放浪癖がある父親の帰りを待ちながら、仏像修復の工房を守っていく家族の姿を描いたヒューマンドラマ。伝説の仏師・英道吉(はなぶさどうきち)には、4人の子供がいた。長男の京一郎(きょういちろう)は仏像修復師、次男の龍之介(りょうのすけ)は美術大学教授の助手、三男の翔太(しょうた)は美術大学生、長女の彩葉(いろは)は高校生。道吉は仏像を修復する「はなぶさ美術工房」を営んでいたが、放浪癖があり、ある日突然行方知れずに。妹の彩葉の工房に対する想いに心動かされ、龍之介が中心となって工房を自分たちで守っていくことになる。
貴重な文化財でもある仏像の多くは遥か昔に作られたものだが、現代に生きる私たちが今でもその現物を拝めるのは、仏像のお医者さんとも言える仏像修復師たちのおかげでもあるのだ。本作では仏像修復師を主軸とし、その仕事内容や金銭問題など修復の裏側についても描かれている。作られた仏像全てに意味があるが、全てが現代まで残っている訳ではなく、残っているものにはそれだけの価値があるということ。父親の工房を懸命に守っていくことになった子供たちは、修復作業や依頼主とのやりとりを通じて少しずつ成長し、家族間の絆を強めていく。作中では修復技術や仏像の構造なども描かれ、読めば自然と仏像への理解が深まり、興味が湧いてくることだろう。
乱世を舞台に、人を襲う仏像と、この世全ての仏像を憎み破壊しようとする者の戦いを描いた仏像バトルアクション漫画。「仏破(ぶっぱ)」とは、自らの意志で人を襲うようになった「野良仏(のらぶつ)」を退治する仏像破壊屋の通称だ。ある日、スルガの国に18歳の仏破・無道悪丸(むどうあくまる)が現れる。幼い頃に両腕を失い、仏像の一部を自らの体として使うことができる力を持つ悪丸は、その力を利用して野良仏と戦いながら、仏像に対する激しい憎悪の気持ちをぶつけるのだった。
本来の仏像は、悩める人の心の拠り所となるもののはずだ。しかし、本作の舞台は仏像が兵器として利用されるようになった世界で、人の制御を離れて自らの意志で人や村を襲う「野良仏」が登場する。主人公の悪丸は凄絶な過去を生き抜いてきたこともあり、激しい気性の持ち主だ。特殊な力が宿っており、憎き仏像の体を用いて人であろうと仏であろうと、気に食わないものは全て壊していく。仏師の羅刹は良からぬ計画を企て、僧侶の浄雪は自らの思想が暴走し、やがて鎌倉は不動明王や阿弥陀如来などの野良仏によって崩壊の危機が迫るようになる。最強の仏破である悪丸は鎌倉を救うことができるのか。迫力のあるバトルシーンも見応えがあるが、綿密で重厚な仏像の描写に作者の念を感じる作品だ。
仏像を彫り上げる仏師がある女性と運命的な出会いをし、生きる意味を問い続ける表題作の「仏師」他、「雨夜三人話」「むが」も収録した短編集。「仏師」の舞台となるのは乱世の荒れた小国。主人公は、村人から忌み嫌われている仏師の魚人(おびと)。ある日、魚人が住む村に、領主の嫁として美しい耶十姫がやってくる。その面差しは正に魚人が仏像を彫り上げるにあたって理想とする顏。しかし、その娘は行く先々で死をもたらすという意味で「死神」と呼ばれる姫だった。
仏師にとって、彫り上げる仏像の顏を決めることは、極めて重要なこととされている。本作の主人公は仏師の魚人。偶然出会った耶十姫の面差しに感じるものがあり、その面を仏像に彫りたいと彼女に願い出たことをきっかけに、魚人や耶十姫を中心とした人々の人生が交錯していく。生まれながらに業を背負い、吃音で上手く喋ることもできない魚人は、自分が生まれ、生き続ける意味を問いながら、叫びのような想いを仏像に託して彫り上げる。乱世の時代は力が全てであり、弱き者は虐げられるが、いつの時代も人は悩み苦しみながら、それでも必死に生きている。神仏を信じている訳ではない魚人が何故仏像を彫るのか。作中の言葉には重みがあり、人や仏、慈悲について考えさせられる内容だ。
鎌倉時代前後を舞台に、不思議な力を持つ主人公が仏と共に戦う仏像ファンタジーバトル漫画。主人公の想(そう)は、自分で彫り上げた仏像に神仏を召喚できる来迎術を持つ仏師。鎌倉時代の平泉で、明星菩薩(みょうじょうぼさつ)を召喚して戦うが地神であるミズチに喰われ、半身を失ってしまう。しかし、同じく半身を失った明星菩薩と融合し、運慶によって新たに想運(そううん)と名を与えられて復活。想運は明星菩薩と一心同体となり、意識を共有しながら都を守る戦いに身を投じることとなる。
本作の主人公である想運は、本物の神仏を喚び寄せることのできる特別な力を持つ仏師。戦いに敗れて明星菩薩と融合したことで、右半身が人間、左半身が仏という姿になる。明星菩薩は天と宇宙を司る虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)の化身であり、人に知恵を授けるとも言われている。想運が仕える源氏と敵対関係にある平教経(たいらののりつね)は、日本全土のミズチの力を借り、平家の復興を目論んでいた。想運たちは彼らと対立するが、その先には罠が待ち受けていた。また、作中には実在した天才仏師として知られる運慶やその息子・湛慶(たんけい)をモデルにした人物も登場。仏像の種類や知識も織り込まれており、仏像に詳しい人も初心者もそれぞれの楽しみ方ができるはずだ。
仏像好きの作者が様々な場所に祀られている仏像を求めて旅し、仏像の見所や魅力について綴る仏像紀行エッセイ。作者の真船きょうこは大学時代に受けた授業をきっかけに、急激に仏像に興味を持ち始め、一気に仏像マニアへまっしぐら。大学に入るまでは仏像に無関心だったことが嘘のように仏像の世界にのめり込み、日本各地の寺院を仏像目当てに訪れるようになっていく。仏像ファンにはもちろん、初心者にも仏像の魅力が伝わり、仏像巡り入門書として役立つ一冊。
仏像は全国各地の寺院に祀られており、仏像巡りのために様々な場所へ旅行するという仏像ファンも多いことだろう。作者が訪れた場所は京都、奈良、尾道、鎌倉、平泉などの日本にとどまらず、海外のタイにも及ぶため、本作では日本と海外の仏像の違いも楽しめる。今では本を出すくらいに仏像マニアとなった作者も、美術大学での授業を受けるまでは、仏像といえば奈良の大仏しか知らなかったという。仏像マニアならではの視点や切り口で仏像の魅力を紹介する一方で、仏像に興味を抱くようになったきっかけや惹かれたポイントについても詳しく描かれているところが興味深い。様々な仏像の楽しみ方を教えてくれる本作が、仏像マニアへ繋がる道の一歩目となる人もいるのではないだろうか。