通勤中に突然異世界に召喚されてしまった主人公が、魔王の部下として寂れてしまった魔王城を観光地として復活させるために奮闘する、異世界お仕事コメディ。万智倉(まちくら)つむぎは、観光課の職員として働く社会人だった。だが、ある日、通勤している最中、気が付いたら魔王の末裔メロウイングに召喚され、異世界にいた。実はメロウはお金を必要としており、魔王城を目玉に街を活性化させて家計を黒字にしようと考えていたのだ。知識も経験もないメロウと同僚たちに頭を抱えながらも、つむぎは魔王城観光地化に着手するのだった。
魔王城とは魔王が居住する城である。魔物を統べる存在なだけあって、魔王城は堅牢かつ豪華なつくりをしているものが多い。地位に見合った住まいではあるが、それは隆盛を誇っていればの場合に限られる。つむぎが召喚された異世界では千年以上前に人間と魔族の対立は終息を迎え、平和な時代が訪れていた。魔王城は魔王の住まいとして存在はしているのだが、維持費が相当かかるらしい。城の形状を維持するためではなく、固定資産税である。立地は崖の上と良くはないが、城だけに敷地面積は広大だ。現在城の持ち主であるメロウが泣いてしまうほどなのだから、かなりの額を納めなければならないようだ。それで魔王城を観光地にしようと計画するのだから、メロウは魔王という概念にとらわれない、柔軟な発想の持ち主だと言えるだろう。メロウはツインテールの美少女で八重歯がチャームポイント、尊大な言葉遣いが一番魔王らしいところかもしれない。こんな魔王がおもてなししてくれるなら、魔王城ツアーにぜひとも参加したい。
魔界の住人たちが暮らす町が存在する現代日本で、人間界から引っ越してきた少女と魔界の姫が交流する日常を描くほのぼの魔界コメディ。魔界町は日本にありながら、人間たちが住む町とは違い、魔界の住人たちが暮らす町である。田中ひよ子は東京から魔界町に引っ越してきた高校生。実家のコンビニの手伝いをしており、近所に住まいを構える魔王の息女である「姫」とも交流を深めていた。ある日、学校の帰り道で姫と遭遇したひよ子。怪我をしてしまったこともあり、姫に誘われて住まいである魔王の城を訪れることになるのだった。
現代日本には魔界が存在し、人間たちと同じように日常生活を送っていた。魔界というと西洋風のお城を思い浮かべるが、魔界町は純和風。ひよ子の実家が経営するコンビニも、特別変わったところはない。ただ魔界町の住人は角や翼があるなど、当然外見は人間と異なる。それだけではなく、傍迷惑な言動が目立つところが「悪」を象徴する魔物らしいところだろうか。そんな魔界町にも魔王が存在する。城は平屋部分が大きい二階建て。農家でよく見るつくりである。自家用車は白の軽トラだ。内装も畳にちゃぶ台、襖と純和風である。ザ・庶民の住まいという風情の魔王城に住んでいる姫は、やんごとない身分だけあって気品が漂う少女だ。近寄り難いのかと思えば気さくな人柄である。部屋着はスウェット上下で移動は自転車、コンビニのホットスナックを好み漫画雑誌は買わずに立ち読みで済ませる。庶民的な感覚の姫だけに、一般人であるひよ子との関係も良好だが、読者的には思わずツッコみたくなるかもしれない。
最強の魔王の娘ながら優しすぎる主人公が、魔族らしさを教えられながら成長していくハートフル魔界物語。魔界の頂点に君臨し、最強の魔王と謳われたアーリマンだったが、突然すべての侵略を止めてしまう。側近のジャヒーが理由を問い詰めると、娘のドゥが優しすぎるため、魔族としての道にたがったまま成長するのではと心配で侵略どころではないという。ジャヒーはドゥを残虐非道な魔族にそだてあげるべく、教育係をかって出る。ジャヒーは手始めに魔族としての三か条を教えるべく、ドゥと共に近くの人間の村に向かうのだった。
魔族とは魔のものである。魔とは、人を迷わし善事を害する悪神と言われてきた。生粋の魔族であるジャヒーが言うように、魔族の三か条とは「奪う」「虐げる」「殺す」と、悪に通じる言葉が連なる。魔王が世界を侵略し、敵対する人々を虐げ害するのも、魔族らしい行いと言えるだろう。周囲は悪に満ち溢れている。そんな中で、何故ドゥのような存在が育ったのか不思議でならない。それくらいドゥは魔族らしからぬ少女だ。囚人の傷を癒すだけでなく、奴隷の荷運びも手伝う。腹を空かせている小動物がいれば食料を分けてやり、襲ってきた同族ともなぜか仲良くなってしまう。とにかくほんわかと温かい空気の持ち主なので、魔族らしさは皆無だ。親として心配する気持ちは理解できる。ドゥ自身は魔族としての在り方自体は承知しているようだが、違う道を模索し確信を得ているようである。人と魔族の共存を成し遂げるには優しさだけでなく信念が必要だ。ドゥは幼いが両方を兼ね備えている。
好きな漫画作品に登場する推しの魔王が死亡したことで絶望した主人公が、ひょんなことから魔王が生存する世界に転移してしまい、死亡ルートを回避するために奔走する異世界ルート改変ファンタジー。刈谷透(かりやとおる)は大切な人を亡くし、日々の仕事に忙殺され、空虚な日々を送っていた。ある日、ふと目に付いた漫画に登場する魔王に一目ぼれ。活力のある日常を取り戻す。しかし無情にも魔王は死亡してしまい絶望した透は、風で飛ばされた魔王のイラストを拾うために屋上から転落してしまうのだった。原作は木村の同名ライトノベル。
推しとは尊いものである。次元は関係なく、そこにいてくれさえすれば幸せになれる存在というのは、かけがえのないものだ。だからこそ、原作漫画の不人気により魔王があっさりと死亡した時の透の絶望を想うと胸が痛い。推すことに原作の人気云々は関係ないのだが、作品自体が生き続けるためには人気が不可欠である。世知辛い世の中なのだ。一時は絶望した透であったが、推しを生かすことができる世界に転移することに成功した。ただし外見は幼女である。透の推しである魔王さんは漫画『ラピスラズリ・ワールド』に登場する。美しい外見をしているが左半分が異形で、右半分は死んでいるという設定だ。魔王らしく残虐というわけではなく、理知的で情に厚いところがある。一般的な魔王よりは親しみやすい存在であることは間違いない。透に接する姿を見ると良き保護者のようで和むが、抱えている孤独は深い。倒されるべき悪として存在している魔王を生かす道のりは果てしなく険しい。