世界観
時代設定は平成でありながらも、舞台となる麻上村は閉鎖的で民衆宗教を深く信仰しており、昭和の雰囲気を色濃く残している。また「マガミサマ」の神前で奉納する「マジャン」においては、金銭のみならず、自身の手足といった人体や身分などを供物として賭け、敗者は賭けたものを必ず捧げなければならないといった蛮習も描かれている。
作品が描かれた背景
2010年3月、カミムラ晋作は以前からの知り合いだった編集者にWEBサイト「E★エブリスタプレミアム」での連載を打診された。この時、「すぐできるやりたいネタ」を聞かれたカミムラ晋作は、自身の趣味である麻雀、山奥の村が舞台となったホラー、そして少年誌のようなバトルという三つのテーマを提示。これが編集者に認めれて企画立案を勧められ、すべての要素を盛り込んだ本作『マジャン ~畏村奇聞~』が誕生する事となった。
あらすじ
第1巻
父親が行方不明になった事を機に、中学2年生の山里卓次は、叔父を頼って父親の故郷である麻上村へと引っ越して来た。卓次はまず、携帯の電波も届かずインターネット環境もないという、麻上村の田舎ぶりに面食らう事となった。だがそれ以上に彼を驚愕させたのは、この村では「マガミサマ」という民衆宗教が深く根付いており、ここではそれが最優先され、国の法律などまるで度外視して成り立っている事だった。そしてこの村では、神事として行われる「マジャン」の強者がすべてを支配するのだという。そんな事実にはっきりとした恐怖を感じながらも、卓次はなす術もなくマジャンを挑まれていく。
第2巻
どうにか柳満足とのマジャンに勝利した山里卓次だったが、次いで殿田智実の策略にはまり、監禁された状態で、命を賭けたマジャンを受ける事になってしまう。卓次はそれにも勝利をおさめるものの、あまりにも異常な信仰の正体を探るべく、村の中で聞き取りなどの調査を開始する。卓次のマジャンの強さはすでに村中に知れ渡っていたため人は集まっては来るものの、肝心な部分になると皆一様に口を閉ざしてしまう。そんな中、行き詰まった卓次の前に、「乗地彦一」と名乗る少年が協力を申し出る。
第3巻
「乗地彦一」に宍飼勝とのマジャンを勧められた山里卓次は、言われるがまま遊戯室での勝負に応じる。しかしこの勝負に勝った時、友人だと思っていた「乗地」は実はまったくの別人であり、その正体は麻上村を牛耳る一族の次期党首・雀部京介である事を知る。だまされていた事に愕然とする卓次だったが衝撃はそれだけで終わらず、十数年に一度行われる籠りの参加者資格が自分に一方的に与えられた事までもが明らかになる。参加は拒絶できず、しかも京介の仲間である他参加者は、供物として卓次の四肢を望んでいるという。それを知った卓次は絶望し、村からの脱出を試みる。
第4巻
山里卓次は、脱出時に自分をかくまってくれた山里美乃が麻上村の祭祀によって殺される運命にあると知り、それを阻止するために籠りに参加する事を決意。籠りの行われる磐座へとやって来た。だが神事は、2日間に渡って行われるマジャンとまだ見ぬ特殊ルールにひるむ卓次の胸の内をよそに、なんの説明もなく進められていく。そして卓次は、初戦で雀部京介の右腕と称される赤土弟と同卓で対戦し、いきなり右脚の所有権を奪われてしまう。即座に切断される事を想像し恐怖する卓次だったが、先達である陣内から「失格するまでに所有権を取り戻せば脚の切断は免れる」という助言を受けてどうにか立ち直る。京介の意思を忠実に実行する人形のような赤土弟に勝利するため、卓次は未完成ながらも「“支配”のマジャン」を開眼していく。
第5巻
籠り1日目の第2戦では、山里卓次は雀部京介の仲間である葵一郎と同卓となった。卓次の父親である山里卓巳の打つマジャンを見てあこがれたという葵は、特殊ルール「カンジキ」の手本打ちを示すなど正々堂々とした勝負を望んでいる事を見せ、卓次もまたその思いにマジャンで応える。互いに「山里卓巳」を目指して研鑽した者同士、共感し感動すら覚える戦いの末、卓次は辛くも勝利する。その高揚感と爽やかさに信仰と儀式から来る血生臭さが附随している事に卓次は違和感を強め、信仰の真実を追究する気持ちを新たにする。
第6巻
籠り1日目の第3戦で、山里卓次は雀部京介の雀部家と並ぶ大家・白家出身の白龍成と同卓となった。強者の威圧感を見せる白の力を探りながら打つうちに、卓次は白が字牌の場所を探知できる「字牌探知」の能力を持っている事に気づき畏敬する。その一方、別所たまおは赤土兄と接触し、卓次と山里美乃の関係や“魂鎮め”の儀式の事を知る。同時に大人達の騒ぎように疑問を抱いた将野知憲は、信仰と儀式の正当性を探るために一人、御山へと向かう。
第7巻
籠り1日目の第3戦で白龍成に勝利した山里卓次は、白に再戦を約束させるために、白の右腕を供物に選ぶ。2日目の参加者が決定した時点で1日目は終了となったが、卓次の堂々とした態度と畏れのなさに興を削がれた雀部京介は、雀部武鳳、雀部龍文に命じて一部参加者を参加辞退に追い込み、補填要員として武鳳と龍文を加える。得体の知れない気配を警戒する卓次と同じく、雀部家の横暴な振る舞いを看過するカシキに不信感を覚えた陣内は、人知れず、村の因習を打破する希望を卓次に賭けようと決意する。
第8巻
籠り2日目の初戦で、山里卓次は白龍成、雀部武鳳、雀部龍文と同卓となった。一方的すぎる展開を作っていく武鳳を驚異と感じつつも、卓次は武鳳の些細な所作や表情から、それが龍文との連携と、「身体変工」を用いたイカサマである事を見抜く。その一方で、麻上村村長代理・雀部鶸のもとには老刑事をはじめとした刑事三人が訪問。祭や籠りにおいて事件性がある行為が行われている事を問い詰め、その答えを賭けてマジャンが行われる事になる。
第9巻
籠り2日目の初戦に勝ち残った山里卓次と雀部龍文は、最終戦に駒を進める。一方、卓次達の戦いと同時に雀部京介、葵一郎、羽振霧雄、江原木楓による勝負も行われていた。かつて京介に弄ばれ再起不能となった教え子・乗地彦一のために打倒京介に燃え、葵を援護する打ち方を徹底する江原木だったが、葵はそれをはっきりと拒絶する。
第10巻
籠り2日目の最終戦を前に、山里卓次は葵一郎から、12年前の籠りにおいて山里卓巳がノリワラとなり、その名誉と引き換えに麻上村から出奔した事を聞かされる。かつて父親が立っていた場所で戦っている事実に励まされる卓次だったが、最終戦の卓についた直後、今度は雀部京介から、山里美乃が卓次の双子の姉である事、そして人柱の運命から逃がすためには、卓次自身も供物として女性を一人賭けなければならない事を知らされる。思いがけない事態に当初は拒絶した卓次だが、自ら供物として名乗りを上げて磐座に参じた別所たまのの姿に決意の強さを感じ、たまのを賭ける事を承諾する。
第11巻
籠り2日目最終戦、一局目は得体の知れない声に集中力を乱され実力を発揮できなかった山里卓次は、その声が雀部京介の能力「指向声域」である事に気づく。そして、それを逆に利用する事で、二局目を制する事に成功する。しかし三局目で京介は、味方であるはずの雀部龍文さえも陥れて勝利を手にする。卓に衝撃が走る中、御山を大きく揺らす地震が襲う。
掲載情報
本作『マジャン ~畏村奇聞~』はWEBサイト「E★エブリスタプレミアム」で連載された作品で、ファミ通クリアコミックスからコミックスが第2巻まで発行された。コミックス第3巻以降は、通販サイト「amazon」にて、「オンデマンド(ペーパーバック)」として本編に特典ページをつけた形で受注販売されている。また、全巻が「マンガ図書館Z」にて無料公開されている。
登場人物・キャラクター
山里 卓次 (やまざと たくじ)
麻上村に住む中学2年生の男子で、年齢は14歳。東京で暮らしていたが、父親である山里卓巳が行方不明のあいだ、叔父の家に身を寄せるために卓巳の故郷である麻上村へと引っ越して来た。籠りの最終戦まで知らされていなかったが、山里美乃は双子の姉である。卓巳からは産まれると同時に母親が死に、それを機に村を出たと聞かされていたが、実際は2歳まで麻上村で暮らしていた。 12年前の“魂鎮め”の儀式が行われた夜、家の屋根に次の祭器を指す「白羽の矢」が立った事から、ノリワラに選出された名誉と引き換えに村を出る許可を得た卓巳に連れられて村を出奔した。もともと麻雀が好きで携帯ゲーム機でも遊んでいた。たびたび助けの手を差し伸べてくる別所たまのに想いを寄せており、最初は敵対関係だったが村を出るよう忠告をしてくれた将野知憲には友情も感じている。 マジャンとマガミサマに異常な信仰を寄せる村人達に畏れと嫌悪を抱いており、雀部京介の思惑に乗せられ宍飼勝と対戦、勝利した事で中学校全体の番付トップとなり、強制的に籠りに参加させられる事になったと知った際には一度村の脱出を試みた。 しかし美乃の献身と、彼女が人柱として殺される運命にある事を知った事で逃げるのをやめ、村の信仰に正面から立ち向かう事を決意する。強制的にマジャンをさせられていく内に、マジャンへの理解を深め楽しみを知り、同時に村に根付く信仰や村の支配構造自体に疑問を抱いていく。麻雀歴8年で、雀風はデータ重視、守備対応型のデジタル系。 籠りの初戦以降、知ったばかりのルールに対する適応力と戦略を思いつく発想力、勝負を己の差配のまま動かす事のできる支配力から、未完成ながらも「“支配”のマジャン」と称され、最終的にその雀風は「“共鳴”のマジャン」と呼ばれるようになる。好きな役はリーチとタンピン系。勝負傾向としては相手のクセや手の高さ、相手の出した牌などを冷静かつ的確に読み取り、守備すべき際にはしっかり守りを固める。 攻勢時は先行リーチ主体で、バランスを重視してさまざまな状況に対応できる事が強みとなっている。
別所 たまの (べっしょ たまの)
麻上村に住む中学2年生の女子で、年齢は14歳。家は村唯一の旅館を経営しているが、将来はおしゃれなヘアサロンで美容師になりたいと考えている。東京にあこがれている事から、転校して来たばかりの山里卓次に最初に話しかけた。山里美乃と幼い頃からの親友同士だが数年間会っておらず、赤土兄を通して様子を窺っている。 卓次と柳満足の対戦では、柳の仲間に足を引っ掻けられた事で遊戯室に入ってしまい、供物として神前に留め置かれた。足が悪く、走るのも歩くのも遅いが、旅館内のどこにいても声だけは届くようにと教育された結果、声は非常に大きい。母親や祖母は村内によそ者を招く家業である事を引け目に感じているが、別所たまの本人は村外に興味を持つ事や他者を受け入れる事を悪い事とは考えておらず、遠巻きにされがちな卓次に対しても気安い態度で接している。 卓次が雀部京介の持ち物である美乃を救出するためには、同じく女性を供物として挙げなければならない事を知り、自ら籠り最終戦での供物として名乗り出た。
将野 知憲 (しょうの とものり)
麻上村に住む中学2年生の男子で、年齢は14歳。白い学ランを着て、つねに目を閉じている。転校して来たばかりの山里卓次がマジャン(麻雀)を「しょせん遊び」と称した事で激怒し、遊戯室にて親指を供物とするマジャンを挑んだ。結果、卓次に敗北した事で左親指を根元から自らの手で切断している。その後は、殿田智実の企みに気づいて卓次を救出に来たり、祭の日までに村を出るよう忠告したりと、村の習慣を知らない卓次に親身になっている様子を見せる。 マガミサマへの信仰心が篤いため、私利私欲のために掟をねじ曲げようとしている様子を見せる雀部家の動向を注視していた。籠り1日目の夜に村の大人達が騒ぎはじめるのを不審に思い、一人で事情を探っていたところで山里卓巳に出会い、以降は神の胎道の案内人を務めるなど卓巳の手助けを行う。 麻雀歴は9年半で、好きな役は三色同順と三暗刻。雀風は堅実さと常識外の打ち筋の両方を備えた「“神懸かり”のマジャン」。卓次と対戦するまでは中学2年での番付トップだった。智実にマジャンを教えた師でもあり、家同士のつながりも強いらしい事から「兄さま」と呼ばれている。
柳 満足 (やなぎ みつたり)
麻上村に住む中学2年生の男子で、年齢は14歳。髪を逆立て、学ランの中にヘソ出しのTシャツを着用している。マジャンの特殊ルールの一つ、「バンサン」を得意としている。将野知憲が山里卓次に敗北した事、また別所たまのが卓次に執心している事から興味を抱き、噓をついて卓次を遊戯室に呼び出した。 またその際、仲間にたまのの足を引っかけさせて入室させ、供物として賭ける事を提案する。なりふり構わない手法で勝利しては他人の家族や恋人に手をつけていたため、同学年の男子生徒からは畏怖されると同時に恨みを買っていた。卓次に敗北したあとは番付を剥奪されたため、それまで恨みながらも仕返しする事ができなかった複数人にリンチに遭い、町の大病院に入院した。 麻雀歴は7年半で、好きな役はタンヤオと混一色。雀風は他プレイヤーの打牌を取得して面子を完成させる手法を好む「“悪食”のマジャン」。卓次と対戦するまでは、中学2年での番付2位だった。
殿田 智実 (とのだ ともみ)
麻上村に住む小学3年生の男子で、年齢は9歳。女児のような体つきをしており、黒い着物とおかっぱのカツラで女装する事もある。幼い頃から将野知憲を慕っており、マジャンを教えてもらった事から師とも仰いでいる。山里卓次が将野にイカサマで勝利したと考え、かつて地下牢として使用されていた廃神社に卓次を誘導し、鎖でつないだうえで卓次の命を賭けたマジャンを挑んだ。 麻雀歴は4年半で、好きな役は役牌とトイトイ。本来の雀風は将野とよく似ているとされるが、卓次との対戦においては牌に白いクリームを塗って牌の表示を偽装する「御色直し」というイカサマを使用した。
宍飼 勝 (ししかい まさる)
麻上村に住む中学3年生の男子で、年齢は15歳。中学3年の番付トップの実力者で、雀部京介が乗地彦一の名をかたって山里卓次をだましていた頃、タケノコ(親指)の半分を賭けて遊戯室で卓次と「罪贈り」の特殊ルールで対戦した。卓次に敗北した事で、親指の皮を剥がされている。麻雀歴は8年で、好きな役はリーチと一発。 雀風は面前派で攻撃型となっている。面前での手作りを得意としており、先行された際にもしぶとく食らいついての追っかけリーチを身上としている。
雀部 京介 (ささきべ きょうすけ)
麻上村に住む高校2年生の男子で、年齢は17歳。麻上村の名家として知られる雀部家の長子であり、村長の一人息子として育てられているが、実際には異父兄に雀部龍文と雀部武鳳がいる。母親である雀部鶸からは「最高傑作」と称され、次期村長兼家長を言い渡されている。前回の籠りでノリワラとなっており、籠りには1日目を見学のみで参加し、2日目から参加者として列席した。 山里卓次と出会った際には「乗地彦一」の名をかたって協力的なクラスメイトと思い込ませ、「マジャンから信仰と蛮習を取り除く計画」を謳って一部間違った村の習慣を教えるなど、表面上は協力的な姿勢を見せながら、本名や、卓次を籠りに参加させて両手足を奪うという本当の思惑を隠していた。 しかし本性を見せたあと、卓次からは「人の形をした悪意の器」と称されている。「そのそれ」「そのそいつ」など、特徴的な指示語を用いる事が多い。本来の性格は他人を絶望に陥れる事で至上の愉悦を感じるサディスト。人を支配する事と、他人の感情に対する異様なまでの興味から行動が成り立っている。「指向声域」の能力を持つ。 籠り2日目の最終戦で、「助手搦」の特殊ルールを使用し卓次と山里美乃、そして村からの追放を賭けた差しで対戦した。麻雀歴は12年で、好きな役は偶発役。雀風は異常な聴力と指向声域によって暗示をかけ相手を操る、完成された「“支配”のマジャン」。配下の人間からは「京介坊っちゃん」と呼ばれている。
赤土弟 (あかつちおとうと)
麻上村に住む高校2年生の男子で、年齢は17歳。高校2年の番付トップの実力者。赤土兄の弟で、体格が大きくスキンヘッド、顔面の右側が大きな火傷の痕で覆われている。幼い頃から雀部京介に付き従って行動しており、中学生の頃、遊び半分に京介にマジャンに誘われ、勝利した事から手足として使われるようになった。 籠りで行われた1日目初戦の卓で、「牌叛」のルールを使用し、山里卓次と互いの右脚と右腕を賭けた差しで対戦した。麻雀歴は10年で、雀風は己の意思や望みを持たず、京介の命令を忠実に実行するだけの「“傀儡”のマジャン」。1日目に白龍成に敗れて失格し、右腕を祭殿で切り落とされて退場した。普段は赤土弟と呼ばれているが、籠りの卓発表の際に本名が「赤土英人」である事が明かされている。
葵 一郎 (あおい いちろう)
麻上村に住む高校1年生の男子で、年齢は16歳。高校1年の番付トップの実力者。金髪で目つきが悪く、村人からは凶犬として扱われている。つねに左目を前髪で隠し両腕を包帯で覆っていたが、すべて過去に父親から受けた折檻による傷痕を隠すためで、籠り2日目の最終戦2局目を前にして「新しい自分に変わるために必要な、自分の生きてきた証」と誇りを持って露わにした。 籠りで行われた1日目第2戦の卓で、「カンジキ」の特殊ルールを使用して山里卓次と互いの左脚を賭けた差しで対戦、また2日目最終戦では卓次、雀部京介、雀部龍文と「助手搦」の特殊ルールを使用して対戦した。村の歴史に残るマジャンの天才と目されており、大人達も迂闊に注意する事ができない。 猪や鹿を狩猟して肉を売る生業の父親に育てられ、幼い頃は厳しい折檻を受けていた。4歳の頃、籠りの供物に肉を納品する父親についていった際に山里卓巳のマジャンを目にして魅せられ、才能を開花させた。その経緯があったため、卓次との対戦をハンデのない正々堂々としたものにしたいと望み、カンジキのルールを知らない卓次に手本のような打ち方を見せた。 10歳の時父親に勝利する事で一度は決別したが、籠りの1日目に神饌の奉納に来ていた父親から声援を受けた事で復縁している。麻雀歴は12年で、好きな役は大物手。雀風は野生の勘の鋭さで才気溢れる一撃を放つ「“餓狼”のマジャン」。
白 龍成 (はく りゅうせい)
麻上村に住む高校3年生の男子で、年齢は18歳。高校3年の番付トップの実力者。オールバックの黒髪に眼鏡が特徴。100年ほど昔に麻上村にやって来た華人の家系で、雀部家に並ぶ村の大家の出身。言葉の端々に中国語を使用する。籠りで行われた1日目第3戦の卓で「聴用財神」の特殊ルールを使用し、山里卓次と多額の金銭、または手足を賭けた差しで対戦、また2日目初戦の卓で「月無」の特殊ルールを使用して、1日目と同条件の差しで対戦した。 字牌がどこにあり、またそれがどの種類であるか看破できる「字牌探知」の能力を持っている。麻雀歴10年で、好きな役は字一色。雀風は圧倒的情報量を用いて他者の追随を許さない「“昇竜”のマジャン」。
羽振 霧雄 (はふり きりお)
麻上村に住む男性で、年齢は21歳。籠りで行われた1日目第3戦で、「聴用財神」の特殊ルールを使用し、山里卓次や白龍成と同じ卓についていた。麻上村では有名な「キレる男」で、普段はおとなしい性格で愛想もいいが、鬱憤や恨みが溜まって決壊すると、鬼の形相と下卑た手段で他人を攻撃しはじめる。普段のマジャンの実力はたいした事はないが、キレると集中力を数倍に高め、神懸かり的な読みと勘で怒りの矛先を向けた相手を不利な状況に追い落としていく。 麻雀歴12年で、好きな役はトイトイと混一色。雀風は勝利を度外視しても怒りの矛先を向けた相手が不利になるよう追い込む「“暗愚”のマジャン」。
雀部 武鳳 (ささきべ たけとり)
麻上村に住む男性で、年齢は21歳。雀部京介の命令により山崎進を籠りの2日目参加辞退に追い込んで、補填人員として参加した。短い金髪と筋肉質な体つきが特徴。雀部龍文とは二卵性の双子で、「顔領域」という能力で言葉にせずとも考えを伝達する事ができる。雀部鶸を母親に持っているため本来は京介の異父兄にあたるが、分家で京介のスペアとして扱われており、鶸直属の部下として掟を破った者の粛正や拷問を行っていた。 1日目は町宮への拷問係として活動しており、山里卓次が町宮を救出した際、不意を突かれて頭に怪我を負っている。2日目初戦の卓で「月無」の特殊ルールで、卓次と互いの右腕を賭けた差しで対戦した。非常に力が強く、力加減を誤ると牌を欠けさせてしまう。 両腕と両手のひらに身体変工を施しており、体内に27枚の牌を仕込む事ができる。また筋肉の動きで牌を移動させ、必要な牌を手のひらから取り出す事でマガミサマへの神前マジャンでもイカサマを可能にしている。麻雀歴は11年で、雀風は強運の攻撃タイプと思わせつつ、人体変工で牌を腕の中に仕込み、すり替えるイカサマを得意とする「“怪異”のマジャン」。
雀部 龍文 (ささきべ たつふみ)
麻上村に住む男性で、年齢は21歳。雀部京介の命令により、石野竜兵を籠りの2日目参加辞退に追い込んで、補填人員として参加した。センター分けの黒髪に黒縁の眼鏡、敬語で話す事が特徴。雀部武鳳とは二卵性の双子で、「顔領域」という能力で言葉にせずとも考えを伝達する事ができる。雀部鶸を母親に持っているため本来は京介の異父兄にあたるが、分家で京介のスペアとして扱われており、鶸直属の部下として掟を破った者の粛正や拷問を行っていた。 1日目は町宮への拷問係として活動していたが、山里卓次が町宮を救出した時には席を外していた。2日目初戦の卓で「月無」の特殊ルールで、卓次と互いの左腕を賭けた差しで対戦、また2日目の最終戦で「助手搦」の特殊ルールを使用し、卓次の腕を賭けた差しで対戦した。 基本的には物静かな性格だが、眼鏡を外すと傲慢な人格に切り替わり、「並列思考可能者(スーパータスカー)」という能力を使用するようになり、話し方、表情、聞き手などすべてが真逆になる。この人格の事は武鳳すら知らされていなかった。雀家本家の忠実な部下として活動していたが本心では次期村長と家長の座を狙っており、最終戦の途中で鶸が死亡した報告を受けて野望を剥き出しにしていく。 麻雀歴は11年で、雀風は複数の思考や作業などを同時に行う「“無機”のマジャン」。
江原木 楓 (えばらぎ かえで)
麻上村に住む役場勤務の男性で、年齢は23歳。籠り2日目の初戦で雀部京介、葵一郎、羽振霧雄と卓を囲んだ。乗地彦一が自室から出られなくなったあとの家庭学習を手伝っており、京介に激しい憎悪を抱いている。京介が二度目のノリワラに選出され、村長を継ぐ事をよしとしない雀部鳳慶に依頼され、京介が籠りで敗退するよう葵を援護する打ち方をしていたが、葵からは明確に拒絶された。 麻雀歴は13年で、好きな役は役牌とタンヤオ。雀風は先手を取れそうなら鳴き、後手に回ったら即座に引く速攻派の守備型。
陣内 (じんない)
麻上村に住む中学2年生の男子で、年齢は14歳。先達と呼ばれる役職を担う麻積地区の住人で、遊戯室でのマジャンや籠りにも同席している。山里卓次と将野知憲との対戦から卓次のマジャンを見続けており、籠り初戦の卓次と赤土弟の対戦では、右足を奪われた恐怖から身動きが取れなくなっていた卓次に、今後取り戻せる可能性を教えるなど、密やかなサポート役として活躍した。 同じ先達である大人達が、山出身で初めてノリワラに選出された山里卓巳の名を忌詞(いみことば)のように嫌っていた事から祭儀に疑惑を持ち始め、過去の事例を洗い出し、ノリワラが河出身者となるよう操作されている事に気づいた。障害を乗り越えて卓次がノリワラに選出される事があれば、陣内自身も村の掟に立ち向かおうと考えている。
山里 卓巳 (やまざと たくみ)
ルポライターをしている男性で、山里卓次と山里美乃の父親。麻上村の山側の出身者。行方不明となっており、卓次は山里卓巳の足取りがつかめるまでという期限付きで麻上村へとやって来た。12年前の籠りでノリワラに選出されており、その名誉と引き換えに卓次を連れて村を出奔した。村を出てからは置き去りにしてしまった美乃を取り戻すために秘密裏に村の調査を進めていた。 幼い頃の葵一郎はこの籠りでの卓巳の姿に惚れ込んでマジャンをはじめており、「最強の雀士」と呼んでいる。
山里 美乃 (やまざと よしの)
麻上村に住む14歳の少女。御山の神域に建つ茅葺屋根の家に、7年間一人で暮らしている。山里卓巳の娘で、卓次の双子の姉。長い黒髪をポニーテールにしており、つねに着物を着用している。二人暮らししていた母親が死亡したショックから口をきく事ができなくなっており、他人とはジェスチャーで意思の疎通を図る。“魂鎮め”の儀式で捧げられる祭器として村人から大切に扱われている。 別所たまのとは親友同士だが数年間会っておらず、赤土兄を通して様子を窺っている。山里卓次が麻上村にやって来た際、偶然卓次と顔を合わせている。
赤土兄 (あかつちあに)
麻上村に住む赤土英人(赤土弟)の兄で、がっしりした体格をしている。山里美乃の世話役を務めており、美乃が暮らす家に2~3日に一度の頻度で通っている。4代前の先祖がマジャンで雀部家に破れ、末流までの忠誠を誓わされた事から、雀部京介の命令に服従して使用人として生きている。しかし美乃を妹のように大切に考えており、美乃が気にかけている山里卓次をかくまった際には、京介に逆らう覚悟を見せた。 普段は赤土兄と呼ばれているが、本名は「赤土力也」という。
二腰 (ふたこし)
麻上村に住み、村唯一の診療所を開いている女性。将野知憲や柳満足の治療だけでなく、籠りで肉体の一部を切り落とされた者の治療役も担っている。医院には大手術を行えるだけの設備も整っているが、籠りの前には磐座の中に設備が移動させられ、柳の治療を満足に行えなかった事に不満を持っていた。大学時代に山里卓巳と出会っており、山里美乃を救出する準備を進めている事を明かされていた。 その頃から密かに卓巳に想いを寄せており、卓巳の子供である美乃や山里卓次を助け、卓巳と再会する事を切望していた。
雀部 鶸 (ささきべ ひわ)
麻上村に住む、幼い少女の姿をした女性。雀部京介、雀部武鳳、雀部龍文の母親であり、麻上村の村長代理、現在は雀部家の家長を務めている。年齢不詳だが、80歳前後とされる。マガミサマ信仰における宗教の正当性に則って、戸籍上は男性となっている。少女の姿をしているがかなりの老齢で、なんらかの病気症状によって老化が止まっているが、雀部鶸をはじめとする村人達はこれをマガミサマへの忠誠の賜と考えている。 幼い頃から成長阻害やてんかんを患っており、異常なまでに嗅覚が発達している。人体の匂いにより強く反応するため個人の体調不良や感情、噓なども見抜く事ができ、「予言」とされて人望を集め強権を握る事を可能にした。籠りの日は祭器となる少女の自我が失われた直後に、少女の血を飲む習慣がある。 麻雀歴は70年以上で、好きな役は七対子と四暗刻。雀風は異能「超嗅覚」に依って行う「“香神”のマジャン」。村人達からは「御仁(ごじん)」と呼ばれている。
町宮 (まちみや)
山里卓巳の友人で、東京でルポライターをしている男性。卓巳から恐ろしい村があると聞き、麻上村の祭の詳細を突き止めようと、祭の数日前から潜入していた。しかしカメラを持っている事、村外の者である事がバレて、村人から骨折と複数箇所の打撲を負う暴行を加えられ、磐座の中にある牢で拷問を受けていた。
雀部 鳳慶 (ささきべ とりよし)
麻上村に住むいかつい初老の男性で、雀部鶸に分家を任されている、雀部京介の叔父。京介が次期村長と目されている事と二度目のノリワラに選出される可能性を忌避し、江原木楓を使って京介を籠りで敗退させ、それを足がかりに失脚させようと考えている。
石野 竜兵 (いしの りゅうへい)
麻上村に住む、籠り1日目に参加していた男性。がっしりとした体格と五分刈り、整えたあごひげが特徴。1日目を勝ち抜き2日目に進む予定だったが、雀部京介の命令を受けた雀部龍文から心臓に殴打を受けて気絶、拘束されて籠りを辞退させられた。またその証として、指を一本もがれている。
山崎 進 (やまざき すすむ)
麻上村に住む、籠り1日目に参加していた男性。がっしりとした体格と五分刈り、整えたあごひげが特徴。1日目を勝ち抜き2日目に進む予定だったが、雀部京介の命令を受けた雀部武鳳によって手足の関節を外され、拘束されて籠りを辞退させられた。またその証として、指を一本もがれている。
乗地 彦一 (のりち ひこいち)
雀部京介が名前をかたっていた、麻上村に住む中学2年生で14歳の男子。反抗的な態度を繰り返していた事が京介の興味を惹き、散々弄ばれた挙げ句に再起不能となったとされる。現在は京介を恐れるあまり自室から出る事すらできなくなっており、家庭学習を手伝っている江原木楓をも信用できずにいる。
老刑事 (ろうけいじ)
麻上村の祭と籠りが法に抵触するという通報を受けて岩田、若い刑事と共に訪れた老刑事。穏やかで冷静な男性で、オールバックにした豊かな白髪と細い垂れ目が特徴。雀部鶸と対峙しても平常心を乱す事なく対応し、遊戯室でのマジャンにおいても鶸の能力の秘密を探るべく力を尽くした。
岩田 (いわた)
麻上村の祭と籠りが法に抵触するという通報を受けて老刑事、若い刑事と共に訪れた刑事の一人。剃髪した男性で、左目を大きく縦に裂く傷痕がある。落ち着いた物腰でありながらも発言すべき時には物怖じせず口に出し、雀部鶸とも声を荒げる事なく正面からぶつかっている。
若い刑事 (わかいけいじ)
麻上村の祭と籠りが法に抵触するという通報を受けて老刑事、岩田と共に訪れた刑事の一人。筋肉質な体格の男性で五分刈り、ツナギを着用している。喧嘩っ早く短絡的な思考の持ち主で、雀部鶸の侮蔑的な発言の数々に声を荒げては同僚の二人にたしなめられている。
場所
麻上村 (あさがみむら)
マガミサマの信仰が厚い閉鎖的な村。神の胎道と呼ばれる無数の地下道が通っている。何十年も現在の形のまま続いており、林業が唯一の産業で観光スポットもないが、村内で経済的に完結しているため、ほとんど都会の影響を受けていない。また住人同士での婚姻が多いため血も濃く、先天的に常人とは違う身体的特徴を持つ者の数が統計として多い。 村の男達は誰でもマジャンを打てるとされ、マジャンに強い事が村の中で最高の名誉といわれている。TVも2局しか映らず、携帯電話も電波が入っておらずインターネット環境もないため、村の子供達は現代の電子玩具に疎く、携帯ゲーム機も存在を知らなかった。また全自動卓が存在しないため、麻上村の男性は全員、同卓を囲む全員の得点状況を頭で完全に記憶している。
捨見川 (すてみがわ)
麻上村の中央を流れている川で、村を山と河に分断し、村の産業を外へと輸出する窓口として機能してきた。ある橋の周辺だけ川幅が狭く、また水深3メートルと深くなり、流れも速くなっている。この橋の上で、川に向かって全力で走るチキンレースが村伝統の度胸試しとなっている。
山 (やま)
捨見川の南側に位置する、山脈に連なる斜面の多い土地の総称。林業や精肉業などを代々受け継いでいる家が多く、比較的貧しいとされている。昔から河側とは対立関係にある。山里卓巳がノリワラとなるまでは、山出身者がノリワラに選出されそうになると、不自然に籠りの祭儀内容や順序に変更が行われていた。
麻積地区 (おみちく)
山の中でも特に御山に近い一部の地区。山と同じく比較的貧しいが、マガミサマの御座である御山が近い事もあり、麻積地区の住人が先達という役割を担って村の祭祀を一手に取り仕切っている。
河 (かわ)
捨見川の北側に位置する平野地帯の総称。村役場や郵便局、病院、学校などの社会インフラ施設が配置されており、経済的に恵まれた家庭が多い。昔から山側とは対立関係にある。山里卓巳がノリワラとなるまで、河出身者だけがノリワラに選出されていた。
御山 (おやま)
麻上村の神域。マガミサマを祀った神社と山里美乃の住む家があるが、祭の時期の神社と猟期以外は基本的に立ち入りが禁じられている。決まりを破って入山した男性は祭への参加資格を剥奪される可能性がある。山裾の林道には神域を区切るために麻雀牌を象った「標牌(ひょうはい)」と呼ばれる石が置かれており、村人は滅多な事でもない限りこの標牌の内部には立ち入らない。 ただし村からの脱出を図った山里卓次を追跡する際には、雀部京介の指示でこの石が山側へとずらされて林道を使用していた。
磐座 (いわくら)
御山の中の注連縄で囲まれた一角の奥にある、小さな祠を乗せた巨石。巨石の下には成人男性がようやく這って通れるくらいの小さな道があり、それを通り抜けると広い洞窟の中に建つ巨大な祭殿がある。籠りはこの磐座の中で行われ、籠りで失格し、腕や足を賭けてその所有権を取り戻せなかった場合、祭殿の中で鉈で切り落とされる。 籠りで通る小さな道以外に裏道(りどう)があり、神饌を捧げる者や正式な参加者以外はそちらの道を使って磐座に入る事ができる。
遊戯室 (ゆうぎしつ)
中学校の3階東の端にある、女人禁制の部屋。マガミサマを祀った神棚があり、中央には雀卓が据え置かれている。ここで行われるマジャンでは必ず、なにか大切なものを供物として賭けなければならず、ここでの勝敗は番付を大きく動かすため、麻上村に来たばかりの山里卓次は、叔父から「遊戯室には近付くな」と忠告を受けていた。 遊戯室に足を踏み入れた女性は掟を破ったとして残酷な目に遭わされるか、供物としてマジャンの勝者に一晩身を任せるかを選択しなければならない。また、雀部鶸を家長とする雀部家にも同様の作りの遊戯室があるが、神棚が置かれる代わりに神の胎道とつながっている。
神の胎道 (かみのたいどう)
麻上村の地下を無数に走っている地下道の尊称。ほとんどが人も通れないような狭い風穴で通常は閉鎖されている。磐座の裏道(りどう)もこの一部。マガミサマはこの胎道から村人の声を聞き取り、時には直接の施しを与えるとされている。
イベント・出来事
祭 (まつり)
7月17日から毎年麻上村で行われる祭。昼間のあいだは御山にある神社に露店などが並び、どこにでもある村祭りが行われる。しかし東西南北の山に火が灯される日暮れ以降は、マガミサマの咎を受けるとして女性や子供の外出が禁じられている。
籠り (こもり)
3年に一度行われる「裏の祭」。7月17日の夜から19日の明け方までのおよそ36時間に渡って、磐座の中でマジャンが行われる。村に在住している男性である事が参加の必須条件であり、高校生は各学年の番付トップと一部の上位実力者、中学生は数えで元服にあたる14歳を迎えており、さらに3学年で最も番付の高い実力者一名が参加を認められる。 ただしこの籠りの参加有資格者が参加を拒否する事はできず、参加を拒否した場合は掟破りとされて村八分では済まない扱いを受けるとされる。1日目は全員に5万点の点棒と供物を書き記す竹簡が配られ、半荘を繰り返しながら一晩かけて互いの点数を奪い合い持ち点がなくなった者が失格になる。山里卓次が参加した際には16人の参加者がおり、参加者が7人になった時点で1日目の籠りが終了とされた。 2日目は残った七人にそれまでの3年間ノリワラを務めた者を加えた八人で行われる。参加する者は必ず「大切なもの」を賭けなければならず、半荘ごとに全員が供物を申告し最も点棒を集めた者の総取りとなるため、多くの場合大金が供物として飛び交う。また卓の参加者全員が同じ供物を差し出す「場の供物」とは別に、大きな供物を差し出した者同士が点数を競う差しというルールも存在する。 また供物を捧げるのは籠りを失格となった時となるため、ノリワラとなった者は供物を捧げなくてもいい。
“魂鎮め”の儀式 (たましずめのぎしき)
十数年に一度、籠りの締めに行われる儀式。祭器と呼ばれる人柱をマガミサマに捧げる事で治水、飢饉の回避、外敵からの庇護を願う。籠りの最終戦を観戦するために磐座に集まった20歳過ぎの麻上村の若衆全員とノリワラが参加する。山と河に代表される貧富の対立や倭民族と白龍成のような大陸移民との対立などを解消させるため、その場の全員で祭器となった少女を殺す事で秘密を共有し、互いを共犯者と認識させて村を団結させる狙いがある。
碧岳事件 (あおだけじけん)
終戦後すぐ、麻上村で起きた原因不明の大量怪死事件。30人を超す村民が外傷のない遺体で発見された。被害者は山中の洞穴内で神事や体制の変革について協議していたとされている。村民はこれをマガミサマの祟り、またはマガミサマの直接の施しと考えており、事件後、近代化の波に流されかけていたマガミサマ信仰が再び強力になった。 また山側と河側の対立も緩やかに収束していき、村民が一枚岩となるきっかけになったとされている。
その他キーワード
マガミサマ
麻上村で長く信仰されている産土神。女神といわれている。ある日山に迷い込んだ男がマガミサマに助けられ恋仲となったが、マガミサマは男に裏切られた事で祟りをなした。その後、男の村での恋人が、3年の一度の饗応を約束したうえに自らの身を捧げた事で祟りが解けたという伝説がある。村人達は本当に村を守っている実在する神として崇めている様子が見られるが、作中では明らかにされていない。
マジャン
麻上村でマガミサマの託宣の代行行為、または供物を捧げる祭祀として行われているもの。かつて麻積地区と河との間でいさかいが激化した際、マガミサマの神前で雌雄を決する手段として採用されて以降、祭祀と結びついて神聖な行為とされ、村を挙げて行われるようになったとされる。牌や雀卓など、使用する物は一般的に知られている「麻雀」と同じだが、バンサン、罪贈りなど、マジャン独自の特殊ルールが存在する。 マジャンを行う前に片手で目元を覆って「畏み申す」と唱えたうえで箱からリーチ棒を引き、場(この場合は卓そのもの)で使用する特殊ルールを決定する決まりがある。また籠りにおいては、カシキが特殊ルールの彫刻された巨大な木簡を引く事で全卓共通の特殊ルールを決定する。
先達 (せんだつ)
麻積地区の住人達が担っている、麻上村の神事を司る役職の総称。遊戯室や籠りにおける神事としてのマジャンを正しく見届ける役割を持っている。先達の統括者でありマガミサマを祀る神社の宮司を務める者は、特にカシキと呼称される。
カシキ
麻上村の神事を司っている麻積地区の住人達が担っている先達の統括者で、マガミサマを祀る神社の宮司。陣内の祖父が務めている。籠りにおける神事を一手に任されており、山の住人がノリワラに選出されそうになった場合には河の住人が選出されるよう、神事を変更、細工する事が許されている。
番付 (ばんづけ)
麻上村の男子学生達のヒエラルキー。マジャンの強さによって番付が作られている。1学年1クラスで構成される学校においては、席順も学年の番付に基づいて「強い者から真東に近い席に座る」という習慣によって順次変更される。番付を放棄するとその最底辺に落ちる事となり、社会的な死を意味する。
供物 (くもつ)
マジャンによってマガミサマに捧げられる供え物。神前に捧げられてから、マジャンの勝者へと与えられる景品でもある。鳥、猪、人間などの生きた供物は、祭祀に使う儀式用の注連縄で括られ、神前に留め置かれたあと勝者に与えられる。
バンサン
マジャンで使用される特殊ルール。山里卓次と柳満足が対戦した時に適用された。麻雀の「バンバン(場ゾロ)」にバンを一つ加えたルールとなっている。役なしでもアガれ、アガッた際には通常よりも点数が1翻高く計算される。
罪贈り (つみおくり)
マジャンで使用される特殊ルール。山里卓次と宍飼勝が対戦した時に適用された。あとからリーチをかけると、先にかけられたリーチが解除されるルールとなっており、バトンのようにリーチが受け継がれていく。一度出したリーチ棒はそのまま積み上がっていき、1本ごとに1翻が加算され、リーチが更新されるたびに得点が倍になっていく。
牌叛 (はいはん)
マジャンで使用される特殊ルール。籠りの1日目初戦、山里卓次と赤土弟が対戦した時に適用された。もともとは裏切りを意味する「背反」に由来しており、マジャンにおいては点数が下の者が自分より上の者からならフリテンでも当たれるルールをいう。またこの牌叛でロンされた場合は、点数が通常の2倍となる。
カンジキ
マジャンで使用される特殊ルール。特殊な祭礼でのみ採用されるため、麻上村の住人でも実際にプレイした事のある者は少ない。籠りの1日目の第2戦、山里卓次と葵一郎が対戦した時に適用された。色が違っても同じ数の数牌であればカンする事ができる。
聴用財神 (てんようざいしん)
マジャンで使用される特殊ルール。籠りの1日目第3戦、山里卓次と白龍成が対戦した時に適用された。ほかのどの牌としても扱う事のできる「聴用牌」と、ツモ番の際に脇に出すと1枚につき1翻得点が高くなる「財神牌」を使用する。
月無 (つきなし)
マジャンで使用される特殊ルール。籠りの2日目初戦、山里卓次と白龍成、雀部武鳳、雀部龍文が対戦した時に適用された。ドラ、リーチ、天井(点数の上限指定)がない。月がない事に気づけるのは天井がないためであり、また「付き無し」の本来の意味である「手がかりのなさ」はアガリにくさを意味し、そして際限なく勝負が続く事、すなわち「尽きない」と三重の意味での言葉遊びとなっている。 ただし青天井計算の月無でも、役満のみ例外的に得点は四倍満に固定されている。
助手搦 (すけてがらめ)
マジャンで使用される特殊ルール。籠りの2日目最終戦、山里卓次と雀部京介、葵一郎、雀部龍文が対戦した時に適用された。他家の助けを借りなければアガれない。面前でのツモアガリを禁止し、アガりには必ずポン、チー、大明カン、もしくはロンを搦めなければならない。代わりに食い下がりが廃止され、三色や一通、チャンタや混一などの本来なら鳴くと点数が下がってしまう役でも、助手搦では点数が元のままとなる。 また平和や一盃口などの鳴かない条件の役も鳴いて成立させる事ができる。
タケノコ
マジャンにおいて、親指を供物に賭ける際に用いられる隠語。4本の指を関節の節から竹に見立てており、太く短い親指をタケノコと称している。山里卓次と対戦し敗北した宍飼勝は「タケノコの半分」を供物に指定されていたため、親指の皮を剥がれた。
祭器 (さいき)
十数年に一度、籠りの締めに行われる“魂鎮め”の儀式で使われる最も重要な道具。人柱であり、マガミサマへの生け贄に捧げられる巫女。村に住む14歳から17歳の処女に限定され、“魂鎮め”の儀式が行われる夜、次代の祭器候補がいる家に白羽の矢が立てられる事で選定される。籠りの2日間、磐座の裏道(りどう)にある牢に監禁され、投薬によって自我を奪われる。
ノリワラ
籠りで行われるマジャンに勝利し続けて最終的に残った一人。憑代となって特別な儀式を経る事でマガミサマの御声を借り、籠り後3年間の麻上村における経済的吉兆や市政の指針を下知する。またその際、ノリワラは一つだけささやかな願いをマガミサマに奏上する事ができ、多くの場合聞き届けられて実現されるといわれている。
差し (さし)
籠りで行われるマジャンにおける賭けのルール。賭けの対象となる供物として大きなもの(右腕や左脚など)を申告した者がいた場合、同じ卓に座る人間に同等のものを捧げるよう指名する事が可能で、この行為、またはこの二人のあいだでの勝負の事を差しという。この時、指名された者はマガミサマへの至誠の証である奉納の成立のために連袂の義務が生じ、拒否する事はできない。 これが行われた場合、差しを行う二人のうち点数の低い者が指定の供物を捧げる事になる。
身体変工 (しんたいへんこう)
中国の纏足や宦官の去勢などのように、身体の一部を外科手術によって変形、加工する事。雀部武鳳が両腕と両手のひらに行っており、体内に27枚の牌を隠しておく事ができる。
字牌探知 (じはいたんち)
白龍成の持つ能力。使いづらいという理由だけで捨て牌にされる字牌を見るのを忍びなく思った龍成が、好奇心と嗜好のみで追い続けた結果、獲得した異能。白龍成自身なぜこの能力を使用できるのか完全に把握していなかったが、山里卓次の観察によって対戦者の目線、表情、所作による予測と牌背の微傷や汚れの把握を併用する事によって字牌の種類まで看破できる事が判明した。
顔領域 (かおりょういき)
雀部武鳳と雀部龍文が持つ能力。お互いの表情や視線を認識するだけで、互いの思考を読む事ができる。表情と視線の組み合わせで牌種や役の指示を行うため、イカサマを禁じられているマガミサマの神前マジャンでも他人に気づかれずに示し合わせる事ができる。
超嗅覚 (ちょうきゅうかく)
雀部鶸が持つ能力。雀部家のマジャンで用いられる歴代当主の遺骨から作られた人骨牌の匂いをすべて記憶しており、雀部家内の遊戯室に備えられた送風機能付き雀卓と組み合わせると、参加者が卓についた時点で結果を的確に言い当てる「予言」も行う事ができる。
並列思考可能者 (すーぱーたすかー)
雀部龍文が持つ能力。捨て牌から手牌と山を読み、牌の残り枚数を数える「カウンティング」、敵の仕草や表情などをもれなく記憶し癖を見抜く「レコーディング」、己の姿勢を制御し、つねに動作を一定のリズムに保つ「キーピング」、それらを統合して思考する「インテグレイト」を正確に、同時に行う事ができる。
指向声域 (しこうせいいき)
雀部京介が持つ能力。声量、声域、声質、周波数などを常人よりも遙かに広い範囲で自在にコントロールでき、声質を変えてターゲットの親しい人間の声に似せる事や、人の耳がギリギリ拾える波長の音で暗示にかかりやすい状況を作る事ができる。また麻上村外で体内に補助器具を埋め込んでおり、任意の相手にだけ声を聴かせる事が可能となっている。 またそのため、他人に対する暗示支配を行う事ができる。