あらすじ
特殊能力に目覚めたツグミ
華族の家柄に生まれた久世ツグミは、没落寸前の実家を救うため、裕福な汽船会社の息子と政略結婚をすることが決まる。それを知った弟の久世ヒタキは、そんなことは誰も望んでいないと猛反発する。そんな中、ヒタキは自室に油をまき、ツグミが父親の書斎を整理していた際に出てきた謎の本と共に自殺を図るが未遂に終わる。それを知ってショックを受けるツグミの前に、邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の尾崎隼人と鴻上滉が姿を現す。ヒタキの自殺未遂事件をきっかけに、ツグミが人間に悪影響を与える書籍「稀もの」が放つアウラが見えるようになったことを知った尾崎は、ツグミに組織に入って欲しいとスカウトする。帝都図書情報資産管理局の一員となって働くことを決意したツグミは、自宅を出て寮に移り住む。その後、帝都図書情報資産管理局の個性豊かなメンバーに囲まれ、ツグミは少しでも多くの「稀もの」を見つけ出そうと奮闘するが、なかなかうまくいかない。
距離を縮めていくツグミと隼人
業務のために尾崎隼人と行動を共にしていた久世ツグミは、弟の久世ヒタキの自殺未遂事件以前から、隼人が自分を知っていたかのような発言に違和感を覚える。そして隼人は、実はまだツグミが学生だった時に偶然彼女を目撃しており、一目惚(ひとめぼ)れしたのだと告げる。そして自分の気持ちを隠すことが苦手な隼人は、その場の勢いでツグミに告白してしまう。動揺するツグミに対して隼人は、今夜出場するビリヤード大会に来て欲しいと招待する。ツグミは初めて職場以外の隼人の姿を見て、彼と少しずつ距離を縮めていく。そんな中、ツグミはヒタキが持っていた本と同じ色のアウラを持つ「稀もの」を見つける。同じ色のアウラを持つ本は珍しく、帝都図書情報資産管理局でも貴重な資料になるはずだったが、隠由鷹は勝手に燃やして処分してしまう。この出来事をきっかけに、ツグミは隠の言動に疑問を抱く。
事件の真相に近づいていくツグミ
ある日、久世ツグミは新聞記者の葦切拓真と知り合いになる。拓真から人間に悪影響を与える書籍「稀もの」を収集し、闇オークションを開催している組織「カラス」の存在を聞かされ、ツグミは恐怖心を抱く。その後すぐに、拓真は何者かによって「稀もの」を送りつけられ、全身にやけどを負った状態で発見される。「稀もの」を使用した無差別の殺傷事件が起こるのではないかと警戒した「帝都図書情報資産管理局」は、柾小瑠璃が勤務する新聞社と協力して、犯人に「炎の怪人」という名前を付け、怪しい本には触らないようにと民衆に広く警告する。そしてツグミは、小瑠璃から危険な仕事をしているからこそ、何事もないうちに尾崎隼人に告白するべきだと背中を押され、ツグミと隼人は恋人同士になる。そんな中、新たに百舌山識郎が「稀もの」の被害に遭い、死体で発見される。そしてその犯人として、隠由鷹の名前があがる。かつて自らの家でいっしょに暮らしたことのあるツグミは、隠が犯人ではないと猛抗議する。そんなツグミのもとに、隠から弟の久世ヒタキを誘拐したと連絡が入る。
関連作品
テレビゲーム
本作『ニル・アドミラリの天秤』は、PlayStation Vita用テレビゲーム『ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑綺譚』を原作としている。原作ゲーム版は2016年4月にオトメイトより発売された恋愛アドベンチャーゲームで、略称は「ニルアド」。その続編として、2017年9月にPlayStation Vita用『ニル・アドミラリの天秤 クロユリ炎陽譚』、2018年9月にNintendo Switch用『ニル・アドミラリの天秤 色ドリ撫子』が発売されている。
メディア化
登場人物・キャラクター
久世 ツグミ (くぜ つぐみ)
華族の家系に生まれ育ったお嬢様。一般庶民よりは裕福な家庭で育つものの、幼い頃に起こった大地震によって実家の資産が激減し、没落寸前にあるために政略結婚させられそうになる。弟の久世ヒタキの自殺未遂騒動をきっかけに、人間に悪影響を与える書籍「稀もの」の存在を知り、さらに「稀もの」が放つアウラが見える特殊能力に目覚める。そして、尾崎隼人からのスカウトを受け、邪悪な情念をまとった書籍を回収する組織「帝都図書情報資産管理局」の一員となって働くようになる。お嬢様育ちのために世間知らずなところもあるが、しっかりとした芯の強さを秘めている。
尾崎 隼人 (おざき はやと)
邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の探索部に所属している青年。久世ヒタキの自殺未遂騒動を知り、人間に悪影響を与える書籍「稀もの」の仕業ではないかと久世家を訪れたことで、久世ツグミと親しくなる。ツグミに対しては初対面のように振る舞っているが、実は学生時代の彼女に一目惚れしており、名前も知っていた。ツグミが「稀もの」が放つアウラを認識できると知り、帝都図書情報資産管理局に所属しないかとスカウトした。ウソの付けない真っすぐな性格の持ち主で、思ったことをすぐに口にしてしまう。そのため、鴻上滉をはじめ周囲のメンバーからフォローされることも多い。実の妹が人間に悪影響を与える書籍「稀もの」のために自殺をしており、悲劇を断ち切るために帝都図書情報資産管理局で働くことになった過去を持つ。
鴻上 滉 (こうがみ あきら)
邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の探索部に所属している青年。久世ヒタキの自殺未遂騒動を知り、人間に悪影響を与える書籍「稀もの」の仕業ではないかと久世家を訪れたことで、久世ツグミと知り合いになる。口数が少ないクールな性格で、喜怒哀楽を表情に出すことは滅多にない。尾崎隼人といっしょに行動することが多く、思ったことをすぐに口に出してしまう彼のフォロー役を担っている。
星川 翡翠 (ほしかわ ひすい)
邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の探索部に所属している青年。久世ツグミが外出した際、偶然外で炎をあやつる特殊能力の訓練をしていたところを目撃され、知り合いになる。その際にツグミが奇異な目で見なかったこともあり、彼女には心を開いている。赤と緑のオッドアイに中性的な顔立ちで、特殊能力だけでなく人とは異なる外見にコンプレックスを感じている。百舌山識郎からは、たびたび容姿や能力について傷つく物言いをされている。
隠 由鷹 (なばり ゆたか)
邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の研究部に所属している青年。以前、久世の家で書生としてお世話になっていたことがあり、久世ツグミとは顔見知りの間柄。また、ツグミも知らない久世家の内部事情にも詳しい。久世ヒタキが自殺未遂を起こしたことも知っており、ツグミのことを心配している。心臓が弱く、長時間活動することができない。ツグミと同様に、人間に悪影響を与える書籍「稀もの」が放つアウラを認識できる特殊能力の持ち主でもある。
汀 紫鶴 (みぎわ しづる)
作家を生業にしている青年。特殊な事情があり、邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の寮に住んでいる。外出していた久世ツグミに声をかけ、ナンパしたことで知り合いになる。箱入り娘のツグミにとっては初めて出会うタイプの男性で、警戒されている。表向きは女好きで軽薄に振る舞っているが、実際には冷静沈着に物事を判断している。ベストセラー作家でもあり、ツグミの弟の久世ヒタキが汀紫鶴の大ファン。
鵜飼 昌吾 (うかい しょうご)
帝都大学法学部に在学中の青年。現日本国首相の息子。人間に悪影響を与える書籍「稀もの」を読んでしまったことで自殺未遂を図る。その後、一時的な身柄の保護と静養のため、邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の寮に住むことになり、久世ツグミと知り合う。人前ではわがままに振る舞い、周囲を見下した言動が多い。ただし、本来は穏やかな性格で、名門の家系に生まれたことにより、周囲から寄せられる過度なプレッシャーに耐えるために虚勢を張っている。ツグミの弟の久世ヒタキが鵜飼昌吾自身と同じように「稀もの」のせいで自殺未遂をしたと聞き、ツグミにだけは本心で向き合うようになっていく。
朱鷺宮 栞 (ときみや しおり)
邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の探索部に所属している女性。探索部長を務めている。尾崎隼人から、人間に悪影響を与える書籍「稀もの」が放つアウラを認識できる久世ツグミの存在を聞かされ、組織に入ってくれないかと彼といっしょに交渉をしたことで知り合いになる。男性が多い帝都図書情報資産管理局の中ではツグミと最も親しい女性でもあり、彼女をかわいがっている。外出時には凛とした生真面目な女性として振る舞っているが、仲間の前では砕けた言動を見せることが多い。以前結婚していたが、夫を「稀もの」の力によって亡くしている。
猿子 基史 (ましこ もとふみ)
邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」の研究部に所属している男性。研究部長を務めている。久世ツグミが帝都図書情報資産管理局で働くことになったため、知り合いになる。さまざまな分野に精通しており、特に民俗学や鳥類学を好んでいる。希少な部族のお面が手に入ったからと、それを身につけて仕事をするなど、一般常識とかけ離れた変わった一面を持つ。
燕野 太郎 (つばめの たろう)
警視庁保安部に所属する巡査の青年。邪悪な情念をまとった書籍を回収・研究する組織「帝都図書情報資産管理局」に出向している。その縁で久世ツグミと知り合いになる。出向の理由として、表向きは警視庁と帝都図書情報資産管理局の連携を強めることを目的としているが、実際には寮で暮らす鵜飼昌吾の監視も兼ねている。ウソがつけない真っすぐな性格の持ち主で、帝都図書情報資産管理局のメンバーから好かれている。女性に免疫がなく、ツグミが近づいただけで赤面してしまう。
久世 ヒタキ (くぜ ひたき)
久世ツグミの弟。華族の家系に生まれ育った少年。次期当主でもあり、周囲から期待を寄せられている。過去に起こった大地震の影響により久世家は没落寸前にあるが、無理にあがく必要などなく、それはそれで構わないと考えている。そのため、ツグミが久世家を守るために政略結婚をすると知った際には、大いに反発した。自宅は病気がちな母親がつねに不在だったため、ツグミは姉でありながらも母親代わりでもあり、心の支えになっている。作家の汀紫鶴のファン。
杙梛 (くいな)
雑貨店を営んでいる男性。久世ツグミが人間に悪影響を与える書籍「稀もの」がないか巡回を行っている中で、店を訪れたことで知り合いになる。国籍不明の奇抜な衣装を身につけており、「ペリ」という名前の犬のような生き物を肩に乗せて生活している。女の子が好きで、ツグミに対しても愛人や一夜限りの関係をせまり、その反応を見て楽しんでいる。ツグミにはノリが軽いことから、汀紫鶴に似ていると警戒されている。
笹乞 藤一郎 (ささごい とういちろう)
古書店を営んでいる青年。作家としても活動している。久世ツグミが人間に悪影響を与える書籍「稀もの」がないか巡回を行っている中で、店を訪れたことで顔見知りになる。笹乞藤一郎自身の著書を「帝都図書情報資産管理局」から「稀もの」だと取り上げられたこともあり、店に出入りされることを疎ましく感じている。陰気かつ陰湿な性格で、ツグミに対しても悪態をついている。
鷺澤 累 (さぎわさ るい)
医師志望の青年。帝都大学医学部に通っている。鷺澤累自身が持っている本を狙った何者かに襲われた際に、偶然通りかかった巡回中の久世ツグミに助けられ、知り合いになる。以降、ツグミが困っている時には助けるなど、何かと好意的に接している。また、人体実験を好む百舌山識郎を危険視しており、ツグミに警告することも多い。
百舌山 識郎 (もずやま しろう)
帝都大学病院の精神科医に勤務している男性。帝都大学病院では精神医学を専門とした教授を務めている。人体実験を好み、人間に悪影響を与える書籍「稀もの」にも興味を抱いている不気味な人物。特殊能力を持つ久世ツグミや星川翡翠を、百舌山識郎自身の実験体にしたいと考えている。また、翡翠の火を操る特殊能力については、人を傷つける恐れがあると、わざと彼が不安になるようなことを口にして反応を楽しんでいる。
柾 小瑠璃 (まさき こるり)
学生時代に久世ツグミの先輩だった女性。現在は新聞記者を務めている。久世家とも交流のある名家の出身で、裕福な家庭に育つ。ツグミのことを妹のようにかわいがっている。大切に育てられてきたお嬢様ではあるものの、非常に活発な性格をしている。学校卒業後に招かれた縁談の席で、跡取りを生む道具になれと言われたことにショックを受け、柾小瑠璃自身の人生について真剣に考え始める。その後、自分の可能性を広げるために海外留学に旅立つ。ツグミと尾崎隼人がお似合いだと考えており、早く恋人同士になって欲しいと願っている。職場の先輩である葦切拓真に恋心を抱いている。
葦切 拓真 (よしきり たくま)
新聞記者を務めている青年。柾小瑠璃の先輩にあたる。人間に悪影響を与える書籍「稀もの」を収集し、闇オークションを開催している組織「カラス」について調査をしている最中に、久世ツグミと知り合いになる。のちに「カラス」の真相に近づきすぎてしまったため、命を狙われることとなる。小瑠璃から好意を寄せられているが、まったく気づいていない。
集団・組織
帝都図書情報資産管理局 (ていととしょじょうほうしさんかんりきょく)
人間に悪影響を与える書籍「稀もの」の回収・研究を行っている国家公務員の組織。通称「フクロウ」。稀もの捜索を行う「探索部」と、回収した書物の研究を行う「研究部」の二つのグループに分かれている。探索部は街の書店を巡回し、「稀もの」と思われる怪しい書籍を早期発見する大切な役割を担う。「稀もの」を発見した際には迅速な対応が求められることもあり、組織の人間は研究施設を兼ねた大きな建物内で寮生活を送っている。
その他キーワード
稀もの (まれもの)
邪悪な情念をまとった書籍のこと。作者の強い念が宿っており、触れた者や読んだ者に悪い影響を及ぼす存在で、特になんらかの悩みを抱えて落ち込んでいる時は注意が必要。最悪のケースでは、かかわった者を衝動的な自殺に追い込むこともある。和綴じの本が「稀もの」になりやすく、洋書の活版印刷が主流になってからはトラブルの数も減っているものの、現代でも危険視されている。そのため、国が「帝都図書情報資産管理局」を結成し、「稀もの」の捜索と回収を行っている。「稀もの」は世間から抹消されそうになっている希少な存在であることから、帝都図書情報資産管理局の目を欺き、秘密裏に収集しているコレクターも存在している。また、秘密裏にオークションを開催している「カラス」と呼ばれる集団もいる。「稀もの」はアウラと呼ばれるオーラのようなものをまとっており、久世ツグミのような一部の人間のみ認識できる。
アウラ
人間に悪影響を与える書籍「稀もの」がまとっているオーラのようなもの。ふつうの人間には見えないが、久世ツグミのように一部の者だけが認識できる。作者の邪悪な情念が具現化されるため、「稀もの」によって形状が異なる。ツグミは久世ヒタキの自殺未遂騒動をきっかけにアウラを認識できるようになったことで、尾崎隼人と鴻上滉から「帝都図書情報資産管理局」にスカウトを受ける。
クレジット
- 原作
-
ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑奇譚
書誌情報
ニル・アドミラリの天秤 3巻 スクウェア・エニックス〈G fantasy comics〉
第1巻
(2018-05-01発行、978-4757557376)
第2巻
(2019-01-01発行、978-4757559929)
第3巻
(2019-08-01発行、978-4757562639)







