流浪の山賊と山犬の異形の出会い
戦国時代の末期、流浪の山賊であるカガシが、日向・国見岳を訪れたところから物語は始まる。拝み屋に間違えられたカガシは、村人に狐退治を依頼される。古狐が、山に入った里の者を何人も食い殺しているという。謝礼目当てに山中に入ったカガシだったが、山犬に襲われて谷底に落ちてしまう。そこでカガシを助けたのが、山犬の異形(妖怪)である縣という女だった。本作には縣の他にも、尻尾が三つに割れた狐や「角禅」という名の天狗などの異形が登場する。彼らは人間より遥(はる)かに強い肉体と超常的な力を持ち、米や獣の他、人間も食らう。ただし、本作は妖怪退治の話ではなく、戦国の世の人間同士のバトルがメインであり、刀剣や匕首(あいくち)、種子島(銃)を使用した残酷描写も多い。
史実を背景にしたバトルファンタジー
本作の舞台となっているのは、日向(現在の宮崎県と鹿児島県北東部)であり、戦国時代末期の伊東氏(伊東義祐)と島津氏(島津義弘)の抗争が物語のベースになっている。したがって、カガシの復讐の発端となる「木崎原の戦い」は実際にあった合戦である。また、物語終盤に伊東の救援依頼を受けて出陣した大友宗麟が、島津軍に敗れて豊後国に逃げ帰るというストーリーも史実に沿っている。本作は、リアルな歴史を背景に、ファンタジー要素と架空のヒーローを加えて展開されるピカレスクロマンである。
カガシの過去と旅の目的
「隈戸衆」は、かつて諸国の戦場を渡り歩いた傭兵集団である。カガシの父は隈戸衆の頭領だったが戦で命を失い、弟がその跡を継いだ。カガシは少年ながら、戦で多くの敵を殺す活躍を見せていたが、叔父でもある頭領はカガシを心配し、無謀な戦いをするなといつも戒めていた。そんなある日、戦場で不意打ちを食らい、隈戸衆は全滅してしまう。生き残ったのは、無理やり馬に乗せられ逃がされたカガシだけだった。しばらくして戦場に戻ったカガシは、蜥蜴(とかげ)の絵の幟(のぼり)を立てた連中が、叔父の首を引っ提げて去っていく姿を見る。それ以来、カガシは蜥蜴の一団への復讐だけを生きる糧にし、旅を続けている。
登場人物・キャラクター
カガシ
叔父と仲間の仇討(あだう)ちのために旅をしている山賊の少年。「アグリ」という名の大きな鷹を引き連れている。身長は170センチメートル程度。刀剣の他、体のいたるところに匕首を忍ばせ、分銅鎖や火器も扱う。生きることと復讐のために躊躇(ちゅうちょ)なく人を襲い、金品や鎧(よろい)などを奪う。日向の国見岳で、谷底に落ちたところを、山犬の異形、縣に助けられ、共に旅をすることになる。なお、カガシというのは知人に付けられた名前で、本名は不明である。
縣 (あがた)
日向の国見岳の谷底に棲(す)んでいた山犬の異形。かつて神として祀(まつ)られていたが、天災の折に人に仇をなすものとして谷底に落とされ、100年間動かずにいた。身長210センチメートルほどの大柄な女性の姿をしている。喉輪という小足具と袴(はかま)、毛皮と羽織を身に着けている。戦闘能力が高く、空を飛ぶ、舐(な)めて傷を治すといった特殊能力もある。感情の起伏が少なく、ただ暇つぶしのためだと言ってカガシの旅に同行する。
書誌情報
ねじけもの 全3巻 新潮社〈バンチコミックス〉
第1巻
(2017-06-09発行、 978-4107719812)
第2巻
(2017-12-09発行、 978-4107720313)
第3巻
(2019-01-09発行、 978-4107721501)