猫を庇って事故死した主人公が、見返りとして異世界に転生し、授かったチート能力で好きな物作りをしながらスローライフを送ろうとする、異世界転生ファンタジー。ブラック企業に勤めるサラリーマンの但箭英造(たんやえいぞう)は、猫を助けるためにトラックにはねられてしまう。そのまま死んでしまうかと思われたが、異空間で目覚め、そこで猫耳フード姿の何者かに声をかけられる。その何者かは英造に助けられた猫だと名乗り、しかも無数の並行世界を渡り歩く「世界を見張るもの(ウォッチドッグ)」という役割を持っていた。猫を助けた見返りとして、英造は好きな物作りに関するチート能力を授かり、異世界で新たな人生を歩むことになるのだった。原作はたままるの同名web小説。
本作は、猫の恩返しから始まる異世界転生物語である。天涯孤独、ブラック企業で働く初老の男だった英造は、トラックに轢かれかけた猫を助けて死亡したことで異世界に「エイゾウ・タンヤ」として転生することになった。恩返しというだけあって様々なチート能力がエイゾウには授けられているが、その中でも刀鍛冶に特化した能力によって異世界での道を切り開いていく。初老ということもあり、作中でのエイゾウは終始落ち着きはらっており、自分の能力や現状を冷静に分析する姿に浮足立ったところはない。鍛冶屋としてどう商売をしていくか、地に足をつけて堅実に生きていこうとする姿に好感が持てる。また、獣人の少女、サーミャの天真爛漫さが良いアクセントになっている。こんなスローライフを送ってみたい。
人の良さそうなコンビニの深夜アルバイト店員を中心に、他の店員や店を訪れる客たちの人生を垣間見るヒューマンドラマ。島さんは深夜のコンビニで働く初老の男性。人当たりが良く接客態度はまじめだが、コンピュータ関係は苦手。相方を務める子関(こせき)は、頼りなさを感じていた。ある日、深夜のコンビニに不良少年たちがやってくる。子関は年齢確認を行おうとするが、少年たちに絡まれてしまう。年齢確認をしないまま売ってしまおうかと子関が思った時、休憩中だった島さんが姿を現すのだった。
島さんは深夜のコンビニで働く初老の男性である。人当たりが良く、無理難題を突き付けてくるお客にも笑顔で対応する。機械類にあまり明るくないのは、高齢だからだろうか。客対応は完璧でも、少し頼りなさを感じてしまうのは仕方がないだろう。だが、複数のアルバイトを掛け持ちする島さんには、実はある秘密があった。第1話では、島さんの持つ秘密が垣間見られるエピソードが登場する。未成年の不良少年たちにタバコを販売できないと断る島さんには、柔和で落ち着いた態度ながら有無を言わせない圧がある。グループの中で誰がリーダー格なのか を見抜く眼力もあり、只者ではない。ただあの笑顔には人をほっとさせる力がある。島さんが働く深夜のコンビニ、ふらっと立ち寄ってあの笑顔に出迎えてほしくなる。
恋人との関係に疲れた男女がオンラインゲームのオフ会で出会い、ゆるく心と体をつなげていく自由な大人の物語。村田は束縛してくる彼女に疲れ、別れを切り出す 。同時期、言動を注意してくる彼氏の姿勢に辟易した友香も、彼氏と別れてしまう。偶然、同じオンラインゲームで遊んでいた2人は、オフ会に参加すること。その会の中で、村田と友香は互いに同じような感覚を持っていることを確信する。2人だけの飲み会を経て、ホテルへと向かうのだった。
ラブストーリーと表記するほど甘さはないが、男女の関係を描く物語である。村田は秒でトークアプリの返信を求められ、好きなところを延々と言わされる関係に疲れ、2年交際した彼女と別れた。友香は性に対する明け透けな発言を彼氏に注意されることが多く、自分を押し殺す関係に疲れ別れてしまう。そんな2人が出会い関係を持つことになるのだが、村田と友香による会話のテンポや空気感は面白く心地よい。話の内容には性的なことも含まれるが、2人の表情に照れや恥じらいはなく、いたって普通のテンションで話している。むしろゲームの話題のほうが真剣だったのではないだろうか。お互いに関係を発展させようという熱はないが、ガツガツした部分がないゆるさがリアルだ。男女の関係も、互いを尊重する自由さがあってこそ。だからこそ、「こういうのがいい」。
婚約破棄された主人公が、とあるものを落としたことがきっかけで知りあった男性と恋に落ちていくシンデレラストーリー系ラブコメディ。商人上がりの子爵家令嬢であるフレデリカ・キャストレイは、パーティの最中に婚約者の公爵家嫡男ユージィンから婚約破棄を言い渡されてしまう。なぜか同じタイミングでパンツの紐が切れてしまったせいで、フレデリカは急いでその場を離れるが、支度部屋にたどり着く前に人にぶつかってしまう。相手の足に絡んだ自らのパンツを目撃したフレデリカは、ショックを受けて意識を失うのだった。原作は小山内慧夢の同名web小説。
婚約破棄から始まるラブストーリーなのだが、婚約破棄後の恋の始まりが一風変わっている。シンデレラさながらに落とすものは、パンツなのである。パンツ。中世ヨーロッパ風の世界が舞台であるので、淑女の正装はドレスだ。他に下着を着用していなければ、当然パンツが唯一の下肢装備である。そのパンツの紐が婚約破棄を言い渡されたタイミングで切れてしまったのは、フレデリカにとって二重の受難だろう。結果として運命の人に出会うのだが、出会いのインパクトとしてはかなり強烈である。キャストレイ家自体が商人気質ということもあり、フレデリカもお淑やかさよりも利発さが印象的な少女だ。婚約破棄で落ち込んでも、自身を冷静に分析する力がある。受難をばねに、新しい恋を実らせてほしい。
中華風の世界を舞台に、儚くも美しい容姿を褒めたたえられてきた虚弱体質の主人公が、蔑まれている少女と体を入れ替えられ、鋼のメンタルで乗り越えていく中華入れ替わりファンタジー。詠国(えいこく)後宮、次期妃候補たちが暮らす雛宮(すうぐう)に暮らす黄家の玲琳(れいりん)は、その可憐な容姿と心根から人々に愛されていた。一方、「どぶネズミ」と蔑まれる朱慧月(しゅけいげつ)は、ほうき星が流れた夜に玲琳を楼から突き落とす。目を覚ました玲琳は、自分が慧月になっていることを知るのだった。原作は中村颯希の同名web小説。
外見の印象と心の内面が一致することはまれだ。儚げな少女のメンタルが実は強靭であってもおかしくない。玲琳は可憐な容姿をたたえられ、人々に慈しまれて育った。羨望のまなざしを受ける彼女が唯一持っていないものがある。健康な体だ。すぐに意識を失う体では、日常生活も難しいだろう。そんな彼女が、朱慧月と体が入れ替わってしまった。慧月は誰もがうらやむ美貌と立場を手に入れ、玲琳は自分がずっと望んでいた健康な体を手に入れる。手段はよろしくないのだが、お互いに望みが叶った状態。しかし、そのまま幸せに暮らしました、とはいかないところが本作の面白いところだ。玲琳だけでなく、慧月の気持ちもわかるだけに単純な入れ替わりではないところがつらい。2人そろって幸せに暮らす道があればと願わずにはいられない。