世界観
本作『文豪ストレイドッグス』は、限りなく現代の日本に近い横浜が舞台となっているが、軍警が存在している点や、宮沢賢治の故郷であるイーハトーヴォ村では貨幣経済が発達しておらず、物々交換で生計を立てているなど、架空な国家を舞台にした作品でもある。またファッションも和服やレトロな雰囲気があふれ、キャラクターの口調も時代がかった言葉遣いが多く見受けられる。
作品誕生のいきさつ
本作『文豪ストレイドッグス』が誕生した経緯について、コミックス第1巻の巻末にある中島敦と太宰治の対談形式で書かれた後書きに、「文豪がイケメン化して能力バトルしたら絵になるんじゃないかと編集と盛り上がったから」と記載されている。また、本作の舞台が架空の横浜となっている理由は、作画を担当する春河35が横浜出身であるためとされている。
あらすじ
入社編
孤児院を追い出されて餓死寸前となった青年、中島敦は、生きるために他者から財布を奪うことを決意した矢先、川を流されていく太宰治を救出した。それをきっかけに敦は、自らが異能力、月下獣によって白虎に変身することや、この能力の暴走によって孤児院を追い出されたことを知る。太宰の計らいで武装探偵社に入社することとなった敦は、密輸業者らしき無法者の見張り役として谷崎潤一郎、谷崎ナオミと共に向かうことになる。しかし、これは武装探偵社を敵視する犯罪組織であるポートマフィアの罠(わな)だった。芥川龍之介によって重傷を負った敦たちだったが、太宰が駆けつけたことで事なきを得て武装探偵社へと帰還するも、そこで自分自身に70億円の懸賞金がかけられていることを知る。武装探偵社の面々が傷つくことを恐れた敦は、自ら武装探偵社を去る決意をする。
泉鏡花編
太宰治が行方不明になった翌日、与謝野晶子と共に買い物に出かけた中島敦は、ポートマフィアの構成員、梶井基次郎の電車ジャックに巻き込まれる。大量の爆弾を仕掛けられているという先頭車両と最後尾車両へと二手に分かれて向かった敦たちは、先頭車両で基次郎と、そして最後尾車両で泉鏡花と会敵する。晶子が基次郎を制圧し、敦が鏡花を攻略することに成功したのち、敦は鏡花が自分の意思で殺人を行っていないことに気づき、武装探偵社へと連れて帰る。国木田独歩からは「鏡花を軍警に引き渡せ」と指示を受けていたものの、敦は鏡花を半日のあいだはふつうの少女として過ごさせる。しかし、最後に鏡花が望んだのは交番への自首だった。そこに芥川龍之介が現れ、鏡花を連れ戻すと同時に敦を拉致していく。
三者鼎立編
泉鏡花が武装探偵社の見習いとして中島敦と同居するようになった日、武装探偵社の事務所を組合の団長であるフランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが訪れる。「本」を円滑に探すために異能開業許可証を手に入れようと考えたフランシスは、武装探偵社を買い取りたいと申し出るも、福沢諭吉に即座に拒絶される。その場ではおとなしく引き下がったかのように見えたフランシスだったが、その直後、宮沢賢治らがルーシー・モード・モンゴメリに拉致される事件が起きる。またこの事件を皮切りに、武装探偵社と組合、ポートマフィアの三つ巴の戦争が勃発し、やがて横浜の住民たちをも巻き込んだ騒動へと発展していく。
共喰い編
仮面をかぶった異能力者に襲われ、福沢諭吉が倒れた。さらに森鴎外までも倒れ、横浜の裏社会は混乱を起こす。この事件の首謀者であるフョードル・ドストエフスキーは、二人に感染したのはウイルス型の異能力であり、諭吉か鴎外、どちらかが死ななければもう一方が回復することはないと宣言する。この事実を知ったポートマフィアは、策謀と知りながらも武装探偵社を襲撃する。しかし、それを見越していた中島敦たちは、谷崎潤一郎だけを残して現場を離脱し、ウイルス型の異能力を持っている異能者の確保に動く一方で、改めてポートマフィアとの戦いに備えていた。その頃、病床に伏しているはずの諭吉と鴎外は各組織のメンバーに内密に会合し、一騎打ちの決闘を開始する。
天人五衰_始まり編
共喰(ともぐ)い事件から1か月後、武装探偵社は安全貢献の最高勲章である祓魔梓弓章を受勲し、世間に認められる機関となっていた。そんな中、仏教用語である「天人五衰」になぞらえた残虐な連続殺人事件が起こる。この解決を依頼された武装探偵社だが、江戸川乱歩は友人である小栗虫太郎からの「依頼を受ければ武装探偵社が滅ぶ」という忠告に従い、この仕事を受けるのに反対して単独行動を取ることにした。乱歩はその調査中、内務省異能特務課の長官、種田山頭火が重症で倒れているのを発見する。一方で乱歩以外の武装探偵社の面々は、連続殺人事件の流れで引き起こされた、政府高官が人質となった立てこもり事件の救出に向かった先で、殺人結社、天人五衰の策略により一連の事件の犯人として指名手配されることになってしまう。
天人五衰_死の天使編
福沢諭吉からの要請を受け、一時的に森鴎外に匿(かくま)われた与謝野晶子たちは、武装探偵社のうち1名がポートマフィアに移籍することを条件に救出されたことを知った。この条件に激怒した晶子は、谷崎潤一郎と宮沢賢治に、晶子がかつて鴎外の助手の軍医委託生として従軍し、兵士たちを次々と治癒しては戦場に送り出していたことを語る。慕っていた一人の兵士が戦場に送られ続ける日々に疲弊し、自死したことにショックを受けたため基地を沈めようと画策したこと、そして隔離施設へ送られた挙げ句、再び鴎外に囚われかけていたところを諭吉に救われたことを話した晶子は、武装探偵社こそが自分の救いなのだと再確認する。
天人五衰_天空カジノ編
坂口安吾とルーシー・モード・モンゴメリ、そして小栗虫太郎の助力を得て、天人五衰の目的が「国家の消滅」にあると知った中島敦と泉鏡花は、天人五衰の重要施設である天空カジノへと乗り込む。しかしそこには、喫茶うずまきのマスターから情報を得た猟犬の構成員、大倉燁子と立原道造もまた調査に訪れていた。それにあせったのは敦たちではなく、天人五衰のメンバーであり、天空カジノの総支配人を務めるシグマだった。道造に硬貨型の爆弾であるRDG1800を発見されたシグマは、道造を始末するために即座にRDG1800を爆破させたが、それによって天空カジノ自体がテロリストの拠点の一つであると露見させてしまう。それを見届けた敦たちは、燁子と共にシグマと戦うことで、武装探偵社がテロリストではないことを示そうとする。
天人五衰_大指令と吸血種編
江戸川乱歩の活躍によって、バラバラにされていた武装探偵社のメンバーが集結した。そんな中、国連の使者は福地桜痴を無国籍の対テロ軍隊である人類軍の司令官として任命する。福沢諭吉の指示で桜痴に接触し、猟犬との協力を申し出た乱歩だったが、その推理力から天人五衰のリーダーである「神威」は桜痴その人であると結論を出し、中島敦に詫(わ)びを一言残し、エドガー・アラン・ポオが書いた小説へと避難した。一人で桜痴と対峙(たいじ)することに恐怖心を抱く敦だったが、そこに太宰治からの指示でずっと敦を尾行し続けていた芥川龍之介が共闘に現れる。桜痴を相手に善戦する二人だったが、桜痴が所持する神刀、雨御前の能力により龍之助が殺害され、さらに天人五衰の最後の一人であるブラム・ストーカーの異能力によって、龍之助は吸血種に変貌させられてしまう。
スピンオフ
コミックス
本作『文豪ストレイドッグス』のスピンオフ作品は複数存在する。いずれもKADOKAWA「角川コミックス・エース」から刊行されており、かないねこが作画を担当する『文豪ストレイドッグス わん!』では、三頭身で描かれた中島敦たちが和やかな日常を送りながら、些細(ささい)なハプニングを巻き起こすギャグコミックとなっており、単独でTVアニメ化もされた。また、泳与が作画を担当する『文豪ストレイドッグス外伝 綾辻行人VS.京極夏彦』では、本編に登場しない文豪、綾辻行人を主人公に、京極夏彦との戦いを描いている。銃爺が作画を担当する『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』は、劇場版アニメ『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』のコミカライズとなっている。さらに星河シワスが作画を担当する『文豪ストレイドッグス BEAST』は、実写映画『文豪ストレイドッグス BEAST』のノベライズ『文豪ストレイドッグス BEAST』をコミカライズしたもので、中島敦と芥川龍之介が所属する組織が逆だったらどうなるかという、ifの世界を描いている。
テレビアニメ
本作『文豪ストレイドッグス』のスピンオフテレビアニメ『文豪ストレイドッグス わん!』が、2021年1月から3月にかけてTOKYO MXほかで放送された。三頭身で描かれた中島敦たちが和やかな日常を送りながら、些細なハプニングを巻き起こすギャグ作品となっている。監督を菊池聡延、キャラクターデザインを代見裕美が務めている。キャストは、TVアニメ版『文豪ストレイドッグス』と同じく中島敦を上村祐翔、太宰治を宮野真守、芥川龍之介を小野賢章が演じている。
コラボレーション
ブックカバー
2016年3月より期間限定で、本作『文豪ストレイドッグス』とコラボしたブックカバーつきの文庫が、KADOKAWA「角川文庫」より刊行された。中島敦の『李陵・山月記 弟子・名人伝』に中島敦が描かれるなど、本作の登場キャラクターのモデルとなった文豪が手がけた全22作品の表紙を、本作のキャラクターが彩っている。また、2019年3月からKADOKAWA「角川つばさ文庫」でもコラボブックカバーつきの文庫全4作品が刊行されているが、角川文庫版とはブックカバーに描かれているイラストおよび作品ラインナップが異なっている。
スマートフォン用ゲーム
本作『文豪ストレイドッグス』とコラボしたスマートフォン用ゲームは多岐にわたっており、2021年1月と11月には「#コンパス」、2020年11月と2022年1月には「ピグパーティー」2019年4月と2021年11月には「夢王国と眠れる100人の王子様」、2014年、2016年6月から7月には「ラヴヘブン」2017年2月には「夢色キャスト」、2017年4月には「【18】キミトツナガルパズル」にて本作の登場キャラクターがゲーム内に登場したり、関連アイテムを取得することができた。また2022年6月時点では、2022年後半に「第五人格」とのコラボも開催されることが発表されている。
サンシャインシティプリンスホテル
サンシャインシティプリンスホテルで2016年10月から2017年1月、2018年3月から6月、2019年7月から9月、2021年3月から7月の4度にわたり、本作『文豪ストレイドッグス』とコラボしたコンセプトルームの宿泊プランが提供された。宿泊者は限定オリジナルグッズや撮り下ろしウェルカムボイス、謎解きゲームを楽しむことができた。特に2021年3月から7月に行われた第4弾では、武装探偵社とポートマフィアをそれぞれイメージした4部屋が用意された。
関連施設展示
2017年3月から12月にかけて、本作『文豪ストレイドッグス』の舞台となった横浜市の市立図書館12館で「文豪ストレイドッグスコラボ企画 文豪を知ろう!」の巡回展示が行われた。本作『文豪ストレイドッグス』で登場キャラクターとなった文豪たちの紹介や、各作品の成り立ちが紹介されている。大阪にある「与謝野晶子記念館」では、本作『文豪ストレイドッグス』とのコラボキャンペーンが2016年7月から2018年4月にかけて、3度にわたって行われた。単行本やノベライズの持参で入館料の割引とオリジナルグッズのプレゼントが行われ、スタンプラリーやフォトラリーも開催された。また、2018年10月から11月にかけて開催された大分県にある「城下町佐伯国木田独歩館」および「豊の国情報ライブラリー」とのコラボでは、本作の名場面や国木田独歩、福沢諭吉の紹介パネルや描き下ろしイラストが展示された。同施設のある大分市、佐伯市ではそれぞれスタンプラリーも開催され、ラリーの完走者には描き下ろしイラストを利用したノベルティがプレゼントされた。
パイロット「ネオックス・グラファイト」
2019年12月から2020年6月にかけて、本作『文豪ストレイドッグス』とコラボした、パイロットのシャープ替芯「ネオックス・グラファイト」が数量限定で発売された。中島敦、太宰治、芥川龍之介、中原中也がデザインされており、キャンペーン対象商品に同梱されているシリアルナンバーを入力すると、抽選で限定描き下ろしデザインのグッズがプレゼントされた。
津軽鉄道
青森県五所川原市を走る津軽鉄道では2016年8月から11月にかけて、本作『文豪ストレイドッグス』とのコラボ切符が販売された。切符には太宰治のイラストが印字されていた。同鉄道は2016年10月から2017年1月にかけてコラボ列車「人間失格号」も運行された。列車先頭には太宰が描かれたヘッドマークがつけられ、車内の荷物棚上部にはテレビアニメ版『文豪ストレイドッグス』のポスターの掲示、さらに車内設備として等身大の太宰のイラストが掲示された。
メディア化
小説
本作『文豪ストレイドッグス』の小説版『文豪ストレイドッグス』シリーズが、KDOKAWA「角川ビーンズ文庫」から刊行されている。本作の原作者である朝霧カフカの著作『文豪ストレイドッグス 太宰治の入社試験』『文豪ストレイドッグス 太宰治と黒の時代』『文豪ストレイドッグス 探偵社設立秘話』『文豪ストレイドッグス 55Minutes』『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』はいずれも本作には描かれていない、太宰治の過去や武装探偵社設立の秘話、中原中也の背景が描かれている。また、同じく朝霧カフカの著作『文豪ストレイドッグス BEAST』は実写映画『文豪ストレイドッグス BEAST』の小説版であり、KADOKAWA「角川コミックス・エース」から漫画版『文豪ストレイドッグス BEAST』も刊行されている。さらに『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』は劇場版アニメ『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』の小説版で、原作者である朝霧カフカと劇場版アニメの脚本を務めた榎戸洋司の全面監修のもと、岩畑ヒロが執筆している。
テレビアニメ
本作『文豪ストレイドッグス』を原作としたテレビアニメ『文豪ストレイドッグス』第1期が2016年4月から6月にかけて、第2期が2016年10月から12月にかけて、第3期が2019年4月から6月にかけて、TOKYO MXほかで放送された。第2期では小説版『文豪ストレイドッグス 太宰治と黒の時代』、第3期では小説版『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』の内容が含まれている。また、2021年11月に開催されたイベントで、第4期の制作も発表された。いずれも、監督を五十嵐卓哉、シリーズ構成・脚本を榎戸洋司が務めている。キャストは、中島敦を上村祐翔、太宰治を宮野真守、芥川龍之介を小野賢章が演じている。
劇場版アニメ
本作『文豪ストレイドッグス』を原作とした劇場版アニメ『映画文豪ストレイドッグス BAD APPLE』が、2018年3月から角川ANIMATIONの配給で公開された。坂口安吾から異能力者連続自殺事件解明の依頼を受けた武装探偵社が、6年前に起こった88日間の惨劇、龍頭抗争の首謀者、澁澤龍彦と、フョードル・ドストエフスキーに翻弄されながらも真実を突き止める内容となっている。監督を五十嵐卓哉、脚本を榎戸洋司が務めている。キャストは、中島敦を上村祐翔、太宰治を宮野真守、芥川龍之介を小野賢章が演じている。
舞台
本作『文豪ストレイドッグス』を原作とした舞台が、サンシャインホールや森ノ宮ピロティホール、北上市文化交流センターさくらホール、久留米シティプラザなどをはじめ全国で公演されている。第7弾『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』の内容は、朝霧カフカの小説版『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』の内容と同じく、16歳の頃の中原中也を主人公に、彼の過去が描かれている。キャストは、中原中也を植田圭輔、太宰治を田淵累生、森鴎外を根本正勝が演じている。
実写映画
本作『文豪ストレイドッグス』を原作とした実写映画『映画文豪ストレイドッグス BEAST』が、2022年1月から5月にかけてKADOKAWAの配給で公開された。中島敦と芥川龍之介が所属する組織が逆だったらどうなるかというifの世界を描いている。また、この作品の中では太宰治も敦と共にポートマフィアに所属している。監督を坂本浩一、脚本を朝霧カフカが務めている。キャストは、中島敦を鳥越裕貴、太宰治を田淵累生、芥川龍之介を橋本祥平が演じている。
WEBラジオ
本作『文豪ストレイドッグス』を原作としたテレビアニメ『文豪ストレイドッグス』のWEBラジオ『文豪ストレイラヂヲ』が、2016年4月から2017年1月にかけて音泉で隔週木曜日に配信された。パーソナリティはテレビアニメ版で中島敦を演じる上村祐翔が務めており、毎回ゲスト声優を迎えている。
スマートフォン用ゲーム
本作『文豪ストレイドッグス』のスマートフォン用ゲーム『文豪ストレイドッグス 迷ヰ犬怪奇譚』が、2017年12月から配信されている。好きなキャラクターでチームを組み、ディスプレイ上でスリングショットパズルでのバトルを勝ち抜くことで、本編のストーリーを追体験していく内容となっている。
体験型ゲーム
本作『文豪ストレイドッグス』を原作としたクイズラリー「謎解きゲーム 迷ヰ犬狂騒曲」が、2019年4月から5月にかけて横浜で開催された。アニメイト横浜ビブレ店で専用の謎解きキットを購入し、参加者は武装探偵社の新人事務員として各チェックポイントを巡ることで謎を解き明かしていく。また、謎を解明すると特製クリアファイルがもらえた。
登場人物・キャラクター
中島 敦 (なかじま あつし)
武装探偵社に所属している異能力者の青年。年齢は18歳。白髪を右側一房だけ長く伸ばしたショートヘアにしている。身長170センチで、体重55キロ。5月5日生まれのAB型。所持している異能力は「月下獣」。孤児院を追い出され餓死寸前だった際に、自殺しようとした太宰治を助けたことをきっかけに、孤児院を追い出された理由と中島敦自身が持っている異能力、月下獣のことを知ることになる。その結果、武装探偵社に雇用されることとなる。しかし、孤児院で植え付けられた「自分は役立たずであり生きる資格を持っていない」という考えは根深く、誰かに生きる許可を得るかのように、命がけで危険な任務に挑むことが多い。フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが、娘を生き返らせるために必要な「本」を探すための道標(タイガービートル)として、70億円の懸賞金をかけられていた。苦しんでいる人間を見ると昔の自分の姿をダブらせ、手を差し伸べずにはいられない。周囲から「人虎」とも呼ばれている。好きなものは茶漬けと猫、カメレオン、横浜。嫌いなものは自分自身と昔いた孤児院。実在の人物、中島敦がモデル。
太宰 治 (だざい おさむ)
武装探偵社に所属している異能力者の男性。年齢は22歳。癖のある黒髪をボリュームのあるショートヘアにしている。身長181センチで、体重67キロ。6月19日生まれのAB型。所持している異能力は「人間失格」。自殺マニアで美しい女性に目がなく、美しい女性を見るや否や心中を持ちかけている。ただし苦しい自殺は嫌だと公言しており、国木田独歩に「包帯無駄遣い装置」と呼ばれて傷つくような繊細な一面を持っている。かつてはポートマフィアの幹部として中原中也と相棒を組む一方で、中也に対する嫌がらせを趣味としている様子が見られる。また、芥川龍之介を教育していた。フョードル・ドストエフスキーとは同等の洞察力と思考を身につけ、ある程度フョードルの行動を読むことができる。好きなものは自殺と酒、蟹(かに)、味の素。嫌いなものは犬と中也。実在の人物、太宰治がモデル。
国木田 独歩 (くにきだ どっぽ)
武装探偵社に所属している異能力者の男性。年齢は22歳。ウルフカットにした長い金髪をうなじでまとめ、眼鏡をかけている。身長189センチで、体重78キロ。8月30日生まれのA型。所持している異能力は「独歩吟客」。「理想」と書かれた手帳をつねに携帯し、これを人生の道標として崇拝している。短気で毒舌家ながら、冗談やウソを真に受けてしまう素直な一面を持つ。武装探偵社の次期社長に決まっており、武装探偵社の中で最も高潔で強いと評価されている。共喰い編では社長代理として対ポートマフィアの指揮を執ったが、フョードル・ドストエフスキーの策略によって目の前で幼い女児が爆死した動揺に加え、福沢諭吉が「ポートマフィアと争うな」と発言したことから規則を破る恐怖に襲われ、思うように動くことができなかった。好きなものは手帳、魚釣り、鰹(かつお)のたたき。嫌いなものは「予定外」と権威。実在の人物、国木田独歩がモデル。
江戸川 乱歩 (えどがわ らんぽ)
武装探偵社に所属している男性。年齢は26歳。外ハネした黒髪にキャスケット帽とフード付きのマントを身につけている。身長168センチで、体重57キロ。10月21日生まれのO型。一目見ただけで事件の真相を見抜くことのできる明晰(めいせき)な頭脳を持っており、これを江戸川乱歩自身は異能力だと思い込み、「超推理」と呼んでいた。乱歩は「超推理」の発動には福沢諭吉から下賜された特別な眼鏡をかけることが必須であると思い込んでいるが、実際には異能力者ではないため、眼鏡をかけなくても推理することはできる。この「超推理」によって、たった一人で武装探偵社を探偵社たらしめていると評されている。ただし、推理以外の能力は皆無で、一人で電車に乗ることもできない。「超推理」が異能力であるという思い込みは、エドガー・アラン・ポオが乱歩に仕掛けた推理遊戯の際に解消されている。また座右の銘は、「僕がよければすべてよし」という自己中心主義極まりないものとなっている。しかし、福沢諭吉にだけは頭が上がらず、不服な命令にも渋々ながら従っている。好きなものは合理的思考と幻想怪奇。嫌いなものは常識と無駄な知識。実在の人物、江戸川乱歩がモデル。
与謝野 晶子 (よさの あきこ)
武装探偵社に所属している異能力者の女性。年齢は25歳。黒髪のショートボブヘアに、蝶(ちょう)を模した髪飾りを付けている。一人称は「妾(アタシ)」。身長166センチで、体重52キロ。12月7日生まれのO型。所持している異能力は「君死給勿」。武装探偵社の専属医を務めており、極めて希少な治癒能力者として知られているが、その能力の詳細は知られていない。11歳の頃、国防軍の軍医委託生として森鴎外の助手を務めていた。しかし「君死給勿」で兵士を治療し続けたため、本来撤退できる兵士が次々と前線に送られ続け、精神を病んだ兵士によって命を狙われた。その際に「死の天使」と呼ばれたことがあり、この呼び名にトラウマを抱えている。好きなものは花と和菓子、うなぎ、酒。嫌いなものは男尊女卑と弱い男。実在の人物、与謝野晶子がモデル。
谷崎 潤一郎 (たにざき じゅんいちろう)
武装探偵社に所属している異能力者の青年。年齢は18歳。赤毛のベリーショートヘアで、前髪の一部をヘアピンで留めている。身長174センチで、体重59キロ。7月24日生まれのA型。所持している異能力は「細雪」。依頼の聞き取りや張り込みなど、武装探偵社の中でも簡単な仕事を請け負っている。妹の谷崎ナオミを溺愛しており、「ナオミは道徳や悪、モラルやエゴよりも上の次元に存在するものであり、ナオミのためなら喜んで世界を焼く」と発言している。そのためナオミが傷つけられたり、攫(さら)われたりすると言動が荒々しくなり、ふだんの谷崎潤一郎からは考えられないような行動を見せることがある。また、広津柳浪に言わせると「細雪」の能力は「恐ろしく暗殺に向いている」と評しており、柳浪をはじめとする黒蜥蜴のメンバーを翻弄したことがある。好きなものはハモと中華料理、猫。嫌いなものは地震。実在の人物、谷崎潤一郎がモデル。
谷崎 ナオミ (たにざき なおみ)
谷崎潤一郎の妹で、武装探偵社でアルバイトをしている女子学生。長い黒髪を姫カットにしており、セーラー服を身につけている。潤一郎に対して性的なニュアンスを含んだスキンシップが激しく、つねに潤一郎と行動を共にしている。潤一郎が命の危機に晒(さら)された際には盾になって守る覚悟があり、実際に潤一郎が樋口一葉から機関銃を向けられた際にも全身でかばっていた。頭脳明晰で機転が利き、春野綺羅子からは「ナオミに異能力があれば潤一郎よりも優秀な探偵になる」と評されている。谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』に登場する小悪魔的な少女「ナオミ」がモデルとなっている。
宮沢 賢治 (みやざわ けんじ)
武装探偵社に所属している異能力者の少年。年齢は14歳。金髪のショートカットヘアでそばかすがあり、オーバーオールと麦わら帽子を身につけている。身長158センチで、体重53キロ。8月27日生まれのO型。所持している異能力は「雨ニモマケズ」。電気も電話もないイーハトーヴォ村の出身で、福沢諭吉にスカウトされるまで牛追いをして暮らしていた。つねに笑顔で他人に優しく、「牛でも人でも素直に気持ちを話せば通じ合える」と信じており、事件の捜査を担当した際には相手がどんな人間でもありのまま思ったことを聞き、わかりきったウソも素直に信じることにしている。ただし宮沢家の家訓「牛が逆らったら手近なもので殴る」に従い、相手が逆らった際には車を投げたり、道路標識で殴るなどして応戦している。好きなものは音楽、天ぷら、三ツ矢サイダー。嫌いなものは貧困。実在の人物、宮沢賢治がモデル。
福沢 諭吉 (ふくざわ ゆきち)
武装探偵社の社長を務めている異能力者の男性。年齢は45歳。襟足の長い白髪で、つねに二部式の着物と羽織を身につけている。身長186センチで、体重71キロ。1月10日生まれのB型。所持している異能力は人上人不造。国木田独歩に武道を教えた師匠でもあり、現在も独歩は福沢諭吉から一本を取ったことがない。武道のみならず剣術の達人でもあり、元政府最強の暗殺剣士として「孤剣士『銀狼』」という二つ名を持っている。共喰い編においてはフョードル・ドストエフスキーの策略で、アレクサンドル・プシュキンの異能力である「黒死病の時代の饗宴」に感染し、森鴎外の命を犠牲にしなければ助からないと理解したうえで「ポートマフィアと争わず、諭吉の命よりも街の均衡と平穏を護ること」と指示し、鴎外との一騎打ちのため二人しか知らない場所での決闘に赴いた。好きなものは猫と牛鍋、酒、平等。嫌いなものは封建制度。実在の人物、福澤諭吉がモデル。
泉 鏡花 (いずみ きょうか)
武装探偵社に所属している異能力者の少女。年齢は14歳。長い黒髪を低い位置でツインテールにしており、たすき掛けした赤い着物を身につけている。身長148センチで、体重40キロ。11月4日生まれのB型。所持している異能力は「夜叉白雪」。もともとは孤児だったがポートマフィアに拾われ、芥川龍之介からの指示を受けて6か月間で35人を殺害した。泉鏡花自身では夜叉白雪を制御できず、龍之助に指示されるがままに人殺しを行っていたが、中島敦との出会いを経て人を殺す以外の生き方をしてみたいと考えるようになり、武装探偵社に身を寄せた。当初は福沢諭吉の孫娘という扱いで、市警と軍警の目を誤魔化していた。好きなものは兎(うさぎ)と豆腐、紫陽花(あじさい)、おばけ。嫌いなものは犬と雷、蠅(はえ)。実在の人物、泉鏡花がモデル。
芥川 龍之介 (あくたがわ りゅうのすけ)
ポートマフィアに所属している異能力者の青年。年齢は20歳。もみあげだけを長く伸ばした黒髪のショートヘアで、もみあげの先だけが白くなっている。黒い外套(がいとう)とジャボタイがトレードマークで、一人称は「僕(やつがれ)」。身長172センチで、体重50キロ。3月1日生まれのA型。所着用した衣服を自在にあやつる異能力「羅生門」を持つ。森鴎外直轄の遊撃隊に所属しており、広津柳浪らが所属する武闘組織「黒蜥蜴」を直に動かす権限を持っている。かつて教育係として一度も芥川龍之介自身の実力を認めなかった太宰治に執着し、太宰が見出してかわいがっている中島敦に強い憎悪を抱いていた。しかし三者鼎立(ていりつ)編において、敦と共闘してからは憎悪の感情は消えている。さらに太宰の指示には条件反射的に従うところがあり、天人五衰が事件を起こしてからは太宰からの指示を受け、ずっと敦を尾行し続けていた。太宰の目的が、敦と芥川が共闘させることにあると気づいてからは、渋々ながらも敦と共闘することが増えている。よく咳(せ)き込んでおり、肺の病によって余命が長くないと語っている。好きなものは書画骨董(こっとう)、茶、無花果(いちじく)。嫌いなものは盆栽、犬、風呂、蚕豆(そらまめ)、蜜柑(みかん)。実在の人物、芥川龍之介がモデル。
樋口 一葉 (ひぐち いちよう)
ポートマフィアに所属している女性。肩までの金髪を後頭部でシニヨンにまとめている。異能力を所持しているかは不明。森鴎外直轄の遊撃隊に所属しており、広津柳浪らが所属する武闘組織「黒蜥蜴」を直に動かす権限を持っている。だが柳浪たちからは、樋口一葉が上司であることを快く思われておらず、むしろ軽視されていた。しかし芥川龍之介が敵対組織に拉致された際に、単身で救出しようとした時にはその行動力を評価され、「黒蜥蜴」の独断で援助されている。龍之助に個人的な好意を抱いている様子が見られる。実在の人物、樋口一葉がモデル。
立原 道造 (たちはら みちぞう)
ポートマフィアに所属している異能力者の青年。年齢は19歳。外ハネした短い茶髪で、鼻の頭に絆創膏(ばんそうこう)を貼っている。身長176センチで、体重62キロ。7月30日生まれのA型。所持している異能力は、金属を操作する「真冬のかたみ」。ポートマフィアの中でもさらに武闘組織として知られている「黒蜥蜴」に所属しており、十人長として部下を率いている。しかし、実際は猟犬に所属しているメンバーで、潜入捜査官としてポートマフィアに潜伏していた。与謝野晶子が軍医委託生として森鴎外の助手をしていた頃、晶子をかわいがっていた兵士の弟。優秀な兄と比べられるのに嫌気が差し、ギャングとなった。ある日、猟犬の金庫を盗もうとして捕まり、下働きとして猟犬に加入している。軍警としての階級は上級軍曹で、猟犬として活動しているあいだは鼻の頭に貼っている絆創膏を剝がしている。晶子に近づくため、ポートマフィアへの潜入捜査に志願したと語っている。ただし広津柳浪からは、「マフィアの中のマフィアであり、マフィアはみな立原道造を手本にすべきだ」と評価されており、道造自身も自分が猟犬であるか、ポートマフィアであるかがわからなくなっている。好きなものは鉛筆とヒヤシンス。嫌いなものは過去と、大倉燁子の無茶振り。実在の人物、立原道造がモデル。
広津 柳浪 (ひろつ りゅうろう)
ポートマフィアに所属している異能力者の男性。年齢は50歳。白髪をオールバックにし、顎ひげを蓄えモノクルをかけている。身長178センチで、体重66キロ。7月15日生まれのA型。所持している異能力は、指先で触れたものを斥力で弾(はじ)き飛ばすことができる「落椿(おちつばき)」。前首領時代からポートマフィアに所属している古株で、武闘組織として知られている「黒蜥蜴」に所属し、百人長として部下たちを率いている。立原道造や芥川銀をかわいがっており、信頼している。好きなものは煙草(たばこ)で、嫌いなものは社会。実在の人物、広津柳浪がモデル。
中原 中也 (なかはら ちゅうや)
ポートマフィアの幹部を務めている異能力者の男性。年齢は22歳。襟足の長い赤い髪に、鎖のついた黒い帽子を身につけている。身長160センチで、体重60キロ。4月29日生まれのB型。所持している異能力は「汚れつちまつた悲しみに」。太宰治がポートマフィアとして活動していた際の相棒であり、ポートマフィアきっての体術使いでもある。好きなものは帽子とケンカ、酒、音楽。嫌いなものは太宰。実在の人物、中原中也がモデル。
梶井 基次郎 (かじい もとじろう)
ポートマフィアに所属している異能力者の男性。年齢は28歳。茶髪をマッシュルームカットにしており、白衣とサングラスを身につけている。身長180センチで、体重63キロ。2月17日生まれのB型。所持している異能力は「檸檬(れもん)爆弾」で、その効果は、梶井基次郎自らが制作した檸檬の形をした爆弾では、自分は一切のダメージを受けないというもの。隠密主義のポートマフィア構成員ではあるものの指名手配犯であり、爆弾魔として名を知られている。科学の究極を「神」と「死」だと考えており、科学で克服できないがために人間を惹(ひ)きつけているものだと考察している。好きなものは檸檬と爆弾、科学、オペラ、酒。嫌いなものは表通りとジャズ。実在の人物、梶井基次郎がモデル。
尾崎 紅葉 (おざき こうよう)
ポートマフィアの幹部を務めている異能力者の女性。年齢は26歳。長い髪をかんざしでまとめ、着物を身につけている。一人称は「私(わっち)」。身長171センチで、体重62キロ。1月10日生まれのA型。所持している異能力は「金色夜叉」。泉鏡花を非常にかわいがっており、鏡花が武装探偵社に身を寄せてからも本心から心配していた。ポートマフィアを先代首領が治めていた14歳の頃、慕っていた男性と共にポートマフィアを抜けようとしたことがあるが、先代首領にこれが露見して男性は殺害された。それ以来、裏社会に生きる人間が表社会へのあこがれを持ってはいけないと考えるようになり、鏡花にも同じように言い含めていた。好きなものは泉鏡花と金ぷら、漬物。嫌いなものは希望と愛。実在の人物、尾崎紅葉がモデル。
ルーシー・モード・モンゴメリ (るーしーもーどもんごめり)
組合に所属している異能力者の少女。年齢は19歳。赤毛を2本の三つ編みにしている。身長165センチで、体重44キロ。11月30日生まれのA型。所持している異能力は「深淵の赤毛のアン」。非常に寒い地域にある孤児院育ちで、さらに深淵の赤毛のアンを気味悪がられたため孤独に暮らしていた。組合には深淵の赤毛のアンの能力を買われて引き取られたが、一度の失敗で簡単に捨てられることを知っており、孤独な生活に戻らないため、指示された任務をこなしていた。中島敦に敗北したあとはメイドとして組合に残っていたが、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが行方不明となったあとは武装探偵社の1階に入っている喫茶うずまきで女給となった。また、天人五衰の策略によって武装探偵社が指名手配された際に単身で捜査本部に乗り込み、敦の無罪を訴えていたところを坂口安吾に保護されている。好きなものはぬいぐるみとおしゃべり、空想、ロマンチックなこと。嫌いなものはケチな人と昔いた孤児院、ひとりぼっち。実在の人物、L・M・モンゴメリがモデル。
フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド (ふらんしすすこっときーふぃっつじぇらるど)
組合の団長を務めている異能力者の男性。年齢は32歳。金髪の短い髪を撫(な)でつけている。身長191センチで、体重88キロ。9月24日生まれのO型。所持している異能力は消費した財産の金額に比例して身体能力を強化できる「華麗なるフィッツジェラルド」。日本人の名前をなかなか覚えられず、日本人にはいつも語感の似た別の名前で呼びかけている。徹底した能力主義者で、欲しいものはなんでも手に入れると豪語する貪欲な人物だが、部下思いの優しい一面もあり、作戦立案を任せているルイーザ・メイ・オルコットに「部下の被害を最小限になる計画」を立案させている。しかしナサニエル・ホーソーンから、マーガレット・ミッチェルが重傷を負うことになったのは、金で彼女を死線に引きずり込んだフランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドのせいだと断言され、ショックを受ける様子を見せている。ゼルダという妻がいるが、娘を亡くしてから心を病み、妄想の中に逃げ込んでいる。妻を癒すために娘を生き返らせることを目標としており、そのために必要なある「本」を探している。その捜索を円滑に行うために、道標(タイガービートル)となる中島敦の確保と、異能開業許可証を求めている。三者鼎立編で一度望みが潰えてからもあきらめることなく、異能開業許可証を発行している内務省異能特務課を含めた内務省そのものの買収を企てている。好きなものは自分自身と家族、お金。嫌いなものは貧乏人。実在の人物、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドがモデル。
森 鴎外 (もり おうがい)
ポートマフィアの首領を務めている異能力者の男性。年齢は40歳。肩までの黒髪をオールバックにしている。身長175センチで、体重60キロ。2月17日生まれのO型。所持している異能力は「ヰタ・セクスアリス」。かつて闇医者兼情報屋として活動していた。ふだんは冴(さ)えない中年然とした振る舞いをしているが、時おり凄(すさ)まじい殺気を放つ。前首領の主治医だったが、前首領が構成員の犠牲を厭(いと)わず対立者を皆殺しにするという命令を下した前首領を殺害し、あとを引き継いでいる。また、この事実を知っているのは太宰治のみとなっている。太宰からは「合理性の権化」と評されており、数式のごとき冷徹さで戦況を支配する。共喰い編においてはフョードル・ドストエフスキーの策略で、アレクサンドル・プシュキンの異能力である「黒死病の時代の饗宴」に感染し、福沢諭吉の命を犠牲にしなければ助からないと理解し、諭吉との一騎打ちのため二人しか知らない場所での決闘に赴いた。エリスからは「リンタロウ」と呼ばれている。好きなものは理論と饅頭(まんじゅう)茶漬け、幼女。嫌いなものは汚いものと生もの、鯖(さば)の味噌(みそ)煮。実在の人物、森鷗外がモデル。
マーガレット・ミッチェル
組合に徒弟(アブレンティス)として所属する異能力者の女性。年齢は20歳。黒髪をシニヨンにまとめ、プリンセスラインのドレスを身につけている。身長171センチで、体重54キロ。11月8日生まれのAB型。所持している異能力は物質を風化させる「風とともに去りぬ」。一族の莫大な負債を返済し、家名を立て直して名誉を取り戻すことを目標に組合に属していた。しかし、強力な異能力者である芥川龍之介を「敗北も屈辱も知らない」と誤解して罵倒し、龍之助の怒りを買って重傷を負ったうえ、ナサニエル・ホーソーンをかばったため意識不明となった。その後、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが行方不明となっているあいだは誰も治療費を払う者がおらず、不衛生な闇医者をたらい回しにされた挙げ句、病状が悪化している。フランシスは神の目を武装探偵社に使用させる条件として、マーガレットに与謝野晶子の治療を受けさせることを提示している。好きなものは自分自身と愛、明日という日。嫌いなものは戦争と裏切り。実在の人物、マーガレット・ミッチェルがモデル。
エリス
森鴎外と行動を共にしている少女。巻き癖のある長い金髪で、フリルがついたドレスを身につけている。ふつうの少女に見えるが、実は鴎外の異能力であるヰタ・セクスアリスで具現化されている。鴎外に対して辛辣な態度で接したり、鴎外の趣味を嫌がったりする姿を見せているが、これはすべて鴎外自身が設定した性格で、エリス自身は納得がいっていない様子を見せている。戦闘時には巨大な注射器や、メスを使用した攻撃を繰り出す。森鴎外の小説『舞姫』に登場する踊り子がモデル。
イワン・ゴンチャロフ
フョードル・ドストエフスキーが頭目を務める、死の家の鼠に所属している異能力者の男性。腰までの長い金髪で、頭部に包帯を巻いている。所持している異能力は、礫岩(れきがん)を自在にあやつる「断崖」となっている。フョードルに心酔し、不幸を感じる脳部位をドストエフスキーによって切除されており、つねに薄ら笑いを浮かべている。実在の人物、イワン・ゴンチャロフがモデル。
春野 綺羅子 (はるの きらこ)
武装探偵社で事務員を務めている女性。茶髪のロングヘアに眼鏡をかけている。猫好きで、三毛猫の「ミィちゃん」を溺愛している。三者鼎立編で武装探偵社の事務員が県外退去を申し渡された際には、谷崎ナオミと一時的に同居生活を送っている。谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』に登場する女優がモデル。
ルイーザ・メイ・オルコット
組合に徒弟(アブレンティス)として所属する異能力者の少女。年齢は18歳。金髪のショートボブヘアをリボンカチューシャで留め、眼鏡をかけている。身長165センチで、体重50キロ。11月29日生まれのO型。所持している異能力は「若草物語」。組合で作戦立案を担当しており、不測の事態にも対応できるようになっている。非常に頼りになるものの毎回作戦書がぶ厚くなるため、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドは少々閉口していた。フランシスを心から敬愛しており、彼が行方不明になったあとは、生存を信じてたった一人でフランシスの行方を捜索した。ホームレスとなったフランシスを発見した際には「手持ちの物でもっとも高額なものを譲渡しろ」と言われ、躊躇(ちゅうちょ)せずにルイーザ・メイ・オルコット自身を譲渡すると宣言している。好きなものは田舎と自然、活字、本。嫌いなものは都会と差別、人前。実在の人物、ルイーザ・メイ・オルコットがモデル。
文 (あや)
小学生の少女。年齢は10歳。赤いミディアムボブヘアで、前髪をヘアピンで留めている。父親が警察官であることから、空港が防犯上いかに優れた施設であるかを知っている。しかし父親からは、虐待に近いほどの厳しい躾(しつけ)を受けてきたこともあり、父親を憎んでいる。電車のホームで偶然に桂正作の爆発テロの標的となり、国木田独歩に救われている。天人五衰の策略によって指名手配された武装探偵社の無実を信じていたことから、偶然空港で出会った条野採菊に誘導され、福地桜痴が天人五衰の黒幕である事実を知った。その後、ブラム・ストーカーを連れて空港内を逃亡している。
T・J・エクルバーグ (てぃー じぇー えくるばーぐ)
新生組合にスカウトされたエンジニアの男性。肩までの金髪をうなじでまとめ、丸眼鏡をかけている。神の目をほぼ独力で開発し、天才と評されている。親友だったエンジニアを殺害した冤罪(えんざい)で有罪が確定していたが、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドの機転で無罪となった。フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドの小説『華麗なるギャツビー』に登場する博士がモデル。
A (えーす)
ポートマフィアの幹部を務めている異能力者の男性。銀髪をアシンメトリーのショートヘアにしており、燕尾服(えんびふく)を身につけている。所持している異能力は部下の寿命を同価値の宝石に変えることができる「宝石王の乱心」。ポートマフィアが運営するカジノを荒らしたギャンブラーで、多額の上納金で幹部となったがポートマフィアを用心棒程度にしか考えておらず、尾崎紅葉からは「忠誠心の欠片(かけら)も持たない男」と警戒されている。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
組合に職人(フェロークラフト)として所属する異能力者の男性。年齢は28歳。8月20日生まれとされているが、正確なことは不明。頰が痩(こ)けており、ウェーブがかった黒髪を腰まで伸ばしている。身長190センチで、体重は可変。血液型は不明。所持している異能力は「旧支配者(グレート・オールド・ワン)」とされているが、太宰治の人間失格の影響を受けずにいたことから、実際には異能力ではないとされている。銃弾を受けてもまったくダメージを受けず、首が折れても簡単に戻せるなど、人体として異常な様子が見られる。また、夢野久作の異能力であるドグラ・マグラを発動されても精神操作を受けず、逆に久作を発狂させ、捕らえることに成功した。タコに似た触手を大量に持った巨大な姿になることができ、その際には汚濁形態となった中原中也の重力子弾を受けても即座に再生する。フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドと交わした契約を終え、早く眠りにつきたがっている。好きなものは捧げ物、睡眠、チョコレート、アイスクリーム。嫌いなものは漁船。実在の人物、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトがモデル。
田山 花袋 (たやま かたい)
かつて武装探偵社の社員だった異能力者の男性。年齢は23歳。ボサボサの黒髪に丸眼鏡をかけ、布団と半纏(はんてん)を身につけている。身長175センチで、体重53キロ。1月22日生まれのB型。所持している異能力は「蒲団」。私服姿の芥川銀に一目惚(ぼ)れし、中島敦と国木田独歩の助けを得て一度告白したが、玉砕している。好きなものは田山花袋が愛用している蒲団の中と温泉、洋館、黒髪の撫子(なでしこ)。嫌いなものは人付き合いと曲がったこと。実在の人物、田山花袋がモデル。
条野 採菊 (じょうの さいぎく)
猟犬に所属している異能力者の男性。毛先のみ黒い白髪をショートカットヘアにしている。所持している異能力は、肉体を細胞大の微粒子群に変化させられる「千金の涙」。盲目だがそのほかの五感が発達しており、心拍を聞くだけでその心理を読んだり、走行する車の車内にいる人数を把握できたりする。そのためウソを簡単に見抜くことができ、尋問の際には相手を嬲(なぶ)るように追い詰める癖がある。元犯罪組織の幹部だった。実在の人物、条野採菊がモデル。
ハーマン・メルヴィル
組合に職人(フェロークラフト)として所属する異能力者の男性。年齢は68歳。恰幅(かっぷく)のいい体型で短い白髪を一房だけ残したオールバックにしており、口まわりに長く髭(ひげ)を蓄えている。身長182センチで、体重86キロ。8月1日生まれのO型。所持している異能力は「白鯨」。実は2代前の組合団長であり、「かつての組合は美しかった」と発言している。好きなものは鯨、海、平等、多様性。嫌いなものは差別、階級主義。実在の人物、ハーマン・メルヴィルがモデル。
ブラム・ストーカー
天人五衰に所属している異能力者の男性。長い髪と尖(とが)った耳をしており、肩から下の体がなく、下から聖十字剣で突き刺されている。異能力で細胞が変異し、吸血種へと変容した元人間。かつて存在した「人類を滅ぼす10の厄災」の一つだが、福地桜痴に首を切り落とされるまでブラム・ストーカー自身はこの呼称を知らなかった。ふだんは故郷の土を敷き詰めた棺に入れられている。もう他人の血を吸って眷属を増やすことはしないと決めていたが、桜痴に「やらなければ聖十字剣での脳髄を焼き尽くす」と脅され、従っている。また桜痴には、眷属である吸血種をあやつる権能も奪われている。棺(ひつぎ)での眠りの慰みにと無線ラジオを欲していたが、ラジオ以外の音楽も楽しめるという理由から、文からスマートフォンを贈られ、文に協力することを決めている。「不死公主」という二つ名を持っており、文からは「ブラちゃん」と呼ばれている。実在の人物、ブラム・ストーカーがモデル。
アレクサンドル・プシュキン
フョードル・ドストエフスキーが頭目を務める、死の家の鼠に所属している異能力者の男性。小太りで特徴的な前髪をしており、つねにフードをかぶっている。所持している異能力は「黒死病の時代の饗宴」。「ヒキキ」という特徴的な笑い声を発し、非常に卑屈な一面を持っている。強い異能力者が苦しむ顔が最高の娯楽であると発言し、弱い人間は強い人間になにをしても許されると考えている。実在の人物、アレクサンドル・プーシキンがモデル。
坂口 安吾 (さかぐち あんご)
内務省異能特務課で参事官補佐を務めている男性。年齢は25歳。外ハネした黒髪のショートカットヘアをオールバックにし、眼鏡をかけている。身長178センチで、体重63キロ。10月20日生まれのA型。所持している異能力は、物体に刻まれた記憶を読み取る「堕落論」。かつては潜入捜査官としてポートマフィアに所属していた。太宰治がポートマフィアとして犯した罪の証拠隠滅を、犯罪の隠蔽と洗浄を専門とする犯罪機関「七號機関」に依頼したことがある。天人五衰が事件を起こしてからは、太宰と武装探偵社メンバーとをつなぐメッセンジャーとして行動し、小栗虫太郎を連れて逃走中の中島敦、泉鏡花を保護している。好きなものはアンティークと思い出、物質主義。嫌いなものは残業と徹夜、裏切り。実在の人物、坂口安吾がモデル。
桂 正作 (かつら しょうさく)
爆弾魔の男性。黒髪をショートカットヘアにしている。2年前に違法爆薬を精製し、校舎を爆破しようとして国木田独歩の活躍によって逮捕された経歴を持っている。その際に独歩から何度も聞かされた「逆境に折れず、己を律して正しきをなす強い人間になれ」という言葉を、脳内から消すために再び爆弾テロを起こした。独歩をおびき寄せ、列車の乗客たちの命と、通りすがりに出会っただけの少女である文の命を天秤(てんびん)にかけさせた。共喰い編においては独歩の情報を聞き出す目的で、フョードル・ドストエフスキーに捕らえられたが、「独歩の理想は本物だ」と話している。国木田独歩の小説『非凡なる凡人』の登場人物がモデル。
フョードル・ドストエフスキー
天人五衰に所属しており、死の家の鼠(ねずみ)の頭目を務めている異能力者の男性。モノトーンの髪を肩上まで伸ばし、ロシア帽をかぶっている。所持している異能力は「罪と罰」だが、能力の詳細は明らかになっていない。ポートマフィアの構成員全員の異能力を知るため、わざとポートマフィアに捕らえられるなど手段を選ばず、またそのために緻密な計画を欠かさない。異能力者のいない世界を作るために「本」を探している。部下であるアレクサンドル・プシュキンやイワン・ゴンチャロフが、指示待ち体質で自主性に欠けることに悩んでいる。「魔人」という二つ名を持っており、イワンからは「主様」と呼ばれている。実在の人物、フョードル・ドストエフスキーがモデル。
ゴーゴリ
天人五衰に所属している異能力者の男性。年齢は26歳。長い白髪を三つ編みにし、マジシャンとピエロを思わせる衣装を身につけている。身長184センチで、体重68キロ。4月1日生まれのB型。所持している異能力は外套(がいとう)の布面と、離れた空間を接続できる「外套」。政府要人に近い身分の人物をターゲットにした連続見立て殺人の実行犯だが、殺人の邪悪さを理解し、人並みの罪悪感も持ち合わせている。しかし完全な自由を求めており、そのために天人五衰に加入したと話している。フョードル・ドストエフスキーを唯一の理解者であり親友だと考えているが、感情という洗脳からも自由になるために、フョードルを殺害することに決めた。また、その計画に加担させるために天空カジノから落下したシグマを助け、フョードルの異能力の詳細を読み取るようせまっている。「道化師ゴーゴリ」とも呼ばれている。好きなものは奇術と演劇、人が驚く顔、クイズ、ピロシキ。嫌いなものは洗脳と隷属、自由でないこと。実在の人物、ニコライ・ゴーゴリがモデル。
種田 山頭火 (たねだ さんとうか)
内務省異能特務課の長官を務めている男性。年齢は50歳。禿(はげ)頭に顎ひげを蓄え、丸眼鏡をかけている。身長185センチで、体重98キロ。12月3日生まれのO型。所持している異能力は、自分の近くで異能力が発動した場合、それがどんな性質を持つのか瞬時に把握できる「鉄鉢の中へも霰」。人間の命を数字でとらえるところがあり、100人の命を救うために一人を犠牲にすることを選択する。そのため、坂口安吾からはあまり好かれていない。内務省異能特務課の使命を「大勢の民草に平和ボケの幸福を享受させること」と考えており、そのためには種田山頭火自身の命も容易(たやす)く賭けることができる。好きなものは酒と温泉、夜ふかし。嫌いなものは物を粗末にすること。実在の人物、種田山頭火がモデル。
マーク・トウェイン
組合に階級不明で所属している異能力者の男性。年齢は22歳。外ハネした赤毛をショートカットヘアにしている。身長178センチで、体重68キロ。11月30日生まれのB型。所持している異能力は「ハック・フィン&トム・ソーヤ」。大人数で騒いだり楽しいことをするのが好きで、たびたび組合メンバーをカラオケなどに誘っているが、賛成してもらえたことはない。砲撃、銃撃、狙撃を得意としており、白鯨からパラシュートで脱出した中島敦を砲撃して落下させ、その後も執拗(しつよう)に銃撃したが、太宰治が街中に仕掛けていた飽和チャフと煙幕に目を眩(くら)まされて追撃に失敗している。好きなものは自分自身と賞賛、冒険。嫌いなものは地味な仕事。実在の人物、マーク・トウェインがモデル。
芥川 銀 (あくたがわ ぎん)
ポートマフィアに所属している女性で、芥川龍之介の妹。黒髪ロングヘアを乱雑なポニーテールにしており、マスクを着けている。非常に声がかわいらしいが無口なため、樋口一葉や立原道造からは男性だと思われていた。髪を下ろして私服でいると清楚(せいそ)な女性に見えるため、田山花袋から一目惚れされた。ポートマフィアの中でもさらに武闘組織として知られている「黒蜥蜴」に所属しており、十人長として部下を率いている。芥川龍之介の短編小説『おぎん』の主人公がモデル。
夏目 漱石 (なつめ そうせき)
異能力者で、謎の多い男性。前髪のみ白いツートンカラーのショートカットヘアで、口ひげを蓄え、山高帽と杖を身につけている。所持している異能力は「吾輩は猫である」。武装探偵社設立の後ろ盾となった伝説の異能力者と評されているが、神出鬼没で所在も不明とされている。ふだんは春野綺羅子の飼い猫「ミィちゃん」として過ごしている。実在の人物、夏目漱石がモデル。
夢野 久作 (ゆめの きゅうさく)
ポートマフィアに所属している異能力者の少年。年齢は13歳。黒と白のモノトーンの髪をショートボブヘアにしている。身長146センチで、体重38キロ。1月4日生まれのAB型。所持している異能力は「ドグラ・マグラ」。敵味方の区別なく、命あるものを等しく破壊しようとするため、ポートマフィアによって座敷牢(ろう)に封印されていた。その頃はフルネームを伏せられ、「Q」と呼ばれていた。好きなものは自分自身と混沌、黒砂糖。嫌いなものは自分自身と平和、社会、病院。実在の人物、夢野久作がモデル。
小栗 虫太郎 (おぐり むしたろう)
情報操作の専門家で異能力者の男性。「隠滅屋」とも呼ばれる。年齢は26歳で、短い黒髪を七三分けにして撫でつけている。身長178センチで、体重56キロ。3月14日生まれのA型。所持している異能力は「完全犯罪」。かつて犯罪の隠蔽と洗浄を専門とする犯罪機関「七號機関」に監禁され、金儲(もう)けのために「完全犯罪」を使わされ続けていたが、フョードル・ドストエフスキーに協力することを条件に解放された。フョードルがわざと内務省異能特務課に捕らえられた理由も知っている。共喰い編において「完全犯罪」を用いてさまざまな現実改変を行い、そのため江戸川乱歩と対峙(たいじ)することになった。乱歩と友情を感じる仲になったが、その直後にゴーゴリによって拉致されて拷問を受け、かつて「完全犯罪」によって証拠を隠滅していた、太宰治がポートマフィア時代に行った犯罪の証拠を復活させた。友人だった推理小説家「ヨコミゾ」の遺稿を、完全なミステリにするために心血を注いでいる。中島敦と泉鏡花によって脱走してからは、エドガー・アラン・ポオの自宅に匿(かくま)われながら小説を執筆している。事件の証拠を隠滅して探偵に推理をさせないことから「探偵殺し」を名乗っている。好きなものは知識と神秘。嫌いなものは汚い身なりと雷、夏、探偵。実在の人物、小栗虫太郎がモデル。
福地 桜痴 (ふくち おうち)
猟犬の隊長を務めている異能力者の初老男性。所持している異能力は「鏡獅子」。短い白髪を逆立てて口ひげを蓄えており、右頰に爪痕のような3本の傷がある。「生ける伝説」と評されており、神刀、雨御前を下賜されている。世界的にも英雄視されており、その活躍は3度も映画化されているため、世界中の政治家たちにもファンが存在する。その実力と名声を理由に、異能力者による犯罪に国境を越えて対処する汎人類守護部隊「人類軍」の司令官に任命された。福沢諭吉とは幼なじみで親友でもあり、再会の際には必ず飲み比べを行っている。実は天人五衰を率いる「神威」であり、女子供にも容赦しない残虐な戦争を経験した結果、国家、秩序が戦争という地獄を生むと考えるようになり、すべての国家の消滅を目標とした活動を開始するようになった。ブラム・ストーカーの眷属(けんぞく)である吸血種をあやつり、全国家の半数を吸血種にしようと目論んでいる。諭吉からは「源一郎」と呼ばれている。実在の人物、福地桜痴がモデル。
エドガー・アラン・ポオ
組合に設計者長(マスター・アーキテクト)として所属する異能力者の男性。年齢は28歳。癖のある黒髪で、前髪で目元を完全に隠している。一人称は「我輩」。身長182センチで、体重64キロ。1月19日生まれのAB型。所持している異能力は読者を自作小説の世界に引きずり込む「モルグ街の黒猫」。6年前に江戸川乱歩と探偵勝負を行い敗れたと語っているが、乱歩に存在を忘れ去られていた。過去の雪辱を果たすべく、6年かかって書き上げた推理小説を乱歩に渡し、連続殺人の真相を的中させることができれば組合の拠点である白鯨の刺客や攻略法を教えるという条件で、「推理遊戯(ゲェム)」を挑んだ。それ以来、乱歩の友人として交友を深めている。好きなものは推理小説とアライグマ。嫌いなものは大人数とのおしゃべり。実在の人物、エドガー・アラン・ポーがモデル。
シグマ
天空カジノの総支配人を務めており、天人五衰に所属している男性。腰まである長い髪をウルフカットにし、左右で紅白のツートンカラーに染め分けている。身長177センチで、体重62キロ。年齢、誕生日、血液型は不明となっている。異能力の名前も不明だが、対象者に触れることで、「自分の知識の中で相手がもっとも知りたい情報」と「相手の知識の中で自分がもっとも知りたい情報」を交換することができる異能力を持っている。天空カジノを「シグマの命そのもの」だと語っており、大倉燁子が1か月間の閉鎖をせまった際にも即座に拒否している。天空カジノの支配人となるために産まれてきた存在と評されており、2万人近い客の名前と性質をすべて暗記しているが、それはすべて睡眠時間を削った結果である。過去の記憶がなく突然砂漠に現れた存在であり、居場所である天空カジノを失うことをなによりも恐れている。好きなものはカジノと高い場所、才能、クッキー。嫌いなものは砂漠と空腹、利用しようと近づいて来る他人。
末広 鐵腸 (すえひろ てっちょう)
猟犬に所属している異能力者の男性。外ハネ癖のある黒髪をショートカットヘアにしおり、右目の下に桜の花びらのタトゥーを入れている。所持している異能力は、刀の刀身を自由に伸縮、屈曲させることのできる「雪中梅」。純粋な戦闘能力では猟犬最強、肉体と精神に鋼を宿しているとも評されている。悪人と信じた人物に対しては冷徹だが、善人に対しては真摯に対応する。実在の人物、末広鐵腸がモデル。
ジョン・スタインベック
組合に職人(フェロークラフト)として所属する異能力者の男性。年齢は21歳。金髪ベリーショートヘアで、ハンチング帽とオーバーオールを身につけている。身長175センチで、体重64キロ。2月27日生まれのA型。組合の任務は過酷だが報酬がいいため、大家族を養うために組合に属している。金で人をあやつるフランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドのことを嫌っていたが、フランシスが家族のために動いていたことは理解しており、フランシスが行方不明になったあと組合内で内乱が起こり始めた際には、組織に残って組合残党の暫定リーダーとなることを決意している。好きなものは家族と葡萄(ぶどう)、農業、聖書。嫌いなものは孤独と貧困、資本家。実在の人物、ジョン・スタインベックがモデル。
ナサニエル・ホーソーン
組合に職人(フェロークラフト)として所属する異能力者の男性。年齢は27歳。肩までの金髪を八二分けに撫(な)でつけ、牧師服を身につけている。身長188センチで、体重72キロ。7月4日生まれのA型。所持している異能力は「緋文字」。敬虔なキリスト教徒で、信仰をなによりも重視している。三者鼎立(ていりつ)編においては重傷を負った状態でありながら、ナサニエル・ホーソーンとマーガレット・ミッチェルとの戦いに挑む芥川龍之介に対し、信仰と同じ強度でなにかを渇望しているのを察知し、全力の戦いでその思いに応えた。フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが行方不明となったあとは、意識不明となったマーガレットを治療するという条件を受けてフョードル・ドストエフスキーに協力した。その後、ほとんどの記憶を失ったが、マーガレットを愛していることだけは覚えている。好きなものは神と聖書、信仰、潔白。嫌いなものは悪魔と異端。実在の人物、ナサニエル・ホーソーンがモデル。
大倉 燁子 (おおくら てるこ)
猟犬の副長を務めている異能力者の少女。巻き癖のある長い金髪をサイドテールにしている。一人称は「儂(わし)」。所持している異能力は、触れた相手の年齢を操作できる「魂の喘(あえ)ぎ」。拷問をなによりも楽しみにしており、秘密を持つ拷問相手が現れると驚喜するが、その相手から期待していたよりも早く秘密が明かされると、悲しんで泣き叫ぶことがある。猟奇的な発言と威圧的な態度を見せるが、福地桜痴に心酔しており、桜痴に対してだけはあからさまに態度を変えている。実在の人物、大倉燁子がモデル。
集団・組織
武装探偵社 (ぶそうたんていしゃ)
福沢諭吉が社長を務める探偵社。ネコ探しや不貞調査といった、ふつう依頼は受けておらず、軍や警察にも頼れないような危険な依頼を専門にしており、昼の世界と夜の世界を取り仕切る、薄暮の武装集団として知られている。社員となるためには「見知らぬ人でも助けることができる心と強さを持っているか」を試す入社試験が必須条件で、この試験に合格しない限り社員として認められない。探偵社である理由については、「江戸川乱歩の才能を生かすためだけに設立された組織だから」と説明されている。
ポートマフィア
森鴎外を首領とする犯罪組織。主に港付近を縄張りにしているが、傘下にある団体企業は数十を超え、街の至る所に根を張っているとされている。隠密主義で人目につかないように犯罪を犯す者が多いが、中には梶井基次郎のように名の知られた指名手配犯も所属している。重大な掟(おきて)として、首領である鴎外の命令への絶対服従、組織への忠誠、そして攻撃を受けた際には倍以上にして返すことが定められている。先代の首領は鴎外よりも残忍で、ポートマフィアそのものも現在より醜悪な実体だったとされ、尾崎紅葉は「鴎外が死ねば昔のポートマフィアに逆戻りしてしまう」と危惧している。
組合 (ぎるど)
フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが団長を務める北米の秘密結社。構成員は政財界や軍閥の要職を担う一方で、裏では膨大な資金力と異能力で数多の謀(たばかり)を底巧(そこだく)んでいるとされており、半ば都市伝説として実在をも疑問視されていた。しかし、その影響力は北米のみならず、日本の中枢にまで強力に食い込んでいる。三者鼎立編においては外交筋から圧力をかけ、構成員に外交官と同等の権限を付与させたため、日本の法執行機関は組合構成員を勾留すらできず、内務省異能特務課も他庁とのパワーバランスの関係で動くことができなくなっていた。職人(フェロークラフト)、徒弟(アブレンティス)という独自の階級が存在している。
内務省異能特務課 (ないむしょういのうとくむか)
種田山頭火が長官を務めている秘密異能組織。異能開業許可証の発行元であり、国内にある異能力者の統括と、異能力を使用した犯罪の取り締まりを行っている。国内最高峰の秘密異能組織ながら、存在しない組織として扱われているため買収は困難だが、内務省そのものを買収することは可能と考えられている。
天人五衰 (てんにんのごすい)
五人の犯罪者たちで構成されている殺人結社。六道輪廻(りんね)の最高位である「天人」が、死の間際に顕す五つの兆候を引用している。創設者である「神威」を筆頭に、フョードル・ドストエフスキー、ゴーゴリ、シグマ、ブラム・ストーカーが所属している。すべての国家の消滅を目的としている。
人類軍 (じんるいぐん)
福地桜痴を司令官とする無国籍の対テロ軍隊。天空カジノで起こった爆発テロ事件をきっかけに創設された。地球全土を守備範囲とした軍警察であり、どんな国家、どんなしがらみにも縛られず、禁域や出動制限もない軍隊とされている。当初は「超国家的武装警備部隊」と呼称されていた。
猟犬 (りょうけん)
軍警最強の特殊部隊。国内の全部隊から最高の人材を集めて結成された。全員が全身に異能技師による生体手術を施されており、常人の数倍の身体能力を持っている。そのため、その戦闘力は一人で特殊部隊兵1000人に匹敵すると噂(うわさ)されている。ただし、1か月ごとの維持手術を一度でも怠れば、全身が腐って死ぬというリスクを背負っている。「特殊制圧作戦群・甲分隊」とも呼ばれている。
新生組合 (しんせいぎるど)
フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが、三者鼎立編ののちに立ち上げた新たな組織。構成員はルイーザ・メイ・オルコットとT・J・エクルバーグだけとなっている。神の目を最大の取引材料として所持しつつ、内務省異能特務課そのものの買収を目標にしている。
場所
ムルソー
異能力を持った犯罪者のみを収監する、欧州の刑務所。存在自体が国家機密であり、正確な場所は欧州政府上層部しか知らない。共喰い編終了直後からフョードル・ドストエフスキーが収監され、フョードルの思惑を間近で見抜くために太宰治も自ら収監されている。洋上ヘリポートだけが唯一外界と通じている場所であり、5層で構成された建物で、最下層には危険な異能力者を収容するための異能空間「無限賽室」があり、太宰とフョードルはここに収監されていた。空中に立方体でガラス張りの個室が浮かんでいる。第4層以上の廊下には「セル」と呼ばれる区画が、対異能力性特殊金属で作られた120センチの隔壁で数十に区切られており、通り抜けるには暗証番号が必要となるが、その番号も6時間ごとに変更され、一度間違えば二度と開かない。また、各層は昇降装置でしか行き来できないが、昇降装置を動かすためには掌紋、声紋、網膜、遺伝子認証のすべてが必要となる。さらに、このすべての認証信号を受けた中央制御室の監視員が、搭乗者の映像を確認した上でようやく作動する。すべての階層は重装備の警備兵が巡回しており、警告なしで発報してくるうえに、これらの武器にも遺伝子認証が使われているため、奪って使用すれば警報が鳴るようになっている。また、不審者が発見されれば即隔壁が閉鎖され、10秒後に重水が注水されるようになっている。
天空カジノ (てんくうかじの)
天空に浮遊しているカジノ。13年前、大戦直後に建設されたとされ、シグマが総支配人を務めている。三つの円形の建物で構成されており、中央にあるメイン棟の下部には巨大なプロペラが備わっている。質量バランサーによる自転遠心力と、浮揚ガスを使用して見た目よりも遙(はる)かに少ない燃料で高度を維持しているとされるが、実際はなんらかの異能力で浮揚補助をしているのではないかと考えられている。民間娯楽施設ではあるが、実際は戦勝国による監視と威嚇を目的に建造されたと噂されている。国際法上いかなる国家の警察権も適用されない独立国家のような存在。しかし実際は、8日前に「本」のページに書き込まれて現れており、13年前に建設されて人々から周知される存在であるかのような認識は「本」による現実改変の結果だった。硬貨型の爆弾であるRDG1800の保管および配布場所でもある。
喫茶うずまき (きっさうずまき)
武装探偵社の事務所が入っているビルの1階で営業している喫茶店。社員たちがよく利用している。コーヒーにこだわりのあるマスターと気さくな奥さんが夫婦で営んでいるが、立地の関係上で騒動に巻き込まれることもある。フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドが行方不明となってからは、ルーシー・モード・モンゴメリが住み込み女給として働いている。
旧晩香堂 (きゅうばんこうどう)
武装探偵社設立以前に、福沢諭吉が拠点として使用していた場所。大きな黒板や教壇などが備わった講堂になっている。通常の入り口が存在せず、入るためには地下の廃路線を通るしか道がないため、警戒は監視カメラがあれば事足り、人手を割く必要がない。
イベント・出来事
ゴーゴリ・ゲーム
ゴーゴリがフョードル・ドストエフスキーを殺害するために考え出した脱獄ゲーム。ムルソーからの脱獄をテーマにしており、太宰治も参加させられている。ゲーム開始時に太宰とフョードルは30分を期限とした致死毒を注射し、期限以内にムルソーを脱獄しなければならない。先に脱獄した者のみゴーゴリから解毒薬を得ることができる。このゴーゴリ・ゲームの開催にあたってゴーゴリは、フョードルと太宰に一つずつ所持品を許可しているが、フョードルは洋上ヘリポートに出ることのできる開扉カードを、太宰は同席していたシグマを所持品として選択している。
その他キーワード
異能開業許可証 (いのうかいぎょうきょかしょう)
日本において異能力者の集団が、合法的に開業するために必要となる許可証。内務省異能特務課だけが発行することができる。所持しているのは武装探偵社とポートマフィアのみだが、組合はこの異能開業許可証を狙って、武装探偵社を社屋ごと買い取ろうとした。
雨御前 (あめのごぜん)
福地桜痴が所持している、青い刀身を持つ日本刀。1500年前に異能力者だった刀鍛冶(かじ)が製作したとされる。実戦用ではなく、神事に用いられる儀仗(ぎじょう)剣として使用され続けていた。空間を省略し、離れた地点に刃を届かせることができるため「時空剣」ともあだ名されている。ただし、桜痴の能力である鏡獅子の影響を受けていない場合、渡れる距離はせいぜい数10センチ程度だった。その性能が100倍に増幅されて、範囲は数10メートルに広がり、さらに十数秒の時間を渡れるようになっている。
大指令 (わんおーだー)
精神支配系の異能力が発動する異能兵器。大戦が生み、封印された「三大厄災」の一つに数えられている。上官の命令に対し部下が自らの意思を介入させず、いっさいの躊躇や手加減を加えないまま実行させることができるという通信機であり、前線の指揮官が使うことを想定して設計された。大指令を通して命令を受けた部下は体が上官の一部のように動き、自動的に命令を遂行する。疑問も罪悪感も差し入れる余地がないため、兵士を罪の意識から解放する優しい兵器だと考えられていた。しかし、軍の最高司令官が大指令を用いた場合、国軍全体を一斉にあやつることができ、軍事クーデターを簡単に引き起こせると気づいた当時の政府によって封印されていた。また、大指令の開発に携わった異能技師は、事故に見せかけて殺害されている。
RDG1800 (あーるでぃーじーいちはちぜろぜろ)
硬貨に偽装した、小型の高性能爆弾。内蔵された爆薬は少量だが強力で、爆発時に破片が飛び散り、人体に重い損傷を与えるよう設計されている。天人五衰が起こす世界テロ計画の中枢を担う兵器であり、天空カジノで保管され、カジノ客への報酬としてふつうの硬貨に混じって配布されていた。
本 (ほん)
フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドとフョードル・ドストエフスキーが探し求めている本。太宰治はこの正体を知っており、「本」は白紙の文学書で、書いたことが真実となる一冊の小説だと語っている。そのため「白紙の小説」とも呼ばれている。この「本」、または切り取られたページに書かれたものは、人々の記憶を書き換えた上で真実として扱われる。ただし制約があり、書かれた内容が実現するためには、物語としての因果性剛性を持った内容でなければならない。天人五衰がこの一ページを奪取し、武装探偵社が未曽有のテロ事件を引き起こす犯人であると記述した。
月下獣 (げっかじゅう)
中島敦が使用する異能力。白い巨大な虎の姿に変身する。部分的にでも虎に変身しているあいだは、体を欠損するほどのケガを負っても凄(すさ)まじい早さで再生する。当初は虎になってしまうと自分で制御できず、暴走状態に陥ってしまっていたが、敦が武装探偵社の社員として認められてからは、福沢諭吉の異能力である「人上人不造」が発動し、変身部位や力加減を完全にコントロールできるようになった。芥川龍之介によると「月下獣」の爪には異能力自体を裂く力が備わっているとされる。能力名は、中島敦の短編小説『山月記』からとられている。
人間失格 (にんげんしっかく)
太宰治が使用する異能力。他人の異能力に太宰が触れると、強制的に無効化してしまう。また、異能力者に太宰が触れることで、異能力の発動そのものを抑制することができる。太宰の意思に関係なく常時発動しているため、太宰にとって役に立つ能力も無効化してしまう欠点がある。能力名は、太宰治の小説『人間失格』からとられている。
独歩吟客 (どっぽぎんかく)
国木田独歩が使用する異能力。手帳のページに物の名称を書き込んでそのページを破り取ると、そのページそのものが書き込まれた物に変容する。ただし、手帳以上の大きさの物には変容させることができない。能力名は、国木田独歩の筆名の一つだった「独歩吟客」からとられている。
君死給勿 (きみしにたもうなかれ)
与謝野晶子が使用する異能力。治癒能力は異能力の中でも極めて希少で、武装探偵社では重宝されている。しかし、治癒対象者が瀕死(ひんし)でないと治癒できないという欠点があるため、半端なケガをしている相手は晶子自らが鉈(なた)などで解体し、半殺しの状態にする必要がある。能力名は、与謝野晶子の詩『君死にたまふことなかれ』からとられている。
細雪 (ささめゆき)
谷崎潤一郎が使用する異能力。辺り一帯に雪を降らせることで、雪の降る空間そのものをスクリーンに変えることができる。自分や他人の姿の上に別の映像を上書きすることができるため、虚像を作ったり姿を隠すことに長(た)けている。潤一郎自身は戦闘向きの能力ではないと評している。能力名は、谷崎潤一郎の小説『細雪』からとられている。
雨ニモマケズ (あめにもまけず)
宮沢賢治が使用する異能力。賢治が空腹に耐えている時のみ自動的に発動し、常人では考えられないほどの頑丈さと怪力を発揮することができる。そのため横浜近隣のギャングなど、ガラの悪い連中も賢治には敵(かな)わないと考えており、聞き込みなどを行うと非常に優しく情報を提供してくれる。能力名は、宮沢賢治の詩『雨ニモマケズ』からとられている。
夜叉白雪 (やしゃしらゆき)
泉鏡花が使用する異能力。仕込み杖を持った着物姿の女性に似た異形、夜叉白雪を具現化する。当初は鏡花自身に夜叉白雪を制御できず、芥川龍之介や尾崎紅葉が携帯電話越しに夜叉白雪をあやつっていた。しかし、武装探偵社の社員として認められてからは、福沢諭吉の異能力である「人上人不造」が発動し、鏡花自身の意思で夜叉白雪を動かせるようになっている。能力名は、泉鏡花の戯曲『夜叉ヶ池』と、同作に登場する龍神、白雪からとられている。
羅生門 (らしょうもん)
芥川龍之介が使用する異能力。身につけている黒い外套を不定形の「黒獣」に変容させることができる。この黒獣は空間を含むあらゆる物を食らうことができ、銃弾が発射されて着弾するまでの空間を食うことで銃撃を無効化することもできる。さらに、黒獣を蜘蛛(くも)の巣状に変形させると盾としても機能する。能力名は、芥川龍之介の短編小説『羅生門』からとられている。
檸檬爆弾 (れもねーど)
『文豪ストレイドッグス』に登場する異能。犯罪組織ポートマフィアの構成員梶井基次郎の能力。檸檬爆弾によるダメージを受けずに済む。梶井曰く、ダメージを受けない理由は「檸檬は美しき紡錘形だから」。使用される檸檬爆弾は、すべて梶井が手作りしたもの。実在する梶井基次郎の小説『檸檬』をモチーフにしている。
金色夜叉 (こんじきやしゃ)
尾崎紅葉が使用する異能力。仕込み杖(づえ)を持って着物にマントをまとった姿の、女性に似た異形、金色夜叉を具現化する。泉鏡花の異能力「夜叉白雪」と酷似した見た目をしているが、夜叉白雪とは違い、紅葉自身で制御することができる。能力名は、尾崎紅葉の小説『金色夜叉』からとられている。
深淵の赤毛のアン (しんえんのあかげのあん)
ルーシー・モード・モンゴメリが使用する異能力。任意の範囲にいる人間を異空間「アンの部屋」に転送し、巨大な赤毛の人形「アン」に捕獲させる。脱出する方法は二つあり、一つは外へ通じるドアから外に出るというもので、この方法で脱出をすると「アンの部屋」内部であったことはすべて忘れてしまう。もう一つは、ルーシー自身の意思で深淵の赤毛のアンを解除するというもので、この方法だと脱出しても記憶は正常に機能する。能力名は、L・M・モンゴメリの小説『赤毛のアン』からとられている。
緋文字 (ひもんじ)
ナサニエル・ホーソーンが使用する異能力。ナサニエル自身の血液を聖なる文字に換えて、自在にあやつることができる。弾丸のように打ち出したり、書き連ねることで障壁にしたり、長い文章で敵を捕縛することもできる。系統としては芥川龍之介の異能力である羅生門と似ており、互いにそれを自覚しているため、対峙した際には能力の優劣が勝敗を分けることになると察知していた。能力名は、ナサニエル・ホーソーンの小説『緋文字』からとられている。
完全犯罪 (かんぜんはんざい)
小栗虫太郎が使用する異能力。体から小さな異能生物を産み出し、この異能生物に犯罪の微細な証拠を食べさせることで消滅させる。ただし、人間の記憶を改竄(かいざん)することはできず、一度見た物の情報を正確に記憶して推理に役立てる特性を持った人物などには強い効力を発揮しない。
人上人不造 (ひとのうえにひとをつくらず)
福沢諭吉が使用する異能力。異能の出力を調整し、制御を可能にする。人上人不造の発動領域は諭吉の部下である武装探偵社の社員に限られるが、社員と認められた時点からこの能力の恩恵を受けることができる。当初暴走気味だった中島敦の月下獣や、自分で制御することが不可能だった泉鏡花の夜叉白雪などが、不完全ながらも制御できるようになったのは、この異能力による恩恵である。
白鯨 (もびーでぃっく)
ハーマン・メルヴィルが使用する異能力。空中に浮遊する白い鯨を具現化する。しかし、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドによって改造され、総重量2万9000トンもある巨大な飛行船として扱われ、内部も飛行船や戦闘機のように改造された。そのためフランシスからは、「飛行異能要塞」とも呼ばれている。ハーマンの異能力だが、現在は白鯨内部の7割を兵器置換されたことから、ハーマン自身に操作能力はなくなっている。ただし白鯨が死ぬと、また新しく無改造の白鯨が産まれる。能力名は、ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』からとられている。
ハック・フィン&トム・ソーヤ (はっく ふぃんあんどとむ そーや)
マーク・トウェインが使用する異能力。前髪を真ん中分けにしてハットをかぶった「ハック・フィン」と、前髪が巻き毛で麦わら帽子をかぶった「トム・ソーヤ」という小さな異能生命体を具現化する。照準を合わせるハックと標的の座標を知らせるトムは意識を共有しているため、情報の齟齬(そご)がなく正確無比な射撃を行うことができる。また、ハックとトムは自我を獲得しており、マークとも会話している。能力名は、マーク・トウェインの小説『ハックルベリー・フィンの冒険』『トム・ソーヤーの冒険』の主人公たちからとられている。
黒死病の時代の饗宴 (こくしびょうのじだいのきょうえん)
アレクサンドル・プシュキンが使用する異能力。ウイルス型の異能力で、二人の人物に発動させる必要がある。ごく小型の異能生物が48時間かけて成長し、宿主二人の体を食い破るが、宿主のどちらかが死ねば「黒死病の時代の饗宴」は停止する。フョードル・ドストエフスキーの策略によって福沢諭吉と森鴎外に発動し、武装探偵社とポートマフィアが全面戦争勃発の危機に陥った。能力名は、アレクサンドル・プーシキンの詩『黒死病の時代の饗宴』からとられている。
神の目 (あいずおぶごっど)
T・J・エクルバーグがほぼ独力で開発した自動人物識別システム。統合学習ルーチンによって不鮮明な映像からでもIDが特定可能で、映像の外側にいる対象すらも97%の精度で割り出すことができる。特許収入は20万ドル以上だと噂されている。
怒りの葡萄 (いかりのぶどう)
ジョン・スタインベックが使用する異能力。肉体に葡萄の種を植えるのを発動条件とし、葡萄の木と肉体を融合させ、感覚を共有する。力も範囲も小さいが、接ぎ木するようにほかの植物との融合を続けることで力が増し、地中の根の振動を検知して逃走者を見つけることもできる。ただし、融合した木が根を踏まれたり枝を切り落とされたりすると、すべての痛覚信号が怒りの葡萄を発動している本人にも流れ込む。また、この能力の発動はジョン本人の肉体に限らず、他人の肉体でも可能である。能力名は、ジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』からとられている。
汚れつちまつた悲しみに (よごれっちまったかなしみに)
中原中也が使用する異能力。触れたものに対する重力の強さと、そのベクトルをあやつることができる。「汚濁(おぢょく)」形態になると周囲の重力子をあやつり、中也自身の質量密度を増大させて戦車すら素手で砕けるようになる。手の中に作り出す圧縮重力子弾は、小型ブラックホールともいえる。ただし、この汚濁形態は中也本人に力の制御ができず、太宰治の持つ異能力無効化能力、人間失格のサポートがなければ死ぬまで暴れ続けることになる。能力名は、中原中也の詩『汚れっちまった悲しみに』からとられている。
蒲団 (ふとん)
田山花袋が使用する異能力。視界内にある電子機器に触れずに、常人の数十倍の処理速度であやつることができる。しかし、一番心安らぐ場所でなくては集中できないため、蒲団を発動するのは花袋がいつもかぶっている蒲団の中のみとなっている。能力名は、田山花袋の小説『蒲団』からとられている。
吾輩は猫である (わがはいはねこである)
夏目漱石が使用する異能力。三毛猫の姿に変身する。漱石はほとんどを三毛猫の姿で過ごしており、ふだんは春野綺羅子の飼い猫として生活している様子が見られる。万物を見抜く能力ともいわれているが詳細は不明。能力名は、夏目漱石の小説『吾輩は猫である』からとられている。
ドグラ・マグラ
夢野久作が使用する異能力。異能力の中でも最も忌み嫌われる精神操作を行う。「詛(のろ)い」と呼ばれる精神操作を受ける受信者となるには「Qを傷つける」という条件があり、受信者の体には誰かにつかまれたようなあざが浮き上がる。発動条件は久作が持っている人形が破壊されることで、精神操作が発動した者は幻覚に精神を犯され、周囲に無差別に襲いかかる。能力名は、夢野久作の小説『ドグラ・マグラ』からとられている。
ヰタ・セクスアリス
森鴎外が使用する異能力。異能生命体の少女、エリスを具現化し、性格や行動原理なども設定通りにあやつることができる。医療器具を模した武器の所持、使用によって戦闘が可能となっている。能力名は、森鴎外の小説『ヰタ・セクスアリス』からとられている。
若草物語 (わかくさものがたり)
ルイーザ・メイ・オルコットが使用する異能力。個室で一人で考えごとをする時のみ、時間の流れが8000分の1になる。例えば3分間が約2週間に引き延ばされる。この若草物語を用いて、ルイーザはフランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドの求める作戦書を執筆している。しかしあらゆる事態を想定し、数十種類の作戦書を書き上げるため、フランシスからは「作戦のあらゆる展開の確立および対処法を預言する能力」だと誤解されている。能力名は、ルイーザ・メイ・オルコットの小説『若草物語』からとられている。
鏡獅子 (かがみじし)
福地桜痴が使用する異能力。桜痴が手にした武器の性能を100倍に増幅する。ただし、武器の形態を取っているものに限定されておらず、鉄パイプや他人の拳、小石であっても桜痴自身が武器だと認識したものであれば鏡獅子の能力が適応される。
異能力 (いのうりょく)
物理法則や常識では説明できない現状を起こす能力。単に「異能」とも呼ばれ、異能力を持つ者は「異能力者」「能力者」と呼ばれている。中でも夢野久作の持つ「ドグラ・マグラ」のような精神操作系や、小栗虫太郎の持つ「完全犯罪」のような現実改変系の異能力は異端とされている。本来は各個人が固有の異能力を持つが、詳細は不明であるものの、肉親に異能力を譲渡する方法もあり、泉鏡花は鏡花の母親から夜叉白雪を継承した。
吸血種 (どらきゅりあ)
ブラム・ストーカー自身と、ブラムの眷属となった人間の呼称。本来であればブラムは吸血種全員をあやつることができるが、福地桜痴にこの権能を奪われており、ブラムの体に刺さっている聖十字剣を、桜痴が握っているあいだしか勅令を下すことしかできない。吸血種そのものの詳細は不明だが、鋭い牙で嚙みつき、吸血することによって感染していく。また、理性を失っている間は眼球全体が赤くなるという特徴がある。
クレジット
- 原作
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文豪ストレイドッグス DEAD APPLE (ぶんごうすとれいどっぐす でっど あっぷる)
2018年3月3日に公開された、同名劇場アニメのコミカライズ。現代の日本、超常の力を持つ異能力者が潜むヨコハマが舞台。不可思議な霧が発生した後、異能力者が自らの異能で死ぬ事件が世界各地で続発。内務省異... 関連ページ:文豪ストレイドッグス DEAD APPLE
書誌情報
文豪ストレイドッグス 25巻 KADOKAWA〈角川コミックス・エース〉
第1巻
(2013-04-02発行、 978-4041206737)
第2巻
(2013-08-01発行、 978-4041208359)
第3巻
(2013-12-04発行、 978-4041209523)
第4巻
(2014-04-04発行、 978-4041210932)
第5巻
(2014-08-04発行、 978-4041015391)
第6巻
(2014-12-04発行、 978-4041015407)
第7巻
(2015-05-02発行、 978-4041029152)
第8巻
(2015-09-04発行、 978-4041029169)
第9巻
(2015-12-29発行、 978-4041029176)
第10巻
(2016-06-04発行、 978-4041042830)
第11巻
(2016-10-04発行、 978-4041042861)
第12巻
(2017-04-04発行、 978-4041042878)
第13巻
(2017-08-04発行、 978-4041050415)
第14巻
(2017-12-04発行、 978-4041063941)
第15巻
(2018-06-04発行、 978-4041069356)
第16巻
(2018-12-04発行、 978-4041069363)
第17巻
(2019-05-01発行、 978-4041081334)
第18巻
(2019-12-28発行、 978-4041081341)
第19巻
(2020-07-03発行、 978-4041094709)
第20巻
(2020-12-04発行、 978-4041094716)
第21巻
(2021-08-03発行、 978-4041113554)
第22巻
(2022-03-04発行、 978-4041121924)
第23巻
(2022-12-28発行、 978-4041128640)
第24巻
(2023-09-04発行、 978-4041139103)
第25巻
(2024-06-04発行、 978-4041150023)