総合病院に勤務する薬剤師の主人公と薬剤部のメンバーが、患者のため医師や看護師たちと関わりながら問題を解決していく、医療ヒューマンドラマ。お団子頭がトレードマークの葵(あおい)みどりは、萬津総合病院薬剤部に勤務する、入社2年目の薬剤師。医師に処方箋の疑問点を確認する「疑義照会」で煙たがられるせいか、病院内で薬剤師の地位が低いのではないかと不満を抱いていた。そんなある日、院内で倒れている初老の男性を見かけ、声をかける。男性の容体が気になった葵は、他の薬剤師に話を聞きに行く。
薬剤師とは薬の専門家である。医薬品全般の幅広い知識を持ち、処方箋に基づいた調剤を行い、時には患者の相談に乗ったりもする。一般的に販売されている医薬品についても詳しく、ドラッグストアなどに常駐している薬剤師も多い。市販薬にしても病院で出される薬にしても、安全だと思い込んでいるものだが、本作を読むともしかして軽率だったかもしれないと考えが改まる。葵は総合病院に勤めており、他の医療関係者との関わりも多い。薬は身体を治すのに欠かせないもので、患者としては葵のように親身になってくれる存在はありがたい。が、病院内では医者が絶対的な存在で、薬剤師の立場は弱いようだ。何か疑問があるたびに、勇気を奮い起こして立ち上がる葵は逞しいシンデレラと言えるだろう。時に折れそうになる心を支えるのは、元気になった患者の姿である。
旦那に浮気され、家を飛び出したところスリに遭い、一文無しになってしまったアラサー女子の主人公と、ひねくれた金持ち男子高校生の年の差ラブストーリー。不幸な境遇に育った今井早梅(はやめ)は27歳、結婚をして1年になる。正義感が強い早梅は、電車でいじめをしていた高校生を注意したその夜、旦那の浮気を問い詰めたことで、離婚を切り出されてしまう。その場で家を飛び出した早梅だったが、全財産の入ったバッグがスリに遭い、路頭に迷うことに。公園で暮らしていた早梅に声をかけたのは、あの日いじめをしていた高校生の一人だった。
早梅は離婚に至るまでも壮絶な人生を歩んできており、ハッピーエンドに恵まれれば、まさしくシンデレラというべき女性である。母親は12歳で亡くなり、ギャンブル依存症の父のせいで借金まみれ。学費が払えず高校を中退し、やっとの思いで自立し結婚をした。物語であればシンデレラは王子様と結婚し、幸せに暮らしました、となるところだが早梅の人生はそこでは終わらなかったのである。離婚をしてからの転落っぷりもあまりにも悲惨で、現代とはかくも他人に冷たいものかと嘆きたくなるが、一応王子様が現れる。早梅のピンチに手を差し伸べるのは、性格に難ありの男子高校生、壱成(いっせい)。物語冒頭では印象の悪い少年である。早梅もだいぶ素直になれない女性なのだが、壱成も負けず劣らずひねくれているため、2人のやりとりはだいたい喧嘩腰になってしまう。ただ言葉の端々に、相手を気遣う不器用さがほのかに見える。早梅は気が強いが、だからこそ脆い部分も持っている。高校生相手では多少不安なところはあるが、とにかく幸せになってほしい。
彼氏が欲しい主人公が、ちょっと冴えない年上上司を落とすために奮闘するエロティックラブコメディ。会社員の芙音(ふね)は、彼氏は欲しいが、職場にはチャラ男と中年男性ばかりで出会いがない。友人に相談したところ、待っていないで自分が王子様側になればいいとアドバイスをもらい、一念発起する。前々からちょっといいなと思っていた係長の二宮は、顔は悪くないがカタブツで真面目なタイプ。芙音は酒に酔わせ、一夜を共にしようとするが、寸前で逃げられてしまう。会社で次に顔を合わせた時、なぜ抱いてくれなかったのかと迫るのだった。
王子様は待つものという定説があるが、現実ではただ待っていたって迎えに来るわけはなく、勝手に幸せが訪れるわけでもない。シンデレラは一見受け身に思えるが、周囲の助けもあって舞踏会に行き、王子に出会うことができた。やはり行動は必要なのである。本作のヒロインである芙音は自ら積極的に行動していくタイプの女性だ。王子側になれと発破をかけられ、酔った勢いを利用して既成事実を作ろうと画策するのだから、手段を選ばず自分から幸せを掴みにいくタイプだといえるだろう。しかし、相手もかなり手強く、二宮は年齢差や、芙音がどの程度真剣に交際したいのかも考え、距離を置こうとしている。据え膳食わぬは男の恥、と据え膳からいわれてなお手出しをせずにいられるのだから、鉄壁の理性の持ち主なのではと思われる。自ら幸せになりにいくシンデレラの奮闘は、下心も全オープンで攻めまくるのでいっそ清々しい。
本当はふくよかな体型だが、薬で12時間だけ美女に変身できる主人公が、6人の子持ち作家の家政婦として奮闘するヒューマンコメディ。ルーシーは詐欺師一家の娘。28歳になるが初恋の人に裏切られたことをきっかけに自暴自棄になっていた。そんなある日新聞の広告でメイドを募集していることを知ったルーシー。募集していたのが人気ポルノ作家だと知った祖父に、雇い主を誑かすよう言われ、昔インド人の商人からだまし取ったと渡されたやせ薬を試しに飲んでみると、ルーシーは見違えるほどの美人に姿を変えたのだった。
シンデレラが綺麗なドレスを着ていられるのは午前0時までという時間制限があるが、本作のヒロイン、ルーシーは12時間限定で美女の姿でいられるシンデレラである。初恋の相手に手ひどく裏切られたことをきっかけに自暴自棄となり、かなりふくよかな体型となってしまったルーシーだ。誰でも痩せれば綺麗になれるというわけではないが、ルーシーは薬という魔法のアイテムといえる物を使用した結果、ゴージャスな雰囲気の美女に見事変身した。とはいえ、薬が本当に魔法のアイテムというわけではない。シンデレラは魔法の代償を払わなかったが、ルーシーは薬の副作用としてある代償を払わなければならなくなる。変身してもメイドとして苦労しているのだから、実は損しているのではと思わなくもないのだが、詐欺師一家の娘でありながらも根が素直なルーシーの奮闘を見守りたい。
事故に遭い前世の記憶を持ったまま現代から異世界へと転生した主人公が、様々な陰謀から自分の身を守りながら年上の旦那様と料理で交流を深めていくラブコメディ。和泉麻耶(いずみまや)は料理が生きがいの33歳独身。昼はパティシエとして働き、夜は時々ワインバーのシェフとして働いていた。ある寒い夜、からしをきらしていたため買い物に出ると、交通事故に遭遇。光の中で意識を失ったが、目覚めると明らかに見覚えのない場所であるだけでなく、自分が金髪碧眼の美少女になっていることに気が付く。
現代では大人の女性だった麻耶だったが、目覚めるとそこは異世界で金髪碧眼の美少女になっていた。しかも転生した美少女・アルティリエはとても長い名前を持つ由緒正しい家系の生まれで、正真正銘の姫。アラサーOLが10代リアルお姫様にジョブチェンジというわけである。アルティリエは齢12であるが、すでに王太子妃という立場にある。権力争いの只中にいるため、当然命を狙われるわけで、アルティリエの中で意識を取り戻した麻耶が困惑するのも無理はない。シンデレラは義姉や義母にいじめられてはいたものの、命を狙われることはなかったが、正真正銘のお姫様は生と死が隣り合わせの、ハードな立場なのである。しかし、彼女にも味方がおり、旦那様となるナディルとの、料理を通じての交流はほのぼのしつつ徐々に糖度が増していく。命の危機を感じるような波乱がありつつも甘々な展開。これぞシンデレラストーリーともいうべき醍醐味の詰まった異世界系漫画だ。