交通違反の取り締まりは、地域を守る警察官の大切な仕事だが、ドライバーからは毛嫌いされがち。藤部長とペアを組んで出動する川合も例外ではない。「税金泥棒!」と罵声を浴びせられて精神ゲージが消耗していく中、川合は「頑張れば頑張るほど人に嫌われる仕事って何なんすかね」とポツリと漏らす。藤部長は嫌われ役もそのうち慣れるといさめるが、標識見落としでうっかり一時停止を無視してしまった気弱そうなおばあさんに違反切符を切る藤部長を見て、川合は「この警察め」とパトカーにヘッドバットする。警察官の苦悩がかいま見える瞬間だ。
27話では、交通課で一番怖い宮原部長に「交通の仕事って不毛ですよね」というつぶやきを聞かれてしまう事案が発生。やらかしたと思う川合だったが、本当の恐怖はその直後にやって来る。交通事故発生の無線を受信した川合と藤部長は現場に急行。到着した藤部長が驚きの形相を浮かべて、交差点の中央に転がっていたタオルケットに向かって駆け出す。遅れてタオルケットの中身を確認した川合が目にしたのは、いびつに歪んだ赤ん坊の姿だった。その光景が頭にこびりつき、ご飯も喉を通らない川合に、宮原部長は「あんなのは当事者にならない限り知らなくていい。その当事者を増やさないための俺らの仕事だ」と諭す。その言葉を聞いた川合は、濃厚豚骨の超大盛りカップラーメンをがっつり平らげ、気持ちを新たに職務へ復帰する。
もじゃもじゃ頭で性格はガサツ、けれど人の心を手玉に取る術で右に出る者はいない。それが川合と同じ町山警察署に所属する刑事で取り調べの天才、源誠二である。彼の目を見た途端、人は畏怖と心地よさで満たされ、心を開かずにはいられなくなる。
13話で源のターゲットになるのは、シャブの売人の情婦。完全黙秘を貫く彼女に、源は世間話をするだけでシャブの売買ルートにせまる質問はいっさいしない。被疑者の生い立ちを記した身上調書だけが分厚くなり、町山警察署の副署長からは「エッセイかよ」とどやされ、刑事課長にも「絶対おとせよ」と殺気立った目でにらまれる。しかし、それでも源は彼女の身の上話を聞き続ける。これまで大変な人生だったこと、売人の容疑をかけられている彼氏と出会ってからは幸せな日々を送れたこと。そして迎えた拘留最終日、焦った川合は「売買ルートを教えて欲しい」とストレートな質問をぶつけるが、それを制止した源は「これからはシャブと縁を切って、息子とお母さんを幸せにして」と優しい言葉を投げかけ、取り調べを打ち切ろうとする。しかし、何げない調子で源が聞いた「今日って何日?」の質問に、川合が「3月8日です」と答えるのを聞いた彼女は、唐突に自白を始める。3月8日は彼女の母の誕生日。それを知っていた源は、最後の最後でトドメのゆさぶりをかけていたのだった。緻密に組み立てられた源の恐るべき人心掌握術がかいま見えるエピソードである。
山田武志は源とペアを組む若手刑事。素直で直情的な性格で、人の言葉を疑うということを知らない男。警察学校時代は源と藤の一期後輩として散々しごかれてきた。二人からの信頼は絶大だが、都合よく使われているともいえる。捜査一係の北条係長いわく「源と藤のケンカは、山田を殴ればだいたい収まる」。それだけに彼は、時折シャレにならない大ポカをやらかすこともある。25話では、「失くすと切腹」といわれている警察手帳を紛失し、刑事課の諸先輩もドン引きする。心底申し訳なさそうな顔で落ち込む山田だが、課の先輩たちは「昼までには見つけて来てやる」と温かい言葉で山田を慰める。バカなこともするが、それだけみんなに愛されている証拠だ。
山田には飛び抜けた能力がないと思われていたが、116話では、あるきっかけで彼の特殊能力が判明する。川沿いの草むらで、女児に自慰行為を見せつけて逃走した男がいると通報があり、源と山田は急いで現場に駆けつける。生い茂る草のどこかには犯人の発射した精液が残されているはず……。刑事課員総出のローラー作戦が開始されるが、精液を視認する作業は極めて困難。しかしそこで、山田はかすかに漂うアレの匂いを感じ取り、「精液ありました!」と高らかに宣言する。おバカでかわいい、そしていつも一生懸命なところが山田の魅力となっている。
19話では、下校中の女子高生が路地裏に引きずり込まれて襲われる事件が発生。この卑劣な性犯罪を解決する決め手となったのが、川合の意外な才能だった。
唯一の手がかりは、男に声をかけて犯行を止めた男子高校生の目撃証言。そこで彼から事情を聞き、似顔絵を作成して犯人像にせまろうとするのだが、源から似顔絵の担当者として抜擢されたのは、なんと川合。「絵心が死んでいる川合がなぜ……」という疑問を挟む余地もなく、「事件解決はお前の似顔絵にかかってるぞ」と元気よく取調室に送り出された川合は、保険としてつけられた先輩女性刑事の牧高といっしょに事情聴取を開始する。しかし、川合の似顔絵はあまりにも下手くそすぎて、「アゴをもっとタプタプに」と言われて描き直すものの、「もっと控え目にタプらせて! もっと人間の範囲内で……」と斜め上からのツッコミを受ける始末。ところが、川合の絵を見た源は、それが強制わいせつ罪で執行猶予中の安田大二郎にそっくりであることに気づく。技術的には稚拙だが、川合の絵は確に犯人の特徴を浮き彫りにしていたのである。
こうして本件は連続性犯罪事件の線で捜査されることとなり、合同特別捜査本部が立ち上がる。若手の川合と山田は現場への出動を許されなかったが、牧高の手引きでこっそり外出。安田が手を出しそうな女の子に目星をつけ、みごと、現行犯での逮捕を成し遂げる。川合の思わぬ才能が発揮される連載初期の要チェック回だ。
部下へのパワハラが原因で交番勤務に飛ばされたという藤部長。しかしその裏には、川合に明かされていなかった藤の苦い過去が潜んでいた。藤の異動の理由が判明する「同期の桜」回は、涙なしには語れない本作屈指の名エピソードである。藤は「大豊作の年」といわれた同期女子の中でも「ミスパーフェクト」と呼ばれる存在。そんな彼女がパワハラで飛ばされるようなミスを犯すはずがない。つまり、藤は町山警察署の交番勤務をみずから選んで転属してきたのだった。
3年前、藤の同期生で町山交番に勤務していた警察官の桜は、交通事故の道路整理をしているさなか、飛び込んできた軽トラに突き飛ばされ、ひき逃げ事件の被害者になってしまう。そこで残された唯一の手がかりが、町山交番付近で長期に渡り桜を遠くから見つめていた「守護天使」とあだ名される男だった。この事件が忘れられない藤は、わらにもすがる思いで桜と背格好が似た川合を囮にして、守護天使の尻尾をつかもうとしていたのである。それを知った川合は藤に反発するどころか、「藤部長には私がついています」と犯人逮捕の強い意志をみなぎらせる。
結果的に、川合の描いた似顔絵がもとで、木村良徳という男が捜査線上に浮上。木村の居場所を突き止めて事情を聞くと、彼は別離した妻の娘が警察官になっていると知り、娘に似た警察官を見つけては、遠くから見守っていたのだという。桜もまたその対象のひとりだった。事件のあった日は、疲れた体で桜のそばまで軽トラを走らせ、不注意から彼女を轢いてしまっていたのだ。ついに犯人を突き止めた藤は、事故の怪我のリハビリをしている桜と3年ぶりに再会。かつて彼女と約束していた同期女子会を実現させたのだった。