「字」の美学を突き詰める！書道漫画オススメ５選70 Pt.

書道部というと、ひたすら筆で字を書いているイメージがある。実際、書の道を究めたいという生徒が入部しているのだから当然だ。だが、世間一般の書道部のイメージと、実際の書道部の実態は少し違っているように感じられる。鈴里高校書道部ではまず、新入生へのクラブ活動説明会で、流行した曲の歌詞を大きな紙に書いてみせた。これは書道パフォーマンスと呼ばれるもので、音楽に合わせて大きな紙に歌詞を揮毫（毛筆で文字や書画を書くこと）する。墨で字を書くだけでなく、絵を描いたり、彩色したりと、自由な表現によって分かりやすい形で書の魅力が引き出される。黙々と筆を持って紙と向き合うというイメージしかないと、想像以上に躍動的な書道部員に驚かされるだろう。文化部なのに体力的にも運動部並みにキツかったりするらしい。あまり動かないというイメージを持っているとことごとく覆される。本作は、帰国子女である縁が書道初心者なので、一緒に学んでいる気持ちになれる。鈴里高校書道部員になったつもりで、筆を握ってみたい。

筆できれいな文字を書ける人は、一般的には無条件で尊敬できるものだ。しかし書道界では、お手本のように上手である、という言葉が誉め言葉にならないのだから、中々難しいものである。絵画で考えれば、写真のように精巧に模写する絵だけが高評価を得ているわけではないのだから、文字の芸術たる書もきれいなだけでは評価されないのだろう。半田は暴力事件を起こしたことがきっかけで、五島列島にやってきた。彼を先生と呼び慕ってくる子どもたちと不本意ながら遊んだり、島の住人たちと地域行事に参加したりと、書に没頭するつもりでいた当初の予定とは裏腹に、島民との交流は多い。書以外のことをしていたからか、賞が取れずに思い悩むこともあるが、半田の文字は徐々に変わっていく。それは、島での暮らしで心が前よりもずっと豊かになったからなのだろう。島の住民と打ち解けていくにつれ、表現方法が変化していくところが興味深い。半田の成長を通じて、文字表現の奥深さを知ることができる。

子どもの習い事の定番の一つが習字や書道である。きれいな文字が書けるようにと、せっせと通った経験を持つ人は少なくないだろう。習字や書道の先生は高齢というイメージがあるのは、年齢を重ねた人ほど字がきれいという印象があるせいだろうか。圭の祖母は書道教室の先生だ。眼鏡をかけた穏やかそうな人物で、圭は骨折した祖母の代わりに書道教室の先生になるのだが、ここで疑問が生じる。書道の先生ってどうやってなるのかと。実は先生になるのに資格は必須ではない。誰でも教室を開くことができるが、運営していくのは難しいという世界のようである。圭の場合、大学で学んだ経験があり、教室の先生である祖母の推薦がある状態だったからこそ、躊躇はあったものの先生になれたのだろう。書道教室には老若男女、背景も様々な生徒が通っている。書く文字から彼らの人生が透けて見えるようだ。文字をきれいに書くだけではない、自己を表現する方法まで教えるとは書道教室の先生も大変だ。

世の中には努力によって高みを目指す人と、生まれながらに才能に恵まれた人がいる。どの分野でも同じことだが、本作では前者が薫で後者が真琴だ。薫は芸術一家に生まれ、幼い頃より書に親しんできた。身内が一流だと辛いところは、天賦の才の有無をはっきりと見極められてしまうところである。特別な才能がないからこそ人一倍努力し、自分の追うべき理想を模索していく薫は、かなりストイックだ。他者への物言いが少々きついのも、自身が努力しているからこそなのだろう。対する真琴はバスケットボール部に所属する高校1年生。書道の心得はまるでない。しかし「好き」を毛筆で書いただけで、様々な書に親しんできたであろう滝沢の心をも動かしてみせた。けっしてきれいでも上手でもないが、力強い筆さばきである。薫と真琴、性格も大いに違う二人だが、書だけを見てもこれだけの違いがあるのだから興味深い。きれいな薫か豪快な真琴か、自分がどんな文字が好きなのかを知るきっかけにもなりそうだ。

書道は文字を書く芸術である。文字は様々な事柄を表すもので、文字の持つ意味と形の美しさが相まって書は芸術として成り立つのだろう。そんな書道、ファンタジーな設定と相性が悪いわけがない。文字を書いて変身する戦隊ヒーローがいるのだから、筆で文字を書いてバトルをしても何らおかしくはない。むしろ、とても日本的なファンタジー設定だと言えるだろう。スバルの祖父、道厳は書家で人間国宝だ。文部科学大臣が認定した、特定の技術を保持している人物のことを表す通称で、現実には書道での人間国宝は存在していない。しかし、道厳が「魔繰筆」を駆使しているその戦いぶりを見ると、人間国宝というのもなるほどと思わされる。魔繰筆とは、漢字一文字を具現化することができる、不思議な筆である。正しい書き順で書いた文字は具現化し、戦う力となるのだ。画数で強さが決まるという、独自のバトルシステムも存在している。さらに、美しい文字は強いのだという。新しい書道の美に対する概念である。