広大な冥界のはずれにあるダメホテル
本作の舞台となる冥界は、あの世の一部である。あの世は3層に分かれており、上から天界・冥界・地獄と呼ばれる。天界は神や天使、亡者が住んでおり、少し敷居が高いブルジョワたちの世界。地獄は、亡者や鬼、獄卒たちがおり、虫や悪魔も住んでいる、ちょっと怖い世界。冥界は、様々な種族が住むあの世で一番広い世界で、3層の中継地である。各界の情報交換ができる交流地であり、中央には閻魔(えんま)大王が住む閻魔殿や、冥界を取り仕切る閻魔庁がある。また、観光地やホテルも多数存在し、それら冥界の施設は閻魔庁観光課の管理下にある。本作は、そんな冥界のはずれにあるダメホテル「ホテルヘルヘイム」の再興を描いた、おもてなしコメディである。
真の姿を現すホテルヘルヘイム
「ホテルヘルヘイム」は、かつて冥界随一として名を馳(は)せたホテル。しかし、現在は荒れ果て、客が一人も寄り付かないダメホテルに成り下がっていた。そこへ伝説のホテルマンの田中がやってきたことから物語は始まる。田中は、数百年前に突然行方をくらました支配人の依頼で、ヘルヘイムを救いにきたという。田中は乗っ取りを企む「冥王ホテル」の連中を追い払った後、支配人からのもう一つの依頼だった、鍵付きの古いテーブルを発見する。そして、鍵を回すと凄(すさ)まじい地響きが起こり、地中から広大な施設からなる、本当のヘルヘイムが姿を現した。こうして新しくなったヘルヘイムを舞台に、田中と支配人の孫であるメイは、「最低最悪」のホテルを立て直していく。
ワケアリ客の心をほぐす人間ドラマ
ヘルヘイムを訪れるのは、なぜかワケアリ客ばかり。例えば、大酒飲みで冥界・地獄の居酒屋はすべて出禁になっている暴れ者の酒呑童子や、ヘルヘイムが目覚めたとばっちりで、大切な花壇を壊されたことを恨む、クレーマーのエルマなどである。しかし、田中が彼らを拒否することはない。「客にとってホテルは第二の家」「ホテルスタッフは客の家族」という田中の接客で、頑(かたく)なだった客の心もほぐれていく。客やスタッフが抱える様々な悩みや頑固な心を解決する、人間ドラマ的な要素も本作の魅力である。
登場人物・キャラクター
田中 (たなか)
こけしのようなおかっぱ頭が特徴の伝説のホテルマン。身長は173センチメートルで、瞳と髪は黒色。好きなものは狭いところ、緑茶、抹茶など。「最上のコンシェルジュ」として世界各地のホテルを渡り歩いたホテル再興請負人。地上の三流ホテルをすべて再興した3日後に死亡。そして冥界でも腕をふるい、冥界中の三流ホテルを消し去った後、再び消息を絶った。それから数百年後、「ホテルヘルヘイム」の支配人からの依頼で、同ホテルの救世主として突如姿を現した。桁外れの交友関係や、ツボ刺激による「礼」の強制、マッサージや姿勢矯正、化粧などで別人に仕立てるといった、魔法のような技を多数持つ。
メイ
「ホテルヘルヘイム」の支配人の孫で、頭部左右の角が特徴の女性。身長は153センチメートル。髪と瞳はダークピンクで、好きなものは、和菓子とお昼寝。ヘルヘイムの従業員として働いていたが、ある日突然、祖父からの手紙で支配人になる。ドジでマヌケなヘタレパシリだが、ホテルを心から大切に思って働き続け、ものすごく細かい業務日誌を書き続けてきた。そのためホテルのスタッフについて知らないことはなく、田中に支配人としての素質があると認められた。
副支配人 (ふくしはいにん)
「ホテルヘルヘイム」の副支配人の男性。尖(とが)った耳と両頰の縫い目が特徴で、両腕を組むクセがある。身長は185センチメートルで、髪は黒紫で瞳は金色。好きなものは、高価なものとかたい食べ物。隙あらば横になりたい、やる気はドブに捨てた、という「ミスター傍観者」。ヘルヘイムの金庫番であり、何事も金が優先である。
書誌情報
ホテルヘルヘイム 全2巻 秋田書店〈少年チャンピオン・コミックス〉
第1巻
(2019-12-06発行、 978-4253225144)
第2巻
(2020-01-08発行、 978-4253225151)