2040年、人類を襲ったMKウイルスは、たったの3か月で世界中に感染爆発を引き起こした。男性が死に絶え、民衆が暴徒化する中、無政府状態に陥った各国政府は女性による国際連盟United Women(UW)に統治権を移譲。世界はつかの間の安定を取り戻した。怜人の幼なじみで医学生の橘絵理沙(たちばな えりさ)は、MKウイルス撲滅のための研究を進めていたが、ある日突然、失踪してしまう。MKウイルス・パンデミックは自然発生ではなく、UWによって引き起こされた惨劇であることに気づいてしまったからだ。
周囲の誰も信用できなくなった橘は、反UW組織イザナミの勧誘を受けてゲリラ解放戦線を組織するが、結果的にイザナミ主流派と対立。ワクチン開発に向けて別行動を開始する。怜人を日本から脱出させた後は、香港の反UW勢力と接触し、ワクチン開発の基になるMKウイルス結晶を入手。ヨーロッパのロスアニア公国にある最先端の研究施設で、ついにワクチンの開発に成功する。こうして橘は、MKウイルス感染を逃れてコールドスリープについた何百万の男性にワクチンを投与し、パンデミック以前の世界を取り戻そうとする。橘にとって「女だけの世界」は歪なものであり、人類という種の存続は、あくまでも男女の自然な愛情の結果として実現するものであるからだ。
クロエ・マンスフィールドは、MKウイルスを世界にばらまいたUW世界本部の平和維持活動局局長を務める白人女性。マザーと呼ばれる存在の指示に従い、UWの世界統治を盤石なものとするため、プロパガンダの情報統制やさまざまな裏工作を展開している。当初はアメリカからの留学生を装って怜人に接触したクロエだが、実は活動可能な「男」の存在を秘匿するUW日本支部の調査を任された使者であると明かす。だがそれは決して平和の使者ではなかった。クロエは、アメリカのUWから離脱して独自路線を歩もうとしていた日本支部の国務長官、鬼原(きはら)を拘束し、MKウイルス製造と拡散の罪をすべて被せようとする。さらに反UW組織イザナミを悪質なテロリスト集団と認定し、テロとの戦いを口実に、反乱の芽を摘み取ろうとする。
そんなクロエの願いはただ一つ。「男」という時代遅れの性をこの世から消し去ること。男は暴力・差別・戦争といった理不尽の源泉だと考えるクロエとUW本部は、女性の遺伝子だけで子どもを産むバイオ技術を確立し、女性だけの理想郷を建設しようと企てる。
UWによる男性絶滅計画にくみすることなく、密かに別の道を模索していたのがUW日本支部の国務長官、鬼原だ。細胞硬化症の男性にMKウイルスへの抵抗力があると知った鬼原は、男女の子づくりを「メイティング」と名付け、一人ひとりの男がオーダーメイドで性的欲求を達成できるメイティングシステムの整備を進行していた。最適な生殖環境へのこだわりは並外れており、怜人の思い人である橘絵理沙の存在を知ると、すぐにメイティングへの協力を依頼。絵理沙が病で子どもが産めない体であることが判明すると、彼女の遺伝子からクローンである周防美来(すおう みら)を作成し、成長促進器と高速学習装置で急成長させて怜人を世話する「担当官」の任に就かせた。
政治的指導者の立場から人類という種の存続を考える鬼原からすると、男女間の愛は生殖のための手段に過ぎない。そのために、少しばかり倫理的な問題があろうとも、男が自発的に発情する環境を管理し、性欲をコントロールすることが最優先の政治課題になっている。
出芽輝奈(いずめ てるな)はMKウイルスのパンデミック前は中堅製薬会社の課長を務めるキャリアワーカーだった。パンデミックで世界が一変した後、出芽はUWの世界統治に対抗するイザナミの中心人物の一人となり、反UW活動を展開する。男女関係に基づいた世界秩序の回復を目指す点では絵理沙や鬼原と変わらないが、出芽の場合は、男を聖なる象徴である「イザナギ」に見立てた原始共同体の復活を望む。いわば乱世を治める暴力的な父の役割を男に求める。
そこでイザナミは、UW日本支部が秘匿していた5人の男の一人である木根渕善(きねぶち ぜん)の身柄を確保し、彼女たちの村に連れ去る。さらに焼きごてで“聖奴隷”の烙印を押して軟禁。毎日のように女たちが精を搾り取り、精根尽き果てたところで特別な精力剤を与えて興奮させた後、イザナギ降臨の儀式を開始する。もともと気弱で軟弱な男だった善だが、この儀式を通じて性と生の悦びで女を救済する新たな教祖として覚醒。精力絶倫の怪物となった善を、出芽は満足げに出迎えることになる。
神谷花蓮(かみや かれん)は、5人の男の一人である土井翔太(どい しょうた)の担当官を務めるUW日本支部の構成員だ。コールドスリープから目覚めた翔太が適応不全を起こさないよう、彼の生活の舞台となるメイティング用の学園を準備。また、いじめられっ子で童貞の翔太から女への苦手意識を払拭するため、女たちによる翔太争奪戦を煽るさまざまな企画を仕掛けていった。花蓮の行動により、もともと優秀な頭脳を持っていた翔太は自信に満ちたエリート男性に変貌を遂げる。
翔太の人格改造を事もなげに達成する花蓮は、UWの中でも飛び抜けて有能な女性であるが、彼女の野望は、一担当官の器に収まるものではない。UW本部から派遣されたクロエとの面談では、日本国民の保護が目的と言う彼女に対し、それがUWによる日本支配であることを喝破。日本の統治は日本人に任せるべきと主張し、自身に国務長官のポストを渡せと要求する。花蓮の目的は、世界トップの地位に君臨すること。徹底的な個人主義者である彼女にとって、社会における男の有無はたいした問題ではない。それらすべての状況を利用し、世界の頂点に立つことが、花蓮の最も刺激的な人生の楽しみである。