あらすじ
第1巻
女性漫画家の森永みるくは、生業である百合漫画の執筆と並行して、猫ボランティアとして精力的に活動していた。そんなある日、締め切り間近の森永のもとに、非通知で電話がかかってくる。出てみると、相手は森永が猫ボランティアをしていることと、彼女の電話番号を人づてに聞いたという人物で、名乗りもせず、近所の公園に生まれたばかりの子猫が捨てられているとだけ告げて、電話を切ってしまう。放っておくわけにもいかず、しぶしぶ森永がその公園に向かうと、そこには確かに生まれたばかりの四匹の子猫がいた。しかもそのうちの一匹は、口から血を流している状態ですでに体も冷たく、森永は慌てて子猫たちを保護して動物病院へと駆け込むのだった。翌日、森永が動物病院を訪れると、血を流していた一匹だけはすでに虹の橋を渡っていた。三匹の子猫たちを引き取って帰宅した森永は、もっと早く現場に向かえばよかったと悲しみに暮れるが、残ったまだ目も開かない三匹を見てふと我に返る。森永は猫ボランティア活動を開始して数年がたつものの、実は離乳していない子猫の面倒を見たことがなかったのである。こうして、悪戦苦闘しながら森永の初めての子育てが始まるのだった。(第1話「はじめまして横ミミちゃん」。ほか、7エピソード収録)
登場人物・キャラクター
森永 みるく (もりなが みるく)
百合漫画家を生業とする女性。日常の漫画家業務のほかに猫ボランティアとしても活動しており、日曜には譲渡会に参加して保護した猫の里親を探している。そのほか、夜には捕獲器を仕掛けて地域猫を捕え、不妊手術をして元いた場所に戻す「TNR(トラップ・ニューター・リターン)活動」なども行い、つねに多数の保護猫といっしょに暮らしている。実は20年以上前に夜道で通り魔に襲われたことがあり、命にかかわるようなケガはしなかったものの、それ以来、引きこもりがちになっていた時期があった。そんな中、仕事を手伝ってくれている友人に勧められて里親として子猫のちるちるを迎え、頻繁に動物病院に通ったり、ちるちるのための買い物をしに行ったりするうちに、いつしか気負わずに外出できるようになり、心の平穏を取り戻したという経緯がある。その後は不幸な猫たちを放っておくことができず、自ら猫ボランティアとしてたくましく活動するようになった。実在の人物、森永みるくがモデル。
Sさん
マンションの一室で、40代の息子と二人暮らしをしている女性。猫好きだが猫を飼うことに関する知識がなく、避妊や去勢手術をしないままに数匹の猫を飼っていたところ、あれよあれよと繁殖して多頭飼い崩壊を起こした。これにより、三桁にせまる数の猫に囲まれて部屋は糞尿の山となり、近隣住人の苦情によって、大家に訴訟を起こされる一歩手前の状態にあった。その事実を知った、森永みるくが参加している里親会の会長に諭され、状況の改善を計画。動物病院の協力を得て飼い猫たちの避妊や去勢手術を進めると同時に、息子が里親会に参加して、自分たちが飼う猫の数を減らすこととなった。大家に対しては部屋の修繕費用の弁償を約束し、会長の協力と口添えもあって、どうにか訴訟沙汰は免れる。息子ともども、猫に対する愛情は確かだったこともあり、会長の要請を受けてこの騒動に協力した森永に、どんなに愛があっても正しい知識がなければ、飼い主も猫も不幸になってしまうのだと、それまで以上に強く意識させることとなった。またこの一件により、森永は自分が当り前だと思っている知識が本当に正しいのかどうか、自問自答する癖をつけるようになった。
里親さん
かつて森永みるくのもとから、「ちび」と呼ばれていた保護猫を里親として引き取った女性。新たに「空くん」と名づけてかわいがっていたが、業者にエアコン修理を頼んだ際に怯えた空くんが逃げ出してしまい、森永に助けを求めた。森永と協力して迷い猫のポスター貼りやポスティング、近所への聞き込み、警察と保健所、愛護センターへの連絡を行い、さらに自宅近くに猫の捕獲器を仕掛けて昼夜問わず必死に空くんを捜した結果、7日目にしてようやく、隣家の軒の上で発見。以後は脱走防止策をさらに厳重に施すことを森永に約束した。この一件のお礼として、地元である青森の名産だという焼き肉のタレを森永に進呈。これが想像以上においしく、以降は森永家の定番となった。
フリコ
森永みるくの知人女性で、周囲には「フリちゃん」と呼ばれている。仕事の原稿が限界ギリギリの状態だった森永を助けるために彼女の家にやって来たが、実は猫アレルギー持ち。森永もそのことは重々承知しており、入念な床掃除から空気清浄機、さらには防塵マスクやゴーグルまで用意して迎えられた。猫アレルギーの持ち主ながら猫が大好きで、この時、森永の家で保護されていたもうふと出会った。不思議なことにもうふに対しては猫アレルギーが発症しなかったため、もうふを膝に乗せて仕事することを存分に楽しみ、その後もたびたび森永の仕事を手伝うようになる。後日、これに気をよくして猫を飼いたいと森永に相談。数か月後にペット可の物件に引っ越し、森永の保護していた猫をお試し飼いすることとなった。だが、最初にお試しした穏やかな性格の中年おじさん猫のちゃーくんではアレルギー症状が出てしまい、飼うことを断念。情が移ったちゃーくんとの別れを悲しみ、森永には、かわいそうなことをしたとお試し飼いを勧めたことを後悔させることとなったが、数か月後、あらためて次のお試し飼いを希望。その時には適した保護猫が凶暴なもうふしかいなかったが、以前と同様にもうふとの相性はバッチリなうえ、アレルギー症状も出なかったため、以後は正式にもうふを家に迎えて飼うことになる。
もうふ
森永みるくが保護していたメスの猫。長毛で目つきが鋭く、すぐに人の膝に乗りたがる割には、なでると嚙みつくワイルドキャット。また、電源コードを見ると嚙んだり爪で引き裂いたりしてしまう悪癖を持つ。東日本大震災の時に福島で保護された被災猫で、もともと避妊手術済みだったが、方々手を尽くしても元の飼い主が見つからず、森永の家で保護されることとなった。その際、毛布みたいだからという簡単な理由で、森永に「もうふ」と名づけられた。のちに森永の知人女性のフリコに、お試し飼い期間を経て迎えられ、彼女の家で飼われるようになる。人間の男性が大好きで、フリコの猫アレルギーを心配して訪れた彼女の父親の膝に乗り、一瞬で籠絡。ちなみにフリコ、フリコの父親ともに猫アレルギー持ちだが、もうふはフリコ親子に対してアレルギー症状を発症させないという不思議な特徴がある。
ちるちる
森永みるくが飼っているオスの黒猫で、年齢は21歳。もともとは、ある猫ボランティアが保護した猫が、翌日にいきなり産んだ五匹の子猫のうちの一匹。当時はカゼをひいて元気がなく、ほかの兄弟におっぱいやご飯を取られてしまうために小さく瘦せており、気の毒に思った森永に引き取られることとなった。その頃、森永は友人から「みるみる」と呼ばれていたため、いっしょに幸せの青い鳥を探そうという思いを込めて、「ちるちる」と名づけられた。いたずら好きで初めて猫を飼うことになった森永を散々に困らせたが、彼女の愛情を受けてすくすくと育ち、同時にちるちるの存在自体が、過去のトラウマによって引きこもりがちだった森永が、心の平穏を取り戻して一般的な日常生活を送れるようになる大きな要因となった。現在は加齢により、膵臓がぺちゃんこで腎不全も長く患い、目も見えないうえに耳も聞こえないが、自分で歩いて水を飲んだりご飯を食べたり、トイレに行くことができるほどには元気。