しまなみ誰そ彼

しまなみ誰そ彼

自分の性的指向について悩み、「談話室」に通うようになった少年の要介の苦悩や周囲との交流、恋愛模様などを描く。広島県の尾道を舞台とした青春物語で、「性と生」をテーマとしている。「ヒバナ」2015年4月号から2017年9月号にかけて連載されたあと、「裏サンデー」および「マンガワン」で2018年1月から2018年5月にかけて連載された作品。

正式名称
しまなみ誰そ彼
ふりがな
しまなみたそがれ
作者
ジャンル
同性愛
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あらすじ

第1巻

尾道の島波高校に通う少年の要介は、昔から家族にも言えないある秘密を抱えていた。そんな中、クラスメイトにある動画を見ている事を知られてしまった介は、同性愛者だという噂を流され、クラスから浮いてしまう。介は必死にごまかすものの、自分の性指向をみんなに知られたのではないかと怯え、飛び降り自殺をしようと考えるが、そこで窓から飛び降りて来た不思議な女性「誰かさん」と出会う。飛び降りたのに何故か無事だった誰かさんは、「談話室」と呼ばれる小さな家のオーナーだった。誰かさんに誘われて談話室に向かった介は、同性愛者の大地春子をはじめとする、談話室メンバー達と出会う。春子達はいずれもさまざまな悩みを抱えており、オーナーの誰かさんは彼女達の悩みを聞いてくれる人物でもあった。介は自分の悩みを正直に誰かさんに打ち明けるものの、彼女は励ますわけでも力になるわけでもなく、なにも言わずに姿を消してしまう。これ以来、介は誰かさんとの出会いを通して談話室メンバーと悩みを話したり聞いたりするうちに、心の奥に抱えたままだった苦しみを少しずつ癒していく。

第2巻

談話室」のメンバー達に、自分が同性愛者で、好きな男性がいる事を打ち明けた要介は、彼らに思いを受け止めてもらい、その存在を受け入れられるようになる。そんなメンバーの一人である美空秋治は、談話室の中でだけ女装をしている、女装趣味を持つ小学生男子だった。介は秋治と交流していく中で、家族や友人には趣味を隠している彼が、なぜ女装したいのか、そして女装して本当はどうなりたいのかがまったくわからないと悩んでいる事を知る。何度か衝突しながらも、介は年上の友人として、秋冶をサポートしようと決意する。また介は、秋冶の悩みを聞いたり彼に指摘されたりするうちに、片思いしている椿冬馬にも少しずつ向き合いたいと考えるようになる。そんな中、尾道では花火大会が開かれる事になった。女物の浴衣をまとった秋治を見た介は、浴衣姿のままでいっしょに花火大会に行こうと提案。屋台を回ったり花火を見たりする中で、介と楽しい時間を過ごした秋治は、自分が女装をして過ごす理由を見つける。だが、痴漢にあって怯える秋治に言った介の何気ない一言に、秋治は酷く傷つき激怒する。これをきっかけに二人は大きくすれ違い、秋治は次の日から談話室にも来なくなってしまう。

第3巻

夏祭りでの美空秋治との苦い思い出を抱えたまま、要介は新学期を迎えていた。島波高校では文化祭の時期も近づき、介達は準備を始めていた。そんな中、介は大地春子達の手伝いでボランティア団体「猫集会」のワークショップに参加する事になる。そのワークショップには冬馬の父に連れられた椿冬馬も参加し、介は「同性愛者の集まり」と噂されている「談話室」のメンバーである事を、冬馬に知られてしまう。文化祭準備を進める中で、冬馬に文化祭の課題をこなすために造船所の進水式に行こうと誘われた介は、戸惑いながらも彼と進水式に参加。椿の行動や言動に何度も翻弄される介だったが、談話室の仲間を貶(けな)すような言葉を漏らす彼に対し、困惑と悲しみを抱えるようになる。一方、内海夏美はワークショップにて、学生時代の部活仲間だった小山祥子と再会。祥子は善意から、学生時代は女性として生きていた内海が、今は男性として生きている事を、同窓会で部活仲間達に知らせようと夏美に提案。悪気のない祥子の純粋な善意を受け止める事もはねのける事もできずにいた内海は、悩みながらも同窓会に参加する事になる。

第4巻

要介の提案によって、使い道が決まっていなかったさんかく亭で、大地春子早輝の結婚式が行われる事になった。介は椿冬馬達と共にさんかく亭に通い、結婚式の準備を始める。そんな中、介と冬馬は末期ガンで入院中のパートナー、阿川瀬一郎の見舞いで病院に行っていたチャイコさんと遭遇。チャイコさんと瀬一郎の関係や過去の思い出話を通して、介達は「無色透明でありたい」と決心した頃の誰かさんの過去を知る。その頃、春子との結婚式を控えて気持ちが高まっていた早輝は、早輝の父に同性愛者である事を偶然知られてしまう。長らく秘密を隠していた早輝は父親に呼び出され、春子と真剣に結婚を控えている事を両親に話す。早輝の両親は彼女達の真剣な思いを受け入れ、早輝と春子はお互いの両親を招待したうえで、予定通りに結婚式を挙げられる事となった。一方、早輝の秘密が知られるきっかけになった冬馬の父が、早輝を心配して「談話室」を訪れる。談話室メンバーに対して偏見を持ち、反省する様子がない父親に対し、冬馬は憤りを隠せずにいた。そんな冬馬と彼の父親のやり取りを見た介は、ある決意を胸にする。

登場人物・キャラクター

要 介 (かなめ たすく)

尾道の島波高校に通う男子。卓球部に所属している。愛称は「たすくん」で、兄と両親と四人暮らし。おとなしい性格で、友人はあまり多くないが、仲間を大切に思っている。オカルト趣味があり、部屋には怪談やUFOなどの本をたくさん所有している。小学生の頃から周囲の男子が気になるようになり、自分が同性愛者であると自覚して以来、家族にも相談できずに悩み続けている。学校でも秘密を隠していたが、こっそりゲイ動画を見ていた事をクラスメイトに知られ、周囲から同性愛者だと噂されるようになる。クラスから浮いてしまった事に苦しみ、飛び降り自殺しようとしていたところで誰かさんと出会い、「談話室」を知る。談話室のメンバーに同様の性指向を持つ人が多いと知り、大地春子達の手伝いをしながらメンバーの一人として通うようになる。当初は自分の性指向を押し殺すように生きていたが、似たような悩みを抱える談話室メンバー達との交流を深める事で少しずつ苦しみを癒し、自分の本当の気持ちと向き合いながら成長していく。同じ保健委員の椿冬馬に、密かに片思いしている。クラスが違う冬馬とは話した事もなかったが、委員会活動やボランティア団体「猫集会」での活動をきっかけに話すようになり、時には衝突しながらも少しずつ距離を縮めていく。

誰かさん (だれかさん)

「談話室」のオーナーを務めるクールな女性。中性的な見た目で、ラフな服装を身につけている。棒アイスが好きで、外出する時はつねに食べている。窓から飛び降りているところを偶然見かけた要介と知り合う。「聞かないけど」という前提で、談話室に訪れる人々のさまざまな悩みを聞いているが、質問などははぐらかす事が多い。誰の悩み相談を受けた時も興味を示さず、具体的なアドバイスや助力などはしていないが、相手を否定したり貶したりはしない。淡々と話し、談話室古参メンバーでも本名を知らないなど非常に謎が多く、つねにミステリアスな雰囲気をまとっている。ふだんは内職をしながら、散歩をしたり猫と遊んだりして過ごしている。実はアセクシュアル(無性愛者)で、自分の属性や価値観の着地点がわからず悩む中、会社の上司の言葉に嫌気がさして辞職した過去を持つ。辞職後に通っていたコーヒー教室で知り合ったチャイコさんと阿川瀬一郎の言葉を受け、「何者でもない無色透明の存在であり続ける」事を決意する。のちに空き家の改築を大地春子に依頼し、改築資金を全額負担して談話室のオーナーとなった。コーヒー教室に通っていた事から本格的なカフェオレを淹れるのが得意で、談話室メンバーにも時々振る舞っている。

大地 春子 (だいち はるこ)

「談話室」のメンバーの女性。ボランティア団体「猫集会」代表を務めており、本職はフリーのデザイナー。元は広島市内のデザイン会社でデザイナーをしていたが、周囲からのセクハラに嫌気がさして同性愛者である事を告白する。職場に居づらくなって辞職し、SNSで知り合った内海夏美の紹介を受けて尾道に引っ越し、パートナーの早輝と空き家をリノベーションした一軒家で両親と離れて暮らしている。フリーのデザイナーになったばかりの頃に、誰かさんの依頼で空き家を改装し、早輝と相談して「話したい事を話せて、否定されない場所」として談話室を作った。明るく気の強い性格で、早輝とは年中ケンカしているが、尾道名物「八朔ソフト」を食べながら仲直りするのが習慣になっている。早輝の両親に関係が知られたのをきっかけに、早輝といっしょに両親と話し、彼女との恋愛関係を正直に打ち明ける。のちにさんかく亭で早輝と結婚式を挙げた。

早輝 (さき)

「談話室」メンバーの女性。訛り口調でしゃべる。同性愛者で、パートナーの大地春子と空き家をリノベーションした一軒家で、両親と離れて暮らしている。実家は両親が居酒屋「みなと」を営んでおり、仕込みなどを手伝っている。表向きは仲のいい友人である春子とルームシェアをしている事になっているが、本当は同性愛者で、春子と恋愛関係にある事は両親に隠し、自分から秘密を公にして波風を立てる事を拒んでいた。しかし、冬馬の父を通して秘密を早輝の父に知られてしまったのをきっかけに、両親に春子との関係と本心を打ち明ける。のちにさんかく亭で春子と結婚式を挙げた。

内海 夏美 (うつみ なつよし)

「談話室」メンバーのさわやかな青年。ボランティア団体「猫集会」のスタッフをしているが、本職はフリーの左官屋。SNSで知り合った大地春子に尾道を紹介した。気さくで面倒見のいい性格で、着物の着付けが得意。学生時代はバレーボール部に所属していた。サイクリングが趣味。現在は短髪の好青年の姿をしており、「夏美(なつよし)」を名乗っているが、もともとは女性であり、本名は「夏美(なつみ)」。学生時代までは女性として生活していたが、性同一障害により男性として生きるようになった。猫集会のワークショップで小山祥子と再会した際に、部活仲間の同窓会に誘われる。同窓会で性同一障害であった事をほかの部活仲間にも正直に打ち明けよう、と祥子に提案されるが、彼女の善意を心底迷惑だと思いつつも、はっきりと断れずに苦悩する。

チャイコさん

「談話室」メンバーの男性。穏やかで心優しい老人。本名は「イリヤ」。おっとりしているが、口が軽く、自分の事も周囲の事もあっさりしゃべってしまう軽い性格の持ち主。趣味はクラシック音楽で、特にチャイコフスキーの曲を好む。愛用の蓄音機を談話室に置き、よく音楽を流している。同性愛者で、パートナーは阿川瀬一郎。瀬一郎とは30年以上の付き合いで、彼が離婚したのをきっかけに関係を戻した。瀬一郎が入院してからは定期的に見舞いに行きながら、SNSでやり取りしている。明との親子関係を壊さないために、瀬一郎の臨終に立ち会えない可能性を覚悟のうえで、明とは会わないようにしている。誰かさんとは談話室ができる前からの知り合いで、瀬一郎と共に通っていたコーヒー教室で知り合った。

美空 秋治 (みそら しゅうじ)

「談話室」メンバーの少年。小学6年生。談話室メンバーからは「美空さん」と呼ばれている。顔にそばかすのある短髪の小柄な少年だが、談話室では大地春子達が集めたウィッグやメイク道具で女装して過ごしている。ふだんは無愛想だが、女装すると可憐な少女に変貌する。二人の姉をはじめ身内に女性が多いが、女装趣味の事は家や学校では隠している。女装してどうなりたいか、なぜ女装がしたいのかなど、具体的な理由を見出せず悩んでいたが、友人になった要介と交流する内に理由を見つけていく。花火大会での出来事をきっかけに介とケンカして半年ほど談話室から離れていたが、冬休みに再会した介の謝罪を受けて和解し、再び談話室に通うようになる。

椿 冬馬 (つばき とうま)

要介の同級生の男子。バレーボール部に所属している。介とは別のクラスだが同じ保健委員で、介が密かに片思いしている。バレーボール以外のスポーツも得意で、女子生徒からも人気がある。冬馬の父に連れられてボランティア団体「猫集会」のワークショップを訪れて以来、たびたび猫集会の活動を手伝うようになる。介が「談話室」のメンバーである事を知ってからは、思わせぶりな行動や言動で彼を翻弄したり、談話室メンバーを小馬鹿にしたりしていた。しかし、介から同性愛者である事と思いを告げられたうえで叱責されてからは、戸惑いながらも考えを改めて謝罪し、ほかの談話室メンバーとも交流を深めるようになる。介の気持ちには正面から応えられずにいたが、偏見を持たれても怯(ひる)まずに立ち向かう彼の強い一面を知り、次第に惹かれていく。金魚が好き。

冬馬の父 (とうまのちち)

椿冬馬の父親。尾道市役所の地域振興課長を務めていた。ボランティア団体「猫集会」の活動をサポートしているが、同性愛者に対しては少々偏見を持っている。「談話室」メンバーの事は「同性愛者の集まり」だと少々見下しており、酒の席で早輝の秘密を早輝の父にばらしてしまうものの、心からの反省はしていなかった。しかし、冬馬や要介の言葉を受けて過去の言動を反省し、それまでの非礼を介達に謝罪した。

(たちばな)

要介の同級生の男子。同じ卓球部に所属していた。誰とも分け隔てなく接する、気さくで明るい性格をしている。介の転校初日に声を掛けてくれた、初めての友人でもある。クラスメイトから同性愛者の噂を流されるようになった介を心配して励ます。

小山 祥子 (こやま しょうこ)

内海夏美の学生時代の友人の女性。同じバレーボール部に所属していた。8年前に結婚し、名古屋から尾道に引っ越して来た。舞を連れてボランティア団体猫集会のワークショップに参加した際に内海と再会し、猫集会へ入会する。学生時代は女性で性同一障害を持つ夏美が、現在は男性として生きているのを知って安心するものの、善意から夏美を気遣って、部活の同窓会に誘おうとする。

(まい)

小山祥子の娘。おとなしく控えめな性格の女子小学生。ボランティア団体「猫集会」のワークショップに母親と共に参加し、のちの活動にも母親に連れられて定期的に参加するようになり、「談話室」にも通うようになる。手先が器用で、大地春子と早輝の結婚式で使う頭の花飾りを作った。

阿川 瀬一郎 (あがわ せいちろう)

チャイコさんのパートナーの男性。末期ガンで入院している老人。チャイコさんにとっては30年以上連れ添った大切な人だが、余命いくばくもない。チャイコさんと同じくクラシック音楽を愛し、特にチャイコフスキーを好む。若い頃に女性と結婚したが、同性愛者である事を妻に打ち明けて離婚し、チャイコさんとの関係を戻す。離婚時に息子の明の親権は妻に移ったが、入院をきっかけに疎遠だった明とは定期的に会うようになる。

(あきら)

阿川瀬一郎の息子。離婚時に親権が母親に移ったため、瀬一郎とは長らく疎遠気味だったが、彼の入院をきっかけに親子の関係を取り戻し、たびたび見舞いに行っている。何度も見舞いに来ていたチャイコさんの事はまったく知らずにいたが、のちに瀬一郎にチャイコさんの事を知らされる。

早輝の父 (さきのちち)

早輝の父親。尾道にある居酒屋「みなと」の主人。娘の早輝が同性愛者である事はまったく知らず、なかなか早輝が結婚しないのを心配していた。のちに冬馬の父を通して早輝と大地春子の関係を知る。当初は二人の関係に戸惑うものの、早輝達の真剣な態度を見て結婚を認める。

早輝の母 (さきのはは)

早輝の母親。尾道にある居酒屋「みなと」の女将。明るく優しい性格で、メガネをかけている。娘の早輝が同性愛者である事と、大地春子との関係は薄々気づいていた。のちに早輝の本音や意思を直に聞いて安心し、春子との結婚も温かく受け入れた。

集団・組織

猫集会 (ねこしゅうかい)

NPO法人の空き家再生ボランティア団体。大地春子が代表を務める。尾道にある空き家を再生させ、有効活用する事を主な目的としている。定期的に地元の子供が参加できるワークショップも開催している。

場所

談話室 (だんわしつ)

尾道の空き家をリノベーションして作られた、誰でも気軽に参加できる歓談部屋。談話室のオーナーは誰かさんが務めている。元は業者に敬遠されていた謎物件を、誰かさんの依頼を受けた大地春子が改装し、春子と早輝の希望で「誰もが今話したい事を話せる」談話室として活用されるようになった。同性愛者をはじめ、性指向などにさまざまな悩みを抱えた人が集まる場所となっている。このため一部の人達からは、「そういう人が集まる場所」として偏見的な目で見られる事もある。

尾道 (おのみち)

広島県南東部に位置する海沿いの町。要介が住んでいる。人口減少によって、海側にも山側にも空き家が増加している。四国と瀬戸内の島々をつなぐ「しまなみ海道」は、映画などの舞台にも使われている。坂道の上で売られているソフトクリーム「八朔ソフト」や、砂肝の入ったお好み焼き「尾道焼き」などが名物。

さんかく亭 (さんかくてい)

ボランティア団体の猫集会が再生させた、尾道にある小さな空き家の一つ。さんかく亭を今後どう活用するかは、要介に委ねられている。

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