あらすじ
ふたり
極度の霊媒体質である幻燈河螢多朗は、中学時代に幼なじみを霊障に巻き込んで以降、オカルトに強い苦手意識を持ち、引きこもりとなっていた。螢多朗は周囲の温かな励ましによって立ち直り、人付き合いのリハビリのために家庭教師のアルバイトを始める。しかし、そこで初めての生徒として出会ったのは、謎のオカルト幼女・寶月夜宵だった。奇しくも夜宵は螢多朗の幼なじみである寶月詠子のいとこで、螢多朗は詠子から、夜宵は両親と死別して母親の霊を捜しているという話を聞く。螢多朗が極度の霊媒体質であることを知った夜宵は、彼と共に心霊スポットに行きたがる。詠子も積極的なこともあり、螢多朗は流されるまま心霊スポットに行くこととなるが、そこで螢多朗が目にしたのは悪霊を力づくで捕まえ、自分のコレクションにする夜宵の姿だった。螢多朗は夜宵の異様な行動に恐怖を覚え、距離を取ろうとする。しかし夜宵の目的が、幽霊となった母親を連れ去った悪霊「空亡」を倒すことにあり、家族を本当に大切に思っているのを知る。また、螢多朗が呪いに苛まれているのを知った夜宵は、その解決のためにも動いていたのである。夜宵の真意を知った螢多朗は、彼女のため、そして自分の願いのために悪霊との戦いに身を投じていく。
呪縛
寶月夜宵は悪霊を倒すために悪霊を捕まえ、恐怖と形代で縛り上げ、使役するという方法を取っていた。幻燈河螢多朗は悪霊を集めるため、夜宵と共に心霊スポットを巡ることとなる。しかしそんな中、螢多朗は何げない学生生活の中でも悪霊と遭遇。あらためて自らの霊媒体質を自覚し、自衛のためにも対策法を考えなければと考え始める。夜宵と寶月詠子はトラブルに巻き込まれ続ける螢多朗を元気づけるため、キャンプを提案する。三人は穏やかな時間の中で絆を育むものの、その夜、詠子が悪霊に取り憑かれてしまう。安全なキャンプ旅行のはずが、一転して悪霊の脅威にさらされることとなり、螢多朗は詠子を救うために覚悟を決め、悪霊と対峙する。夜宵によって悪霊は捕まえられるが、実は悪霊は取り憑いた人間を自殺させ、次々仲間を増やしており、気が付けば夜宵と螢多朗は悪霊の集団に囲まれていた。このままでは詠子まで自殺させられてしまうため、螢多朗は体を張って彼女を止め、夜宵の策によって無事にすべての悪霊を捕縛することに成功する。そして正気に戻った詠子は螢多朗と思いを確かめ合い、晴れて二人は恋人となるのだった。また、螢多朗も悪霊はこちらからかかわらずとも、向こうから向かってくることを実感し、大切な人を守るためにも、悪霊と戦い抜く覚悟を決める。
神の花嫁
幻燈河螢多朗は寶月夜宵と共に、悪霊を捕まえる日々を送っていたが、そんなある日、家庭教師のアルバイトで新たな生徒として神代愛依と出会う。不幸体質な愛依だったが、螢多朗はすぐにそれが取り憑いている霊の仕業だと察する。愛依には子供と青年、二人の霊が憑いており、青年は愛依の亡き兄で、悪霊である子供の霊から愛依を守っていると螢多朗は考える。螢多朗は夜宵に相談し、彼女によって子供の霊は封印される。これによって愛依は悪霊から解放されたかに見えたが、実は愛依を殺そうとしていたのは兄の霊で、子供の霊こそが愛依を守っていたのだった。螢多朗たちはその事実に気づき、寸でのところで愛依を救う。そして螢多朗たちは、愛依の兄は彼女を見初めた神様から彼女を守るため、慈悲として殺そうとしていた事実を知る。封印された子供の霊は神様として正体を現して封印をあっさり破壊し、夜宵の捕まえた悪霊たちを次々粉砕する。傲慢に夜宵たちを見下す神様は、圧倒的な力で4年後に愛依を殺して、己の物にすると宣言するのだった。夜宵たちは愛依を救うため、神様に宣戦布告。神様はその宣言を受け入れ、万全の準備を整えた上で決戦を行うと告げるのだった。
日本全土
寶月夜宵は圧倒的な力を持つ神様に対抗するため、日本全国のよりすぐりの悪霊を捕まえる計画を立てる。また、そのために力が強すぎて近くに置くこともできない最凶の悪霊「卒業生」を解放することも決意。卒業生の回収と悪霊の捕縛を並行して行うことを活動方針とする。まず最初の第一歩として、螢多朗たちは卒業生を一人確保し、手近な心霊スポット「H城址」に向かう。H城址に入った螢多朗と夜宵は謎の老婆に道案内されるが、その道中、悪霊たちに分断され、それぞれが孤立してしまう。悪霊たちのワナによって危機に陥る二人だったが、螢多朗の決死の行動によって夜宵はワナを脱する。そして姿を現したH城址の霊を倒すため、夜宵は卒業生「邪経文大僧正」を解放する。邪経文大僧正によってH城址の霊は弱体化し、螢多朗は無事に悪霊を捕縛することに成功する。そして二人はH城址の霊は悪霊ではなく、謎の呪物によって狂わされていた善良な霊であることに気づく。正気に戻った霊から話を聞き、呪物を回収した二人は新たな謎を抱えつつも、H城址の霊の協力を取り付け、神様の打倒に一歩近づくのだった。
旧旧Fトンネル
寶月夜宵は新たな卒業生「殉国禁獄鬼軍曹」を回収し、その勢いのまま数々の犠牲者を出した最恐の心霊スポット「旧Fトンネル」に向かう。旧Fトンネルには「新Fトンネル」「旧Fトンネル」、そして封鎖された「旧旧Fトンネル」の三つがあり、幻燈河螢多朗たちはまず旧Fトンネルを探索する。しかし、そこですぐさま寶月詠子が悪霊にさらわれてしまう。「旧旧Fトンネルの霊」は猟奇殺人鬼の悪霊で、迷い込んだ人を何人も拷問して殺しており、今も新たな獲物を探していた。そんな旧旧Fトンネルの霊は犠牲者たちの霊を使って、詠子を自らのもとへと招き入れる。螢多朗たちは詠子の危機を察し、詠子のもとへと駆け付け、殉国禁獄鬼軍曹を解放する。詠子を助けることに成功するものの、殉国禁獄鬼軍曹の力は敵味方無差別に降りかかり、螢多朗は詠子をかばってその攻撃を受けてしまう。辛うじてかすっただけだったが、それでも螢多朗は大きく衰弱してしまう。夜宵たちは代償を支払いつつも、殉国禁獄鬼軍曹によって旧旧Fトンネルの霊は倒され、旧旧Fトンネルの霊を己の手駒とすることに成功する。
受胎告知の家
旧旧Fトンネルから無事に帰還する一行であったが、幻燈河螢多朗は戦いの後遺症で大きく衰弱しており、休息が必要だった。その時間を利用して寶月夜宵と寶月詠子は、H城址で回収した「謎の呪物」と、危険な卒業生の保管場所をどうにかしようと考える。詠子の提案で、格安で売られている心霊物件を手に入れることを考えた二人は、ネットで物件探しを行う。そしてすべての条件に合致した「受胎告知の家」を発見し、二人はさっそく内見に訪れる。案内人から大量殺人が行われた民家で、不可解な死亡事故も起きた物件であると念を押されるものの、二人は民家の探索を始める。民家には父娘の霊と「天使様」と呼ばれる謎の存在がおり、夜宵は物件を手に入れるためには、天使様をなんとかしなければと考えるが、詠子が天使様に呪われてしまう。夜宵は呪いを解くために天使様を倒すが、天使様は三体存在し、さらに娘の霊の妨害によって危機に陥ってしまう。夜宵は父娘の記憶を垣間見たことで、生前事故によって心身を喪失した娘が、何者かに吹き込まれた儀式によって天使様を作り出したことを突き止め、儀式が行われた祭壇を発見。残りの天使様と儀式の中核となっていた呪物を破壊し、詠子に掛けられた呪いを解くことに成功する。そして、受胎告知の家を「卒業生ハウス」として無事に手に入れるのだった。
無垢の怨念
幻燈河螢多朗も復帰し、寶月夜宵たちは新たな卒業生「魄啜繚乱弟切花魁」を回収に向かう。螢多朗たちは卒業生の回収に苦戦し、悪霊に「なり代わり」にされかかる。夜宵たちの助けもあり、無事に卒業生の回収に成功したものの、悪霊の新たな側面に一行は恐怖を抱くのだった。一方、メディア出演する有名霊能力者・闍彌巫子は、仲間であるオズワルドと共に暗躍していた。巫子は実は悪霊のなり代わりとなっており、巫子の姿と立場を使って、霊能力者のあいだでひそかに影響力を伸ばしていた。また、H城址に謎の呪物を仕掛けたのも彼らで、巫子は行方不明となった呪物の行方を追いつつ、新たな呪物を心霊スポット「旧I水門」に仕掛けに向かうのだった。そして巫子は偶然にも、旧I水門を訪れた夜宵たち一行と遭遇。彼女たちを新たななり代わりにしようともくろむ。夜宵たちはそんな巫子の思惑に気づかず、彼女と共に旧I水門の探索を開始する。今までの心霊スポットと違い、昼間は住民の憩いの場となっている旧I水門は平穏そのものだった。そんな中、螢多朗は一人佇む男の子と出会う。霊視能力がなくても見える男の子をふつうの子供と思った一行だったが、螢多朗は男の子の手渡したスケッチブックを見ていくうちに、絵が凄惨なものになることに気づく。虐待の末、殺された男の子は死後、強大な力を持つ怨霊となっていたのだ。旧I水門の霊は今までに出会った悪霊の中でも屈指の力を持っており、巫子を殺し、螢多朗たちにもその魔手を伸ばす。
蠢く影
寶月夜宵は強力な力を持つ旧I水門の霊に対抗するため、卒業生「魄啜繚乱弟切花魁」を解放する。卒業生の中でも凶悪で狡猾な魄啜繚乱弟切花魁は、旧I水門の霊と一進一退の攻防を繰り広げつつも、その呪いの力で最後は押し切り、旧I水門の霊を降すことに成功する。しかし、解放された魄啜繚乱弟切花魁はそのまま夜宵たちにも襲い掛かり、一行は新たな危機を迎えてしまう。夜宵はさらにH城址の霊「千魂華厳自刃童子」を召喚し、その力で魄啜繚乱弟切花魁を封印することに成功する。そして夜宵は力を失い、正気に戻った旧I水門の霊を説得して味方に引き入れるのだった。夜宵たちは亡くなった闍彌巫子の荷物から、H城址に仕掛けられたものと同種の呪物を発見。さらに駆け付けた巫子の双子の姉・闍彌弥子の言葉から、全国でなり代わりの被害が増えており、巫子もなり代わりとなっていたことを知る。夜宵たちは霊能力者である弥子と協力関係を築き、なり代わりたちに対抗する術を固める。そんな中、夜宵は小学校でドロシー・フラムスティードと出会う。夜宵は霊を見る能力を持ち、あからさまに怪しい言動のドロシーに疑念を募らせる。しかし夜宵はドロシーのワナによって、クラスメートたちと共に悪霊に捕らわれてしまう。
関連作品
読み切り版
本作『ダークギャザリング』には、読み切り版『ダークギャザリング』が存在する。読み切り版は「ジャンプSQ.RISE」2018春号に掲載され、のちに作者である近藤憲一のTwitterアカウントで無料公開された(https://twitter.com/2koin1echd/status/1274145474765713408)。内容は、悪霊を捕縛する幼女・寶月夜宵と、霊媒体質の青年・幻燈河螢多朗の出会いを描くという本作の第1話とほぼ同じ内容だが、細部で少し展開が変わっている。また、近藤憲一は、『D.Gray-man』の作者である星野桂のアシスタントだった過去がある。そのため読み切り版掲載時、星野桂は『ダークギャザリング』と『D.Gray-man』の両作品のキャラクターが共演した応援イラスト(https://www.shonenjump.com/p/sp/1910/darkdathering_dgreyman2/index4.html)を寄贈している。
登場人物・キャラクター
幻燈河 螢多朗 (げんとうが けいたろう)
禮應大学に通う1年生の男子。新入生代表に選ばれるほど成績優秀だが、生まれながらの極度の霊媒体質で、幽霊の類いを無意識のうちに引き寄せてしまう。中学時代はその体質のせいで霊障に幼なじみの寶月詠子を巻き込んだことがトラウマとなっており、その後、2年あまり引きこもりとなっていた。詠子たちの懸命な励ましによってなんとか社会復帰し、トラウマから苦手としている人付き合いの方法を訓練すべく、家庭教師のアルバイトを始める。そして初めての生徒として寶月夜宵と出会い、夜宵の心霊スポット巡りに巻き込まれてしまう。霊障の後遺症で、右手の神経が伸びて肌の上に現れる異様な姿となっている。そのためつねに右手は黒い手袋で隠し、人目につかないようにしている。オカルトに強い苦手意識を持っていたが、極度の霊媒体質から巻き込まれずに生きていくのは不可能だと実感し、自分と大切な人を守るためにも霊媒体質に向き合う決心を固める。また、自分と同じ霊障を受けた詠子を解放するのを目的としている。詠子とは互いに思いを確かめ合ったことで、のちに恋人となる。
寶月 夜宵 (ほうづき やよい)
現世と幽世の二つを見る能力を持ち、幽霊を見ることができる小学生の少女。年齢は9歳。長く伸ばした深紫色の髪を二つ結びのおさげにし、大きなアホ毛がある。左右の瞳が二つある「重瞳」で、瞳がドクロのような模様をしているのが特徴。霊視能力は生まれつき持っていたがブレがあり、まともに霊を見ることはできなかったが、1年半前に事故に遭い、両親と死別。その際に悪霊に連れ去られる母親の魂を見たことで、霊視能力に覚醒する。また、以前は子供らしい無邪気な性格だったが、事故の影響でIQが160までに跳ね上がり、理知的で大人びた性格に変わっている。悪霊を捕縛して検証し、形代の性質を応用して無力化。そして捕縛した悪霊を戦力として使役し、新たな悪霊を捕縛して、戦力を増強している。母親を捕まえた悪霊を「空亡」と名づけて追っており、そのために悪霊を狩っている。だが、あまりに悪霊を狩り過ぎたせいで、悪霊の方から避けるようになっている。そのため、家庭教師となった幻燈河螢多朗の霊媒体質に目を付け、彼を悪霊狩りに巻き込む。寶月詠子とはいとこの関係で、非常に馬が合う。合理的な性格ながら、一方で悪霊たちにも事情があり、情状酌量の余地があると判断すれば供養したり、成仏の手伝いをしたりと公平な一面がある。過激な言動が目立つため、詠子からは「エクストリームオカルトロリ」とも呼ばれたりするが、本心では家族や友達を大切に思う情に厚いところがあり、過激な手段を取るのも大切なものを守り抜きたいため。螢多朗からものちにその本心を理解され、お互いを無二の相棒として認め合うようになる。
寶月 詠子 (ほうづき えいこ)
禮應大学に通う1年生の女子。ベージュ色の髪を長く伸ばした美女で、朗らかな性格をしている。寶月夜宵のいとこで、両親を失った夜宵のことを気に掛けている。夜宵とは年の離れた親友同士のような関係。幼なじみの幻燈河螢多朗とは長年の付き合いで、彼の霊媒体質を知りつつも、寄り添って彼を励まし続けている。中学時代に一度、霊障に遭って呪われてしまう。そのことが螢多朗のトラウマとなり、引きこもりとなるが、そのあいだも螢多朗のことを気に掛け、彼の社会復帰を助けた。螢多朗が偶然にも夜宵の家庭教師となった際には、二人の仲を取り持った。また、心霊スポットに行く際には車で螢多朗たちを送り迎えしている。一見するとやさしいお姉さんといった見た目だが、その正体は病的なオカルトマニアで、螢多朗のストーカー。螢多朗と夜宵の「偶然」の出会いはすべて寶月詠子が入念に根回ししたもので、夜宵との出会いをきっかけに螢多朗をオカルトに引き込もうとしていた。幼い頃から螢多朗にオカルト関係から身を守られて過ごしてきたが、それが詠子の中で螢多朗の愛情を強く感じるきっかけとなっており、オカルトの恐怖と螢多朗の愛の二つを欲してやまない欲求を持っている。その念願が叶い、のちに螢多朗とは恋人となる。オカルトを勉強するため、大学での専攻は民俗学だが、実は国際情報オリンピック日本代表に選ばれるほどの工学のスペシャリストでもある。そのスキルを生かして螢多朗に盗撮カメラから盗聴器まで幅広いストーカーグッズを仕掛けており、彼の様子を24時間観察している。
神代 愛依 (かみよ あい)
高校1年生の少女。金髪ロングヘアにしている派手なファッションのギャルで、瞳に星型の模様がある。人懐っこく明るい性格で、幻燈河螢多朗の二人目の生徒となり、螢多朗ともすぐ仲よくなる。不幸体質のために何もない場所で転んだり、ちょっとした事故に巻き込まれたりすることが多い。また、螢多朗が思わず絶句するほど勉強が苦手。実は霊感はほとんどないが、神様に見初められた特殊な一族の出身で、瞳に浮かぶ星型の模様は、神様が刻んだ「神の花嫁」の証とされている。神代愛依本人も神の花嫁であることは知っており、自分が4年後に死ぬ運命を受け入れている。愛依は死んだ兄の霊が取り憑き、自分を守ってくれていると思っているが、実際は神様が愛依に降りかかる霊を祓っていた。ただし神様は、愛依に襲い掛かる霊の攻撃を周囲にそらしているだけで、新たな事故の原因となっていた。これが愛依の不幸体質の正体で、神様はあくまで自分の所有物を守っているだけで、愛依側の事情はいっさい考慮していない。兄もその不幸体質に巻き込んで失っており、そのことを強く後悔している。兄からはその運命を同情され、霊となった兄は愛依が神の花嫁になる前に殺して、運命から解放しようとしていた。今まで自分の運命に翻弄され、流されるばかりだったが、螢多朗と寶月夜宵の言葉で立ち向かう覚悟を固める。
闍彌 弥子 (しゃみ なみこ)
闍彌巫子の双子の姉。高齢な女性。妹とそっくりな見た目で、同じく霊能力者。霊能力者としては妹より数段レベルが上で、メディア出演して名を売ろうとする妹に忠告していた。妹の訃報を聞き、その死を通報した幻燈河螢多朗たちと出会う。妹がなり代わりになっていたことに気づき、表面上は妹の死にも冷淡な態度を取っていたが、内心では怒り狂っており、なり代わり一派への復讐を誓う。悪霊を捕まえる寶月夜宵のことを気に入り、弟子にスカウトする。夜宵のことをかなり気に入ったらしく、弟子入りをあっさり断られた際には本気で落ち込んでいた。夜宵と連絡先を交換し、なり代わりに関して情報交換しつつ、共同戦線を張っている。
幻燈河 夕月 (げんとうが ゆづき)
幻燈河螢多朗の妹で、幻燈河星の双子の妹。黒髪をストレートロングにした少女で、袖がだぼだぼになった服を着ている。大人びた性格で、妹や兄をからかったりしている。
幻燈河 星 (げんとうが あかり)
幻燈河螢多朗の妹で、幻燈河夕月の双子の姉。ショートカットの少女で、表情がコロコロ変わる活発な性格をしている。趣味嗜好が若干子供っぽい一面があるため、姉からよくからかわれたりしている。
淡宮 董子 (あわみや とうこ)
淡宮神社の神主を務める老婆で、幻燈河螢多朗の祖母。悪霊を祓う霊能力の持ち主で、螢多朗の呪いも完治こそ不可能だが対処し、彼の社会復帰を助けた。螢多朗のことを気に掛けており、最低限、霊から自衛できるように助言している。神社では人形供養も行っているため、神社にはいわく付きの人形を数多く奉納している。神社の宝物殿にはその人形の中でも特に凶悪とされるものを保管しており、人が立ち入れないようにしている。寶月夜宵を一目見てやっていることの凶悪さに気づき、「クソガキ」と嫌っている。
百鬼 曜子 (なきり ようこ)
小学生の少女で、寶月夜宵のクラスメート。セミロングヘアで、大きな丸眼鏡をかけている。クラスの委員長を務めているため、「いいんちょ」のあだ名で呼ばれている。まじめな性格で、生徒たちの問題行動を注意したり、孤立しがちな夜宵を気に掛けたりしている。幼いながら聡いところがあり、ドロシー・フラムスティードの人となりが変わっていることに違和感を覚えている。
過渡期の御霊 (かときのみたま)
寶月夜宵のコレクションの一つ。グレイタイプの宇宙人のぬいぐるみを形代にした悪霊で、本体は骸骨姿をしている。夜宵がつねに持ち歩いている悪霊の一つで、攻撃や身代わりとして重宝されている。また、神様の襲撃でも持っていたのが功を奏して難を逃れ、それ以降は手持ちの悪霊が激減したのもあり、鬼子母神の指と並んで夜宵の主武装となっている。当初は霊としての強さはさほどではなかったが、悪霊を食らうたびに少しずつ力を取り戻しており、徐々に存在感を大きくしている。元はかなり格の高い霊だったようで、ある程度力を取り戻したことで姿が変わり、絢爛な着物を着た偉丈夫のような姿となる。ただ、それでもまだ力を完全には取り戻しておらず顔は骸骨のままで、夜宵からはそのありさまを見て「過渡期の御霊」と名づけられている。
邪経文大僧正 (じゃきょうもんだいそうじょう)
「卒業生」の一人。つねに陰湿な笑顔を浮かべた僧侶の霊で、熊のぬいぐるみを形代とする。解放する際の口上は「弔って」。もともとはちゃんとしたぬいぐるみだったが、卒業生となった際に首だけとなっている。神様の襲撃をきっかけに、夜宵の部屋の悪霊たちのパワーバランスが崩れ、共食いの果てに卒業生となった。卒業生の中では比較的新しい個体。呪いは経文を聞いた相手を強制的に成仏させ、生者であっても経文を聞けば廃人となる非常に危険なもの。また霊も成仏させるが、行き先は強制的に地獄となるため、霊たちも激しく抵抗する。経文を唱えていくうちに、無数の黒い腕を伸ばして敵対者を捕え、嬲(なぶ)ることも可能。邪経文大僧正を攻撃して口を封じても、周囲の生物の口から経文を垂れ流し攻撃するため、一度、経文を聞くと防御が非常に難しい呪いとなっている。短時間だけであればイヤホンで物理的に経文をシャットダウンすれば防御が可能だが、時間が経てば物理的な防御も突破してくるために油断はできない。また、知り合いのフリをして電話を掛けて経文を聞かせようとしたりと悪知恵も働くため、非常に危険な悪霊となっている。
殉国禁獄鬼軍曹 (じゅんこくきんごくおにぐんそう)
「卒業生」の一人。太平洋戦争に従事した旧日本軍の軍人の霊で、犬のぬいぐるみを形代とする。解放する際の口上は「散華して」。生前は獅子奮迅の戦いぶりから「不死身」とも形容された無敵の軍曹だった。終戦を迎え、天寿をまっとうして死亡した。しかし死後、戦中の姿となって幽霊として現世にとどまることとなる。戦時中に死んだ兵士の怨念をまとっており、自分の意思に反して怨念のせいで周囲に悪影響を与えてしまう。さらに不死身の特性は死後さらに強まったため、成仏も消滅もすることができず、ただただ怨念と共に現世にとどまり続けるという悪夢のような状況に陥っている。寶月夜宵が偶然、墓に佇む軍曹を発見し、成仏する方法を見つけることを条件に彼女に力を貸す約束を交わす。この時、夜宵によって「殉国禁獄鬼軍曹」と名づけられた。夜宵のコレクションの中では珍しい悪霊ではない幽霊。ただし軍曹本人は悪霊ではないが、怨念は軍曹にも制御できないために非常に危険とされている。悪霊ではないため、持つ能力も「呪い」ではなく「祈り」で、軍曹は「自死」を祈り、対象を無差別に弱体化させる「衰弱の祈り」を放つことができる。自死を望む軍曹が自分もろとも周囲を衰弱、弱体化させるというもので、効果範囲にいる者に傷や疲労、飢餓、睡魔を与える。軍曹が新たな武器を抜くたびに祈りは三度発動し、そのたびに衰弱の威力と範囲が上昇していく。三度目の祈りはかすっただけでも筋肉が衰え、自力で動けなくなるまでの強烈な衰弱を与えるが、決して死なない「不死身」の祈りでもあり、対象は思わず「殺してくれ」と思うほどの苦しみを味わい続けることとなる。軍曹本人も戦闘能力は高い幽霊で、軍人であるために対人戦も得意とする。ただし善良な霊であるため、女子供に暴力を振るうことを好まない。
魄啜繚乱弟切花魁 (はくていりょうらんおとぎりおいらん)
「卒業生」の一人。その絶世の美貌で多くの男性を魅了していた「弟切」の名を持つ花魁の霊で、狐のぬいぐるみを形代とする。解放する際の口上は「煌めいて」。生前は身請けされて幸せをつかみ掛けるが、妹分である紅の裏切りで、冤罪で仲を引き裂かれる。また疫病にかかり、当時は万能薬といわれていた水銀を服用したことで水銀中毒となり、その美貌も失ってしまう。すべてを失ったあと、紅から真相を聞かされ、醜くなった己の姿を見せられたことで発狂。紅を巻き込んで大火事を巻き起こし、死に果てた。死後は紅に贈り、自分を発狂させるきっかけとなった「鏡」に宿っており、いわく付きの鏡として人の手を転々と渡っていた。寶月夜宵がたまたまフリーマーケットで鏡を見つけ、彼女のコレクションとなる。その当時は大した強さを持たない悪霊だったが、わずか1か月で夜宵の部屋の悪霊すべての魂を啜り、卒業生へと進化した。卒業生の中でも極めて狡猾で危険な霊で、捕縛された現状を快く思っておらず、時には生者を騙して己を解放しようとする凶悪さを持つ。生前は貧しい農家に生まれるものの、己の美貌で成り上がり、家族を救った。そのため、死後もその美貌が確固とした己の存在証明となっており、他者の命を糧に、己の美貌を煌めかせるのを力の源泉とする。他者の力を吸収すればするほど美貌は磨かれ、力が増して呪いの種類も増えていく。呪いの種類は「魄啜(はくてい)」「疫病」「炎上楼閣」の三つで、その性質上、対象が強ければ強いほど、その呪いの強度が増す。敵の力を吸収することで己を強化するため、戦えば戦うほど強くなる霊でもあり、倒すためには吸収を上回る勢いで消耗させきるしかない。
紅 (くれない)
花魁の少女。口元にホクロのある艶やかな美少女で、生前の魄啜繚乱弟切花魁が妹分として面倒を見ていた。弟切花魁から美貌を磨くために手鏡を渡されたことに感謝し、彼女を慕っているように装っていたが、内心は自分より美しい弟切花魁に強い嫉妬心を抱いていた。弟切花魁の身請け話が決まると、見受け相手の侍の酒にトリカブトの毒を盛り、弟切花魁に罪を着せて身請け話を破談させた。トリカブトの毒は神経毒であるため、服毒すると顔の表情が歪んで不細工となる。そのためトリカブトは別名「附子(ぶす)」と呼ばれ、紅は弟切花魁と侍の二人が毒を飲んで「ブスになればいい」と思い、毒を盛った。その後、弟切花魁がいなくなったため、花魁として頭角を現す。弟切花魁に身請け話を持ち掛けた侍すら奪い、彼から身請け話を受ける。落ちぶれた弟切花魁の前に姿を現し、彼女のすべてを奪ってやったと得意げにすべてを語るが、それによって狂気に陥った弟切花魁に焼かれて死亡した。
Sトンネルの霊 (えすとんねるのれい)
東京都の心霊スポット「Sトンネル」を縄張りとする悪霊。黒い髪を長く伸ばし、白いワンピースを着た女性の霊で、Sトンネル内に血まみれの姿で現れると人々の噂になっていた。幻燈河螢多朗たちが心霊スポットに来た際に、螢多朗のことを気に入り、彼に取り憑いて殺そうとする。狡猾な霊で逃げるのを得意としている。寶月夜宵が捕縛しようとした際も、無関係な浮遊霊を身代わりにして逃げおおせている。髪を長く伸ばして、対象を絞め殺すことができるが、夜宵からはその物理干渉できる幽体という性質を逆に利用され、締め上げられた。形代はたぬきの人形。形代に封じられてもある程度は動け、たびたび脱走しようとしたりしているが、神様の襲撃ではその性質が功を奏し、難を逃れている。夜宵はSトンネルの霊の髪を加工して、幽霊を捕縛する「黒縄」を作り出し、卒業生の封印にも役立てられるなど、かなり便利に使われている。
千魂華厳自刃童子 (せんごんけごんじじんどうじ)
東京都の心霊スポット「H城址」を縄張りとする霊。寶月夜宵による格付けはSランク。安土桃山時代に主君と運命を共にした誇り高き女性の霊で、強い力を持ち、過去の出来事を未来に語り継ぐために現世にとどまっていた。己の役目のために他者を心霊現象に巻き込むことはあるものの、基本的には無害な霊だったが、謎の呪物によって狂わされ、無差別に人に襲い掛かる悪霊となってしまう。人を己のテリトリーに閉じ込め、無数の手を出し、その手に触れた人の首を斬るという呪いを持つ。凶悪な呪いだが、人を殺すのは伝える人間を絶やしてしまうため、「語り継ぐ」という己の役目に反しており、「H城址の霊」にとってもかなり不本意なもの。そのため、夜宵によって謎の呪物を取り除かれ、正気を取り戻したあとは、戦意喪失して矛を収めている。H城址に捕らわれた地縛霊だったが、夜宵によって象のぬいぐるみを形代にされたため、呪物の件を警戒して別の場所に安置されることとなる。夜宵たちに攻撃されたことは恨みに思っているが、同時に呪物から解放してくれたことを恩にも感じており、己の力が宿った帯を手渡し、夜宵の力になることを約束する。この時、夜宵に「千魂華厳自刃童子」と名づけられた。卒業生に匹敵する霊で、卒業生と違い、帯を使って召喚する形を取る。召喚する際の口上は「絶って」。
斎弄晒レ頭 (さいろうされこうべ)
東京都の心霊スポット「旧旧Fトンネル」を縄張りとする悪霊。寶月夜宵による格付けはSランク。「旧旧Fトンネルの霊」は猟奇殺人鬼が死後、悪霊化した邪悪な霊で、巨軀な体に白襦袢をまとった男性の姿をしている。犠牲者を殺す方法は極めて凄惨で、生きたまま臓器を引きずり出し、それを見せつけたうえで相手が自ら死を望むまで痛めつけるというもの。また、トドメを刺す際には顔の皮をはぎ、それを自分がかぶってから相手の息の根を止めるという方法を取る。殺されてもそこで終わりではなく、犠牲者は霊となっても悪霊に恐怖で支配され、彼の下僕となって延々と苦しむこととなる。閉鎖された旧旧Fトンネルを縄張りとするが、下僕の霊を使って旧Fトンネルを訪れた人を、己のもとに招き寄せていた。単純に力と頑強さに優れた悪霊で、生半可な攻撃はほとんど効果なく、斧を武器にした一撃は非常に破壊力が高い。寶月夜宵たちに襲い掛かるが、殉国禁獄鬼軍曹の祈りによって極限まで弱体化し、無力化される。犠牲者の尊厳を奪い、恐怖で発狂させ、死しても魂を支配し続ける悪鬼のような存在で、夜宵からも同情の余地はいっさいないと思われている。そのため夜宵に捕縛されるが、あらゆる力と思考を封じられたうえで身代わりの形代にされるという末路を迎える。形代の人形は猿のぬいぐるみで、夜宵には「斎弄晒レ頭」という名をつけられている。
三崎 安奈 (みさき あんな)
ユーチューバーとして活動する女性。黒い髪を長く伸ばした若者で、主に心霊スポットを探索する様子を動画配信していた。人当たりのよい性格で、旧Fトンネル探索に来た寶月詠子をオカルト好きの同志と考え、初対面にもかかわらず、すぐなかよくなっている。実は旧旧Fトンネルの霊にすでに殺されており、悪霊化して旧旧Fトンネルの霊の下僕と成り果てている。拷問の果てに凄惨な殺され方をしたため、己の道連れを求めて旧旧Fトンネルの霊の殺人に協力し、ふつうの人間のフリをして、旧旧Fトンネルの霊のもとに誘導している。勇気をもって助けに来た友人すら犠牲者にしており、詠子も同じ境遇に落とし込もうとした。旧旧Fトンネルの霊が打ち倒されたあとも、怨念として漂っており、無事に帰還しようとする詠子たちに襲い掛かるが、寶月夜宵によって形代に封印される。詠子からは一時とは言えど友人として接し、その境遇にも同情の余地があるために複雑な思いを抱かれていたが、その後、成仏することすら許されず、詠子の手によって無限修復人形の材料にされるという末路を迎える。
月蝕尽絶黒阿修羅 (げっしょくじんぜつくろあしゅら)
東京都の心霊スポット「旧I水門」を縄張りとする悪霊。寶月夜宵による格付けはSランク。幼い少年の霊で、生前は父親と二人暮らししていたが、父親の再婚後に継母から虐待を受ける。父親のために我慢していたが、継母は父親が留守のあいだに間男を連れ込み、それがバレたあとに父親を殺害している。父親の遺体を肉団子にして少年に処分してくるように命令するが、少年は虐待で餓死寸前だったため、空腹に耐え兼ねてその肉団子を正体も知らずに食べてしまう。その後、継母は間男も殺し、それを目撃した少年も殺してしまう。霊となった少年は自分の遺体が肉団子にされて処分されるのを見て、父親の末路と自分が食べた肉団子の正体を知って発狂。父親への悔恨と継母への憎しみで悪霊化した。狂気に陥っており、人間がすべて継母に見えるようになっている。人間を肉団子にして食べるという行為を繰り返し、「旧I水門の霊」として恐れられるようになった。S級の中でも極めて強力な悪霊で、気配を隠し、ふつうの子供のように人に近づくことができる。生前から絵を描くのが好きだったらしく、スケッチブックを対象に見せ、自分の境遇を知らせたうえで、呪うという方法を取る。スケッチブックに対象の絵を描き、体を黒く塗りつぶすと肉団子にすることができる。距離を無視して回避も防御もできないうえに、肉団子を捕食するごとに少年の霊は強化されるため、非常に凶悪な攻撃となっている。スケッチブックを起点としているため、スケッチブックを失うと呪いが使えなくなるのが弱点。ただし無数の腕をあやつる能力を持ち、これを身にまとって戦闘形態となることもできる。戦闘形態では巨大な腕をあやつり、これで触れた相手も肉団子にできるが、スケッチブックに比べて射程が生まれているのが欠点となっている。魄啜繚乱弟切花魁に敗北したことで、正気を取り戻す。その後、夜宵に説得され、新たな犠牲者を出さないために自ら封印され、使役される道を選んだ。形代はライオンの人形で、夜宵には「月蝕尽絶黒阿修羅」という名をつけられている。
鬼子母神 (きしもじん)
東京都H市の西にある廃寺を縄張りとする神。元は暴虐な鬼だったが釈迦によって慈愛の心に目覚め、神へと転じ、幼子の守護者となった。水子を供養する寺にまつられていたが、悪霊化した水子の霊がたむろするようになり、その影響を受けて悪性変異してしまっている。強大な力を持つ霊で、水子の霊を軍勢として襲い掛かる。水子の霊は周囲の人間を無差別に殺して、仲間にしようとしているために非常に危険。また、水子の霊を攻撃すると、鬼子母神が怒り、その脅威度をさらに上げてしまう。ただし、鬼子母神は子を守護する神であるため、「子供を攻撃できない」というルールが存在し、これは水子の霊を攻撃した者にも適用される。そのため寶月夜宵が水子の霊をかいくぐり、鬼子母神のご神体を攻撃し、その指を強奪した際も鬼子母神は子供である夜宵を決して攻撃しようとはしなかった。鬼子母神の指はそれ自体が意思を持つが、夜宵は悪霊たちによる攻撃で、この指を屈服させ、幽霊を攻撃する武器として使っている。のちに各地を放浪する空亡と遭遇。当初は互いに攻撃せず見送った。その後、空亡が再び来襲。その際は空亡にそのルールの弱点を見抜かれ、一方的になぶられて空亡に食われた。
空亡 (くうぼう)
寶月夜宵の母親の魂を連れ去った謎の悪霊。巨大な黒い太陽のような姿をしている。正式な名前は不明で、「空亡」の名は夜宵がその姿を見て、百鬼夜行の最後に現れ、すべての妖怪を焼き尽くす太陽の名を借りて名づけた。夜宵の宿敵ともいえる存在で、夜宵は強大な力を持つ空亡を倒すため、悪霊の軍勢をつくり出そうとしている。各地を放浪しており、居場所は一定していない。並の悪霊を一蹴する圧倒的な存在だが、鬼子母神いわく「赤子」で、成長途中の悪霊だとされる。各地を放浪するうち、神様と遭遇して戦うが、終始劣勢で敗北する。しかし、神様の気まぐれで回復させられ、力の使い方も教えられる。神様の戦いで急速に学習し始め、力をつけるべく、鬼子母神を倒すことを決める。その後、鬼子母神の弱点を見抜き、神を食らったことでその力を急速に増大させる。力が大きくなったことでその姿も変わり、太陽の中に胎児が浮かぶような姿となっている。オズワルドたちからは「暁闇の胚」と呼ばれており、彼らの計画で最も重要な存在といわれている。
神様 (かみさま)
神代愛依に取り憑いている神。名称不明、正体不明の謎の存在で、少年にも少女にも見える童子の格好をしている。神代の一族の女性を20歳になったら己の花嫁として迎えに行く決まりがあり、愛依のことも4年後、己の花嫁にするつもりでいる。花嫁となった女性は神様の蒐集物にされるらしく、死んでも解放されない凄惨な目に遭う。そのため、愛依の兄はその前に愛依を殺して、神様の花嫁になるのを未然に防ごうとしていた。愛依に取り憑いているのは神様の分霊に過ぎないが、それでも寶月夜宵のコレクションである幼稚園児を殲滅(せんめつ)し、たまたま出くわした空亡すら一蹴する強大な力を誇る。「安倍晴明」にゆかりがあるらしく、安倍晴明を小僧扱いし、彼をまつる神社を通りかかった際にちょっかいを掛けようとしていた。
天使様 (てんしさま)
「受胎告知の家」にいた赤ん坊の悪霊。家にいた父娘が儀式によって生み出そうとしたが、娘が生み出す際に失敗して死亡。半ば失敗作の状態で生まれてしまったため、今度こそ完全な状態になるべく、女性に寄生して生まれ直そうとしている。その姿は、体のバランスがいびつで皮膚がただれた巨大な赤ん坊で、同じ姿の天使様が三体存在する。事件が起きたあと、家に入った女性警察官が犠牲になっており、女性警察官は突如妊娠して10日後に頭が異様に大きな赤ん坊を産んで母子もろともに死亡している。受胎告知の家に儀式が行われた祭壇があったが、事件発覚後、警察に撤去されている。しかし、実は壁の中の隠し部屋に儀式の中核である呪物が撤去されずに残っており、それが霊的な祭壇を形作って天使様の存在を確固としたものにしている。家を訪れた寶月詠子に呪いをかけ、生まれ直そうとするが、寶月夜宵によって呪物を破壊され、三体の天使様も過渡期の御霊に食われて消滅した。
闍彌 巫子 (しゃみ なぎこ)
メディア出演もしている有名な霊能力者の女性。高齢ながらかくしゃくとしており、霊能力者として確かな実力を持つ。闍彌弥子は双子の姉。実は悪霊のなり代わりとなり、本物の闍彌巫子の魂はすでに亡くなっている。オズワルドのなり代わりと共に暗躍し、謎の呪物を旧I水門に仕込みに行って寶月夜宵たちに出会う。幻燈河螢多朗を新たななり代わりの器にすることをもくろみ、事情を隠して彼らと共闘するが、旧I水門の霊に体を肉団子にされて死亡した。しかし、闍彌巫子の肉体は死亡したが、なり代わっていた悪霊はひそかに逃亡しており、その後、ドロシー・フラムスティードたちと合流。夜宵の情報をドロシーたちに流した。
オズワルド
なり代わりたちと行動を共にする霊能力者の男性。線が細い金髪碧眼の青年で、黒い帽子とスーツを身につけた黒ずくめの格好をしている。神父にも見えるが、れっきとした僧侶らしく、全国の不良坊主たちにツテを持つ。南光坊たちと共謀し、各地のパワースポットに謎の呪物を設置したり、空亡を「暁闇の胚」と呼び、なんらかの目的に利用したりしようとしている。オズワルド自身もなんらかの悪霊になり代わられている節があるが、オズワルドの脳から記憶を読み取り、オズワルドの性格をそのまま演じているため、知り合いもオズワルドがなり代わられているとは思っていない。
南光坊 (なんこうぼう)
なり代わりたちと行動を共にする霊能力者の男性。毛がほとんど抜け落ち、骸骨のような顔をした老人で、車いすにいつも座っている。各地のパワースポットに謎の呪物を設置したり、空亡を「暁闇の胚」と呼び、なんらかの目的に利用したりしようとしている。
ドロシー・フラムスティード
寶月夜宵と同じ小学校に通う同年代の少女。幼いが化粧をしており、ゴスロリ系のドレスを着た派手な姿をしている。オズワルドたちと行動を共にするなり代わりの一人。取り憑かれている少女は、霊媒体質で幽霊が見えること以外はふつうの少女で、服の趣味もふつうだった。現在、本来のドロシー・フラムスティードの魂は、ビスクドール人形の中に閉じ込められている。本来のドロシーも夜宵と会ったことがあるが、夜宵の持つ悪霊の群れに恐怖して話しかけることはなかった。闍彌巫子になり代わっていた悪霊から話を聞き、ドロシーが夜宵を見た記憶を手がかりに、呪物を持ち去ったのが夜宵だと推測する。その後、夜宵が自分たちと同じなり代わりではないかと考え、それを確かめるために彼女に近づく。若干、無計画で場当たり的な行動が多く、夜宵からはその正体を察せられ、逆に情報源として泳がされている。
場所
卒業生ハウス (そつぎょうせいはうす)
卒業生を保管するための家。埼玉県所沢市の狭山湖付近に存在する古い民家で、パワースポットの上にある。寶月夜宵は万が一卒業生の被害が周囲に出た場合も考え、数ある物件の中から孤立したこの民家を選んでいる。いわく付きの事故物件であるため、100円で売り出されていたのを寶月詠子が買い取った。元は父親、母親、娘のごくふつうの家族が暮らしていたが、夫婦ゲンカのはずみで母親が死亡。その件は事故として処理されたものの、周囲からバッシングを食らって残された父娘は心身を喪失。そこに何者かが天使様の儀式を娘に教え、娘はその言葉に縋り、狂気に取り憑かれて儀式を行ってしまう。儀式の内容は非常におぞましいもので、娘が父親とのあいだに赤ん坊をつくり、その赤ん坊を殺害。それを三度繰り返し、赤ん坊の亡骸を基に悪霊を作り出すというもの。さらに赤ん坊の悪霊を育てるべく、大量の人間を殺して、その魂を食わせていた。赤ん坊の悪霊は最終段階で、生きている人間の女性に宿って現実の肉体を持って生まれるらしいが、娘はこの段階で失敗して死亡。その後、一連の事件が発覚して、警察に猟奇事件として処理された。父娘はすでに死亡しているが、天子様の儀式は未だに続いており、家に踏み入れた女性に寄生して、生まれ直そうとしている。過去に女性警官が犠牲になり、その異様な死に方から、地元では「受胎告知の家」として恐れられている。
その他キーワード
悪霊 (あくりょう)
死後、魂だけとなって世にとどまる存在。通常は見ることができず、一部の霊媒体質を持つ者のみが見ることができる。霊となった者は、この世にとどまるだけでもエネルギーを消費するため、通常は「49日」のあいだにエネルギーを使い尽くして成仏する。しかし一部の霊は、現世への未練からほかの霊を食らって世にとどまり続け、「悪霊」と呼ばれる存在へと転じていく。悪霊は生前の未練から正気を失っているか、自分の欲望のために他者の魂を食らう外道しかいないため、長くとどまるうちにより凶悪な存在へと変わっていく。基本的に力の弱い霊は存在があやふやで揺らいでいるが、ほかの霊を食らい尽くし、力をつけた霊は揺らぎが少なくなり、存在を確固としたものにするため、霊媒体質でない者でも見えるようになる。また、霊的エネルギーがあふれ出す「パワースポット」であれば霊はエネルギーを消耗せず、力を増大させていく。その場合は悪霊でなくても強い力を持つ霊が生まれることがある。強い力を持つ霊の中には物理的に干渉して人に害を与える霊も存在し、悪霊の中にはその情念を「呪い」へと昇華させ、さまざまな災いを引き起こすものもいる。
形代 (かたしろ)
霊が取り憑く物品。基本的に人の霊が取り憑くため、人型に近いぬいぐるみや人形、それを簡略化した紙で作った人型の切り抜きを使う。髪が勝手に伸びる呪いの日本人形などがこれに当たり、霊は物品を「形代」にしてさまざまな現象を引き起こすことができる。形代となった霊は、取り憑いた物の状態とシンクロするため、これによって髪などを伸ばして物理的な現象を引き起こすが、逆に物品のダメージは霊にダメージとして跳ね返る。寶月夜宵はこの仕組みを利用し、悪霊を形代に封印することで悪霊にダメージを与える方法を編み出している。また、「形代」には自分のケガを肩代わりさせる「身代わり人形」としての側面もあり、夜宵は自分の爪や髪を形代に入れ、それを悪霊とシンクロさせることで、自分のダメージを肩代わりさせる術を編み出している。これによって夜宵に捕縛された悪霊は、自分にダメージが返ってくるため、夜宵を攻撃することはできなくなっている。また、同じ境遇の悪霊が複数いることで、たとえ自滅覚悟で夜宵を攻撃しようとする悪霊がいても、夜宵を攻撃することで間接的にほかの悪霊を攻撃する状況をつくり出し、お互いに邪魔し合って攻撃できないようにしている。これによって夜宵は悪霊を捕まえれば捕まえるほど、己の身代わりと悪霊への攻撃手段を手にすることとなっている。身代わりはゲームでいう「残機」のようなもので、霊からの攻撃であれば即死するようなものでもある程度肩代わりしてくれる。身代わりの強度は形代に取り憑いている霊の強さに比例し、ある程度ダメージを受けると形代もダメージを受ける。ただ形代を修復すればある程度であれば、霊側のダメージも修復する。寶月詠子はこの仕組みを夜宵から聞き、スライム状の物体で形代を作り、三崎安奈の霊を形代に閉じ込めることで、破壊されるたびに修復される「無限修復人形」を作っている。
幼稚園児 (ようちえんじ)
寶月夜宵のコレクションとなった悪霊。ぬいぐるみに憑依され、すべてが「形代」として加工されており、夜宵を攻撃すれば自分にもそのダメージが返ってくるように細工されている。さらにすべてのぬいぐるみが形代として加工されていることによって、自傷覚悟で夜宵を攻撃しようとしても、ほかの悪霊にもダメージが行くため、それぞれがけん制し合い、手を出せない状況をつくり出すことに成功している。このため、幼稚園児たちは夜宵の部屋でコレクションとして飾られ、心霊スポット巡りの際の身代わりや、悪霊を捕える際の攻撃手段として重宝されている。ただし夜宵の部屋でコレクションされているのは、あくまで夜宵の力で扱える悪霊のみで、力が強すぎて被害が寶月家にとどまらない悪霊は、夜宵の部屋を「卒業」することとなる。「卒業生」は一線を画した力を持つため、夜宵の部屋のコレクションは卒業未満の存在として「幼稚園児」と呼んでいる。
卒業生 (そつぎょうせい)
寶月夜宵のコレクションの中でも特別強力な霊。もともと強力な霊を捕縛したものもいれば、夜宵の部屋の悪霊を共食いさせ、「蟲毒」させることで生まれるものもいる。ただでさえ凶悪な悪霊たちの中でも、その凶悪さは群を抜き、無差別で甚大な被害を周囲にもたらす。封印をしても霊的な影響を及ぼすため、夜宵の部屋から「卒業」の意味を込めて「卒業生」と呼ばれている。神様の襲撃によって新たに邪経文大僧正が卒業生となったが、もともと夜宵は三体の卒業生を持っており、それらは危険なために封印して各地に保管している。必要になった際に霊がエネルギー不足にならないために、卒業生はそれぞれ各地のパワースポットの上に安置されていたが、神様との決戦のために各地から回収されることとなった。その後はSトンネルの霊の髪で作った「黒縄」で元の封印の上から縛って、周囲への悪影響を最低限にすることが可能となっている。また寶月詠子の提案で、以降は卒業生ハウスを購入し、そこが安置場所となっている。基本的に一度解放すれば無差別に周囲に被害をもたらす危険な霊であるため、夜宵たちにとっても解放は奥の手となっている。卒業生はそれぞれ夜宵によって名を与えられ、解放の際にはそれぞれ口上を述べる。なお、千魂華厳自刃童子や殉国禁獄鬼軍曹は悪霊ではないが、夜宵に自分から協力しており、力の強さから卒業生と同格の霊として扱われている。
なり代わり (なりかわり)
悪霊が生きた人間に取り憑き、人間の魂を追い出して文字どおり「なり代わり」となる行為。一見するとふつうの人間と同じであるために見破るのは困難だが、霊能力者であれば生者のまとうオーラが以前と変わっていたり、周囲の人との記憶に齟齬があったりするため、見破ることができる。ただし、悪霊の中でもなり代わりに慣れた狡猾な霊は、自分と近しいオーラを持つ人間になり代わったり、人間の脳から記憶を読み取ったりして、巧妙になりすます。また記憶を読み取れるため、その人間の持つ能力を身につけることもでき、中には霊能力者の能力を身につけた悪霊も存在する。巧妙になりすました悪霊は、その取り憑いた人間の周囲の人間もなり代わりにしていくため、闍彌弥子によれば、最近は霊能力者のなり代わり被害が増えているという。人間の体を殺しても、本体は悪霊であるため、完全な意味で打ち倒すことはできない。そのため、闍彌巫子になり代わっていた悪霊も、巫子の体が殺されるものの、本体は無事に逃げおおせている。
炎上楼閣 (えんじょうろうかく)
魄啜繚乱弟切花魁の三つ目の呪い。一つ目の呪い「魄啜(はくてい)」は炎でできた蝶を飛ばし、触れた対象の魂魄を啜って急速に老化させ、その分、己の力を回復して強化するというもの。さらに二つ目の呪い「疫病」は、己の血肉に触れた相手に生前自分が患っていた疫病を発症させるもので、対象を大幅に弱体化することができる。三つ目の呪いである「炎上楼閣」は奥の手ともいえる能力だが、発動には条件があり、魄啜繚乱弟切花魁がある程度ダメージを受けて弱ったうえで、醜くなった自身の姿をもともと宿っていた鏡に映すことで発動する。効果は無数の炎の蝶と、脱出不可能な炎の廓(くるわ)を生み出し、対象を閉じ込めて燃やし尽くすというもので、炎の蝶は対象の魂を啜って燃え盛るため、一度攻撃を受けると決して消えない炎によって灰になるまで燃やされることとなる。さらに対象が燃える際に発生する煙を吸うことで、魄啜繚乱弟切花魁は回復と強化を行うことができる。脱出不可能、防御不可能な炎による攻撃だが、炎の廓の範囲は本人を中心とした数メートルで、それ以上広げることはできない。ただし、炎の蝶は目の届く場所であればどこにでも生み出すことができるため、非常に広い範囲を攻撃することが可能。
書誌情報
ダークギャザリング 16巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2019-06-04発行、 978-4088818566)
第10巻
(2022-08-04発行、 978-4088832050)
第11巻
(2022-12-02発行、 978-4088832951)
第12巻
(2023-04-04発行、 978-4088834566)
第13巻
(2023-08-04発行、 978-4088835341)
第14巻
(2023-12-04発行、 978-4088837208)
第15巻
(2024-05-02発行、 978-4088838915)
第16巻
(2024-09-04発行、 978-4088841809)