センセイの鞄

センセイの鞄

30代後半のOL大町月子は、かつて高校で古典を教わったセンセイに居酒屋で出会う。彼女のセンセイに抱いた好意は、様々な出来事を経てゆっくりと恋愛感情に変わり、そして終焉を迎える。淡くスローペースな恋愛物語を描いたベストセラー小説を、透明感・清潔感のある精緻な絵で漫画化した作品。原作は第37回(2001年) 谷崎潤一郎賞を受賞している。番外編として執筆された『パレード』も、漫画化して単行本に収録されている。

正式名称
センセイの鞄
ふりがな
せんせいのかばん
作画
原作
ジャンル
恋愛
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概要・あらすじ

37歳のOL大町月子は、ある日居酒屋で自分と同じ肴を頼む初老の男に気づく。その男は月子の高校時代、古典を教えていた松本春綱だったが、彼女はすぐ思い出せずにとっさに「センセイ」と呼び、以後それが呼び名として定着する。豊かな文学の教養を持ちながら、子供っぽさも併せ持つセンセイに、大人の生き方・やり方が苦手と感じていた月子は、共感し好意を抱く。

二人は様々な出来事を経験し、その関係はやがて恋愛として形をなすが、突然に終焉はやってくる。

登場人物・キャラクター

大町 月子 (おおまち つきこ)

この物語の語り手(原作は一人称小説)。黒髪ロングヘアーの美しい三十代後半の女性(初登場時37歳)。結婚経験のない独身。実家の近くのマンションに住んでいる。大人の生き方・やり方を苦手と感じている。過去にあった結婚のチャンスに対し「ぬきさしならぬようになってしまうのではないか」と恐れ、一歩踏み込めずに終わっていた。 ある日居酒屋で自分と同じ肴を頼む初老の男に声をかける。高校の頃の恩師だとわかるがとっさに名前が出ずセンセイと呼び、以後それが習慣となる。センセイと自分は、「人との間のとりかた」も似ている、と感じている。最初は同類意識でセンセイと行動をともにしていたが、次第に好意が恋愛感情に変わっていく。作品終盤では、センセイに子供のように感情をぶつけることが多くなる。 物語が終わったあと、彼女が子供の頃の不思議な体験をセンセイに語る番外編『パレード』がある。

松本 春綱 (まつもと はるつな)

70代の男性で、元高校の国語(古典)の教師。白髪でメガネをかけており、特に印象のない顔立ちをしている。外出の際は、中折れ帽をかぶり、ジャケットを着て、学生鞄のような茶色の鞄をいつも持ち歩く。一人称は「ワタクシ」。居酒屋で自分と同じ肴を頼む中年女性に気づき、見覚えがあると思い卒業アルバムで確認してから大町月子に声をかける。 大町月子を「ツキコさん」と呼ぶ。ツキコと自分は「気質」が似ていると感じている。人から酌をされるのを好まない。古典文学関係の教養は高いが、昔の汽車土瓶や使い終わった乾電池が捨てられない、といったような子供っぽさもある。高校やツキコのマンションの近くにある一軒家に一人で住んでいる。 妻は15年ほど前に彼の下から出奔した。一人息子は結婚して、孫も大きくなっている(センセイが孫のお下がりを着られるほど)。

サトル

居酒屋「味よ志」の店主兼料理人。少し江戸っ子っぽい口調で話す、既婚の中年男性。「味よ志」は、大町月子とセンセイのよく行く店。原作には店名は出てこない。一度だけ、ツキコとセンセイとサトルのいとこと一緒にきのこ狩りへ行った。彼らはそこでセンセイから「逃げられた妻の昔の話」を聞くことになる。 WOWOWのテレビドラマ版だと「中田」という苗字が付く(原作・漫画にはない)。

トオル

居酒屋「味よ志」の店主サトルのいとこ。顔も雰囲気もサトルによく似ている。年齢・職業は不明。栃木県に住んでいる。栃木に住んでいるのに東京の酒「澤乃井」が好き。サトルとツキコとセンセイと一緒にキノコ狩りに行った。とったキノコでキノコ汁を作って食べたあと、干したベニテングダケを出して、ツキコとセンセイに勧める。 WOWOWのテレビドラマ版だと「中田」という苗字が付く(原作・漫画にはない)。

スミヨ

センセイの妻だった女性。漢字表記・年齢は不明。名前がわかるのも、終盤になってから。思いつきが面白そうだと、すぐ実行してしまう人間。自宅の庭の木を全部桜にしてしまったり、夫と息子に週一回ピクニックを強要したり、ピクニックで見つけたワライタケを食べて騒動を引き起こしたりと天然な女性。センセイは彼女のことを「用意だの準備だののない人でした」と語る。 15年ほど前にセンセイから逃げた。逃げたあと各地を転々として、行く先々からセンセイへ絵葉書を送っていた。

センセイの息子 (せんせいのむすこ)

センセイの長男。名前・年齢不明。子供の頃は、母の天然さに振り回されて、毎週ピクニックを強要されたりした。母がワライタケを食べたときは、「お母さんが死んじゃう」と思い号泣した。そのあと、死んだ飼い犬のことで奇行に走った母に対して息子は激しく怒り、以後二人の関係はぎくしゃくするようになった。 彼は遠くの大学へ進学して家を出て、その地で就職して結婚した。

大町月子の母 (おおまちつきこのはは)

大町月子の母親。白髪頭の初老の女性として描かれる。名前・年齢は不明。正月に家に戻った月子は、母と二人だけでこたつで向き合って湯豆腐を食べる。月子は、母と自分の気質が非常に似ていると考えている。番外編の『パレード』では、若く快活な母親が描かれる。母もまた、不思議な者たちを見ていたらしい。 WOWOWのテレビドラマ版だと「文代」という名前が付く(原作・漫画にはない)。

おでん屋の酔客 (おでんやのすいきゃく)

第7回にのみ登場する若い酔っぱらいの男。髪を茶色に染めてピアスをしている。「味よ志」の近くのおでん屋に入ったツキコとセンセイに、酔ってからむ。二人の仲を邪推し下品な言葉をかけるが、怒ったセンセイが取り合わないでいると、やがて酔いつぶれて眠ってしまう。店を出るとき、センセイは彼に意趣返しをする。

石野 (いしの)

かつてのセンセイの同僚で、現在も50代でまだ現役の美術の女性教師。かなり短いショートカットにしている。若いころも同じ髪型。大町月子も授業を受けたことがある。月子が高校の頃は、石野先生はまだ若く、いつも美術準備室にいて、生徒たちに人気があった(女子高生にはあこがれの対象)。 しかしそのころ、月子は石野先生が使う「自分で焼いた手びねりの益子焼のコーヒーカップ」に軽い嫌悪を抱いていた。彼女は月子が在学中に社会科の教師と結婚した。高校教師の同窓会のような花見の通知をセンセイに送る。センセイに呼ばれて花見に参加した月子は、センセイと石野先生が親しそうに話をするのを見て、嫉妬に近い感情を覚える。

小島 孝 (こじま たかし)

大町月子の、かつての高校の同級生の男性。花見の席で再会する。高校の頃、月子は彼に誘われて映画を見に行ったが、それ以上進展がなかった。のちに小島は月子の友人と学生結婚するが、すぐ離婚して現在は独身。サラリーマンをやっており、仕事で一月くらいアメリカに行っている。花見で彼は月子を誘い、センセイが石野先生と親しげにしていたのに苛立っていた彼女は一緒にバーへ行く。 そのあと、小島は月子に軽いキスをしたが、それ以上の進展はなかった。以後、つかずはなれずの関係が続くが、小島の「大人」の振る舞いが鼻についた月子は、心を小島へ向けることはなかった。

バーよしだのマスター

小島孝が花見の途中で大町月子を連れて行った、「よしだ」というバーのマスター。蝶ネクタイにベストというバーテンダーの格好で、オールバックの髪型でピアスをしている。男性とも女性ともつかない風貌の女性。良いお酒(上質なワイン、非のうちどころのないマティーニなど)と美味しい料理を出す。 その後、月子は小島に誘われて何度もこの店を訪れるが、そのつど「この場所に自分がいるべきではないような」気がするのだった。

西田さん (にしださん)

番外編『パレード』に登場する、小学三年生の大町月子の同級生の女子。ある日小さい天狗二人と一緒に生活することになった小学生の月子が、天狗が来てから初めて登校した際、西田さんの隣に小さいおばあさん(砂かけばばあ)がいるのに気づく。同様に三波くんの横にはあなぐまがいて、小田くんはろくろっ首の首を腕にからませている。 三人とも、前からそういった存在をつけていたが、天狗と出会う前の月子には見えなかったと、西田さんは言う。月子の天狗も含め、彼らが連れている存在は、普通の人には見えない。

ゆう子ちゃん (ゆうこちゃん)

番外編『パレード』に登場する、小学三年生の大町月子の同級生の女子。些細な事がきっかけで、クラスの女子と一部の男子から、仲間はずれにされてしまった女子。彼女が仲間はずれになってから、月子についている天狗の色の薄い方の調子が悪くなる。西田さんの砂かけばばあも元気がなくなり、あなぐまとろくろっ首は教室を徘徊するようになった。 月子はゆう子と同じそろばん塾に通っていて、はじめはそこでも関わるまいとしていたが、我慢できずに天狗が弱っている話をして、ゆう子を結果的に少し励ます。その後、ゆう子への仲間はずれは、次第にやむ。

天狗 (てんぐ)

『センセイの鞄』に登場する存在。番外編『パレード』に登場する、小学三年生の大町月子のところに、ある日現れた二人の天狗。小学生と同じくらいの大きさで、片方は赤い色で男性らしく、もう片方は薄い赤で女性っぽい。漫画では服を着ていない、可愛いと気持ち悪いの中間くらいの子天狗に描かれている(原作小説の挿絵では、ただの赤い丸と少し薄い赤の丸に描いている)。 月子にしか見えないのかと思われたが、彼女の母にも見えた。月子の母の子供の頃には、きつねが来ていたらしい。母以外にも、同級生で同じようなものをつけている子供には見える。天狗はマーガリンと花の蜜が好物で、長い舌を伸ばして器用に舐めた。月子の同級生の女子が仲間はずれにされた時、薄い赤のほうが弱ったが、そのうち元に戻った。 『パレード』という題名が示すような、輝かしい現象を起こすことができる。

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