文豪・永井荷風(ながいかふう)の自由奔放な生き様を、彼の作品を交えて描く伝記コミック。原作は倉科遼。明治、大正、昭和を生き抜いた永井荷風。何物にもとらわれず、女を愛し、色に生きたといわれる文豪の生涯を、『女帝』『夜王』『嬢王』の原作者として知られる倉科遼が語り手となり、その作品を通して読み解く。自由奔放に性を謳歌し、作品という形で残していった永井荷風の生き様に、夜の街を描いたヒット作を生んだ倉科は次第に自身の歩みを重ねていく。
永井荷風といえば、文化勲章も受章した正真正銘の文豪だ。日本文学史に残る文豪の生涯を、漫画界の夜の帝王とも呼ばれる漫画原作者・倉科遼が描いた本作。意外な組み合わせに見えるが、実はそうではない。永井荷風は、若い頃から花街に出入りし、性を謳歌していた人物で、一度は父の決めた女性と結婚したもののすぐに離婚。以降は芸妓や娼婦といったいわゆる色街の「プロ」の女性とだけ付き合い、一般の女性とは付き合わなかったらしい。永井荷風は自身の体験を基にして作品を描くことが多かったといわれ、本作では荷風を主人公にしてそれらを漫画化し、その人生を浮かびあがらせている。性や女性へ対する探求心と、何物にも屈せずに自由な生き方を貫く姿に読者は驚くだろう。
文豪をモデルにしたキャラクターたちが、それぞれの持つ異能力で闘うアクション漫画。口減らしのために孤児院を追い出された少年・中島敦は、空腹を抱えて横浜の街をさまよっていた。そんな時に、入水自殺を図ろうとしていた男・太宰治を助けた。実は、太宰は異能力者が集う「武装探偵社」の一員で、世間を騒がす「人食い虎事件」を調査していた。原作は朝霧カフカ。ノベライズ、テレビアニメ化、アニメ映画化もされた、メディアミックス展開している人気作だ。
文豪をキャラクター化するという設定で、読者の度肝を抜いた本作には、文学史を彩るビッグネームが次々と登場する。彼らはそれぞれその作品や人生にちなんだ異能力を持っており、それをいかしたバトルを展開するのだ。例えば、登場人物の一人である太宰は「人間失格」という異能力の持ち主。触れるだけで相手が持っている能力を無効化できる。女性に目がなく、一緒に自殺してくれる女性を探しているというところも、実際の太宰治を思わせる。他にも中原中也、谷崎潤一郎、与謝野晶子、芥川龍之介、梶井基次郎といった文豪をモデルにした異能力者が多数登場する。かけはなれた才能を持つ文豪ならではの凡人には理解しがたいプライベート模様がキャラクターにいかされており、文学好きであればより一層楽しめる作品だ。
天国で暮らす文豪たちの日常を描く教養ギャグ漫画。舞台は天国、執筆に励む文豪・夏目漱石のもとに、彼を慕う弟子・芥川龍之介が相談に訪れる。天国出版からライトノベルの執筆を依頼されて悩んでいたのだ。そこへ、金を借りにきた泉鏡花や天国でオタク文化にはまった谷崎潤一郎が現れ、天国のアキバへ取材にいくことに。文豪たちの人となりと作品をおりまぜたギャグが炸裂する。原作はAIR AGENCY・フロンティアワークス。監修は横浜国立大学教授・一柳廣孝が務める。
遠い昔に亡くなった文豪たちが、天国で現代を見下ろしながら暮らしていたらという設定で描かれた本作。夏目漱石、芥川龍之介という同時代で接点もあった作家だけでなく、中原中也、谷崎潤一郎、宮沢賢治、平塚らいてう、川端康成といった場所や時間も超えた文豪が入り乱れて登場する。ラジオの討論番組に出演した夏目、芥川、泉、谷崎の面々がリスナーである清少納言や滝沢馬琴の質問に答えるという奇想天外なエピソードもあり、笑いを誘う。太宰治が芥川賞を貰えなかったことで川端康成を恨んでいたとか、泉鏡花が面識のない夏目漱石に金を借りようとしたといった事実に基づく、人間臭い小ネタも満載。文豪たちの人物解説コラムも収録され、文学史を笑いながら学べる作品になっている。
夏目漱石のもとに集った門下生たちの交流を描いた淡い青春物語。大正4年、文豪・夏目漱石を慕い、牛込区早稲田南町に構える夏目の自宅「漱石山房」を足しげく訪ねる若き作家たちがいた。面会日を木曜の午後3時以降と定めたことから「木曜会」と名付けられたその会に、芥川龍之介は同級生の久米正雄に誘われて初めて参加する。緊張しながら足を踏み入れた木曜会には、小宮豊隆、森田草平、鈴木三重吉、内田栄造(後の内田百間)らが集っていた。
千円札でもお馴染みの夏目漱石。「木曜会」はそんな漱石を慕った若き文学者や教え子が集って実際に開かれていたものだ。本作は、木曜会での交流を、若き日の芥川龍之介や内田百間を中心に描いた作品である。初めて木曜会に参加する日、芥川は尊敬する漱石に会えるとあって緊張のあまり、その道中で転んでばかりいた。本作では国語の教科書に載っている気難しい肖像写真からは想像できない、そんな初々しい芥川像が描かれていく。そうして木曜会に初参加するものの、シャイな芥川はうまく会話に入れず帰りたくなってしまう。しかし、漱石の飼い猫と戯れる内田の姿にふと緊張がほぐれていくのだった。後に文豪と呼ばれる若者たちの初々しい一面や、たどたどしくもゆるやかに交流を結んでいく姿にほっこりする作品だ。
日本の近代文学を彩った文豪たちが書き残した、食の情景に迫る探訪記。毎朝新聞の記者・川中啓三は、本社の政治部から深川支局にとばされてしまう。川中は、趣味の食道楽をいかして文豪たちが作品や日記に残した「食」の情景を追う企画「文豪の食彩」を立案。文豪たちの食とその文学に迫る取材をスタートさせる。原作は壬生篤。2014年に実写ドラマ化。ドラマ化にあたり本作の内容をさらに詳しくほりさげたムック本「文豪の食彩ビジュアルBOOK」も発売された。
本作で取り上げられているのは、明治から昭和に至る時代に生きた文豪たち。夏目漱石、芥川龍之介、正岡子規、樋口一葉、永井荷風、太宰治がとりあげられている。作中では記者の川中が、作家たちが小説や随筆、日記等に書き残した食べ物に関する記述をもとに、現存する店を訪ねたり、実際に料理を作ってみたりもする。美食家だった永井荷風が愛した洋食店や芥川龍之介が幼少期に親しんだくず餅、夏目漱石や正岡子規が好んだ団子等、様々な食の情景が描かれていく。一家を養わなければならなかった樋口一葉が食にこめた思いであったり、若くしてこの世を去った正岡子規が事細かに食事について綴っていたことの意味について考えたりと、食を通して文豪の実像に迫っていく作品だ。