『北斗の拳』にハマった男のカンちがい復讐劇
元ネタである『北斗の拳』は、集英社「週刊少年ジャンプ」にて1983年41号から1988年35号まで連載された人気作品。単行本は全27巻の長編で、アニメ化やゲーム化、映画化とさまざまなメディアで展開され、多数のスピンオフ作品を生み出している。本作は、北斗の拳の主人公であるケンシロウに強い影響を受けた沼倉幸一が、母親を奪ったヤクザ・木村に復讐をするため、愛読書の『北斗の拳』を読み込んで北斗神拳を極めようとするところから始まる。北斗の拳のパロディネタが満載ながら、原作を知らない読者でも楽しめる内容となっている。
秘孔を突くマッサージ師
ヤクザ・木村への復讐を誓った沼倉幸一は、ケンシロウになるため『北斗の拳』を読み込んでトレーニングを重ね、10年後にケンシロウの体と技を手に入れる。しかし、現実には秘孔を突いて人を殺すことができるはずもなく、木村に挑みかかるものの返り討ちに遭ってしまう。この一件で幸一は体を鍛えるだけではダメだと悟り、ありとあらゆるツボを研究して極めた結果、指圧師の国家資格に合格する。その後マッサージ店を開業し、売れっ子のマッサージ師となり、北斗神拳の流れを汲む唯一無二の存在として、注目を集めることとなる。
痛快かつシュールなギャグてんこ盛り
『北斗の拳』の熱烈ファンで、母親を奪われた沼倉孝一が、ヤクザ・木村に復讐を志すものの、修行の末に行き着いたのは秘孔を突いて人を殺すことのできるすご腕のマッサージ師。また、沼倉の助手を務める坂本里香は、かつて沼倉に救われたことから彼に感謝の念を抱いてはいるが、沼倉の北斗の拳を愛するあまりの奇行についていけず、心の中でツッコミを入れ続けている。二人のシュールなギャグの応酬をはじめ、次々に巻き起こるトラブルやアクシデント、沼倉の店に訪れる珍妙な客とのやり取りなど、おバカギャグ満載でハチャメチャな展開が本作の大きな魅力となっている。
登場人物・キャラクター
沼倉 孝一 (ぬまくら こういち)
治療院「沼倉マッサージ」を営む凄腕の指圧師の男性。年齢は40歳くらい。屈強な体格で、22歳の時点で身長191センチ、体重92キロあった。10歳の頃に母親に捨てられ、家に出入りしていたヤクザの木村への復讐を誓う。いわゆる努力の方向音痴で、愛読書『北斗の拳』に描かれていた経絡秘孔を突いて人を殺(あや)める「北斗神拳(ほくとしんけん)」に活路を見出し、10年もの鍛錬を経て『北斗の拳』の主人公、ケンシロウを彷彿(ほうふつ)とさせる鋼の肉体を手に入れる。やがて木村に見よう見まねの北斗神拳を叩(たた)き込むも敗北し、知識不足を痛感してツボの猛勉強を開始。独学で人体解剖学、心理学などを修めた。20年ほど前に大手IT企業、野田ソフトの経営者を心臓発作の危機から救ったことが転機となり、彼の支援を受けて専門学校に通い、「あん摩マッサージ指圧師免許」「柔道整復師」「はり師免許」「きゅう師免許」の国家資格を取得した。現在は疾病の治療から回春まで手がける腕利きで、他人のマッサージを再現するなどの芸当も身につけている。顧客に対してもぶっきらぼうな態度を崩さない一方で、足を引き摺(ず)っている野良猫を治療するなど、優しい一面を見せることもある。しかし基本的に照れ屋で、本心を見透かされると茶化してしまう。また、暗殺ツボを探すために大量のネズミを殺すなど、復讐が絡むと異常な行動に出ることも多い。ある日、成人向けマッサージ店で働く坂本里香の技術に不満を抱き、逆にマッサージを施した。これをきっかけに彼女に弟子入りを懇願され、アルバイトとして採用する。里香が病気の父親を抱えた苦学生であることを知ると、夜の仕事を辞めて治療院に専念するよう諭し、100万円という破格の月給を約束し、正社員に引き上げた。やがて暗殺ツボを用いた木村殺害計画を実行に移すも、触診により木村の余命が幾許(いくばく)もないことが発覚。自らの手で復讐を遂げるため、木村を延命させなければならない矛盾に苦悩する。また、木村を常連にするためテレビ出演するなど、活躍の舞台を広げていく。
坂本 里香 (さかもと りか)
交通事故に遭った父親を看病しながら指圧師を目指す専門学校生の女性。年齢は22歳。胸が非常に大きく、前髪を切りそろえたセミロングにしている。二人分の生活費や父親の医療費、自らの学費を工面する苦学生でもあり、夜は下着姿で施術する成人向けマッサージ店「フィンガールズ」で働いている。リピート率100パーセントの人気嬢だったが、沼倉孝一に自慢のマッサージを否定され、逆に施術を受けることになり、真の気持ちよさを体感する。相手の状態を把握することから始めるというマッサージの真髄に触れて感動し、治療院「沼倉マッサージ」でアルバイトを始めた。孝一の指圧師としての実力を評価する一方で、彼の歯に衣(きぬ)着せぬ物言いや突拍子もない行動に翻弄され、思わず白目を剝いてしまうことも多い。それでも表向きは従順に振る舞っており、ツッコミは言葉にせず内心で済ませている。しかし、孝一が致命的なミスを犯そうとしている時には黙っていられず、助言することもある。ある日、右手を負傷した孝一の代理として力士の施術を担当することになり、孝一のひそかなアシストを受けながらも懸命に仕事をやり遂げた。これをきっかけに夜の仕事を辞め、正社員として勤務するようになった。孝一の不器用な優しさに触れたことで、彼の力になりたいと意識するようになり、孝一が殺そうとしているヤクザの木村を治療院に誘う一手として、テレビ出演を提案。夜の仕事で培った伝手(つて)を頼りに孝一を人気テレビ番組「モミの鉄人」に出演させることに成功し、自らも『北斗の拳』に登場するユリアに扮して出演した。なお、『北斗の拳』の知識はゼロに等しかったが、孝一から「北斗神拳も知らずに指圧師を目指すなどあり得ない」という意味不明の叱責を受け、コミックス全巻を借りることになった。
書誌情報
ケンシロウによろしく 8巻 講談社〈ヤンマガKCスペシャル〉
第1巻
(2020-08-05発行、 978-4065204658)
第2巻
(2020-12-04発行、 978-4065217047)
第3巻
(2021-04-06発行、 978-4065229378)
第4巻
(2021-08-05発行、 978-4065239957)
第5巻
(2021-12-06発行、 978-4065261781)
第6巻
(2022-06-06発行、 978-4065278000)
第7巻
(2023-04-06発行、 978-4065298084)
第8巻
(2024-01-09発行、 978-4065342985)