あらすじ
第1巻
福井県のとある地方都市に引っ越して来た広瀬桂一と広瀬晃は、表向きには結婚したばかりの新婚夫婦と伝えていたが、実は兄妹だった。しっかり者の晃は、保育園に勤め始め、妻として、頼りない桂一の支えになろうと日々を過ごしていた。絵本の出版社に勤める桂一のもとには、母親からの着信が絶えず続いており、桂一の行動を責め立てる母親の言葉に心を痛める事はあったものの、二人は穏やかな日常に幸せを感じていた。
時は、晃がまだ中学生になったばかりの頃に遡る。幼い頃から兄の桂一とはいつもいっしょで、近所からは仲がいい兄妹として評判だった二人の仲は、思春期を迎えても変わらなかった。高校生になってもなお頼りない桂一を、共働きで留守がちな両親に代わり、しっかり者の晃が世話を焼く。そんな日常が続いていた中、桂一が同級生の女子高校生、タカハシを自宅に連れてきた事がきっかけで、晃は自分の中にある桂一への思いに気づく。しかしそれは、未来がなく一生実る事のない、失恋して吹っ切る事さえできない思いであった。晃はそんな思いを胸に抱きながら、誰にも打ち明ける事なく過ごしていく。
第2巻
高校も最後の1年になった頃、牧嶋剛は、相変わらず女子生徒達からモテる日々を送っていた。断るための口実のように、女性には興味がないとを繰り返していた剛は、それをすっかりネタであるかのように周囲から思われるようになっていた。その年の文化祭、広瀬桂一からの頼みで演劇部の手伝いをする事になった剛は、桂一と長い時間を過ごすうちに、桂一が一人の女の子に向けて抱えている思いに気づく。そして同時に、自分の中にある思いにも気づいていく。
一方、高校生になった広瀬晃は、修学旅行で訪れた京都で、中学生の時の友人、柳沢と偶然の再会を果たす。そこで将来の夢を語った柳沢の背中を見て、感じるものがあった晃は、保育士になるため、短期大学への進学を決める。大学入学を数日後に控えた春の日、実家を出て一人暮らしを始めるため、ひっそりと準備を進めていた晃は、1週間後に引っ越す事を桂一に告げる。
第3巻
就職して3年目となった広瀬桂一は、家を出たまま音信不通の妹、広瀬晃を気にかけながら、過酷な職場へ実家から1時間半の通勤を続けていた。そんなある日、帰宅した桂一を迎えたのは、母さんだった。つねに多忙を極め、滅多に帰宅しなかったはずの母親は、勤め先で異動があった事を理由に、自宅での生活を再開させたが、桂一は毎日母親が家にいる生活に馴染めなかった。そんな折、桂一は晃が家を出る決断をした時、母親自らが彼女を追い詰めていた事を知り、自暴自棄になってしまう。何に対しても投げやりな様子の桂一を見た牧嶋剛は、ずっと親身になってきた桂一を突き放す。そんな中、さまざまな要因が重なって、仕事に限界を感じた桂一は、転職を決意。会社を辞め、引っ越しを決め、荷物を運び出した段階で家を出る事を母親に打ち明ける。逆上した母親に水をかけられながらも、桂一は、音信不通になったままの晃を探すため、動き始める。
第4巻
広瀬晃を見つけた広瀬桂一は、晃の住むアパートを訪ね、念願の再会を果たす。しかし、風邪を引き、高熱を患っていた桂一は、晃への思いがあふれて口づけを交わすが、再会と同時に倒れ込んでしまう。晃に介抱され、意識を取り戻した桂一は、仕事を辞めて家を出た事を報告。福井県にいる友人の松本の会社を訪ねてみようと思っている事を明かすと、晃はこれに猛反対する。しかし桂一の決意を感じ取った晃は、自分もいっしょに福井へ行く事を決めた。福井県に向かった晃と桂一は、松本の勤める出版社を訪れ、中途採用についての話を切り出す。しかし社長の伝司は、現時点で募集はすでに締め切った事を明かす。また時期が来れば縁があるかもしれないからと、福井に留まる事を勧められた桂一は、晃と共に紹介されたレストハウス「伝屋」へと向かう事になった。そこでは、伝司の双子の弟伝二夫婦が温かく迎えてくれたが、桂一は晃との関係を不倫による逃避行と誤解されそうになり、慌てて訂正しようとすると、晃は自分達は夫婦であると説明した。突然の事に戸惑いを隠せない桂一に、晃はこのまま夫婦として暮らしていくか、兄妹に戻って二度と会わないかの選択を迫る。
登場人物・キャラクター
広瀬 晃 (ひろせ あきら)
広瀬桂一の3歳違いの妹。幼い頃から頼りない兄の桂一の世話を焼き続けてきたしっかり者。中学時代は家事に興味を持ち、留守がちな両親に代わり、兄の世話を焼く事がライフワークとなっていた。この頃、桂一への思いが、家族以上のものである事に気づき、心を痛め始める。高校時代、修学旅行先の京都で保育士と園児を見てあこがれを抱き、保育士の資格を取るために3年制の短期大学に進学。 それを機に、兄を振り切る形で実家を出て一人暮らしを始めた。母さんには進路についても家を出る事についても話をしたが、学費を返済する事と、今後いっさい家を頼らない事を条件として、家を出る事を許された形となっており、それ以降は絶縁状態となっている。短大の卒業を間近に控えた頃、桂一が訪ねて来た事をきっかけに、春を待たずに福井県への移住を決意。 現在は桂一と表向きは新婚夫婦として二人暮らし中。保育園で働いている。
広瀬 桂一 (ひろせ けいいち)
広瀬晃の3歳違いの兄。幼い頃からヘタレで、何かと晃に世話を焼いてもらっているため、晃がいないと生きていけないと思っている。ぼーっとしているのんびり屋。脱いだものは脱ぎっぱなし、寒がったり痛がったり、重い荷物は苦手など、とにかく何をやらせても頼りない。仕事で忙しい両親はいつも不在がちだったため、晃とはいつもいっしょの幼少期を過ごした。 そのため、近所では仲のいい兄妹と評判だったが、その関係は思春期を迎えても変わる事はなく、彼の中での大切なものはいつも晃だった。高校時代は演劇部に所属し、大学進学後は児演サークルに所属。その後制作会社に就職するが、先輩からのパワハラや、労働環境の悪さに限界を感じ、退職。大反対する母さんを振り切る形で実家を出て、晃と共に福井県へと向かった。 大学時代の友人、松本のつてを頼り、絵本専門の出版社「月虹社」に再就職する事が決まり、福井県での新生活は、表向きは新婚夫婦として、晃との二人暮らしを始める事となった。
森 珠希 (もり たまき)
広瀬晃の親友の女性。母親が若い男性と蒸発して以来、父親と二人暮らしをしている。中学時代、バドミントン部の先輩からカラオケに誘われ、ついて行ったが、実際は成人男性相手の援助交際だったため、怖くなって逃げ帰った事がある。それをきっかけに部活は退部した。しかし後日、援助交際をネタに津田から脅迫を受ける事になったが、幼なじみの牧嶋剛に助けられ、事なきを得た。 中学卒業後は晃と同じ高校へ進学。その後大学進学は別々となったが、交流は続いている。援助交際の一件以来、男性との恋愛に踏み込めないままになっているが、この頃になって剛に対する思いが心の中に芽生え始めていた事に気づく。
柳沢 (やなぎさわ)
広瀬晃と同じ小中学校に通う幼なじみの男子生徒。何かと晃に声をかけては突っかかる事が多かった。卒業し、高校時代に修学旅行先の京都で晃と再会した。中高と野球部に所属しており、将来はプロ野球選手を目指している。
タカハシ
高校時代、広瀬桂一が初めて自宅に連れて来た女子高校生。勉強をするために桂一の自宅を訪れたが、嫉妬心に苛まれた広瀬晃が二人の様子を見るためにと大量に作ったお手製パンケーキを食べ、何事もなく笑顔で帰って行った。いい香りのする美女。
津田 (つだ)
中学2年生の男子生徒。サッカーが得意で、横浜FCに所属している。学校の女子生徒からは人気がある。しかし校外では、ガラの悪い人と行動を共にしているところを目撃されている。当時、森珠希が援助交際をしているところを写真に収め、それをネタに脅迫しようとした。
牧嶋 剛 (まきしま ごう)
森珠希の幼なじみで、広瀬桂一の友人の男性。女性からモテるが、同性愛者を自称している。珠希が援助交際をネタに津田から脅迫されそうになっていたところを助けた。高校時代、告白してきた女子生徒を断った事で、あらぬ噂を立てられた事がきっかけで、同性愛をカミングアウトした。しかし、周囲は本気にしておらず、それをネタに何かと楽しんでおり、牧嶋剛本人もそれを傍観している。 実は桂一に思いを寄せているが、彼に対しては一人の親友としてのスタンスを貫き通す。
母さん (かあさん)
広瀬晃と広瀬桂一の母親。アパレルメーカーに勤めている。もともとバイヤーを務め、海外を飛び回る生活を送っていたが、晃が大学入学後、異動となり、広報担当となった。これが不服で、自宅に帰宅して以来、愚痴りながら酒を飲んでばかり。自宅での生活を送るようになった。自分だけの理想の世界で生きている人物であり、損得勘定がきっちりしている。 メリットがないと切り捨て、いっさい見向きもしないハッキリした性格。一番大切なものは仕事。子供が幼い頃から不在がちで、育児はほとんどしていなかった。晃が実家を出たいと相談を受けた際、家を出るなら学費をすべて返す事が条件である事を突きつけた。もともとは家を出る事を止めるための言葉だったが、晃が承諾したため、売り言葉に買い言葉となり、それを認める事になった。 その後も桂一が突然、家を出ると宣言した事に怒り心頭。それ以降連絡が取れなくなった事もあり、晃と桂一の行動を許せずにいる。
西田 (にしだ)
牧嶋剛の勤め先の後輩にあたる男性。自由奔放で破天荒、年上の女性からはかわいがられるタイプ。何も考えていないようでいて、カンは意外と鋭い。剛が広瀬桂一を見る目で、剛の気持ちを察した。生卵を絡めた食べ物ならば何でも大好き。
松本 (まつもと)
広瀬桂一の大学時代の友人の男性。同じ児演サークルに所属していたサークル仲間。大学卒業後は福井県にある絵本専門の小さな出版社「月虹社」で働いている。実家は印刷会社を営んでおり、もともと家業を継ぐのは兄の予定だった。しかし、事業を新規拡大したいと考える兄と、保守的な考えの父親とのあいだで意見の相違があり、会社が落ち着かない状況にある。 そのため、それを手伝い、ゆくゆくは家業を継ぐために福井県へ帰郷した。当面のあいだは、社会経験を積むために、父親の友人である伝司のもとで働く事となった。「月虹社」で中途採用の募集が出ているからと、仕事に不満を持っていた桂一に声を掛けた。学生時代より、桂一からは「まっさん」と呼ばれている。
伝司 (ただもり)
福井県にある絵本専門の小さな出版社「月虹社」の社長兼編集長を務める男性。双子の弟、伝二がおり、顔がそっくり。自社の社員である松本を頼って中途採用の応募にやって来た広瀬桂一を断ったが、また縁があるかもしれないからと、弟が経営しているレストハウス「伝屋」を紹介し、しばらく福井に滞在する事を勧めた。
伝二 (でんじ)
伝司の双子の弟。福井県にある古民家で、レストハウス「伝屋」を夫婦で経営している。人当たりのいい穏やかな人柄で、兄の紹介で訪れた広瀬桂一と広瀬晃を歓迎した。しかし二人のただならぬ様子に、桂一と晃の関係を不倫の末の逃避行と勘違いする。
書誌情報
さらば、佳き日 全8巻 KADOKAWA〈it COMICS〉
第1巻
(2016-01-15発行、 978-4048656054)
第2巻
(2016-03-15発行、 978-4048658584)
第3巻
(2016-12-15発行、 978-4048925518)
第4巻
(2017-12-15発行、 978-4048935562)
第5巻
(2019-02-15発行、 978-4049122497)
第6巻
(2020-09-14発行、 978-4049132892)
第7巻
(2021-12-15発行、 978-4049141801)
第8巻
(2023-02-15発行、 978-4049149029)