世界観
裁判が題材。学内の司法機関として裁判部という団体が存在するメハビア聖学院が舞台。強い正義感と個を重んじる性格のために孤立した主人公が裁判部に入部し、原告側、被告側両方の視点から調査と弁護を行う立場になったことで、他者をさまざまな角度から理解するようになり、次第に視野が広まっていく姿が描かれる。
作品構成
裁判になじみのない読者にもわかりやすく解説するため、「美術部員同士の絵の盗作問題」「クラスメイト間の侮辱行為」「教師からのセクハラ」といった学生にも身近な問題を扱い、主人公が順を追って裁判への理解を深めていく構成となっている。また、主人公が裁判によって担当業務を変え、原告側と被告側両方の弁護を行っていくことで「卑怯な原告」「差別的な扱いを受ける被告」といった、訴えた側、訴えられた側に留まらないさまざまな人間模様を知り、人間的成長を迎えていくのも構成上の特徴。
あらすじ
メハビア聖学院に転入した市橋七緒は、転入そうそう学内のエリート集団・裁判部の面々と関わりを持ったことと、気の強い性格が原因で周囲から孤立してしまう。クラスメイトの反感を買い理不尽な嫌がらせを受ける七緒に、裁判部員は「この問題を裁判部に訴えてみるのはどうか」と申し出る。
作家情報
水城せとなは主に女性漫画誌で活躍中の漫画家。平成5年『冬が、終わろうとしていた。』で、「プチコミック」からデビュー。他の作品に『失恋ショコラティエ』『脳内ポイズンベリー』などがある。誕生日は10月23日で、血液型はA型。
登場人物・キャラクター
市橋 七緒 (いちはし ななお)
メハビア聖学院高等部に編入してきた1年生の女子生徒。肩よりも短い明るい色のボブヘアをした、気が強く退屈を嫌う性格の人物。転校そうそう裁判部の面々と知り合い親しくなるが、それを理由に孤立してしまい、「裁判」を起こすことを決意。それがきっかけで裁判部に入部する。誇り高く正義感が強いが、やや正直すぎる一面がある。 納得のいかないことにキャンキャンと噛みつく姿から、周囲からは「ポメラニアン犬のよう」と評されている。
羽根木 ライカ (はねぎ らいか)
メハビア聖学院高等部に所属する2年生の男子生徒で、裁判部の部員。長い髪を臍のあたりまで伸ばし、ネクタイではなくリボンを着用するなど、一見女性のような容姿をしているが、れっきとした男性。気さくで話しやすい性格だが謎が多く、ミステリアスな雰囲気がある。裁判部では裁判長を務め、その公正な判断で生徒たちからの信頼を一挙に集めるカリスマ的存在。 関西地方の言葉のような、独特の訛りで話す。市橋七緒のことは「ポメ」「ポメ子」と呼ぶ。
橘 克真 (たちばな かつま)
メハビア聖学院高等部に所属する1年生の男子生徒で、裁判部の部員。部員の遠野桐彦とは幼なじみ。髪を外にはねさせた長身の、ややお調子者な性格をしている。裁判部では被告代理人を務めており、市橋七緒に関心を持ち、入部勧誘等、積極的に声をかける。本人は小学6年次に関東中の暴走族を倒して回ったほど喧嘩が強いと自称しているが、真偽は不明。 七緒のことは「七緒ちゃん」と呼ぶ。
遠野 桐彦 (とおの きりひこ)
メハビア聖学院高等部に所属する2年生の男子生徒で、裁判部の部員。眼鏡をかけた知的な雰囲気の、生真面目で非常に正義感の強い人物。やや人の好き嫌いが激しいが、裁判では原告代理人を務め、私情を持ち込まず、学内の代表として活動することを心がけている。市橋七緒のことは「新人」「新入り」と呼ぶ。
森住 雪 (もりずみ せつ)
メハビア聖学院高等部に所属する1年生の男子生徒で、裁判部の部員たちの幼なじみ。真ん中で分けた長髪を肩まで伸ばした、クールな雰囲気の人物。3年前、家庭の都合でアメリカ合衆国のシアトルに引っ越してしまっていたが、高等部1年次の12月に日本へ戻ってきた。橘克真たちに裁判部への入部を勧められるが、「正義の味方」のような活動が自分の気風に合わないこと、久しぶりに会った部員たちに引け目を感じることから入部を渋っていた。 渡米中の様子にやや不審な点が見られる。市橋七緒のことは「ポメ子」と呼ぶ。
高木 あずさ (たかぎ あずさ)
メハビア聖学院高等部に所属する2年生の女子生徒。肩までの髪を真ん中で分け、右目に眼帯をしている。友人の神保美由紀と口論になった際に階段から突き落とされ、目元に怪我を負った件で、裁判部に裁判の開催を求めやってきた。口論と怪我の原因は、高木あずさの元恋人で今は美由紀の恋人となった、水野高之にまつわるものとされている。
神保 美由紀 (じんぼ みゆき)
高木あずさの友人で、メハビア聖学院高等部に所属する2年生の女子生徒。あずさとは小学校以来の親友だったが、あずさの元恋人である水野高之と交際を始めたことで亀裂が生じ、口論の果てにあずさに怪我を負わせた疑いがある。訴状に対して反論はなく自分が怪我を負わせたと認めているが、発言にはどこか不可解な点が多い。
水野 高之 (みずの たかゆき)
神保美由紀の恋人で、メハビア聖学院高等部に所属する2年生の男子生徒。軽薄な雰囲気の人物。高木あずさ転落事件の唯一の証人として裁判に参加することになるが非協力的で、何か知られたくないことがあるように見える。過去にはあずさとも交際していた。
青柳 (あおやぎ)
メハビア聖学院高等部に所属する2年生の男子生徒。部活動は美術部に属し、美術部の展示会の件で裁判部に裁判の開催を求めやってきた。展示会に提出した絵画が同級生の山下の描いたものと酷似しており、盗作に遭ったと主張している。しかし美術部員の証言は逆で「青柳の方が山下のタッチを真似ていた」と語られている。
山下 (やました)
メハビア聖学院高等部に所属する2年生の男子生徒。部活動は美術部に所属し、いくつもの賞を受賞していた。美術部の展示会の件で盗作の疑いをかけられており、山下自身は盗作を否定しているが、絵の完成が青柳よりも遅かったことから不利な状況にある。青柳とは親しく、彼の自宅にも訪問するほどの仲だったが、青柳があまりに自分と似せた雰囲気の絵を描き続けるため、気分を害し制作ペースは落ちていたと部員たちは証言している。
一ノ宮 優子 (いちのみや ゆうこ)
メハビア聖学院高等部に所属する、1年生の女子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際に入学したため、七緒の1学年後輩にあたる。長い髪をヘアピンとバレッタで1つにまとめ、右側だけ1房髪を垂らした髪型の気の強い性格の人物。橘克真に憧れ彼に告白するが、その際「七緒と交際しているので応えられない」と嘘をつかれたことに腹を立て裁判部に裁判の開催を求める。 裁判に勝訴した暁には克真との1日交際権を求めており、それを利用して克真と深い関係になろうとしている。
宮村 みづき (みやむら みづき)
一ノ宮優子の友人で、メハビア聖学院高等部に所属する女子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際に入学したため、七緒の1学年後輩にあたる。縦ロールヘアをツインテールにし、制服もロリータ風の着こなしをした、可愛らしい雰囲気の人物。優子が訴訟を起こした一件で森住雪の存在を知り、彼を気に入り積極的に交際を持ちかける。 友人たちには「天然な人物」と捉えられているが、実際は感性が鋭い二面性がある。
長谷 守 (はせ まもる)
メハビア聖学院高等部に所属する1年生の男子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際に入学したため、七緒の1学年後輩にあたる。クラスメイトの石上雄二に暴行され、裁判部に裁判の開催を求めやってきた。普段から石上を顎でこき使い、侮辱的な発言をしていたが、本人はそれを「軽い冗談」「自分のキャラクターゆえのもの」と開き直っている。 石上に殴られたことで歯を折られ、差し歯の費用請求と謝罪を求めている。
石上 雄二 (いしがみ ゆうじ)
メハビア聖学院高等部に所属する1年生の男子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際に入学したため、七緒の1学年後輩にあたる。クラスメイトの長谷守に、障がいのある兄を侮辱されたことで激怒し、暴行を加えた疑いがかけられている。長谷には普段から買い物に行かされる等「パシリ」同然に扱われていたとクラスメイトたちも証言しており、七緒は彼の名誉を守るべく真摯に調査を重ねる。
高代 啓介 (たかしろ けいすけ)
メハビア聖学院高等部に所属する3年生の男子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際ともに進級しているため、七緒の1学年先輩にあたる。眼鏡をかけた精神的に疲弊した雰囲気の人物で、1年生の辻井あゆみから度重なるストーカー行為の被害に遭っている。最初こそあゆみの行動を肯定的に受け止めていたが、恋人がいると交際を断ったにもかかわらず彼女のアプローチが続くことをしだいに恐ろしく感じるようになった。 そのため、遠野桐彦に相談する形で裁判部に裁判の開催を求める。
辻井 あゆみ (つじい あゆみ)
メハビア聖学院高等部に所属する1年生の女子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際に入学したため、七緒の1学年後輩にあたる。ショートカットにヘアピンをさした、おっとりした雰囲気の人物。高代啓介に交際相手がいると知りながら2度告白し、断られたにもかかわらず手製の衣類やお菓子を送り、彼の行動を把握しているかのようなメールを送信するなどのストーカーともいえる行為を繰り返している。 本人にストーカーの自覚はないが、自分の好意が一般的なものではないことは理解し始めている。
橋上 玲花 (はしがみ れいか)
羽根木ライカの恋人。髪を長く伸ばした、ライカに非常によく似た容姿の少女。4年前に事故に遭い、植物状態となって病院で眠り続けている。以来ライカは橋上玲花と同化したかのように身長が伸びなくなり、洗礼を受けクリスチャンとなって、髪を長く伸ばし始めた。このところは身体が弱っており、感染症にかかったり抗生物質が効きにくい状態にあった。
峰岸 祐也 (みねぎし ゆうや)
メハビア聖学院高等部に所属する3年生の男子生徒で、生徒会長を務める人物。市橋七緒が2年次に進級した際同時に進級したため、七緒の1学年先輩にあたる。額を全開にし髪の毛を立てた、賑やかな印象の存在で、極度の目立ちたがりとして知られている。生徒会長になった理由も「目立てるから」というのがあり、自分よりも活躍している羽根木ライカを快く思っていない。
沢口 愛 (さわぐち あい)
メハビア聖学院高等部に所属する3年生の女子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際同時に進級したため、七緒の1学年先輩にあたる。前髪を斜めに分け、ウェーヴがかった髪の毛を肩まで伸ばしている。数学教師の今井文彦に、授業中雑誌を読んでいたことを注意された際手に触れられ、セクハラ行為に遭ったと激怒し裁判部に裁判の開催を求めやってくる。 触れられたことを故意のセクハラと感じたのには根拠があり、友人の町田由希も同様の被害に遭ったからだと訴えている。
今井 文彦 (いまい ふみひこ)
メハビア聖学院高等部に勤める数学担当の中年男性教師。物静かな雰囲気の穏やかな人物で、生徒からの評判も悪くないが、沢口愛と町田由希の手に故意に触れたとしてセクハラの疑いをかけられる。妻は5年ほど前に亡くなっており、以来小学5年生の息子を1人で育てている。家では犬を飼っている。
町田 由希 (まちだ ゆき)
沢口愛の友人で、メハビア聖学院高等部に所属する3年生の女子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際同時に進級したため、七緒の1学年先輩にあたる。前髪を真ん中で分け、ストレートロングヘアをふたつに結んだおとなしい雰囲気の人物。数学教師の今井文彦に携帯電話を見せた際手を触れられたことがあり、愛の件と併せて、彼にセクハラに遭ったと証言するよう出廷を望まれている。 本人は出廷に消極的で、自分が証言することで今井の立場が悪くなるのではと考えている。
飯塚 由衣 (いいづか ゆい)
メハビア聖学院高等部に所属する1年生の女子生徒。市橋七緒が2年次に進級した際に入学したため、七緒の1学年後輩にあたる。前髪を真ん中で分けて肩まで伸ばし、左目の下にほくろがある人物。部活動は女子バレーボール部に所属しており、同級生の部員に携帯電話を盗み見られプライバシーの侵害を受けたとして裁判部に裁判の開催を求めやってくる。 目上の人物に取り入るのがうまく狡猾な一面があり、同級生の間では「曲者」として有名。
集団・組織
裁判部 (さいばんぶ)
メハビア聖学院高等部に存在する部活動のこと。学院内における司法機関として存在し、校則第13条において権限をもたらされている。主な活動内容は生徒間のトラブルを部員が裁き解決するというものだが、ここ数年は訴えに出る生徒がおらず、活動は少なくなっていた。
場所
メハビア聖学院 (めはびあせいがくいん)
市橋七緒が編入してきた、幼稚舎からエスカレーター式の私立名門校。エリートの子女が通うことで有名で、学校名には道徳を司る天使の名前を冠している。創立以来の伝統を誇る裁判部があり、生徒たちが自分らの考えて自治を行う自立心旺盛な校風として知られていた。しかし現在は裁判部を利用する生徒が減り、部員たちは今後どう活動していくか悩んでいるところがある。
イベント・出来事
聖燭式 (せいしょくしき)
メハビア聖学院でクリスマスに行われる恒例行事のこと。いわゆるキャンドルライトサービスで、全校生徒で並んで蝋燭に火を灯す。当日は各フロアに並んだ生徒たちの蝋燭の明かりで、学校中が照らされる。他のイベントは行わず、食事をしたりプレゼントを交換することはしないが、羽根木ライカたちのように初等部から所属する生徒にとっては大切な行事となっている。