この世は戦う価値がある

この世は戦う価値がある

こだまはつみの代表作の一つ。ブラック企業に勤務するOLの伊東紀理は、彼氏や会社の同僚からのセクハラ、モラハラに耐え忍ぶ日々を送っていた。しかし、臓器移植登録カードを手にしたことをきっかけに、「自分の人生を生きよう」と決意する。紀理が「自由に生きる」ことを通して、生きる意味や価値観を見つめ直す姿を描いたヒューマンドラマ。小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」2023年20号から連載。「このマンガがすごい!2025」オトコ編で第8位、「マンガ大賞2025」で第9位を獲得している。

正式名称
この世は戦う価値がある
ふりがな
このよはたたかうかちがある
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
 
ハラスメント
レーベル
ビッグ コミックス(小学館)
巻数
既刊4巻
関連商品
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弟を亡くした主人公の絶望と再生

OLの伊東紀理は、病弱な弟を深く愛していた。両親が弟の看病に専念していたため、紀理は幼い頃から周囲に気を配る「物わかりのいい子」を演じてきた。しかし、2年前に弟が他界したことで、「弟の分まで生きなさい」という周囲の言葉と、弟を救えなかったという罪悪感が、紀理の心を深く蝕んでいた。周囲の役に立ちたいという思いは、いつしか「誰かに認められたい」という渇望に変わり、その渇望からくる思考停止が紀理の日常を歪めていく。会社ではセクハラやモラハラを受け入れ、私生活では恋人の言いなりになって過ごす日々が続いていたため、自殺願望すら抱くようになる。そんな中、臓器移植のドナー登録をしたことがきっかけで、「どうせ死ぬなら、自分の生きたいように生きよう」と考え始める。

自分らしい人生を探求する

本作は、紀理が心機一転して会社を辞め、彼氏と別れて自由な生活を始めるところから物語が展開される。会社勤めをしていた頃はおとなしい性格を装っていたが、それは病弱な弟のためでもあった。本来の紀理は自由で奔放な性格であり、ヤンキーのような出で立ちで昼酒を楽しんだり、駄菓子を買いあさったりと、自由気ままに日々を過ごすようになる。紀理は不真面目で無軌道な生き方をしているが、その根底には「今までできなかったことをして人生に区切りをつける」、つまり「決算」をするという強い欲求が秘められていた。決算後に紀理の人生には何が残るのか、彼女の人生の意味を確かめることこそが、本作の根底にあるテーマといえる。

過去と決別し、今を生きる

紀理は日々自由に生きることで、これまでまじめ一筋だった頃には見えなかったものに気づき始める。母親を轢き逃げされた辛い過去を持つ夕香や、風変わりな脚本家・葛西岳との出会い、さらにはかつての恩師や同級生との再会など、さまざまな人々との交流を通して、紀理は自分自身を見つめ直し、成長していく。本作の魅力は、紀理自身の人生だけでなく、彼女を取り巻く人々の人生も丁寧に描写されている点にあり、それぞれの物語を通して、読者自身の人生について深く考えさせられる内容となっている。

登場人物・キャラクター

伊東 紀理 (いとう きり)

とある会社に勤務する女性。年齢は25歳。生真面目で気弱な性格で、職場では同僚からのパワハラやモラハラに耐え忍び、私生活ではひとでなしの恋人・ヒロの言いなりになる日々を送っていた。ストレスから不眠症を患い、自殺未遂を起こすまで追い詰められた伊東紀理は、臓器移植のドナー登録をきっかけに「自らが死ぬ時に11人の人生を救う」という決意を固め、自由に生きることを決めた。心機一転、地味なOLの姿から一変し、毛先にオレンジのブリーチを入れ、スカジャンを着こなす派手な外見に変わる。実は紀理には病弱な弟がいた。幼い頃、紀理はガキ大将のような性格だったが、弟の看病のために両親を支え、「弟の分まで生きなさい」と周囲から励まされ続けていた。しかし、2年前に弟は他界。弟を救えなかった罪悪感と、「弟の分まで生きろ」という両親の言葉が、まるで呪いのように紀理を苦しめていた。会社を辞め、心の重荷が軽くなった紀理は、これまで我慢していた遊びや贅沢を「人生の決算」と称して始める。それは、弟の分まで生きる意味を見つけるための、紀理なりの模索でもあった。

夕香 (ゆか)

実家の酒店で働く女性。年齢は19歳。サバサバとした性格で、黒髪をショートヘアにしている。「夕香」という名前は、父親が夕陽の見える場所でプロポーズしたことに由来している。両親は仲がよかったが、6年前に母親が轢き逃げ事故に遭ったことで、すべてが崩壊してしまう。母親を失った父親は精神的に不安定になり、仕事を放り出して釣りに出かけたり、徘徊を繰り返したりするようになる。まともに働けない父親の代わりに、酒も飲めないのに酒店を切り盛りする日々を送りながら周囲の人々が向ける好奇の目や、自分に対する優越感を含んだ同情に辟易していた。そんな中、ひょんなことから出会った伊東紀理が、「弟の分まで生きなさい」と母親に言われてきた過去を持つことを知る。夕香もまた、父親から「母親の分まで生きろ」と言われてきたため、紀理の境遇に共感し、意気投合する。母親を轢き殺した犯人が今ものうのうと生きていることを許せずにおり、紀理に犯人捜しの協力を依頼し、その代わり、紀理のやりたいことリストである「決算」を手伝うと約束する。

書誌情報

この世は戦う価値がある 4巻 小学館〈ビッグ コミックス〉

第1巻

(2023-10-12発行、 978-4098625352)

第2巻

(2024-03-12発行、 978-4098627547)

第3巻

(2024-09-11発行、 978-4098630295)

第4巻

(2025-05-12発行、 978-4098634170)

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