オムニバス形式で描かれる環と周の物語
物語は現代編、明治時代編、70年代編、戦後編、江戸時代編、エピローグで構成されており、環と周という名の二人の主人公はそれぞれの時代を力強く生きている。共通するのは名前だけで、性別も年齢も異なる。それぞれの時代でそれぞれの物語が展開され、その時代で完結するオムニバス形式で、どの物語も哀しくて切ない優しさにあふれている。エピローグではそのすべての物語が一つにつながっていく。
時代ごとに異なる関係性と共通のテーマ
現代編は、同性と恋愛関係にある娘を持つ妻の環と夫の周の葛藤。明治時代編は、女学生の環と華族の周の友情。70年代編は、病を患い余命わずかの独身女性の環と、同じアパートに住む少年、周の束の間の幸せと悲しみ。戦後編は、元上官の環と妻子を失って生きる気力をなくした復員兵の周の人間ドラマ。江戸時代編は、武士の環に夫を殺された恨みを持つ幼なじみである周の憎しみと愛情。二人の関係性は時代ごとにまったく異なるが、そこには出会いと別れ、生と死、そして互いを思う愛情が描かれている。
登場人物・キャラクター
立石 周 (たていし あまね)
立石環の夫で、立石朱里の父親。夫婦共働きで家族三人暮らし。家事は夫婦で分担しており、主に洗濯を担当している。優しくて穏やかな性格の持ち主。ある日、妻から朱里が同級生の女の子とキスしていたと告げられる。しかし立石周自身も中学3年生の頃、同級生の男子、松山に恋心を抱いた経験があり、娘に「普通」を求めようとする環に対して、ついむきになって言い返してケンカになってしまう。朱里の一件で平穏な家庭に一波乱起きるものの、その後は親子関係も改善され、環ともいい関係を築きながら共に生きていくことを実感する。
立石 環 (たていし たまき)
立石周の妻で、立石朱里の母親。夫婦共働きで家族三人暮らし。家事は夫婦で分担しており、主に炊事を担当している。ある日、朱里が同級生の女子、則本とキスしている姿を目撃する。家庭に問題を抱える則本と仲よくなってから、朱里が変わったことを実感していたため、心配している。周に相談するが、動揺するあまり朱里に「普通」を求めようとしたことから周とケンカになってしまう。娘のことになると、心配しすぎて自分を止められなくなり、言葉を発してから後悔することもしばしば。則本の一件で朱里とケンカになったことをきっかけに、子供は生きていてさえくれればいいと考えを改めるようになった。