舞台は大阪のレトロな安アパート
本作の主な舞台となるのは、大阪の下町にひっそりと建つノスタルジックな木造アパート「コーポ」。トイレ、風呂なしでお湯すら出ない、昭和の雰囲気を漂わせたこの安アパートには、家族のしがらみから逃げる形で引っ越して来た辰巳ユリをはじめとする、さまざまな住人たちが住んでいる。住人たちはお互いの年齢や性別、職業も知らないが、すべての住人がなんらかの複雑な過去を背負った訳ありの人物ばかりだった。家庭崩壊やDV、借金や援交など複雑な事情を抱えた住人たちの人生の機微を綴ったシニカルな群像劇が、繊細な劇画タッチで描かれる。
住人の一人が首吊り自殺
ある日、コーポに住む中年男性の山口が自室で首吊り自殺する。死亡した山口には収集癖があり、彼の部屋にはたくさんの家電用品が所狭しと山積みになっていた。住人たちは生前の山口の思い出を振り返るものの、山口の詳細が明かされぬまま淡々と物語が進行し、似たような境遇で生きてきた山口の死を目の当たりにした辰巳ユリたちは、それぞれの人生を思い返すこととなる。のちに山口の息子、淳平が遺品を引き取るためにコーポを訪れ、淳平の複雑な家庭環境と共に山口の過去も明かされる。
個性的な住人たちの現在と過去
縁あって一つ屋根の下に暮らす、訳ありな住人同士の距離感は一見近く、明るいやり取りも見られるものの、一人ひとりが複雑な事情を抱えながら暮らしている。とある事情で女性に貢がせている中条紘、モテるが愛情表現が下手な日雇い労働者の石田鉄平、部屋で怪しい商売をしている初老の宮地友三、いつもアパート内を徘徊(はいかい)してタバコの銘柄の交換を持ちかける杉原恵美子など、飄々(ひょうひょう)と生きる個性的な住人が登場する。その住人たちの現在と過去だけでなく、住人同士が織りなすコミカルな会話や、リアルな日常風景が見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
辰巳 ユリ (たつみ ゆり)
大阪の下町にある安アパート「コーポ」の202号室に住んでいる女性。年齢は20代で、関西弁で喋る。金髪のロングヘアで、スカジャンを着用していることが多い。アパートの外で、いつも野良猫と戯れている。高校卒業後は祖母に入学金を出してもらい専門学校に入学したものの、不登校が続き中退した過去を持つ。実家から離れて祖母と暮らしていたが、家族のしがらみから逃げるようにコーポに引っ越し、現在は居酒屋でアルバイトをしている。
中条 紘 (なかじょう ひろし)
大阪の下町にある安アパート「コーポ」の101号室に住んでいる男性。年齢は30代。黒髪短髪を七三分けに整えたイケメンで、いつもスーツを着用している。一見清潔感のあるサラリーマンを装っているが、実は無職で女性に貢がせて生計を立てている、いわゆるヒモ男。九州北西部にある、玄界灘に囲まれた島の港町出身。大地主の長男として生まれるが、自分勝手で女好きな父親に振り回された母親を幼い頃に亡くしている。かつて父親の仕事を手伝っていたが、ある人物の死をきっかけに実家から離れて現在に至る。
書誌情報
コーポ・ア・コーポ 6巻 ジーオーティー〈MeDu COMICS〉
第1巻
(2020-03-31発行、 978-4823600395)
第5巻
(2022-10-31発行、 978-4823603730)
第6巻
(2023-11-14発行、 978-4823605772)