世界観
戦争や圧政のない、真に民が幸せに暮らせる世界の創造がテーマ。大高忍が作者の『マギ』とまったく同じ世界が描かれており、『マギ』本編に登場するシンドバッドをはじめとしたキャラクターたちの過去の姿や、彼らとシンドバッドの出会いが多数語られる内容となっている。
あらすじ
第1巻
軍事国家パルテビア王国は、大戦による勝利でお金と領地が増え、国民達はその熱に浮かされていた。しかし、この戦争の生き残りで、パルテビア郊外のティソン村に住むバドルだけは、この現状に疑問を感じていた。そんなある日、バドルは3歳の息子のシンドバッドと共に海に出るが、その途中で嵐に見舞われ窮地に陥る。だが、シンドバッドの出した指示に従った事で難を逃れるのだった。これによってバドルは、以前にも似たような事があった事を思い出し、シンドバッドであれば正しい運命を選び取り、世界を変える男になれるのではないかと思うのだった。それから2年後、「パルテビア帝国」と名を変えたパルテビアはレーム帝国との戦いに苦戦し、国民はすっかり疲弊していた。そして、戦争に非協力的なバドルのような人間は「非国民」と呼ばれ、差別を受けるようになっていた。そんなある日、5歳のシンドバッドは行き倒れになっていた男性のダライアスを助け、自宅でしばらく面倒を見る事になる。しかしダライアスは、レーム帝国のスパイだった。バドルはスパイをかくまった罪で強制出兵させられるが、シンドバッドは、バドルの勇敢で何者にも屈しない姿を見て、将来バドルのような男になる事を誓うのだった。
第2巻
バドルの戦死から9年が経ち、シンドバッドは14歳になった。9年前はバドル一家を非国民呼ばわりしていたティソン村の人々とも今は和解し、シンドバッドは病床の母親、エスラを支えながらも、一向に終わらない戦争に怒りを感じていた。そんなある日、シンドバッドは謎の若い男性、ユナンと出会い、最近とある海峡に現れた謎の建造物「迷宮(ダンジョン)」を攻略すれば、人知を超える力を手にできると教えられる。早速、その迷宮「第1迷宮 バアル」に挑むシンドバッドだったが、そこには以前シンドバッドに暴力を振るって強制出兵させようとしたドラコーン(ドラグル・ノル・ヘンリウス・ゴビアス・メヌディアス・パルテヌボノミアス・ドゥミド・オウス・コルタノーン)も訪れていた。それでも協力しながら最奥までたどり着いた二人は、そこにいた憤怒と英傑のジン「バアル」の力をどちらが手に入れるか決めるため、決闘する。そしてシンドバッドが勝利し、彼は全世界初の迷宮攻略者となるのだった。しかし、シンドバッドにとって数時間のこの冒険は、外では2か月もの月日に相当していた。シンドバッドがティソン村に戻った直後、容体が悪化していたエスラは死亡。シンドバッドはエスラの、自由に生きてほしいという願いのためにも、旅立つ決心をする。
第3巻
海へと旅立ったシンドバッドは、イムチャックの兄妹、ヒナホホとピピリカと親しくなり、イムチャックへ招かれる。しかしヒナホホは、自分の成人の儀をシンドバッドが手伝いすぎた事により、自分は成人として認められるに値するのか疑問を感じていた。一方その頃、ドラコーンは、第1迷宮での失敗を取り戻すためシンドバッドを追う中、イムチャックに「第6迷宮 ブァレフォール」が出現した事を知る。同時期にこれを知ったシンドバッドは、迷宮は非常に危険であるため封鎖してほしいと、ヒナホホ達の父親である族長に頼む。しかし、迷宮を攻略すれば一人前の男性になれるのではと考えたヒナホホは、翌日シンドバッドを置いて、一人ブァレフォールへ向かうのだった。このままではいけないと判断したシンドバッドはすぐに追うが、ここへはドラグルとその仲間の四人も到着していた。シンドバッドはそれを知らぬままヒナホホと合流して先へ進むが、ようやく落ち着いたところでドラグル達と鉢合わせる。
第4巻
シンドバッドとヒナホホは、迷宮内のトラン語が読めなかった事によりドラコーン達に先を越されてしまった。これによってドラグル達は虚偽と信望のジン「ブァレフォール」と対面するが、ブァレフォールは強い望みを持つ主、つまり王を求めており、国の意向に従うだけのドラグルは王の器ではないと一蹴する。そこにシンドバッド達も到着し、ブァレフォールは、立候補した六人のうち、自分の分身を捕まえた者を我が王にすると言い出す。この試練にはシンドバッドが勝利し、シンドバッドはジンの力を活用して、世界中をつなげる新しい国を作ると宣言。残る五人に、自分の仲間になってほしいと勧誘する。しかしその中のジャーファル、ヴィッテル、マハドが賛同した瞬間、先ほどブァレフォールによって退去させられた魔導師のファーランの闇の魔法が発動。三人を化け物に変えてしまう。さらに現れたファーランの分身を通じてドラグルは、自分はすでに戦死扱いであり、パルテビア帝国に居場所はない事を知る。ドラグルは、そんな決断を下した兄のバルバロッサに復讐を決意。シンドバッド達三人は協力して化け物に立ち向かい、見事ジャーファル達を救出する。
第5巻
ジャーファル達を救った事により、ブァレフォールの王は満場一致でシンドバッドに決定した。こうして迷宮を脱出した一行はイムチャックへ戻るが、ドラコーンだけは、セレンディーネ(セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビア)を案じてパルテビアに戻る。そして翌日、シンドバッドはヒナホホと共に、イムチャックの首長、ラメトトに謁見。ラメトトにヒナホホとルルムの婚姻と長期不在を認めさせたのち、イムチャックとの独占交易権と、イムチャック製の貨物船を獲得する。シンドバッドは自分の国の建国資金を得るため、迷宮で手に入れた財宝を資本に貿易商団を設立。イムチャックには、最初の交易国になってほしいと考えたのである。この契約は成立し、シンドバッドは冒険者としてだけでなく、商人としても活動を始めるのだった。1か月後、レーム帝国のナーポリアに到着したシンドバッド達は、早速商売を始めるがつまづいてしまう。そこでシンドバッドはヒナホホ達に仕入れを任せて一人残り、レームの商行為すべてを管理する「レーム商人組合」の許可を受けるべく調査を始める。その直後、シンドバッドは海洋国家バルバッド王国から来た貿易商人のハールンと出会う。
第6巻
ハールンの正体は、バルバッド王国の国王、ラシッド・サルージャであった。彼の出した条件を見事クリアしたシンドバッドは「レーム商人組合」に認められ、「シンドリア商会」を設立。戻って来たヒナホホ達を驚かせる。一方その頃、パルテビア帝国に戻ったドラコーンは、セレンディーネと再会したものの、バルバロッサに殺されてしまう。しかし、バアルの力によってシンドバッドの眷属となっていたドラコーンは、竜の姿になって蘇生。これを面白がったバルバロッサに見逃されたのち、セレンディーネとその従者であるサヘル、タミーラと共にパルテビアを去るのだった。そして時は流れ、16歳になったシンドバッドは新たな交易国に「ササン王国」を選び、ヒナホホとジャーファルを連れて訪れるが、あっさり断られてしまう。そこでシンドバッドは、騎士王であり迷宮攻略者であるダリオス・レオクセスと直接交渉。現在迷宮攻略者、つまりジンという強大な力を従える者が増えた事により、ジンを正しく扱いきれていないダリオスでは、いずれササンを危険に晒してしまうと指摘し、協力を申し出る。ダリオスはこれに合意し、シンドリア商会との交易と、息子のミストラス・レオクセスがシンドバッド達に同行する事を許可する。
第7巻
シンドバッド達は、新たな仲間にミストラス・レオクセスを加え、次なる国、アルテミュラ王国へたどり着いた。しかしシンドバッドは女王のミラ・ディアノス・アルテミーナの不興を買い、ジャーファル、ミストラスと共に全裸で「死者の谷」へ落とされてしまう。こうしてヒナホホと分断された三人は、これまで誰一人戻って来なかったという死者の谷の攻略をするうち、毎晩なぜか加工された生肉が落ちて来る事に気づく。これはアルテミュラ独特の鉱石採取方法で、国民は鉱石のある地域に生肉を落としては鳥達に回収させ、生肉に絡んだ鉱石を集めていたのである。これを知ったシンドバッド達は、生肉に乗って鳥に回収してもらう事で脱出するのだった。こうしてアルテミュラに戻ったシンドバッドは、もう一度ミラに謁見し、苛烈と妖艶のジン「ケルベロス」の主であるミラと戦って圧勝。シンドバッドを敵に回すべきでないと判断したミラは、シンドリア商会と正式に手を結ぶ。そしてアルテミュラの外交官、パルシネ・プラテミアを新たな仲間に加えたシンドバッド達はレーム帝国に戻り祝杯をあげるが、その直後、異形と化したドラコーンが、仲間と共にシンドリア商会にやって来る。
第8巻
シンドバッドは、ドラコーン達の1年にもわたる苦しい日々を知り、彼ら四人をシンドリア商会の一員として迎え入れる事にした。しかしプライドの高いセレンディーネは、これに感謝しつつも素直になれず、苦悩していた。その翌日、シンドリア商会へ町の警吏が訪れる。警吏曰く、現在シンドリア商会は多額の借金を抱えているうえに、期限になってもそれを返済していないのだという。驚いたシンドバッドがヴィッテルに尋ねると、ヴィッテルはシンドバッドが不在のあいだに「マリアデル商会」に騙され、詐欺に遭った事を告白。これに怒ったシンドバッドは、マリアデル商会の饗宴に赴き、当主のマーデル・オーマ・マリアデルに真相を尋ねる。そして、シンドバッドが、マリアデル商会が経営する闘技場の参加者になる事で、借金をチャラにする約束を取り付けるのだった。これはもしシンドバッドがマーデルの用意した剣闘士に負けた場合、マーデルの奴隷になるという危険なものだった。そして、このところ絶好調のシンドバッドは、慢心により敗北し、奴隷にさせられてしまう。
第9巻
シンドバッドは、マーデル・オーマ・マリアデルの用意した剣闘士のマスルールに敗北し、マリアデル商会の奴隷として心身共にいたぶられていた。一方その頃、ジャーファル達シンドリア商会の面々は、どうにかシンドバッドを救出すべく策を練っていた。そのうちジャーファルは、自分達がバルバッド王国の国王であるラシッド・サルージャと親しい事を生かした作戦を思いつく。そんな事はつゆ知らぬシンドバッドは、マーデルに完全に支配され、脱出する意欲もなくしていたが、マスルールの誇り高い姿を見るうち、このままでいいのかと疑問を抱くようになる。そんなある日、奴隷長のファティマーが出荷され、シンドバッドはこれが奴隷の末路だという事、自分が奴隷に落ちたのは己の慢心が原因である事を理解し、脱出を決意。奴隷達を集め、彼らの洗脳を解いて反乱を起こさせる。同時期にジャーファル達はマーデルを騙す事に成功し、彼女から奴隷達を含めた資産のほぼすべてを奪う契約を成立させていた。マーデルはこれに怒り狂いながらも、約束を果たすべく奴隷達を早速売却しようとするが、その時にはもう反乱が始まっていた。こうしてなにもかもを奪われたマーデルは負けを認め去って行くが、この反乱の代償として、多くの奴隷達が死亡。これでは自分もマーデルと同じではないかと感じたシンドバッドは、己に絶望しかける。
第10巻
シンドバッドはジャーファルに殴られた事で、たとえ自分の手を汚してでも、理想の世界を作る決意を新たにした。こうしてシンドバッドはついにシンドリア商会に戻り、セレンディーネともようやく打ち解け、マスルールをはじめとする、身寄りのない奴隷達を引き取る。しかしマスルールは、今後どのように生きていけばいいかわからず、悩んでいた。そんなマスルールにヒナホホはアドバイスし、これによってマスルールは、シンドバッドについていく決意をする。その後シンドバッド達は、シンドリア商会をバルバッド王国へ移転し、ラシッド・サルージャに謁見。建国を決意した事を伝える。だが問題は、その国土だった。ラシッドから、レーム帝国南方の未開の地「暗黒大陸」であれば、国土にふさわしい場所があるかも知れないと聞いたシンドバッドは、ジャーファル、ヒナホホ、ミストラス・レオクセス、ドラコーン、マスルールの五人を連れて早速向かう。そこでまず最初に神秘の国、エリオハプト王国に到着したシンドバッド達は、現在エリオハプトは先王の崩御をきっかけに、国が先王派と現王派に割れてしまっている事を知る。
第11巻
エリオハプト王国で多発している突然死「呪い」とは、先王派であり、第二王子のシャルルカン・アメン・ラーこそが国王にふさわしいと主張するパトラ・アメン・ラー達による毒殺だった。これを収めるには、王家の墓に書かれた先王の遺言を確認し、先王が現王のアールマカン・アメン・ラーとシャルルカン、どちらを後継者に指名したかを確認するしかない。しかし現在王家の墓は迷宮と化しており、これを攻略しなくては遺言が読めない状態にあった。そこでシンドバッド達は先王派から、迷宮を攻略すれば交易権を与えてやると言われ、攻略を開始。あとからエリオハプトに着いたセレンディーネ達も加えた九人で、精神と傀儡のジン「ゼパル」と対面する。そんなゼパルからの試練は、王候補であるシンドバッドではなく、シンドバッドの仲間八人の力を試すというものだった。それは、最初こそヒナホホとミストラス・レオクセスに試合をさせるという真っ当なものであったが、次はジャーファルとマスルールに殺し合いをさせるという過激なものに代わり、二人はこれを切り抜けたものの、シンドバッドは激怒。力ずくで無理やりゼパルを従わせようとする。しかしその時タミーラは、シンドバッドだけではなく、セレンディーネも王候補になれないかと質問する。
第12巻
タミーラの質問により、ゼパルのもう一人の王候補となったセセレンディーネは、シンドバッドと議論で勝負する事になった。議題はゼパルの力を手にした場合、自分はその力をなにに使うかというものだったが、セレンディーネは自分とシンドバッドが結婚し、お互いに迷宮攻略者の夫婦として、自分がパルテビア帝国の女王、シンドバッドが指導者になるのが最善ではないかと言い出す。これに揺らいだシンドバッドは敗北し、ゼパルはセレンディーネのものとなるのだった。こうして迷宮は元の場所へ帰り、王家の墓は復活。シンドバッド達とエリオハプト王国の王族達は、揃って先王の遺言を見に行く。しかしそれは、この慣習は自分の代で終わらせるので、次の王はアールマカン・アメン・ラーと、シャルルカン・アメン・ラーで話し合って決めてほしいというものだった。これに動揺したパトラ・アメン・ラーは、口を滑らせて罪を自白。エリオハプトはレーム帝国の機嫌を取っていないと存続できないので、保守的にならざるを得ないと思っていた事を語る。そこでシンドバッドは、自分が主導する国際同盟「七海連合」に加盟すれば、エリオハプトを守ると提案。パトラ達はこれを飲み、国内での居場所を失ったシャルルカンは、安全のためにもエリオハプトを離れ、シンドバッドに同行する事が決まる。
第13巻
エリオハプト王国を出たシンドバッド達は、少数民族トラン族の暮らすトランの村に到着した。しかしトランの村の村長から、すでに暗黒大陸のファナリスは壊滅したと聞かされたマスルールは、ショックで飛び出してしまう。心配したシャルルカン・アメン・ラーはマスルールを追いかけ、二人はファナリスの村跡に到着。シャルルカンは悲嘆にくれるマスルールを励ますが、その直後、マスルールが奴隷商人の一団を発見。このままではトランの村の人々が危ないと判断した二人は、彼らと戦う。そして二人は見事勝利し、これを見たトランの村の村長は、シンドバッドから説得を受けた事もあり、シンドバッド達を信頼するようになるのだった。こうして暗黒大陸での冒険は終わり、シンドバッド達がレーム帝国まで戻ると、そこには先に帰ったはずのセレンディーネが、偉大な魔法使いである「マギ」のジュダルと待っていた。ジュダルはゼパルを得たセレンディーネを自らの王とし、早速パルテビア帝国を取り戻そうと持ち掛けたのだが、セレンディーネがシンドバッド抜きに話は進められないと言ったため、待っていたのだった。
第14巻
シンドバッドは、ジュダルからパルテビア帝国内で行われている粛清の噂を聞き、ラシッド・サルージャの護衛としてパルテビアに向かう事になった。そこでシンドバッドは、パルテビアの元左府将軍であり、現在は政党「独立国民党」の党主であるバルバロッサに出会い、彼に直接国内を案内してもらう事になる。これがきっかけでバルバロッサはシンドバッドを気に入り、翌日からもシンドバッドを連れまわす。そして二人は親しくなり、最終的にバルバロッサは自分が次の選挙に勝ち、政権党についた暁には、パルテビア領の一部を商業特区として、シンドバッドに与えると約束するのだった。こうしてついに自国の国土候補を見つけたシンドバッドは、バルバッド王国に戻り、仲間達にバルバロッサと手を組む意向を伝える。しかし、セレンディーネだけは納得できずにいた。ジュダルはそんなセレンディーネに、このままではゼパルの王になる前となにも変わらないので、ゼパルの入った金属器の正しい使い方を教えてやると言い出す。そして力を会得したセレンディーネはシンドバッドと試合をし、その途中に周囲の全員を眠らせるが、これは単なる眠りの術ではなかった。
第15巻
シンドバッドは、噂通りバルバロッサが国民の粛清を行っていただけでなく、ティソン村の人々で人体実験を行い、殺した事を知りながら、パルテビア帝国と同盟を結んだ。やはり納得できないセレンディーネは、シンドバッドはバルバロッサに騙されているだけだと説得しようとするが、シンドバッドは耳を貸さず、二人は険悪になってしまう。そんなある日、パルテビアの魔導士のファーランが、単身シンドリア商会へやって来る。なにか特別な話があるらしいと察したシンドバッドは二人きりで会い、ファーランから、シンドバッドはこの世の運命を変える「特異点」である事を伝えられ、さらに謎の武器を渡される。その直後、セレンディーネはサヘルとタミーラを連れてシンドリア商会を去り、シンドバッドは建国に向けてますます忙しい日々を送るのだった。1年後、シンドバッド達は3か月に自国「シンドリア王国」の建国式典を控え、パルテビアは総統になったバルバロッサによって、さらに発展していた。しかし、これを快く思わぬパルテビア国民は反乱軍を結成し、国内の主要施設の襲撃や独立国民党党員への攻撃をするようになっていた。
第16巻
バルバロッサは、国内での不穏な動きを考慮して、シンドリア王国の建国式典は中止するように命じた。式典をなによりも楽しみにしているシンドバッドはこれを断り、バルバロッサは、国外からの来賓はなくすという条件で許可する。そしていよいよ式典当日、シンドバッドは集まった国民達に演説を始めるが、突如その身に異変が起こる。自らの意志を奪われたシンドバッドは、現在バルバロッサは国民に「粛清」という名の大虐殺を行っており、これを許せない自分は、パルテビア帝国の現王・セイラン・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアと共に、バルバロッサを討ち取ると宣言。バルバロッサに襲い掛かり、大ケガを負わせる。これは、以前セレンディーネがシンドバッドにかけた、精神干渉の術によるものであった。バルバロッサはメンフィス達四天将軍と共に逃げ出し、その後シンドバッドは意識を取り戻したものの先ほどの記憶がなく、セレンディーネから式典で起きた事を伝えられる。直後、バルバロッサはシンドリア王国に宣戦布告し、迎え撃つほかなくなったシンドバッドは、戦いの準備を始める。
第17巻
バルバロッサらパルテビア帝国軍の作戦は、小さな島であるシンドリア王国を、極大魔法によって島ごと沈めるというものだった。そこでシンドバッド達は、シンドバッドがバルバロッサを倒し、残った者達で国民を島外避難させつつ、入り込んで来たパルテビア軍と戦う事にする。まずヒナホホは強敵のザイザフォンを単身引き受け、次にミストラス・レオクセスとピピリカは、敵を島に侵入させないよう、橋を落としに行く作戦に出る。しかし、そこに暗殺集団「シャム=ラシュ」までもが立ちふさがり、ミストラスが大ケガを負ってしまう。一方その頃、シンドバッドとセレンディーネはバルバロッサに追いつくが、彼の持つジン「グラシャラボラス」によって、ジンを収めている金属器を破壊され、戦力を大幅ダウンさせられてしまう。さらにここでジュダルの裏切りが発覚し、メンフィスも参戦。セレンディーネがこの二人を引き受け、シンドバッドはバルバロッサを追う事になる。しかしシンドバッドがとうとうバルバロッサを追い詰めた瞬間、ファーランが現れて自らの目的を果たすため、シンドバッドを絶望させようとする。
第18巻
シンドバッドはファーランを退けたが、ミストラス・レオクセス、ヴィッテル、マハド、タミーラ、ルルムは死亡した。これによってヒナホホは怒りに飲まれ、化け物に変貌しそうになる。しかし、それを止めたのはどらこーった。ヒナホホは正気を取り戻して、敵艦隊を鎮圧。ついに逃げ道ができた事で、シンドバッド以外の生存者はシンドリア王国を脱出する。そして一人残ったシンドバッドは、ファーランと対峙。しかしファーランは、この戦いで死んでいった人々が生んだ「黒いルフ」を利用して、別次元につながる「暗黒点」を開き、「神(イル・イラー)」を降臨させようとする。しかしそれは失敗し、神はその依り代ごとシンドバッドに吸収される。そしてシンドバッドを乗っ取った者、ダビデは、ファーランを殺害。ダビデはシンドバッドという「特異点」とつながった事でひとまず目的を果たし、去っていくのだった。同時に暗黒点も閉じるが、セレンディーネはファーランの計画の一部として利用されていたために死亡。戦いは終わったが、シンドリア王国は滅ぶのだった。
第19巻
戦いは終わったものの、その身に「黒いルフ」を宿したままのシンドバッドは、非常に危険な状態にあった。そこでシンドバッドは、東方の少数民族「ヤンバラ」に弟子入りし、「魔力操作(マゴイそうさ)」を会得する事で黒いルフを制御しようとする。そしてシンドバッドは、ヤンバラの人々と、修行の途中で出会った魔導士のヤムライハの力を借り、見事魔力操作を会得。ヤムライハを新たな仲間に加え、シンドリア商会のあるバルバッド王国へ戻るのだった。こうして1年ぶりに仲間と再会したシンドバッドは、これまでに獲得したジン、バアルとブァレフォールに加え、セレンディーネから譲り受けたゼパルの力を借りて、シンドリア王国を再建する意向をみんなに伝える。ジャーファル達はこれに驚くものの最終的には賛同し、シンドバッドは建国作業開始前の最後の仕事として、パルテビア帝国を訪れる。そこには、失脚して別人のように変わり果てたバルバロッサがいた。シンドバッドはそんなバルバロッサを倒し、セイラン・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアが改めて即位できるよう後見人を務める。こうしてパルテビアは王政に戻るのだった。そして新しい国土を南海の孤島に決めたシンドバッド達は、再建を開始する。
メディアミックス
TVアニメ
2014年5月から、コミックス第3巻から6巻に同梱される形でOVAが制作された。主なスタッフは、監督が宮尾佳和、脚本が岸本卓、キャラクターデザインが佐古宗一郎となっている。なお、3巻には『迷宮バアル攻略編 前篇』、4巻には『迷宮バアル攻略編 後篇』、5巻には『迷宮ブァレフォール攻略編 前篇』、6巻には『迷宮ブァレフォール攻略編 後篇』が収録されている。キャストは、主人公のシンドバッド役を小野大輔、ドラグル・ノル・ヘンリウス・ゴビアス・メヌディアス・パルテヌボノミアス・ドゥミド・オウス・コルタノーン役を杉田智和、ユナン役を石田彰が務めている。また、2016年4月からはテレビアニメがスタート。主なスタッフ、キャストは、OVA版と同じ顔触れが予定されている。
キャラクターブック
2016年6月、本作『マギ シンドバッドの冒険』の公式ファンブック「マギ シンドバッドの冒険 公式ファンブック:チーム・シンドリア今昔物語」が発売された。こちらはシンドバッドと、その最強の仲間であるヒナホホをはじめとする「八人将」の総勢九人が、いかに出会い、いかに成長していったのかを取り上げた特集や、原作者の大高忍と、『マギ シンドバッドの冒険』の作画を担当した大寺義史の座談会、そしてアニメでシンドバッド役を演じた小野大輔の特別インタビューに加え、本作のプロトタイプ版である『シンドバッドの冒険 ~プロトタイプ~』も掲載されている。
登場人物・キャラクター
シンドバッド
父譲りの紫色の長髪をひとつに束ねた少年。『マギ シンドバッドの冒険』では3歳からの成長が描かれている。パルテビア帝国ティソン村出身。圧政に苦しむ国民の姿と戦争の虚しさを知り「世界を変える王の力」を手に入れるべく迷宮に挑み、やがて世界を股にかけた壮大な冒険の旅に出ることになる。常人にはない「正しい運命」を読み取る不思議な力を持っており、本人はそれを「波」と呼んでいる。
ユナン
シンドバッドがコンスタンティア港で知り合う不思議な男性。長い金髪を三つ編みにし、魔法使いのような服装をしている。おっとりと穏やかな人物だが、どこか浮世離れした雰囲気がある。シンドバッドに迷宮の存在を知らせ、その運命を大きく変える存在となる。
ドラグル・ノル・ヘンリウス・ゴビアス・メヌディアス・パルテヌボノミアス・ドゥミド・オウス・コルタノーン
パルテビア帝国将軍ドラグル家の末子。長髪をオールバックにした、プライドが高く強い愛国心を持つ人物。西方辺境部隊小隊長として働いていたが、迷宮攻略部隊の指揮官という危険な任務に抜擢される。セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアに幼少期から仕えており、一見姉弟のような関係だが、それ以上の気持ちで彼女を慕っている。シンドバッドからは「ドラコーン」と呼ばれている。父はドラグリエル・ヘンリウス・ノドミス・ペルテゴミドゥス将軍。
セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビア
パルテビア帝国の第1皇女。桃色の髪をカチューシャでまとめた聡明で剛毅な人物。美貌を誇りながら戦場では積極的に戦い、毒物の扱いに長けていることから敵国には「パルテビアの毒蜘蛛姫」と呼ばれ恐れられている。ドラグル・ノル・ヘンリウス・ゴビアス・メヌディアス・パルテヌボノミアス・ドゥミド・オウス・コルタノーン(ドラコーン)とは幼少期から姉弟同然に育ち、現在でも幼名の「Jr.」と呼ぶことも。弟扱いしつつもドラコーンをとても大切に想っており、いつか彼と背中を預け合って一緒に戦う約束をしている。ドラコーンの兄であるバルバロッサとの婚姻が決まっている。
ヒナホホ
イムチャック族の青年。ピピリカの兄。非常に大きく屈強な身体とは裏腹に、やや気が弱く自分に自信がない。イムチャック伝統の「成人の儀」に挑戦していたが、なかなか成功できずにいたところに、シンドバッドと知り合う。年齢は21歳で成人済みだが、出会った当初は「成人の儀」を終えていないことで成人名を与えられる前の状態にあり、「名無し」としてシンドバッドに紹介された。青い髪を長く伸ばしている。
ピピリカ
イムチャック部族の少女で、ヒナホホの妹。青い髪を短く切り、もみあげのところだけ伸ばした髪型をしており、兄とは対照的な元気な性格。年齢は13歳だが、シンドバッドよりも圧倒的に背が高い。兄のことを「ダメ兄ぃ」と呼びつつも非常に大切に想っており「成人の儀」でも協力している。絵を描くことが苦手。
ジャーファル
隠密部隊「シャム=ラシュ」の筆頭を務める少年。包帯を巻いて口元を隠した、残忍で乱暴な性格の人物。両親を自らの手で殺した過去があり、組織の過酷なルールの中で、常に自らの力を示すことで生き残って来た。両腕に赤い紐を巻き、先に暗器をくくりつけている。包帯を外すと、鼻のところにそばかすがある。
ヴィッテル
隠密部隊「シャム=ラシュ」に属し、ジャーファルと共に行動する少年。長身で鼻に傷があり、誰にでも敬語で接する人物。身体と同じほどの大きさの巨大な剣を操り、両腕を自在に伸縮させる力を持つ。ジャーファルのことは「筆頭」と呼ぶ。
マハド
隠密部隊「シャム=ラシュ」に属し、ジャーファルと共に行動する男性。長髪に帽子をかぶり、全身傷だらけの大柄な人物。非常に寡黙で、攻撃を加えられても顔色ひとつ変えないほど心の内が読みにくい。常人離れした高い腕力があり、筋肉を膨張させることで素手で壁を掘り進められるほどの力がある。
ファーラン
パルテビア帝国の顧問魔導士。網目状の布で口元を隠し、目を閉じたまま行動する女性。慇懃で落ち着いた人物だが、底が知れないところがある。非常に優秀で、とてつもない威力の魔法を扱うことが可能。
ルルム
イムチャック族の女性で、ヒナホホの想い人。イムチャック首長ラメトトを父に持ち、彼に完璧なまでに育て上げられた。可憐で教養深く、戦士としても優秀な上、イムチャックで一番の美人と呼ばれるほどの容姿を持つ。同性のピピリカも憧れるほどで、求婚してきた男性は、これまでに300人を超えている。
ラメトト
イムチャック族首長を務める男性で、ルルムの父親。顔に十字の傷を持ち、長い髭を三つ編みにしている。娘を大切に想っており、彼女に求婚する人物に「娘に何を与えられるか」を問う。シンドバッドからは、ある交渉を持ちかけられる。
ラシッド・サルージャ (らしっど さるーじゃ)
バルバッドの貿易商人「ハールン」と名乗っていた。長髪にひげを蓄えた、上品な雰囲気の男性。万引きの疑いをかけられていたところをシンドバッドに助けられたのがきっかけで知り合う。商売の知見を広めるためレーム帝国ナポーリアを訪れたと語っていたが、言葉遣いやしぐさ、持ち物から、高貴な身分の人間であることがうかがえた。その正体はバルバッド王国の国王だった。
バルバロッサ
パルテビア帝国将軍ドラグル家の長子で、ドラグル・ノル・ヘンリウス・ゴビアス・メヌディアス・パルテヌボノミアス・ドゥミド・オウス・コルタノーンの兄。右耳のみにピアスをつけ、緑色の髪の冷酷な雰囲気の人物。パルテビア帝国の左府将軍を務め、次期皇帝になるという目的のためには残忍な決断も辞さない恐ろしさがある。セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアの婚約者でもある。
サヘル
セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアの侍女の一人。ふんわりした髪の頂点にお団子を一つ作った髪型の、細い目の人物。風の魔法の使い手で、有事の際には戦うこともできる。セレンディーネを想うあまりに己を犠牲にするドラグル・ノル・ヘンリウス・ゴビアス・メヌディアス・パルテヌボノミアス・ドゥミド・オウス・コルタノーンのことを案じている。
タミーラ
セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアの侍女の一人。短い髪の筋肉質な女性で、サヘルよりも年若い印象がある。格闘技に長けており、有事の際には戦闘にも参加できる。サヘル同様セレンディーネを強く慕っており、もう仕えられなくなるという話を聞いた際には涙を流した。
ロッター
パルテビア帝国四天将軍の一人。動物を使役することができ、多数のネズミを操るのを得意とする少年。ネズミたちを自分の周りに集合させて、一体化した巨大な一匹のネズミとして戦わせる力を持つ。ネズミたちを友達同然に大切にしており、彼らを傷つけられると激昂する。
ミストラス・レオクセス
ササン王国に暮らす騎士見習いの少年。外にはねた長めの髪に、ターバンを巻いた人懐っこい雰囲気の人物。外の世界に強い憧れを持っており、旅人のシンドバッドたちから話を聞こうと外国人用商業施設に現れる。自国に嫌気がさしており、このままササンで息を詰まらせて生きるくらいなら、広い世界で死にたいと考えている。
ダリオス・レオクセス
ササン王国の騎士王。長めのふんわりとした髪にターバンを巻いた、厳格な雰囲気の人物。ミストラスが外の世界に関心を抱いていることを快く思っておらず、正式な騎士団入団を機に諦めさせようとしている。迷宮攻略者でもあり「アロセスの力」を得ている。
スパルトス
ミストラスの弟。おかっぱ頭に、左目が隠れるほど前髪を伸ばした8歳の少年。兄を心から尊敬しており、周囲から奇異の目で見られても気にせず、外の世界に出るための努力を重ねている彼の姿をいつも見ていた。一方で兄に距離を置かれていることに気づいており、大切な話を伝えてもらえないことを悲しんでいる。
ミラ・ディアノス・アルテミーナ
アルテミュラ王国の女王。顔に鳥の絵の入れ墨を掘った、金髪のやや高飛車な人物。強く優秀だが男性を軽視しており、彼らのことを「実利を考えず不真面目で怠け者。子孫を残すためのつなぎでしかない存在」と捉えている。迷宮攻略者でもあり「ケルベロスの力」を得ている。7人の娘がいる。
マーデル・オーマ・マリアデル
レーム帝国「マリアデル商会」の当主。長いウェーブヘアに、ツノのようなアクセサリーをつけた女性。一見母性的だが言動は支配的。レームでリア・ヴェニス島を運営する傍ら、世界有数の奴隷商人としての側面を持っており、奴隷たちを自らが定めた等級に応じて仕分け、育成や売買を行っている。
マスルール
リア・ヴェニス島で知らぬ者はいない、闘技場の優秀な戦士。まだ幼い無口な少年だがすさまじい腕力を持ち、両足に重りをつけた状態で身体よりも大きな剣を自在に振るうことができる。その圧倒的な強さから、「赤き猛獣」の異名がつけられている。
ファティマー
マーデルの代理として奴隷の選別を行う奴隷長の青年。長髪を一つに束ねている。マーデルに従順に尽くし、彼女こそが自分のすべてであると心酔している。一方で他の人間には冷たく、攻撃的な態度をとる。
バドル
シンドバッドの父親でパルテビア帝国人。シンドバッドと同じ紫色の髪をした、おおらかで心優しい人物。戦争に対しては懐疑的で、出兵した際の経験から、二度と戦争には関わらないと決めている。戦争で左足を失い、杖をついているが、戦士としての実力は本物。本来の職業は漁師。
エスラ
シンドバッドの母親でパルテビア帝国人。赤紫色の髪の毛を三つ編みにした暖かい雰囲気の人物。夫を「非国民」と罵られる現状を苦しく思っている。夫と息子を支えながら懸命に暮らしていたが、シンドバッドが14歳の時病に倒れ、薬がないと生きられない身体になってしまう。
ダライアス
シンドバッドが5歳の時に出会う男性。金髪をオールバックにしてカチューシャでまとめた、鼻のところに傷のある人物。様々な地への冒険経験があり、非常に物知りで話し上手。偶然知り合ったシンドバッドに毎晩物語を話して聞かせ、彼を楽しませる。自らを「流れの商人」と語っている。
アバレイッカク
シンドバッドが出会う南海生物。本来南半球の一部にしか生息しないが、年に数度北上し、産卵のためイムチャック近辺の小島を訪れる。全身が硬い珊瑚に覆われており、大きな角があるのが特徴。肉は極上のタンパク源で、塩漬け、干し肉、腸詰めなど長期保存に優れている。骨と牙は船の建材に使用でき、皮やヒゲは衣服・縄・毛布に加工できる。脂肪からはゆうに樽10個分ほどの油が取れ、食用としても燃料としても使用できる万能の油として知られている。
ヤムライハ
マグノシュタット学院に通う魔導士の少女。前髪を目の上で切り、肩につくほどまで伸ばした青緑色のボブヘアにしている。面倒見のいい性格で、正義感が強い。マグノシュタット学院の生徒として学び、学院一の才女とまで呼ばれた秀才。しかし、ある日育ての親であり、マグノシュタット学院の学院長であるモタル・モガメッドを信頼できなくなり、このままでは自分が使える魔法や自分自身が利用されてしまうのではと考え、学院を離れる。一人で新生活を始めようとしていたところ、「魔力操作(マゴイそうさ)」の修行に来ていたシンドバッドと出会う。そして、シンドバッドの魔法の先生を引き受ける事となった。しかしその直後、シンドバッドの体が非常に危険な状態である事に気づき、一刻も早く魔力操作を習得させなければと考えて協力。これによってシンドバッドは自分自身の魔力を制御できるようになった。また、これを買われてシンドバッドの仲間となった。
ジュダル
偉大な魔法使い「マギ」の一人である幼い少年。煌帝国の神官を務め、迷宮「ゼパル」を作り出した張本人でもある。前髪を目の上で切り、床につくほどまで伸ばした黒髪を、頭の後ろで一本の三つ編みにしてまとめている。この髪の毛は、生まれてから一度も切った事がない。生意気で気の強い性格で、非常に好戦的。ある日、ゼパルがセレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアに攻略されたのを知り、彼女こそが自分の王であるとして接触する。そこでセレンディーネがパルテビア帝国の姫であると知り、現在バルバロッサによって支配されているパルテビアを取り戻そうと持ち掛ける。この時、セレンディーネが話し合いにシンドバッドも参加させるように求めた事で、シンドバッドたちと知り合った。その後はセレンディーネにゼパルの使い方を教え、何かあった時のために、シンドバッドにこっそり精神干渉の術をかけさせた。のちに、シンドバッドとの意見の対立により、セレンディーネがシンドリア商会を離れてからは、パルテビア帝国革命軍に入ったセレンディーネについて行く。しかし、セレンディーネがバルバロッサにせまった瞬間に、その正体を現してセレンディーネではなく、バルバロッサに付く。これは煌帝国の意向であり、セレンディーネを憎く思っての事ではなかったが、セレンディーネはこれをジュダルの裏切りと受け止め、二人は対立する事となった。
シャルルカン・アメン・ラー
エリオハプト王国の第二王子。年齢は9歳。正王妃であるパトラ・アメン・ラーの息子で、アールマカン・アメン・ラーの異母弟にあたる。前髪を目が隠れそうなほど伸ばして左寄りの位置で斜めに分け、胸の高さまで伸ばした、ウェーブがかった銀色のウルフカットヘアにしている。褐色の肌を持つ。シンドバッドと出会った頃は、非常におとなしい性格で無口だった。しかし、いっしょに旅をするようになってからは次第に明るくなり、シンドリア王国が南海の孤島に再建される頃には、シンドバッドのような男性を目指すあまり、彼に影響されてチャラチャラした性格になった。エリオハプトの王権争いにおいては、シャルルカン・アメン・ラーこそが王にふさわしいと考えるパトラたち先王派に悩まされる。しかし、シンドバッドたちがやって来た事で先王派の悪事が暴かれ、さらに父親のアテンクメンは、兄弟に話し合いで王を決めてほしいと思っていた事を知る。そこで、アールマカンとも話し合ったうえで自分は王にならず、さらにこのままエリオハプトにいては危険という事でシンドリア商会に身を寄せる事になった。マスルールとは年が近く仲がいいが、自分の方が年上で人生の先輩であるという点はゆずらない。
トランの村の村長 (とらんのむらのそんちょう)
世界中に分布する、トラン語をあやつる少数民族の村長を務める老齢な男性。トランの民は遅れた部族として迫害されているため、暗黒大陸南方に村を作って暮らしている。スキンヘッドに頭の周辺にだけ白髪を残し、口ひげを長く伸ばしている。非常に小柄な体型をしている。村の中で唯一、トラン語以外の言葉を話す事ができ、シンドバッドたちと意思疎通ができる。迫害され、すべてを奪われて来たトランの民の歴史により、非常に疑い深く攻撃的な性格になってしまっている。シンドバッドたちとは、彼らがファナリスの村を探して暗黒大陸を訪れ、その途中でトランの村に立ち寄ったのをきっかけに知り合った。当初はシンドバッドたちの事を信用できず戦いも辞さない構えだったが、シンドバッドとマスルールも以前奴隷であった事、マスルールとシャルルカン・アメン・ラーが、トランの村にせまる奴隷商人たちを捕えてくれた事により信頼する。その後、シンドリア王国が南海の孤島に建国し、その周辺に迷宮ができたがシンドバッドでは攻略できなくなってしまったのを機に、シンドバッドから、安全なこの地で、迷宮を監視しながら暮らすのはどうかと提案される。そして、これに乗って全員で引っ越した。
キール
「マリアデル商会」で飼われている奴隷の少年。マーデル・オーマ・マリアデルの側近を務める。前髪を目が完全に隠れるほど伸ばして左寄りの位置で分け、顎の高さで切りそろえた深緑色のボブヘアにしている。頭に金色の角飾りを付けている。右目はマリアデル商会に来た頃には、すでにほぼ失明していたために髪の毛で隠しており、左目の視力も落ち続けている。まじめな性格で、丁寧な口調で話す。しかし、マリアデルを慕うあまり、自分以外の奴隷を見下しており、特にファティマーとは仲が悪い。そのため、自分こそがマリアデルに一番気に入られている奴隷であると証明するため、競い合っているところがある。マリアデル商会に来た頃は今と違って凶暴で、管理者がそれを押さえつけるために暴力を振るった事で右目を失明した。しかし、マリアデルがそんなキールを、かえって扱いやすいと考えて引き取った事で側近となった。この時、生涯マリアデルについて行くと誓っており、やがてシンドバッドによってマリアデル商会が崩壊してからも、最後までマリアデルに付き従い、死亡した。
セイラン・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビア
パルテビア帝国の第32代皇帝。セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアの弟。前髪を目の上で切って真ん中で分け、腰まで伸ばしたロングヘアにしている。垂れ目で眉が太い。穏やかでおっとりとした性格で、体が弱い。父親を亡くし、セレンディーネがパルテビアを去ってからは強い孤独を感じ、大切な人を失う事におびえるようになる。結果、その寂しさをファーランに利用されてしまう。さらに、王位を継いだものの、国が立憲君主制となり、政権自体が議会に移った事から、セイラン・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアに実権はない。そのため、あくまで国の象徴として存在しており、実権をバルバロッサににぎられる事となる。
アールマカン・アメン・ラー
エリオハプト王国の第36代目の王。即位する前は第一王子であった少年。第二王妃の息子であるため、シャルルカン・アメン・ラーの異母兄にあたる。前髪を目の上でM字に切り、頭頂部の髪の毛を立てた銀色の短髪にしている。褐色の肌を持ち、両目の上から下にかけて、蛇のような形の刺青を入れている。先王アテンクメンの死後に即位して王となるが、アテンクメンが対外政策を行わず、諸外国との関係を閉ざしていたのに対し、アールマカン・アメン・ラーは世界情勢が大きく変わる今、このままでは遅れを取ってしまうと考え、外交政策に切り替える。これによって若い世代からの支持を得るが、保守的な老人たちから反発を受けるようになる。そのためエリオハプト国内は、現王である自分派と先王であるアテンクメン派に分かれてしまっている事に悩んでいた。さらに先王派であり、シャルルカンこそが王位にふさわしいと考えるパトラ・アメン・ラーたちが、現王派を「呪い」と偽って毒殺する行為まで横行し、この時に母親を殺害される。しかし、これがパトラたちによる犯行という証拠が得られずに困っていたところ、交易権を求めてやって来たシンドバッドたちと出会った。そしてシンドバッドたちに迷宮を攻略してもらい、アテンクメンの遺言が、次の王は兄弟で話し合って決めろというものである事を知る。そして話し合いの結果、これまで通り自分は王となり、このままでは危険な立場にあるシャルルカンは、シンドバッドに預けた。
パルシネ・プラテミア
アルテミュラ王国から派遣された外交官の若い女性。前髪を目の上で切って額飾りをつけ、お尻の高さまで伸ばしたロングヘアを、頭の高い位置で一つに結んでまとめたポニーテールにしている。左目の下に、翼の形の刺青がある。穏やかで落ち着いた性格ながら、怒ると非常に怖い。シンドバッドとは、シンドバッドたちがアルテミュラとの交易権を獲得した事で、同盟の代表者として、また交易体制を整えるための仲介として仲間に加わった。
ザイザフォン
パルテビア帝国のバルバロッサの私設戦闘集団の一員。その中でも強いとされる「四天将軍」の一人である男性。肩につくほどの長さのドレッドヘアを一つに結んでいる。全身に鎧を着ており、さらに肉体も鎧と一体化しているために顔は見えない。長年パルテビア軍に忠誠を誓い、ドラグル家とも縁故が深い。戦闘時は進軍の手を決して止めず、ザイザフォンの部隊が通ったあとは屍しか残らないと言われている。そのため常勝無敗で、「不死身のザイザフォン」とも呼ばれている。かつてはパルテビアで知らぬ者はいないと言われるほど恐れられた豪傑の戦士だったが、年齢と共に衰えを感じ、戦場に立つ機会も減っていた。そんなある日、バルバロッサの誘いを受けて人体改造を受け、さらに鎧がバルバロッサの眷属器としてジンの恩恵を受けられるようになった事で、現在の全身鎧の病める事も死ぬ事もない体となった。しかし、完全に無敵というわけではなく、首から上と首から下を分断されると、首から下側は話す事ができなくなってしまう。さらに、たとえば首から上を遠くに放り投げたあと、首から下を海に捨てるなどすれば、無力化する。シンドリア王国建国式典で起きた戦いの際には、ヒナホホと戦ったが、この弱点を見抜かれて敗北した。
シャカ
パルテビア帝国のバルバロッサの私設戦闘集団の一員。その中でも強いとされる「四天将軍」の一人である男性。暗殺者集団「シャム=ラシュ」の頭領でもある。頭に横長の大きな帽子をかぶり、口元は布で覆っているため、顔はほとんど見えない。体形は非常に細くガリガリで、ほとんど骨と皮しかない姿をしている。一見物腰柔らかいが、組織を裏切った者は絶対に許さない残忍な性格。「魔力操作(マゴイそうさ)」を得意としており、生命エネルギーを削る事で、極限まで魔力を高めている。ある日、ジャーファル、ヴィッテル、マハドの三人を「第5迷宮 ブァレフォール」へ送るが、三人が裏切った事を知って殺そうとする。しかし、シンドバッドたちによって退けられた。その後、シンドリア王国建国式典で起きた戦いの際には、シンドリア王国民たちやミストラス・レオクセスを殺害。再び三人の前に立ちはだかり、ヴィッテルとマハドを殺すが、ジャーファルによって倒された。
パトラ・アメン・ラー
エリオハプト王国の正王妃である中年の女性。シャルルカン・アメン・ラーの母親。エリオハプトの王権争いにおいては、先王アテンクメン派。王位継承権一位だったが、幼いという理由で即位できなかったシャルルカンこそが、王にふさわしいと主張している。前髪を房によって違う高さで斜めに切りそろえ、胸の高さまで伸ばしたロングウェーブのハーフアップにしている。先王派として、ガフラー・カーと共に現王派を「呪い」という名目で毒殺していたが、その手口が巧妙で、自分たちの仕業であるという証拠を見せず、アールマカン・アメン・ラーら現王派を苦しめていた。しかし、シンドバッドたちが交易権を求めてエリオハプトを訪れ、彼らが迷宮攻略者である事を知る。そこで、現在「王の墓」へ行くのを阻んでいる迷宮をシンドバッドたちが攻略すれば、交易権を与えてやると命令した。これによって、先日シャルルカンが王の墓には後継者として自分の名前が刻まれていると言った事の証明ができると考える。しかし、迷宮が攻略されたあとで現地へ向かうと、真のアテンクメンの遺言は兄弟で話し合って王を決めろというものであり、シャルルカンがシンドバッドたちを迷宮に向かわせるためにウソをついていた事を知る。これによって取り乱し、罪を自白。ガフラーと共に捕えられた。
メンフィス
パルテビア帝国のバルバロッサの私設戦闘集団の一員。その中でも強いとされる「四天将軍」の一人である若い男性。前髪をM字に切り、腰まで伸ばしたロングヘアにしている。頭頂部の髪の毛を一部立てており、猫の耳が生えているように見える。褐色肌で「黒曜のメンフィス」の異名を持つ。クールで落ち着いた性格で、つねにバルバロッサのそばに仕えている。ザイザフォン同様、人体改造を施されており、迷宮のみに存在する生物「迷宮生物(ダンジョンせいぶつ)」と融合する事によって戦闘力が超強化された強化人間。シンドリア王国建国式典で起きた戦いの際には、セレンディーネ・ディクメンオウルズ・ドゥ・パルテビアと戦ったが、敗北した。
ガフラー・カー
エリオハプト王国の宰相を務める中年の男性。エリオハプトの王権争いにおいては、先王アテンクメン派。王位継承権一位だったが、幼いという理由で即位できなかったシャルルカン・アメン・ラーこそが、王にふさわしいと主張している。前髪を眉上で短く切った短髪で、右目の下に刺青を入れている。先王派として、パトラ・アメン・ラーと共に現王派を「呪い」という名目で毒殺していたが、その手口が巧妙で、自分たちの仕業であるという証拠を見せず、アールマカン・アメン・ラーたち現王派を苦しめていた。しかし、シンドバッドたちが交易権を求めてエリオハプトを訪れ、彼らが迷宮攻略者である事を知る。そこで、現在「王の墓」へ行くのを阻んでいる迷宮をシンドバッドたちが攻略すれば、交易権を与えてやると命令した。しかし王の墓にあったアテンクメンの遺言は、兄弟で話し合って王を決めろと書かれており、これによって取り乱したパトラが罪を自白。パトラと共に捕えられた。
ナルメス・ティティ
エリオハプト王国の執政官を務める男性。アールマカン・アメン・ラーの家臣。年齢は16歳。エリオハプトの王権争いにおいては、現王であるアールマカン派である。前髪を目の上で切った短髪にしている。まじめな性格で、アールマカンに忠実に従っている。先王アテンクメンの死後、エリオハプト国内で横行する「呪い」という名の毒殺が、先王派であるパトラ・アメン・ラーたちの仕業であると理解しつつも、証拠をつかめず悩んでいた。そんなある日、交易権を求めてやって来たシンドバッドたちに出会い、国の現状を説明。先王派と現王派の争いをおさめるには、アテンクメンが自らの墓に残した遺言を読む必要があるが、アテンクメンが葬られた「王家の墓」は、現在迷宮が出現した事によって入れなくなっている事を伝える。そして、事情を理解したシンドバッドたちに迷宮を攻略してもらい、迷宮が元の場所へ帰った事により、王権争いは決着。これまで通り、王を務めるアールマカンを支えていく事になった。
場所
パルテビア帝国 (ぱるてびあていこく)
シンドバッドの出身国。もとはパルテビア王国という名称だったが、対戦勝利後に名を改め「帝国」となった。戦争強国として君臨していたが、レーム帝国相手に苦戦し、シンドバッドが5歳の頃には深刻な財政難に陥っていた。
ティソン村 (てぃそんむら)
シンドバッドの出身地。パルテビア帝国郊外に位置する小さな村で、戦争を支持する敬虔なパルテビア国民が集っていた。しかし、バドルの言葉がきっかけで村全体で協力し合い助け合う体制が生まれ、シンドバッドが14歳の頃には、国内唯一の「ある考え方」を持つ地となっている。
イムチャック
極北の秘境と呼ばれる雪と氷の国。5つの部族が互いの自治を認め、不可侵を維持する連合国家。雪に覆われた白い大地を巨体の民族が歩き、街には不思議な形の家々が立ち並ぶ。古来は近隣諸国を荒らす海賊を生業としており、連合国家として成立する前は、争いが絶えない状況にあった。現在の体制を敷いたことで争いは激減し、平和な状態が続いている。
ササン王国 (ささんおうこく)
標高高い山の麓に位置し、旧き神を信仰する敬虔な宗教国。別名「清浄の地」と呼ばれ、周囲を山岳に囲まれていることから、馬車では到達できず、徒歩で山脈を越える方法でしかたどり着くことはできない。天然の鉱山都市として知られており、ササン産の金属は世界一の純度と質の高さで注目されている。外界を「穢れ」と呼び、一部のものを除き外界との交流は行っていない。
アルテミュラ王国 (あるてみゅらおうこく)
大陸の南東に位置する少数民族国家。気高い戦姫が治める女系民族国家として知られており、暗黒大陸を除いては世界最大の谷を国土に、絶壁に暮らしているといわれている。女性たちは生まれながらにして動物と心を通わせる力を持っており、国内の主要な仕事を担っているため、女性の方が社会的地位が高く、一妻多夫制をとっている。男性は家庭内の仕事全般を担当するのが一般的で、なぜか皆体毛が濃い。
リア・ヴェニス島 (りあゔぇにすとう)
レーム帝国でも有数の豪族、マリアデル商会が所有する貿易拠点の一つで、特別行政区。多くの観光客が行き来する商業施設でもあり、その規模はもはや街に匹敵する大きさとなっている。主な施設にマリアデル商会、賭博場、闘技場などがある。
エリオハプト王国 (えりおはぷとおうこく)
レーム帝国南方の地「暗黒大陸」北部にある小国。何百年と続く王家が統治する神秘の国で、ササン王国やアルテミュラ王国に勝るとも劣らぬ力を持つ。第35代王アテンクメンが崩御してからは、アールマカン・アメン・ラーが王となった。王家の力が根強く、君主は国の最高位「ファンラオ」の称号を与えられる。その権力は非常に強く「王家の墓」の巨大さがそれを物語っている。それゆえに王家の中では権力争いが絶えず、つねに派閥争いが繰り広げられている。文化としては、エリオハプト人は蛇を体に巻くのをステータスとしており、高貴な身分の人間ほど大きな蛇を所有している。また、身分が低い者であっても、ヘビ柄のものを身にまとうのがエチケットとなっている。動物のお面を魔除けとしてかぶる風習があり、動物によって意味合いが違う。女性の服装は独特で、胸部を隠さない。それはエリオハプト人が胸部に性的魅力を感じていないためで、代わりにエリオハプト人はおへそに性的魅力を感じるため、こちらを隠している。薬医学が発達しており、暗黒大陸に生息する珍しい動植物の存在を生かした医療を行っている。
イベント・出来事
謝肉宴 (まはらがーん)
イムチャックで行われる、伝統のお祭り。もとはアバレイッカクを倒し、成人の儀を終えた戦士に成人名を与える場で、討ち取った得物の恵みに感謝する儀式でもある。現在は単純にたくさんの人が集まり、食事や酒を楽しむ宴の側面も大きい。
その他キーワード
マンドルル
エリオハプト王国周辺にのみ生息する、歩く人面植物。人参に両足と、両手のような形の毛が生えた姿をしている。生きたまま煎じると、頭痛の薬になる。しかし胸毛をむしると、この世のものとは思えない断末魔の叫び声をあげる。植物だが満月の夜になると、砂漠を歩く姿が目撃されている。
クレジット
- 原作