概要・あらすじ
船溜まりのある「橙町」に住む友香は、ある日親友だったちとせの首をかみそりで切って殺した。黒目透子は海に入って、海棲生物を「エイリアン」と称して次々に倒して、食べていた。堀北陽子は、心臓の鼓動が速くなると自分が爆発する「爆死病」にかかっていた――女子中高生の間ではこのような噂が流れ、橙町の住民たちは日常と非日常の境目をふらふらと過ごしていた。
特に黒目透子による海棲生物の乱獲に対し、取り締まらざるを得なくなったおまわりさんは、どうにも理解できない少女たちの行動を観察しつづける。
登場人物・キャラクター
友香 (ともか)
長い黒髪の女子中学生。ショートカットのちとせとは幼なじみで、いつも仲良くしていた。ところがある日を境に彼女から距離を置かれていじめられるようになり、自宅にあったかみそりで、ちとせの首を切り裂いてしまう。船溜まりの中に制服のまま飛び込んで、口だけ出してハゼの真似をしているのを、おまわりさんに見られている。
堀北 陽子 (ほりきた ようこ)
常にあごのところにマスクをかけている女子中学生。ドキドキし過ぎると爆死してしまう病気にかかっており、なるべく激しい運動や興奮を避けるようにしている。しかしクラスの男子森屋のことが好きで、彼の前に出ると心拍数があがって危険。そこで森屋のことは双眼鏡越しに眺めている。
黒目 透子 (くろめ とうこ)
「イカスミ滴る同級生」「私を信じて」をはじめ、多くの短編に登場する女子高生。転校してきたばかりで、船溜まりに入っては、イカやタコなど数多くの海棲生物とバトルを繰り広げている。海棲生物を「エイリアン」と呼んで撲殺を繰り返すが、死んだ後の生物は普通に食べることができ、味も本来の海産物と同じため、なかなかエイリアン退治であることを信じてもらえない。 最初は信じてもらうことを諦めていたが、次第に苦にするようになる。イカを大量に倒した時は、船溜まりがイカスミで真っ黒になった。
真琴 (まこと)
いつも気だるげで、左マユにピアスを付けている女子高生。巨大少女房枝と行動をともにしている。「非日常」を求めており、常に刺激がないかと「非日常」のことを考え続けている。みかが持ってくる橙町の「怪異話」を好んで聞き、怪異現場を見て回るツアーをしばしば行っている。
宮成 美鈴 (みやなり みすず)
カブトムシの「カブちゃん」をこよなく愛する少女。カブちゃんが殺されたのを発見、西沢理恵のしわざだと考えて、自動販売機で拳銃を買って彼女と彼女の母を射殺しようとした。
西沢 理恵 (にしざわ りえ)
カブトムシを愛する少女宮成美鈴から、カブトムシを殺したと思われてしまい、射殺されそうになった。おまわりさんに見つかった時、自分が撃たれたのは、ごっこ遊びだと告げる。
委員長 (いいんちょう)
髪の毛を2つ結びにした真面目な女子校生。クラスには彼女と、柏木の六つ子しかおらず、いつも授業中に寝ている彼らに対して苛立っている。なぜ六つ子が寝不足なのかを探り、彼らの目的を知って協力することにした。
金田 京子 (かねだ きょうこ)
「ちょっとだけ強い私になる為に」の主人公の女子校生。7年間引きこもっていたが、女子高生になったからには幸せな生活を送りたいと考えて学校に行くことを決意する。辛いことや嫌なことがあると、自己防衛本能が働いてさなぎになってしまい、しばらくすると「ちょっとだけ強い私」として脱皮する体質。
矢野 (やの)
加納の友人の少女。船溜まりで打ち上げられた人魚を見つけ、強引な加納に振り回されて、自宅の冷蔵庫に保存する羽目になってしまう。父親と2人暮らし。
手を発射する少女 (てをはっしゃするしょうじょ)
「発射する手」の主人公の少女。だらしない性格で、いつもパーカーシャツを着てダラダラと部屋で過ごしている。動くのを面倒臭がっているうちに、自分の手を発射できるようになった。それを利用してヒーローにならんと、通り魔に立ち向かう。弟をいつもこき使っているが、仲はよい。
新聞配達の少女 (しんぶんはいたつのしょうじょ)
「橋の上のトナカイ」の主人公の少女。いつも早朝に新聞配達をしており、1週間トナカイが橋の上で待っているのを見続けていた。たまたまトナカイがサンタを角で刺し殺してしまうのを目撃、トナカイから「サンタの代理をしてくれないか」と強引に詰め寄られる。
ちとせ
ショートカットの女子中学生。友香の幼なじみで、いつも一緒にいるほど仲が良かった。ある日を境に突然友香から距離を置くようになり、彼女をいじめるメンツとつるむようになる。友香が家から持ちだしたかみそりによって、首を切り裂かれて死亡。耳を触られるのが苦手。
森屋 (もりや)
堀北陽子に想いを寄せられている男子中学生。堀北の思いには気づいていない。堀北から命がけの告白をされる。
麻美 (あさみ)
メガネをかけ、髪の毛を2つおさげにしている。爆死病にかかった友人堀北陽子が恋愛をすることを防ごうと、必死に彼女を説得した。10歳の時、姉が恋をしてしまい爆死したのを見て、爆死病を心底恐れている。
房枝 (ふさえ)
巨大な女子高生。周囲の誰からも変わっていると思われていない。真琴やみかと行動をともにすることが多い。温和な性格で、みかが持ってくる橙町の「怪異話」を怖がっている。セリフを一切しゃべらない。サイズは一定ではなく、元は教室に入れるサイズだったが、最終的には校舎よりも大きくなった。
みか
ツインテールの明るい女子高生。真琴や房枝と仲がいい。橙町の噂話に詳しく、特に町で起きる「生首」「エイリアン」「爆死病」などの怪異話を2人にしては、一緒に怪異現場ツアーを行っている。
柏木の六つ子 (かしわぎのむつご)
全く同じ顔の少年。クラスには彼らと委員長しかいないにもかかわらず、授業中は6人全員が寝不足で寝ており、教師を困らせている。実は六つ子にはある目的があり、それを委員長に教えて彼女の協力を得た。
上杉 はじめ (うえすぎ はじめ)
ホスト志望のチャラチャラとした男性。25歳無職。黒目透子がエイリアン退治と称して魚介類の乱獲をしていた時、彼女が倒しているのはエイリアンだと信じようとした。自身はなかなか人から信じてもらえない性格だったが、子どもたちにはとても優しく、慕われており「ヒーロー」と呼ばれていた。
加納 (かのう)
矢野の友人の少女。そばかすがある。船溜まりで打ち上げられた人魚を見つけ、「食べると美肌になる」と信じて、連れ帰って食べようとした。
トナカイ
「橋の上のトナカイ」に登場する。言葉をしゃべるトナカイ。1週間、毎朝橋の上でサンタを待っていた。サンタに彼氏が出来て「配達をやめる」と言い出されたことに腹をたて、サンタを角で串刺しにした。気性は荒いが、仕事への使命感は強い。
おまわりさん
様々な短編に登場する人物。右目に眼帯をしている警察官の男性。左足にギプスをしており、松葉杖をついている。それぞれの短編に出てくる少女たちの様子を見守っており、橙町で起きた事柄を俯瞰して見ている狂言回し役。特に魚介類はエイリアンである、と訴えて戦っている黒目透子とは何度も出会っている。違法な乱獲であると注意する反面、彼女の言っていることを信じていいのか悩んでいる節も見られる。
場所
橙町 (だいだいちょう)
そこそこの大きさの船溜まりがある町。「エイリアン」「爆死病」「生首」など多くの怪異譚があるが、事実は住民には知られていない。船溜まりには中高生の少女たちが訪れて奇怪な行動を取るため、頻繁におまわりさんが観察しに来ている。船溜まりはあまりきれいな水ではなく、酸素不足になったハゼの大群による青潮が生じたり、黒目透子がイカエイリアン退治を行ったときには、イカスミで真っ黒に染まったりもした。 基本的には現実社会とほぼ変わりないが、銃の自動販売機があるなど、まれに現実外れした光景が挟まれる。