異世界グルメ奮闘記
食堂の手伝いをしていた野球部マネージャーの少年、サブローは、ある日突然、エルフやドワーフの存在するファンタジー世界に放り出されてしまう。そんな中、草原エルフのカラカラ族という遊牧民族に命を救われたサブローは、恩返しのために持ち前の料理の知識と経験を活かし、「おいしい」という概念すら持たなかった彼らの食生活を豊かにしていく。その一方で、食材を無駄にしたら首をはねられるという部族の掟(おきて)や現代とは違う調理器具に食材と、一筋縄ではいかない異世界での料理作りに奮闘するサブローの姿も見どころとなっている。
創意工夫に富んだ異世界料理
本作に登場する料理は異世界の食材と調理器具を使用した、サブローが知る現代料理となっている。水餃子(すいぎょうざ)やケバブ、キビ団子、キノコパスタなど、登場する料理は国籍を問わず多岐にわたる。一方で、異世界の食材はほとんどが現代の食材と似通ったものとなっており、名前も「ネーギー」や「ニンジーン」、小麦粉は「フラワー」という風に食材を連想しやすいものとなっている。また、調理器具も限られた遊牧民の集落で、魚醬(ぎょしょう)やたまり醬油、コンソメや密造酒といった、調味料や飲料の製造過程も描かれている。
「おいしい」を通して明らかになる異世界の真相
本作は単なるグルメ作品ではなく、SFやファンタジーとしての側面も持ち合わせている。ストーリーが進むにつれてサブローが異世界に召喚された理由や、異世界そのものの成り立ちが明かされる。一方で、エントロピーをはじめとしたSF要素や、『指輪物語』をはじめとしたファンタジー作品の知識によって裏打ちされた独特の世界観は、単純な異世界設定に留まらない魅力がある。また、エピクロスの快楽主義をベースとした哲学によって解釈される「食事」という文化の意義など、「おいしい」という概念そのものに切り込んでおり、これらの問題も作品全体のテーマとなっている。
登場人物・キャラクター
サブロー
野球部マネージャーを務める少年。異世界では「サブロー」と呼ばれているが、本名は「鈴木三郎」という。かつて野球部で活躍していたが、肩を壊したことをきっかけにマネージャーに転向。食堂のおばちゃんの手伝いを日常としていたが、ある日突然、異世界へと召喚される。訳もわからず草原の真っ只中に放り出されたため、3日間飲まず食わずでさまよい歩く羽目となるが、遊牧民である草原エルフのカラカラ族の少女、ポポに救われ、九死に一生を得る。しかし、彼らの食文化が未発達で、「おいしい」という概念すら存在しなかったため、食事が口に合わず苦しむこととなる。そして命を助けてもらったお礼として、食堂で培った料理を振る舞ったところ好評を博し、毎食サブローが食事を提供することになる。料理全般に関する知識と経験から、異世界にある代用品でもとの世界の料理を再現している。一方で、ウーマやメーメーといった動物から嫌われているため、草原エルフの飼う家畜の世話は苦手としている。
ポポ
草原エルフのカラカラ族という部族の少女。草原で遭難していたサブローを発見し、カラカラ族の村へと連れ帰った。食文化を持たないカラカラ族の例に漏れず食事にまったく興味がなかったが、サブローによってしっかりと調理された料理を味わうと同時に「おいしい」という概念を学んでからは、食いしん坊と化す。カラカラ族の中では男勝りで活発な性格で、女性陣が任されている織物や刺繍を苦手とするが、男性陣の仕事である狩りを得意とする。その後、サブローの世話を焼くうちに思いを寄せるようになり、苦手としていた刺繡を始めるなど、いじらしい一面を見せるようになる。
クレジット
- 原作
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大間 九郎
書誌情報
マズ飯エルフと遊牧暮らし 13巻 講談社〈マガジンエッジKC〉
第1巻
(2018-04-17発行、 978-4065115381)
第11巻
(2021-09-16発行、 978-4065243992)
第12巻
(2022-02-17発行、 978-4065268520)
第13巻
(2022-07-14発行、 978-4065286449)