概要・あらすじ
りょうは修学旅行で行った京都の五条大橋で謎の人物に襲われる。その人物とは平安時代からタイムスリップしてきた武蔵坊弁慶だった。弁慶はりょうを「源義経」だと思い込み、平氏の滅亡と源氏再興のため家来にしてくれとりょうに付きまとう。はじめは頭がおかしいのかと思っていたりょうも、弁慶の余りの真剣さと「命を賭けてりょう殿をお守りします」という言葉に負け、家来にすることを承諾してしまう。
だが、実は本物の「遠山りょう」は車に跳ねられて命を落とし、青木ヶ原の樹海で発見された少女に彼女の記憶を植えつけた人物こそが、現在のりょうであった。樹海で発見された際、りょうは平安時代の着物をまとい、自らを「牛若丸」だと名乗っていたという。
自分が作られた記憶を植えつけられた義経であることを確信したりょうは、もう遠山家に戻れないことを悟る。そして謎の狼に導かれるように、弁慶、幼なじみの平賀葵、弁慶の元恋人の虎子と共に、青木ヶ原の樹海から平安時代へとタイムスリップするのだった。
登場人物・キャラクター
りょう
明るく活発な普通の女子高生。元々タイムスリップしてきた「源義経」であり、りょうの祖父、遠山玄一郎によって作られた記憶を植えつけられた人物である。ちなみに源義経は、もとの時代で平維盛と政略結婚させられることを阻止するため、常盤御前によって男子(おのこ)として育てられた。そんな彼女の複雑な状況を理解しているのは、武蔵坊弁慶や平賀葵、虎子といったごく少数の者のみ。 平安時代にタイムスリップした後は、義経その人として扱われる。りょうは翻弄される自身の運命に戸惑いながらも、忠実な弁慶に守られ、共に荒波を超える度に弁慶への想いを抑えられなくなっていく。
武蔵坊弁慶 (むさしぼうべんけい)
比叡山の山法師。長髪の大男で美男子。「源義経」を追って鞍馬山の神隠しの谷へ飛び込んだことで現代にタイムスリップしてきた。りょうを義経と思い込み、家来にして欲しいと家にまで押し掛ける。現代のりょうが、義経の体に現代の女の子としての記憶を植え付けられた人物だと理解し、なおかつそんなりょうに惹かれている。一方、過去の恋人であるうたのことも慮り、平氏討伐の願掛けとして「もうこの世の誰も愛さない」という誓いを立てている。 忠誠心に厚いが、女心には疎い面もある。現代に通用するいい男っぷりで、むしろ女性が放って置かず、そのモテ具合から祇園の帝王と呼ばれていた。
平賀 葵 (ひらが あおい)
りょうとは幼なじみの男子高校生。りょうに好意を抱いており、当初は現在のりょうが実は「源義経」だったと知ってショックを受けるものの、武蔵坊弁慶と共にりょうの家来になり、平安時代までついていく覚悟を決める。自身も養子であるため、りょうの気持ちを理解している。長い月日を一緒に過ごすうち、りょうや弁慶と家族のような関係になっていく。
虎子 (とらこ)
祇園の芸妓。武蔵坊弁慶が現代に来てから999人目の女性だと自称する。派手で気が強く、勘が鋭い。いち早くりょうと弁慶のただならぬ気配に気づき、平賀葵にりょうをくどけとけしかける。弁慶を追って一緒に平安時代にタイムスリップするが、そこで源義仲に惚れられて夫婦となり、息子の曙丸をもうける。
遠山 眞佐子 (とおやま まさこ)
りょうの母親。武蔵坊弁慶がりょうの家来になり遠山家に住みついた際にも、弁慶がりょうの生活を規則正しく管理してくれるので、「いい人に来てもらえて幸せね」とのん気に対応していた。遠山玄一郎の門下生だった男性がりょうを見て「7つの時に亡くなったのでは」と口にしたことから動揺して気絶するなど、二度と娘を手放したくないという気持ちが強い。
遠山 玄一郎 (とおやま げんいちろう)
りょうの祖父。元警視総監。剣道道場を開いている。嫌がるりょうを女剣士に育てようと剣道を強要したことで、本物のりょうが車に跳ねられて命を落とすきっかけを作った。青木ヶ原の樹海で発見された現在のりょうが、平安時代の着物をまとい「牛若丸」だと名乗っていたことを知る人物。「牛若丸」と名乗る子供を引き取り、記憶を植えつけりょうとして育てた。 自身のせいで死んだ孫のことがトラウマとなり、りょうに執着している。
遠山りょうの父
りょうの父親で刑事。子供を所有物のように思い、りょうを手元に置くためやや狂気じみた行動に出る。自分の秘密を知ってしまったりょうが、武蔵坊弁慶と一緒に平安時代に帰ってしまうのではないかと恐れ、留置場より脱走した弁慶を撃つ。のちに青木ヶ原の樹海へ向かったりょうを追い、弁慶に再び銃口を向ける。
鬼一法眼 (きいちほうげん)
一条堀川の陰陽師(占い師)。鞍馬の谷で「源義経」に剣術を教えていた人物。平安時代にタイムスリップしてきたりょうと出逢い、事情をざっくりと理解する。平泉へ向かったりょうの一行とは別れ、平氏の動向を見張るために、鞍馬に身を隠した。陰陽師ゆえに、義経と意識が交互に入れ替わるようになってしまったりょうが元に戻るためのアドバイスを弁慶に送る。
平 維盛 (たいらの これもり)
「平清盛」の孫で、平氏の御曹司。都でも評判の美男子。「源義経」が女性であることにうすうす気づいていた清盛に、牛若丸が自分の許嫁だと聞かされていた。「結婚とは男と女が愛し合ってするものだ」と言われたことからりょうに興味を抱き、惹かれていくようになる。笛の名手「黄梅」と名乗り、平泉秀衡のもとに身を寄せる義経に会うため、平泉家の宴に現れる。 りょうを一途に愛し、その真っすぐな心はりょうの心にも届いていた。
常盤御前 (ときわごぜん)
「源義経」の母親で、目を見張る程美しい気丈な女性。義経の父親、「源義朝」が敗れた平治の乱で義朝の血を引く子供は流刑にされるなどの処遇を受けたが、常盤御前が「平清盛」に身を投げ出して義経を助けた。その際に清盛が、子供が女なら源氏を平氏に取り込む手段として孫と結婚させると言い放ったため、女性であった義経を男性として育てた。
源 義仲 (みなもとの よしなか)
「源義経」の従兄弟。木曽で虎子を見つけ屋敷に連れ帰る。気が強い女が好きで、虎子にあの手この手で気に入られようとするが、傲慢な態度が気に入らないとはねつけられる。野卑で横暴だが、素朴で優しいところもある。のちに想いが通じ、虎子と夫婦になって息子の曙丸をもうける。
平泉 秀衡 (ひらいずみ ひでひら)
奥州の武将。豊富な金を背景に、強い力を持つ。りょうの祖父、遠山玄一郎に外見がそっくりで、涙ぐみながらも気丈に振る舞うりょうに「わしの前では心を殺すことはない」とやさしくなぐさめる。義経が女性であると知った後は、平氏が源氏を取り込んでは誰も手が付けられない状況になると予測し、それまで以上に全力で守ろうと力を尽くす。 大局を見極める目を持つが、一方で非情な一面もある。
平泉 泰衡 (ひらいずみ やすひら)
平泉秀衡の息子。秀衡が大事に扱うりょうである「源義経」に嫉妬し、暴れ馬を自慢の駿馬だと偽って義経に献上する。義経が馬に乗れないのをあざ笑い、一人で乗るようけしかけるが、平維盛にその様子を目撃され、「世継ぎにふさわしい行動をとって頂きたい」とたしなめられる。なにかにつけて義経を排除しようとするが、「義経殿を守ることはこの平泉を守ることと同じ」と秀衡に諭され、改心する。
弥生 (やよい)
平泉泰衡の正室。りょうである「源義経」が平泉に来てから、泰衡が武芸の稽古などを共にして身籠った自分に会いに来ないことに怒り心頭となる。泰衡が女性である義経に気があると疑ってかかり、嫉妬心丸出しで泰衡に食って掛かるが、「一族の前で恥をかかすな」と言われ、勢い余って義経に切りかかってしまう。
常陸坊海尊 (ひたちぼうかいそん)
うたの兄で武蔵坊弁慶とは幼なじみ。弁慶が10年前に熊野で独立を主張したせいで平氏に攻め込まれ、弁慶を庇ったうたが死んでしまったことで弁慶を憎んでいる。平維盛の家来となり、平泉に匿われたりょうである「源義経」を拉致しようとする。だが、熊野に攻め入った平宗盛に母親を殺されたため、弁慶の亡霊に成りすまして平氏に捕らわれた義経を救出。 以降は義経の家来となり、忠義を尽くして彼女を最期まで見守る。
静御前 (しずかごぜん)
日本一の舞を踊ると言われている白拍子。本来の「源義経」の意識に戻った義経に見初められる。一方で優しくお茶目なりょうを慕っており、りょうの意識を封じ込めるために祝言を急ぐ義経に、「義経様は女子を道具としてしか扱わない清盛様と同じ」と殺される覚悟で諭す。
三十 (みと)
山賊の頭を務める、若い女性。伊勢で倒れていた武蔵坊弁慶を救い、仲間にした。平氏打倒のために弁慶に力を貸し、「将来旦那にしてやってもいい」というくらい弁慶に惚れている。弁慶を追って平泉から京都までやってきたりょうを疎ましく思い、山に連れ出して監禁する。その後、平氏に囲まれて火を付けられ、りょうを置いて逃げる。
よし
熊野別当湛増の娘で武蔵坊弁慶の姉。容姿が弁慶によく似ている。平氏に追われ京都から逃げてきた弁慶とりょうを匿う。14歳の時に村が平氏に焼かれてうたが死んで以降、鬼のようになっていた弁慶の現在の変わりようが信じられず、りょうのお陰だと感謝している。弁慶と父親である熊野別当湛増の和解を望んでいる。
後白河法王 (ごしらかわほうおう)
時の法王。熊野詣での帰りにりょうと出会い、身分を明かさず一緒に川魚を取り、共に焼いて食べた。この出来事に感激し、りょうにある袋を渡す。「心が広いお方ゆえ、心を預けたらもう自分を取り戻せなくなる」と武蔵坊弁慶が懸念するほどの包容力を持つ人物。りょうを「李王丸」と呼ぶ。
村上 (むらかみ)
常陸坊海尊とうたの母親。夫に早く死なれて、三郎を引き取って育てているが、目が見えない。弁慶に、当時うたを死なせ詫びもせずに村を離れたことを謝罪されるが、少しも恨んでおらず、生きている者の心の傷が心配だと気遣う優しい女性。りょうが心の底ではうたのことを気にしているのではないかと案じている。
うた
常陸坊海尊の妹で、武蔵坊弁慶と夫婦約束をしていた。現在も常に弁慶の心にいる最愛の女性。平氏側につこうとした熊野別当湛増に従わず、熊野の独立を守るために境内に立てこもった弁慶に、自らの意志で付き添ったが、平氏に攻め込まれ弁慶を庇って命を落とした。
熊野別当湛増 (くまのべっとうたんぞう)
武蔵坊弁慶の父親で、熊野大社の宮司を務める。弁慶が平氏に盾突いて村を出て行ったことから、弁慶を許してはいない。弁慶の嫁として熊野に入ったりょうを「源義経」だと見破り、平維盛に引き渡すため、境内の中に閉じ込めた。だが嵐の中、激流にのまれた子供を助けるために川に飛び込んだりょうの優しさに心を打たれ、「義経はいない」と平維盛を追い返そうとする。
三郎 (さぶろう)
みなし子だが、常陸坊海尊の母親である村上に引き取られた。りょうに剣術を習い、大きくなったら海尊のように平氏の家来になって、お母さんに家を建ててあげるのが夢だと語りりょうを感動させる。りょうが熊野別当湛増に閉じ込められていることに気づき、牢屋に入れられた武蔵坊弁慶にりょうを救い出すよう頼まれ見事成し遂げた、勇敢で聡明な少年。
平 宗盛 (たいらの むねもり)
平維盛の叔父。「平清盛」の命で熊野に「源義経」を奪いに行く維盛に同行する。平氏であれば、欲するものを手に入れるためにどんな手を使ってもいいと維盛に言い聞かせる非情で狡猾な男性。維盛と一騎打ちの勝負に出た武蔵坊弁慶に矢を放つという卑劣な行いに出て、弁慶を崖から転落させ行方不明へと追い込む。
源 頼朝 (みなもとの よりとも)
「源義経」の兄。平氏に親兄弟を殺され、身寄りのない東国で育った。武蔵坊弁慶を殺され、平氏討伐を心に決めたりょうである義経を快く迎え入れる。妹である義経への情が余りにも深く、政子にたしなめられる時もある。のちに政子を失い、義経への情が偏狂的な愛に変わる。
なみ
漁師である夫の漁太を亡くした未亡人。熊野で崖から落ちて漂流している武蔵坊弁慶をなみの祖父が助け、記憶を失った弁慶を漁太だと信じ込ませて2年間一緒に暮らしていた。漁太となった弁慶を愛しており、漁太が死んだことを知っている友人に会うと、ヒステリックに知らないふりをする。娘のためにも弁慶を絶対に手放したくない思いが強く、りょうに直談判に来る。
瑠璃 (るり)
白拍子を装った、後白河法王の息子。通りすがりの遊女の子供だと法王から蔑まれ、寂しい想いを抱えている。女性に化けられ、武術も身に着けた便利な存在として瑠璃を譲ると言った法王に対し、「瑠璃はものではありません」とたしなめたりょうを慕うようになる。
平 知盛 (たいらの とももり)
「平清盛」の息子で、千寿と婚約している。和平を申し出にりょうである義経に会いに来る。薬を巧みに使い、平賀葵が持っていたトランプを「カルタ」のようなものと語るなど、この時代の人間とは思えない不審な点が多い。皆の前では身分違いの千寿と結婚する優しい男性を装うが、裏では千寿を奴隷のように扱う冷徹非情な男性。
千寿 (せんじゅ)
平知盛の家来で、婚約者。知盛に尽くすが非情な扱いをされることが多い。己の野望のため、りょうに催眠術をかけて結婚しようとした知盛を見かねて、武蔵坊弁慶の命を助けた。一方で、最後まで自分を犠牲にして知盛を守ろうとする健気で献身的な女性。
政子 (まさこ)
源頼朝の妻。頼朝の言いつけを破って源義仲と戦に出たりょうに罰を与えなければ、重臣以下家来は不満に思うと説き、いやがる頼朝を制して義経に処罰を与えた。頼朝に天下を取らせるためには鬼になれる、妖艶ながらも政治に長けた女性。平知盛が盛った毒を飲んで瀕死になるが、出立した頼朝が帰るまで持ちこたえる。
平 資盛 (たいらの すけもり)
平維盛の弟。見た目は維盛と瓜二つ。白拍子に扮して平家の陣に乗り込んだりょうを「平忠渡」から救うが、今度は自分が誘惑する自惚れ屋。ハレンチな平資盛の行為から、りょうは平維盛の純粋で一途な愛を思い出すこととなる。
梶原 景時 (かじわら かげとき)
源頼朝の家来。生真面目で融通がきかず、りょうはイヤミな人間だと思っている。だが、病んだ頼朝を元気づけようとりょうたちが庭に花を植えるのを見て、自分も率先して花を植え出すなど心優しい一面も持つ。
狼
謎の狼。現代の青木ヶ原の樹海からりょうと武蔵坊弁慶を導くかのように、崖から落ちる。のちに、源頼朝から追われたりょうの子供をくわえて連れ出し、平安時代から現代へのタイムワープも果たすこととなる。