黄昏時の人々の意外な素顔を描いた短編連作
本作最大の特徴は、すべてが黄昏時(夕方の時間帯)の話であること。「黄昏」は『万葉集』の、ある歌に登場する「誰そ彼(たそかれ)」という言葉が語源。夕暮れ時は、向こうにいる人が誰かわかりにくい。そこで、「あなたは誰なのですか?」という意味の「誰そ彼」が、夕暮れ時の時間帯を指すようになったといわれている。放課後や下校時といった黄昏時は、授業や仕事といった表向きの顔から、本来の自分に戻る時間帯。見慣れたはずの顔が、「誰だろう?」と別人のように感じてしまうこともある。本作は、そんな普段と異なる顔を見せる人々の姿を、女子高生・高取エリの視点をとおして描いた、青春短編連作である。
エリが遭遇するいろいろな出来事
将来の夢は記者というエリは、学校の「わかば新聞」の記事を書く、好奇心旺盛な女の子。彼女がいろいろな記事を書けるのは、小学生の頃に拾った隕石のかけらが、物事を引き寄せているおかげだという。実際、エリはなぜかいろいろな出来事に遭遇する。例えば、能面顔の古典教師・黒木が、児童向け漫画を楽しみにする姿を目撃したり、女の子とデートをするクラスメートのみっちゃんや、誰よりも早く帰るクラスメート・浜野守の秘密を知ることになったりするのだ。
片思い同士の恋の行方
エリは、古典を教える黒木先生のことが大好きで、授業中はいつも先生に熱い眼差しを送っている。また、先生を喜ばそうと、古典の勉強に励むが10分で睡魔に襲われてしまう天然でもある。そんなエリにひそかな好意を抱いているのが、クイズ大好き男子・浜野である。ある日の帰り道、「クイズ以外に好きなものがない」とエリに思われていることを知った浜野は、それを否定し「好きな人だっている」と告白する。しかし、それが自分のこととは知らないエリは、「私は黒木先生が好き」と、浜野にあっさり秘密を打ち明けた。エリと浜野という、片思い同士の恋の行方も本作の魅力である。
登場人物・キャラクター
高取 エリ (たかとり えり)
わかば高校に通う明るく元気な女子高生。ショートカットが特徴。小学4年生の帰り道、流れ星が落ちた場所を探していたところ、隕石が落ちてきたと証言する男子高校生に遭遇。「好奇心旺盛な君はいい記事が書ける」と高校生に言われて以来、記者になることを決意した。なお、その時に道に落ちていた、隕石のかけららしきものを今もお守りのように持ち歩いている。学校に新聞部がないため、先生が作成する「わかば高校だより」に記事を持ち込んでいる。古典を教える黒木先生のことが大好き。
浜野 守 (はまの まもる)
高取エリのクラスメート。黒縁メガネとボサボサ髪が特徴。クイズが大好きだが、学校にクイズ部がないため、放課後に双子の兄と入れ替わり、兄の高校のクイズ部で活動している。わからないことが放っておけない性格。エリに好意を抱いている。
黒木 (くろき)
わかば高校の国語教師。高取エリらに古典を教えている。オールバックと細身の長身が特徴。普段はほとんど表情を変えない能面顔だが、児童向け漫画が好きな意外な一面を持つ。また落語やお笑いも好きで、高校時代は創作落語のテープを作ったり、ラジオでハガキを読まれる回数を友人と競ったりしていたという。