概要・あらすじ
主人公は家政婦をしながら女手ひとつで息子を育てている。彼女が派遣されたのは、事故のため記憶が80分しか持たなくなってしまったという老数学者の家だった。主人公と、彼女の息子・ルート、老数学者・博士の交流が、数学の公式の解説を交えながら描かれる。
登場人物・キャラクター
私 (わたし)
あけぼの家政婦組合に所属し、家政婦をしながら女手ひとつで息子・ルートを育てている28歳の女性。18歳の時にシングルマザーになることを選択、家政婦歴は10年以上になる。誕生日は2月20日。靴のサイズは24、電話番号は576-1455。数学には縁遠かったが、博士の家に派遣され、博士の話を聞くようになって興味を持つ。 派遣当初は博士に戸惑っていたものの、その人柄に触れ、好意を持つようになる。
博士 (はかせ)
「私」の勤務先の家に住む64歳の男性。眼鏡をかけており、口ひげをはやしている。17年前、交通事故に遭い頭を打って以来、80分経過すると記憶がリセットされてしまうため、17年前以降の記憶がない。イギリスのケンブリッジで数学の博士号を取得後、大学教授として働いていたが、現在は数学雑誌の懸賞問題を解くことで収入を得ている。 また、足りない記憶を補うため、重要事項は背広にメモを貼りつけている。これまで9人の家政婦をクビにしており、彼の中にあるルールに厳格で、頑固なところはあるが、基本的には静けさを好む、理知的で穏やかな性格の人物。数字はなんでも数学になぞらえるが、これは何を喋っていいか混乱した時、数学を持ち出すためでもある。 野球が好きで、チームは阪神タイガース、選手は江夏豊のファン。
ルート
「私」の息子。10歳の少年で、阪神タイガースのファン。頭頂部が平らなことを学友からからかわれるため、気にしている。学校からの帰宅後はひとりで留守番をしていたが、博士の申し出により博士の家に帰り、そこで家政婦として働いている、母である「私」とともに帰宅するようになった。 また、これをきっかけに博士と親しくなる。ルートは博士がつけたあだ名。博士の数学の問題を面倒がったりと、10歳の子供らしい性格だが、博士との話題に気をつける、博士のプレゼントを根気よく探すなど、他人を思いやることのできる優しさも持つ。
未亡人 (みぼうじん)
博士の義姉で、「私」の雇い主の老婦人。義弟である博士の面倒をみる家政婦として「私」を雇った。博士の住む家と同じ敷地にある母屋に住んでいる(博士は屋敷の離れに住んでいる)。夫はすでに他界しているが、博士の面倒は見続けている。夫の残したマンションの家賃収入があるため、生活は安定している様子。 冷たい口ぶりで、博士とはなるべく関わらないようにしているようだが、気にはしている様子。足が悪く、杖をついている。
同僚の女性 (どうりょうのじょせい)
「私」と同じあけぼの家政婦組合に登録する家政婦を務める中年女性。噂話に精通しており、博士や老婦人に関する情報を「私」に教えた。
上司の男性 (じょうしのだんせい)
「私」が登録しているあけぼの家政婦組合で、派遣を担当している中年男性。眼鏡をかけている。「私」が家政婦組合の規則を破ったさい、厳しく言及した。
カードショップの店員 (かーどしょっぷのてんいん)
博士へのプレゼントとして「私」とルートが江夏豊の野球カードを探していたさい、知り合った若い男性。85年に江夏豊のグローブカード(選手が実際使ったグローブを小さく切り、埋め込んだカード)が復刻されたことを教えてくれた。
博士の兄 (はかせのあに)
博士の兄で、未亡人の夫。故人。博士とは年齢が12歳離れており、両親がいないため、親がわりとして学費や生活費の面倒をみていたが、博士が研究所に勤めることが決まった年に急死したと噂される。
集団・組織
あけぼの家政婦組合 (あけぼのかせいふくみあい)
『博士の愛した数式』に登場する家政婦組合。「私」が所属しているほか、多くの女性が登録。依頼を受け、所属の家政婦を派遣する業務やクレームの受付を担当している。
クレジット
- 原作
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小川洋子