏み出してきたとき、主婦は女に変わる――。マンガ家「小田ゆうあ」の2作品から幼少期の母親と、思春期の母親の価値観の違いを比較する。

「ダンナが健康でいてくれたらいい」、「子どもが笑顔で元気いっぱいならいい」と結婚後、家族のために家事全般を完璧にこなす主婦「上条夏」。家族に尽くす一方、自分のことにはお構いなしだった。しかし、最近長女の優美香（ゆみか）が女を捨てている母にイライラしていた。母の格好が悪いので一緒にいるのが恥ずかしいという。夫の義行（よしゆき）はそんな夏を、「おかあさんとはあーいうもので、見ていると面白く、けっこーなごむ」と呑気にフォローしたのもつかの間、夏の容姿が気になる事件が起こる。義行は会社の飲み会で、部下が酔って家に帰れなくなったので、同期の自宅に連れて行った。同期の奥さんが深夜にお邪魔したにもかかわらず、ものすごく身きれいなのであった。しかも、妊娠していた!! この家庭には夜の営みがあるということにも驚いたのだ!! 自宅に帰ると、夏が裸で鍵を開けてくれた。びしょぬれのまま自分の姿を気にしない夏と、同僚の奥さんとの違いに、義行は落胆してしまう。抱きたいと思った夜もあったのに、今は――。

この事件をきっかけに、夏が少しでも女らしく変わっていくことを望むようになった義行は、部下で派遣社員の佐伯龍（さえきりゅう）に「妻を軽く誘惑してほしい」と頼んだ。住む場所に困っていた佐伯に、社宅住まいを容認するのと引き換えに……。佐伯は渋々ながらもその提案を受け入れた。一方、夏は同じ社宅に住む小牧（こまき）さんが28歳の若い男と駆け落ちしたというニュースを聞く。小牧さんには優美香と幼なじみの息子がいた。夏は家族を捨てて恋愛をした小牧さんが信じられない。自分にはあり得ないことだと思っていたが……。

『ふれなばおちん』では家庭を守る主婦が「女」を求められてしまう。自分がきれいでいることに時間を使うよりも、「家族が喜ぶような美味しいごはんを作ることに時間を使いたい」、「もう一度女になるには余程の恋愛がないと……」といった心情が伺えるが、これは家族の破綻を意味する。今更、「女」に戻らなくてもいいと思っている主婦が、急に色気づいたらどうなるのか。主婦の日常で急に「恋愛」という事件が起きたらどうなるのか? といった点に注目して欲しい。「月刊office YOU」にて2011年から2014年まで連載され、全11巻と完結している。2016年6月28日からBSプレミアムで毎週火曜夜11時15分からドラマ化もされ、絶賛放映中だ。

都市郊外に昔からある住宅街のこばと幼稚園へ通う子供を持つ主婦が主役のマンガ。真野は年長の息子、尊（たける）がやんちゃすぎるため、近所や幼稚園でトラブルになり、ママたちから壮絶な無視攻撃をくらい、ノイローゼ直前になりかけ、主人の提案でこばと台市に引越してきた。新しい幼稚園はみんなあったかくて尊の乱暴や悪ふざけに寛容だが、一人「斉藤さん」だけは違った……。お友達に暴力を振るうことや公共の場で騒ぐことなど、悪いことをしたらよその子供でも徹底的に叱り、注意する。周りからつまはじきにされ、いつも一人でいる斉藤さんを、真野はなぜか気になってしまう。そんな中、歩きタバコをしていた青年のタバコが尊の顔についてしまい、やけどをしてしまう。真野は青年達に怒りが立ち込めるが注意できない。やけどを冷やしに場を移動しようとすると、斉藤さんが青年達にくってかかり、尊に謝るように言うが――!!

『ふれなばおちん』では「女」を求められていたが、「斉藤さん」ではまた別角度で主婦について描かれている。幼児を持つ母親の気まずい問題を、ここぞとばかりに提起してくれたマンガ。相手の母親に気を使うあまり、その子供が悪いことをしていても注意できずに影で悪く言い合ったり、周りの子供達がマナーを守らなくて腹が立っていても、問題を起こしたくないから、その場から離れたりし何もできなかったり……。「自分の思いを言いたいのに言えない」そんな主婦のカリスマ的存在が『斉藤さん』になる。「悪いことを悪いと思えない人をほうっておく方が怖い」という信念の元、周りに嫌われても一人でいても、戦い続けている『斉藤さん』の姿勢は、今日の主婦達の悩みが解決されるような、また、解決できなくてもこのマンガを見てすっとするような、そんなマンガである。色っぽい部分は全くなく、子供をいかに育てるか、母親が自己中心的に子供を育てていないか、教育とはなにかなど、ヒューマン的な要素がたっぷり盛り込まれている点に注目して欲しい。この作品は2006年から2011年まで集英社「月刊office YOU」に連載され、2008年に日本テレビ系でドラマ化された。2013年には「斉藤さん2」のドラマも放送され、本作への人気が伺える。

今回紹介した2作品ともに主婦の「リアル」を追求した、「小田ゆうあ」が思い描く仮説ストーリーとなっている。主婦の方や主人の方、これから結婚する方とどの角度から読んでも色々と考えるきっかけをくれるだろう。妙にリアルな「小田ゆうあ」の世界を是非一度、体感して欲しい。