あらすじ
第1巻
リネット・アディンセルは伯爵家の令嬢だが、貧乏すぎて食事にも事欠くほど、実家は困窮していた。伯爵とは名ばかりの家庭環境で育ったリネットは、嫁ぎ先を探す目的で行儀見習いとして王宮に上がったはいいが、ほかの貴族令嬢とそりが合わず、いつの間にか下働きのお掃除女中状態になってしまう。掃除に洗濯にと忙しく働く日々を過ごしていたある日、リネットは偶然目の前を通ったアイザック王太子の落とし物に気づき、慌てて声を掛ける。すると王太子は驚いたような表情でリネットの名前を聞き、性別を確認。体の具合を尋ねたあと、リネットを小脇に抱えて連れ去ってしまう。リネットは、王太子の怒りに触れることをしてしまったのではないかと怯え、牢屋に入れられることも覚悟するが、連れて行かれたのは美しく豪華な部屋だった。状況が飲み込めないままリネットが混乱していると、アイザックは再度彼女の体調の不変を確認し、仕事を依頼したいと切り出す。実は、アイザックは女性が近づくことができない特異体質の持ち主で、近づこうとする女性はすべて、頭痛や吐き気をもよおし、触れようとすれば気を失って倒れてしまうのだ。実の母親である王妃ですら同様の症状に見舞われ、愛するわが子を胸に抱くこともできない。そんな状態で、日々男所帯ばかりの中で行動していた王太子は、いつの間にか国民から同性愛者なのではないかと、疑惑の目が向けられていた。その疑念を払拭するためアイザックは、国王の生誕祭が終わるまでのあいだ、リネットに婚約者になってほしいと願い出る。もはや引き受けるという選択肢しかない状況の中で、リネットはおいしい食事を糧に淑女教育を受け、貴族令嬢としてふさわしい振る舞いができるように勉強を始める。そして、無邪気なアイザックに振り回されながら、この国を覆う大きな渦に巻き込まれていく。
関連作品
小説
本作『にわか令嬢は王太子殿下の雇われ婚約者』は、香月航の小説『にわか令嬢は王太子殿下の雇われ婚約者』を原作としている。一迅社文庫アイリスより刊行。小説版のイラストは、ねぎしきょうこが担当している。
登場人物・キャラクター
リネット・アディンセル
伯爵家の令嬢。実家であるアディンセル家は、かなり古くからある貴族の血筋だが、家計はつねに火の車状態。領地の返還を重ね、使用人を雇う余裕すらない貧乏ぶり。社交界デビューは済ませたものの、食べるにも困るほど貧窮していたため、貴族の淑女としての立ち居振る舞いは身についていない。親族の伝をたどり、嫁ぎ先を探す目的で行儀見習いとして王宮に上がったものの、ふつうの令嬢たちと馴染むことができるわけもなく、掃除や洗濯などを中心に、下働き同然の質素な日々を過ごしていた。そんな折、アイザック王太子一行が通り過ぎたあと、落とし物を発見して届けたところ、女性が近づけない特異体質を持ったアイザックに、近づくことができる稀有な女性として身柄を拘束される。同性愛者なのではないかというアイザックの疑惑を晴らすため、国王の生誕祭が終わるまでのあいだ、王太子の婚約者として雇われることになった。王太子をはじめとして、周囲の者はみんな好意的に接してくれるが、側近のレナルド・ブライトンから、仕事を受けるか不敬罪で首を落とされるかの二者択一を迫られ、強引に決められてしまったこともあり、初めは前向きに取り組むことに躊躇していた。そのうえ、淑女としてのたしなみなど、膨大な勉強量に困惑するが、真っ直ぐで素直な性格のアイザックと接するうちに、次第に前向きに取り組むようになっていく。のちに、アイザックが自分に触れている時には、ほかの女性もアイザック近づくことができるようになるという、特異体質を軽減する能力があることに気づく。実家では、ウサギや猪など食べるための狩りによく付き合わされていたため、視力と動体視力は異常にいい。
アイザック
ロッドフォード王国の王太子。建国の騎士王、ロッドフォードの再来と謳われる傑物。軍務のために各地を飛び回っては、自国の平和のために尽力しており、全国民のあこがれの存在。実は、女性が近づくことができない特異体質の持ち主。アイザックに近づこうとする女性はすべて頭痛や吐き気をもよおし、触れようとすれば気を失って倒れてしまう場合もある。命にかかわることはないが、実の母親である王妃も同様の症状をきたす。そのため、つねに男性ばかりで構成された集団で行動していることから、同性愛者なのではないかと疑惑をもたれている。今年は、実の父親である国王の50歳を祝う特別な生誕祭が行われ、多くの賓客が来国する予定になっている。その中には国教で同性愛を禁じている国もあるため、外交の観点からも王太子として信頼を勝ち取るためには、異性愛者として子孫を残す意思があることを証明する必要があった。そんな折、掃除中のリネット・アディンセルと出会い、彼女が自分に触れても異常をきたさない稀有な女性であることに気づいた。そのため、少々強引ではあるが、生誕祭が終わるまでのあいだ、リネットに婚約者として振る舞うことを依頼する。もともと、女性と接することができないまま成長したため、女性の扱い方を知らず、エスコートもままならない状態。しかしリネットと過ごす日々や、側近のレナルド・ブライトンからの指示により、少しずつ変わっていく。単純で子供のように無邪気なところがあり、かわいらしい一面もある。また、リネットに触れているあいだは、ほかの女性も近づくことができる特異体質軽減の効果があることがわかり、そのおかげで母親と触れ合うことが実現した。
レナルド・ブライトン
アイザックの側近を務める男性。ブライトン公爵家の長子。リネット・アディンセルが、女性が近づくことができない特異体質のアイザックに触れても具合が悪くならない、稀有な存在であることに気づき、リネットの身柄を拘束。彼女に、アイザックの婚約者として雇われるか、不敬罪で首を落とされるかの二者択一を迫った。その後、リネットがアイザックの婚約者になったことで、婚約者としてふさわしい、貴族淑女としての振る舞いができるようにと、主に礼儀作法を中心に教育することになる。アイザックの同性愛疑惑を払しょくするため、実は王太子には諸事情により公にしていない婚約者がおり、それを父王の生誕祭で明かすというシナリオを作り上げた。基本的には明るくて人当たりがいいが、王太子のこととなると一生懸命になりすぎるところもある。
王妃 (おうひ)
ロッドフォード王国の王妃であり、アイザックの母親。アイザックのことを非常に愛しているが、アイザックに近づく女性が頭痛や吐き気をもよおしたり、触れようとすれば気を失って倒れてしまう特異体質のため、思うように愛情を注いでやれない状況に思い悩み続けてきた。しかし、リネット・アディンセルと婚約したことで、アイザックがリネットに触れているあいだは、特異体質が軽減されることがわかり、王妃自身もアイザックに触れることが叶った。
カティア
ロッドフォード王国の王妃の女官を務める女性。リネット・アディンセルが、アイザック王太子の婚約者になったことで、国王の生誕祭までのあいだ、リネットの傍仕えとして行動を共にすることになった。リネットの質素な佇まいを婚約者にふさわしいものにするため、服装から髪型、メイクや立ち居振る舞いに至るまでを教育するために奔走する。
フリーデ
公爵家の令嬢。王妃主催の茶会に、アイザック目当てでたびたび出席している。非常に華やかな容姿で、ドレスは露出度が高め。所作は美しく、令嬢としての気品があふれているが、裏の顔を持っている様子。茶会では明らかにアイザック目当てであることがバレている。
場所
ロッドフォード王国 (ろっどふぉーどおうこく)
物語の舞台で、リネット・アディンセルが暮らす国。世界各地で魔術が発展していた中で、かつては魔術師になれない者たちが存在した。彼らは出来損ないとして虐げられていたが、ある時そこから逃れて辿り着いたのが起源とされている。その後、その者たちが騎士のロッドフォードを王に据えて国を興したのがこの国の始まりと伝えられている。この国の国土には、魔術を行使するために必要な魔素が極端に少なく、もともとやせ細った厳しい土地だったため、現在でも国内で魔術は発達していない。
クレジット
- 原作
-
香月 航
- キャラクター原案
-
ねぎし きょうこ